第三話
私はそれから毎日夕方に土手へ行くようになった。彼も毎日ここへ来て草笛を演奏してくれた。ここで寝てしまった事もあるけど、彼はどれだけ遅くなっても彼は私が起きるまで側で草笛を吹いていてくれた。私も草笛に挑戦した。前の学校でブラスバンド部でフルートをしていたため、自信があったのだが、吹くことは出来なかった。彼に笑われた。
彼はいつも笑顔で話をしてくれる。でも私はそれに無表情で返している。彼は笑った方が可愛い、いつもそう言ってくれる。でもまだ、笑う事は出来ない。
彼を信じたい。でも、他人を信じる事は出来ない。信じようとすればあの時の事がフラッシュバックしてくる。
信じたいけど信じる事が出来ない。そんな苦しみが私をおそうようになった。
春休み最後の日も彼は来てくれた。
「そういえばまだ名前、聞いてなかったね。何て言うの?」
「・・・草野香織、草切高校に転入する予定」
そう言うと、彼は動揺した。笑顔が崩れ、その目には後悔の色が見えた。
「・・・何年生?」
「2年」
それを聞いた彼は、あちゃー、と言って草の上に倒れて、葉っぱを持っていない左手で自分の目を覆った。暫くそうしているのを見ていると、その体制のままで口を開いた。
「・・・学校で俺の事探さないでくれる?」
意味がわからない。何故、学校であう事は出来ないのか。
「・・・何故?」
そう訪ねると、彼は起き上がり、真面目な顔をして言った。
「ちょっと色々な事情があって素顔隠してて、その・・・変装してる姿を素顔知ってる人に見られたくないから」
私も、素顔を学校の人に晒すつもりは無かった。眼鏡を着けて、髪型も変えて校則をきっちりと守った真面目ちゃんで通すつもりだった。彼にも口止めするつもりだった。彼の話は私にとって好都合だった。
「じゃあ貴方も約束して。私もこの顔を学校で晒すつもりはないから、この事は誰にも話さないと」
その条件を出すと彼は、勿論、と頷いて握手を求めてきた。私も握手を返した。
でも私は、本気で彼を信じる事が出来ない。そう思うと何故か悲しくなってきた・・・
*
次の日の朝、私は新品の制服に袖を通していた。髪は後ろでひとくくりにして、地味めの眼鏡をかけている。7時30分になると、私は家を出た。普通なら7時50分に出れば間に合うのだが、学校の先生から、初日は早めに来ておけ、と言われていたので、普通より20分早めに出た。学校は自転車で20分位の距離なので、丁度良い時間になるはずだ。
学校につくと、すぐに職員室に向かおうとしたが、方向音痴なため、職員室の場所がわからない。
立ち往生していると、後ろから声をかけられた。女の声だ。
「君、転入生?もしかして職員室の場所がわからないのかい?」
振り向くと、身長の低い可愛い女子が立っていた。
顔も幼く、背も普通よりちょっと低いので、年下と間違えてしまいそうだが、胸につけてあるリボンの色で同級生だと言うことが分かった。
「・・・今年下と間違えそうになったでしょ」
図星を突かれて言葉につまっている私に、彼女は
「良いの、慣れてるから。職員室の場所がわからないんでしょ?案内してあげるよ」
私は、そう言って階段を上がって行った彼女についていった。




