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274  作者: Nora_
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09

「なんだなんだ? なんかやけに混んでいるな」

「なにかやっているんでしょうね」

「ま、俺らの目的は街じゃなくて海だから離れていくんだけどな」

「海なら向こうでも見えたのに、しかも冬のいまにいく必要ある?」

「まあまあ、どうせなら二人きりになれるところがいいんだよ」


 だったら近場の公園にでもいけばすぐに叶っていたところだけどね。

 この寒い時期に積極的に外にいようとする人はいない、いるのは仕事とかでどうしても出なければいけない人達だけ――ならこうはなっていないか。

 物好きな人がこの県にも沢山いるらしい。


「俺はな、衣都や乙葉ちゃんから距離を作るために他県を選択したんだ」

「あんたの家で集まれば完全に二人きりだったんじゃない? だって今日は瑛人、衣都と集まっているんでしょ?」

「あ」

「ま、こういうのもたまにはあってもいいと思うけどね」

「だ、だよな!」


 歩くぐらいはしておかないとお肉がついてしまうからそこまで不満はなかった。

 とはいえ、駅から海まで遠すぎるのも問題だからそこまで距離がなかったこともいいと思う。

 勢いだけで行動しがちな彼女でもそこらへんはちゃんと考えているということだろう。


「寒いな」

「ええ、こういうところだから余計にね」


 ここには物好きな人達はほとんどいなかった。


「いきなり恥ずかしいところを見られてしまったよな」

「そういえばなんであの教室で話していたの?」

「涼真がしつこく追ってくるから違うやつらの教室に入れば問題ないと思ったんだ」

「でも、普通に入ってきてしまったのね」

「それで益々余裕がなくなって……あれだ」


 多分、冷静な状態だったのならそんなことにはならなかった。

 だって宮嶋先輩みたいなタイプがそれだけで諦めるとは思わない、前々から一緒にいる彼女なら私よりも分かっているはずだからだ。


「ま、あれがなければ一葉と話すことなく終わっていただろうからナイス選択だったな」

「どうだかね、それがなければもっと魅力的な子と出会えたんじゃないの?」

「またそういうのか……」


 相手がこう言ってくれているから大丈夫、とはね。

 何度だって振り出しに戻そうとするからそれでも私を手に入れたいならその度に進んだところまで戻してもらいたいところだった。

 そうすれば自分に甘いところが働いてそのまま乗っかろうとするだろう。


「好きになったやつはどういう存在だったんだ?」

「んー衣都みたいな感じだったわね」

「それならやっぱり衣都は危険な存在だったんだな」


 それこそアピールをされていたらどうなっていたのか。


「あんたこそ昔は宮嶋先輩が好きだったとかないの?」


 別に好きでもそうでなくてもいまには影響してこない。

 たったそれだけのことでなし判定するような人間ではないということだ。


「なかったな」

「即答ね」

「でも、近くにはいてほしい存在だよ」

「最初からそれは貫いているわよね」


 ただ、本人にぶつけられるかどうかは別か。

 宮嶋先輩なら「そっか、嬉しいよ」と返すところだろうけど。


「どうでもいいみたいに嘘を重ねるよりもいいだろ?」

「そうね、無駄に相手を傷つけることにもなりかねないから素直になるのは大事ね」

「その点、一葉は何回も無駄に傷つけてきたよな」


 空気を読んで離れる度に「なんで離れるんだよ」と言ってきた彼女。

 つまり、その度に傷ついていたということになるけど、もし私に彼女に対しての好意があったとしたら残酷なことをしていたのは彼女の方だったわけだ。


「見せつけていたくせによく言うわね」

「み、見せつけてはいないだろ、それに俺から衣都や乙葉ちゃんを抱きしめたことはないぞ」

「私にもね」

「で、でもさっ、一葉は我慢できずに俺を抱きしめてきたよな!」


 ばっと立ち上がってびしっと指を差してきた。

 私がその人差し指を掴んで自分の方へ引っ張ると「いたたっ」と大袈裟な反応を見せてきたから笑ってしまう。


「そうかもね、あれは我慢してきた結果なのかもしれないわ」

「じゃ、じゃあさ、一葉の中にもなにかあったのか……?」

「実際、あんたが格好良く見えてこのままだと好きになりそうとなったところでその考えを捨てたわ」

「おおっ――って、なんでだよ!」


 もう、力を込めすぎだ。


「ドキドキしているの?」

「あ、当たり前だ、こうでもしないと俺にはできないよ……」

「そんな喋り方をしているのに意外ね」


 私としては温かくていいから普通に抱きしめ返しておいた。

 彼女からしてくれなければもうこんなことはできないなんてこともないし、また不安そうな顔をしていたらすることにしよう。

 その度に慌てるようなら私の中に眠っているS魂がどんどん出ていくことになるけどね。


「ここなら盛り上がってしまっても問題ないわね」

「な、なにをするつもりだ?」

「そうねえ」


 そういえば既に告白はされていて私が返事をしなければいけないところか。

 できれば歩きながらとか、別れる寸前にとかがいいけど……。


「あんたがいいなら受け入れるわ」


 ただ待たせているだけでどんどんと縮んでしまいそうな脆さがあるからここで答えておくことにした。

 家の中で緩い雰囲気のまま返事をする、それよりはまだそれっぽいということにしておこう。


「いや待て」

「なによ?」


 これ以外の形は望んでほしくない。


「本当にこんなんでいいのか?」

「それはいまここで始まった話をしたいの? それとも、あんた自身のことを言っているの?」


 ここに触れられれば触れられる程、恥ずかしい時間となっていく。

 好きな相手が告白を受け入れてくれたのだからそれで満足しておくべきだろう。


「ど、どっちもだ」

「それならどっちもいいで終わりよ」


 ここにきて不安になるのはやめてもらいたかった。


「はは……そうか」

「そこに座る?」

「そうだな、ベンチの方がいい」


 あの夜よりも距離はあった。

 少し気に入らないから隙間を埋めておいた。




「見てくれっ、これが海鮮丼大盛りだ!」

「うぇ、あんた本当に食べられるの?」

「大丈夫だっ」


 うわあ、バクバクバクと本当にすごい勢いで食べていく。

 何故かじっと見てしまって彼女が食べ終わった頃に食べることになった。


「ぷはあ、これで二千円は最高だ」

「よ、よかったわね」


 マグロ、イカ、タイ――うん、ここらへんの好きな物が乗っていれば私はそれで十分だな。

 人によっては少なく感じるかもしれないものの、このあともう少しぐらい食べたい程度のレベルが丁度よかった。


「ゆっくり食べればよかったのに」

「お店の人のことを考えたらそういうわけにもいかないでしょ」

「ま、俺ならいつでも見られるんだからさ――あ、わ、私の方がいいか?」

「好きにして、あと確かにあんたの言う通りね」


 付き合っていないときと関係が変わったいまとであんまり変わるとも思わないけどね。

 変な遠慮をしてもらいたくないみたいなので自由に見ていくことにしよう。


「これからどうするか」

「そうね、もう少しぐらいは駅周辺を見てからにしましょ」

「だな、すぐに帰ることになったらもったいないしな」


 ついでになにかお土産を買っていきたかった。

 というのも、今回もまた「いきたい!」と盛り上がった乙葉を彼女がなんとか家で待たせて出てきているからだ。

 あと、付き合い始めてからというもの、乙葉の態度が微妙になってしまっているのもある。

 つまり、物で釣ろうとしている状態だった。


「あ、これいいかも」

「そういえばなんでか乙葉ちゃんが睨んできていたな」

「考えすぎでしょ? 睨んでいたは……ないでしょ」

「でも、明らかに不満があるって顔だったぜ?」


 んーあ、自分ではなくてその姉を選んだからではないだろうか。

「私の方が頑張っていたのに!」とそうアピールしてきているのかもしれない。


「お、乙葉ちゃんになにか買っていくかな」

「別に無理をしなくてもいいわよ、さっきので結構使ってしまったでしょ?」

「いや買うっ、だって乙葉ちゃんと仲良くできていないと一葉とゆっくりイチャイチャできないだろうが!」


 学校とか彼女の家とかやりようはいくらでもあると思う。

 どうしても気になるということなら合わせる、それぐらいはしなければならないだろう。


「乙葉ちゃんの部屋にはぬいぐるみとかはほとんどなかったな、となると……美味しい物とかの方がいいか?」

「甘い物もしょっぱい物も好きだから大抵の食べ物が高テンションへ繋がる有効な物になるでしょうね」


 他県とはいっても隣県に来たぐらいでは物珍しい物というのはほとんどないようだ。

 冬だからそこまで気にしなくてもいいし、甘い物中心で攻めていくことにした。


「これ、会計を済ませてくるわ」

「お、おう」

「はは、ゆっくりでいいから」


 こういうちょっとしたことでも超真剣に悩んでくれるところが好きだったのかもしれない。

 ここで彼女にだけは好きな人を教えたという話を思い出した。


「じゃあ、刀花という線はないか」


 となると……衣都? それなら彼女を睨む必要もない――って、これはあくまで彼女が被害妄想をしているわけでもなく、本当のことだったらだけど。


「ま、待たせたな。あと、すぐに渡したいからここではもういいか?」

「うん、十分だわ」


 私としてもすぐに渡したいからここで帰るぐらいがいい。

 電車の中ではなんとなく彼女に寄りかかっていた。


「か、帰ったぞー」


 どうやらリビングにもいないみたいだった。

 そのため、部屋にいってみると何故かうつ伏せで寝転んでいる乙葉が。


「どうしたの?」

「……お姉ちゃんが悪い」

「わ、私?」

「だってお姉ちゃんのことが好きだったのに……」


 ああ、そういう。

 頭に触れたら最初こそびくっとしていたけど、そのままなすがままとなっていた。

 五分ぐらい続けていたら苦しくなったのか顔を上げて一気に抱き着いてきた。


「お姉ちゃんにかんちがいされていただろうからショックを受けていたの」

「刀花が好きなわけじゃなかったのね」

「刀花お姉ちゃんのことは好きだったよ? でも、お姉ちゃん対する好きとは違うから」


 ということはこの年齢でちゃんと区別がついているということか。


「おーい……?」

「刀花お姉ちゃんは来ちゃ駄目」

「がーん……」


 今回は黙っておくことにした。

 そうしたら彼女の手の甲に攻撃しだして流石に止めておいたのだった。

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