第二話
次の日の夕方、私はマンションのすぐ近くの土手に来ていた。私が方向音痴と言うのもあるし、慣れない土地なのであまり遠くまで離れると迷子になってしまう。
私が下に降りた時、まだ演奏は始まっていなかった。
どうしても誰がどうやってあの音を知りたかった私は、昨日彼が寝ていた場所に寝転がり、空を見上げた。夕日で赤く染まった空はとても綺麗だった。
暫くぼうっとして、うとうとしかけているとあの音が聞こえて来た。すぐ近くだ。その音で目が覚めた私は辺りを見回した。
右を見ると、数メートル離れた所に昨日の少年らしき人物が寝転がって口に手を当てていた。やはりあの音の主は彼だったようだ。
私が近づいていくと、彼も此方に気づいたようで、口から手を離した。その手にあったのは、木の葉っぱ。私が聞いていたあの音の正体は草笛だったのだ。
「あの・・・何か?」
あの音の正体がわかって、少し感動していた私を現実に引き戻したのは、彼の声だった。
「・・・そのまま続けて下さい。」
もっとあの音を聞いていたかった。何の曲を演奏しているのかはわからない。でも、何故か心が暖まる素敵な音色を・・・
*
日も沈み、暗くなって来た頃に彼の演奏が終わった。控えめに拍手を送ると、彼は照れ臭そうに
「拍手を貰う程の物じゃないよ」
と、微笑みながら言った。改めてその顔を見た。かなり整った顔だ。と言っても、引っ越す前に別れたあいつのようなクールなタイプの顔ではなく、何だか落ち着いた感じがする顔だった。暫く彼の顔を見ながらぼうっとしていると、彼は私の顔を覗きこむようにして話しかけてきた。
「僕の顔に何かついてる?」
「いいえ、何でもないです」
私が無表情で答えると、彼は明らかに不機嫌そうな顔をし、私の唇の両端に親指を持ってきて、上に押し上げた。彼はその顔を見てにっこりと笑い
「うん、やっぱり笑ってる方が可愛いよ。顔は可愛いんだから」
そのせいで最近辛い目にあったんだ。そう言ってやりたかった。彼ならきっと慰めてくれる。確信は出来ないがそう思った。でも、信用出来ない人間にそんなことを教えたくはなかった。
私が黙っていると、彼は立ち上がり、口を開いた。
「僕は、川端樹。草切高校の新2年生。学校が春休みのうちはここに来るつもりだから」
そう言って私の家と逆の方に向かって歩き出した。
彼が去り、家に帰る途中で思い出した。
草切高校
今度私が転入する学校だ。




