08
なんか変なのがいる。
ソファに座って持参してきたお菓子をもしゃもしゃ食べているあの子はなんなのか。
まあ、話し合いをすることもなく私の家で開催となっていることについては感謝の気持ちしかないけど、これにだって微妙な反応を見せていたというのに……。
「メリークリスマース」
自由か。
ちなみに、いま乙葉は刀花と二人きりで出かけているところだった。
どうしても刀花の方がクリスマスプレゼントを贈りたかったらしく、乙葉は結局のところ刀花ガチ勢だから付き合っている形になる。
「参加するならなんで素直に参加するって言わないのよ」
「これも刀花さんと話し合った結果かな」
「ふーん、刀花の言うことならなんでも聞くのね」
「それは一葉さんだよ」
違うと否定することもできない痛いところを突いてきた。
だから横に座って攻撃を仕掛けようとしたらそのまま両手を掴まれたまま押し倒される。
「……ずっと断っていたくせになによ」
「ふふ、私相手にもそんな顔をしちゃうんだ」
な、なんだこの顔は……明らかに反省している類のものではない。
あれだけ自由に行動しておきながらここでも更に自由にやろうというのか。
「ただいま!」
「おかえり乙葉ちゃん」
上からどいてくれたのはいいものの……。
「あれ、刀花さんは?」
「お母さんといっしょにいるよ」
あ、付いていっておけばよかった。
偶然とはいえ、お客さんに働かせて自分はなにもしないのは駄目だ。
「衣都お姉ちゃんはお姉ちゃんといっしょにねようとしていたの?」
「うん、少し眠たかったからそんな感じかな」
まあ、そのまま吐かれても困るけどそれもそれでどうなのかと言いたくなる。
「でも、もうそろそろ美味しいご飯を食べる時間だから後でねた方がいいと思う」
「ははは、そうだね」
それからすぐに二人が帰ってきて温めたり運んだりする時間となった。
初回と違って母が相手のときも衣都は気にせずに話しかけ、普通に明るい状態だった。
「そういえばなにを買ってもらったの?」
「これ!」
ピンク色のリュックか、それなりに値段がしそうだ。
「今度これを背負っていっしょにお散歩をする約束をしたんだ!」
「ちゃんとお礼は言った?」
「うん!」
んで、その刀花はなんか先程からちらちらこちらのことを見てきて――いやこれは想像ではなくて本当にそうだからそう言うしかない。
私にも買ってきたみたいなことがなければいいけど……。
だってまだなに一つとして刀花のために動けていないのにそこにまた加えられてしまったら困るからだ。
「はい、お母さんからはお勉強セットだよ」
「えっ」
「衣都お姉ちゃんからはお菓子だよ」
「ありがとう!」
はは、露骨に違う反応だ。
どれも消耗品だから時間が経過した後に「貰えてよかった」となるはずだった。
「一葉ちゃんは?」「一葉は?」「一葉さんは?」
「え、あ……」
いや、そりゃそうなるでしょうよ……。
友達がこうしてなにか贈っているというのに姉からがないのはおかしい。
「と、特になにも買っていないから私の部屋からなにか一つ、欲しい物を持っていくというのはどう?」
「いいの!?」
「そ、それぐらいしか考え付かないから」
……なにかいい物があればいいけど。
やっぱり付いていってなにか買うべきだったと後悔してももう遅い。
探しに探した結果、残念そうな顔をしながら「やっぱりいいよ……」という風になったら精神が終わる……。
そうしてやばい時間(自業自得)は終わり、後は三人が盛り上がる時間となった。
頑張って調理をしたとかではないから洗い物なんかも少なく済んだ。
送り迎えをする前提でいたのに結局はそのどちらもしないままで進んでいく。
「刀花お姉ちゃん、衣都お姉ちゃんといっしょにおふろに入りたい」
「よし、いくか」
「少し恥ずかしいけど、乙葉ちゃんがそう望んでいるなら受け入れるよ」
三人まとめて入ってくれるのは助かる。
どうせ長いだろうからとソファに座ってテレビでも見ようとしたら何故か真隣に母が座ってきて意識が向かう。
「一葉ちゃんは今日も遠慮しちゃったね」
「そう? あの二人の方がお姉ちゃんらしいことをできているんだからこうなるのは普通のことだと思うけど」
この家から出ていかない限りはずっと見ることになる姉よりも、そうしたい気持ちが重ならないと一緒にいられない友達の方を選ぶのは普通のことだ。
「乙葉ちゃんが刀花ちゃんや衣都ちゃんと仲良くしているところを見るのは本当に嬉しい。だけど、一葉ちゃんから離れていっちゃうように見えて寂しいんだ」
「や、そこは友達ばかりになって自分が相手をしてもらえなくなるからとかじゃないの?」
「だって私はずっと一緒にいてあげられたわけじゃないから」
そんなことを言ったら私だってそうだ。
「ま、私なら大丈夫だから気にしないで。それよりいつもありがとう」
「一葉ちゃん……」
か、肩揉みぐらいはさせてもらうか。
絶妙な力加減というのが難しいけど、なんとか痛いと言わせないように揉んでいた。
「やっぱり自分でやるのとは違うよね」
「そりゃあね」
「この前、乙葉ちゃんもしてくれたんだ」
「お母さんが頑張ってくれているのを分かっているからよ」
可愛い妹の行動に対してなんでも後手後手すぎる。
「ふふ、頑張って力を込めてくれているんだけど、くすぐったさしか感じなくてね」
「はは、それぐらいが可愛いじゃない」
表では笑えていても内では笑えていない。
楽しいクリスマスの夜になんとも悲しい現実を突き付けられたのだった。
「はぁ……」
寝られないから下にいこう。
乙葉の部屋に母、衣都が寝て、刀花は一人何故か客間を選んだからこちらも一人だった。
まあ? この少し沈んだ状態なら迷惑をかけるだけだからそれはいいのだ。
「一葉」
「あれ、まだ起きていたの?」
「このときを待っていたんだ」
はは、これが母とか乙葉だったらそっと閉めて寝ていたのだろうか。
それでも、彼女の目的は私だったわけだからその場合は朝まで影響を残したかもしれない。
別に一人だから物足りなくて、物寂しくて寝られなかったというわけではないけど、やっと少しは役に立てた感じがした。
「そこに座ってくれ」
「うん」
立ちながら話す必要もないから素直に言うことを聞いておく。
するとみんながお風呂にいっていたときの母みたいな距離感で隣に座ってきた、なんならそのまま足に頭を預けてきた。
「これがしたかったの?」
「……こうすれば一葉が逃げられないからだ」
「逃げないわよ」
部屋に戻ったところでどうせ寝られないだろうから付き合ってもらえたらありがたいところだった。
「ねえ刀花、乙葉に優しくしてくれてありがとね」
「別に意識してそうしているわけじゃない、勝手にそうなるだけなんだ」
「だから最初にぶつけたようにあんたは優しくて格好いい子よね」
だからみんな一緒にいたがるのだ。
「……一葉に対して優しくて格好いい存在でいられているか?」
「うーん、それは正直に言うと微妙ね」
「そ、そうか」
来てくれて嬉しいと感じているけど、私からすればその優しさがもったいなく感じてしまう。
や、本当にズルい考えだけどね。
「一葉がいるからだぞ」
「ん? あ、乙葉の真似?」
「そうだ。乙葉ちゃんも同じだ、大事なところでははっきりしないといけないんだと分かっているんだ」
「ってことはこれは大事なところ?」
「ああ、大事なところだ」
もう日付が変わってしまっていてクリスマスは終わってしまっている状態だ。
なんでそういうときばかり待つことを選んでしまったのだろうか。
「はは、乙葉ガチ勢かと思ったのに違うんだ?」
「……乙葉ちゃんには悪いと思っている、だけどこれ以上はもう我慢できないんだよ」
「え、待って待って、好きではないのよね?」
「は、はあ? ……なにも分かってくれていないじゃないか」
いやまあ、初対面のときから喧嘩して最悪なスタートというわけではなかったけどさあ……。
すぐに切り替えて上手く対応してくれたのは彼女だった、それなのに好きになってしまうのはなんでなのか。
「え、あんたってなにもしてくれないような人間が好きなの?」
「だからそれは一葉が悪く考えているだけだって」
それなら今日以外にも役に立っているときがあったとして、そういう小さなことの積み重ねで好きまでいってしまったということか。
んー別にそれならおかしなことではないか。
「元々あんたは女の子が好きだったの?」
「いや、そんなことはないんだけど……」
「そういうのってあるのね」
他の人も同じなのかな、ビビッとくれば同性でもそういう目で見始めてしまうときが。
「とにかく、あんたの気持ちは分かったわ」
「お、おう」
「どうせ部屋に戻っても寝られないだろうから一緒に寝ましょ」
それでも寝られなかったら彼女のことを抱き枕にでもしておけばいい。
そうすれば体温とかでなんとかなるだろう、落ち着けるのは寝る際に関しては強く働く。
「えっ」
「そんなに驚くこと? 同性同士なら一緒に寝るぐらい普通でしょ」
「だけどさ、俺は一葉が好きで――」
「いいから寝ましょ」
彼女に反対側を向かせて後ろから抱き着いた。
おお、これはいい。
「ね、寝られそうにないんだけど……」
「大丈夫よー」
太っているわけではないとしてもやっぱりクッションなんかを抱いて寝るのとはまた違う安定感がある。
そういうのもあって、なんだったのかとツッコミを入れたくなるぐらいにはすぐに眠気がやってきてそのまま身を任せた。
次に目を開けたときにはもう朝で、何故か衣都に見られていた形になる。
「もうお付き合いを始めたの?」
「その前ぐらいの段階かしらね」
「刀花さんを起こさないように付き合ってほしい」
「分かったわ」
私としては朝まで抱き着いたままでいられたことがよかった。
ただ、そうなると刀花は寝返りを打てなかったことになるから少し申し訳ないことをしてしまったとは思う。
「あのね」
「うん」
「瑛人君のことを好きになっちゃったの」
一緒に過ごしていればそういうこともある。
両想いでもなければそこからが大変だということも分かっている。
なら私は……。
「あ、そうなの? そういえば前も一緒に遊んでいたわよね」
「うん、それで最近は一葉さんと一緒にいられなかったんだ」
「それなのに何回も誘って悪かったわね」
「ううん、誘ってもらえるのは嬉しかったから」
もう少し仲良くしておけば「協力してほしい」とか頼まれたのだろうか。
「このことは宮嶋先輩にも聞いてもらったんだけど、何故かそのとき凄く嬉しそうな顔をしていたんだよね」
「ああ……」
だってあの人は刀花と仲良くしてほしいと言っていたぐらいだもんなあ。
衣都が他の子のことを好きになればどうしたって偏っていくから安心したのかもしれない。
「瑛人は衣都のこと名前で呼んでいるの?」
「うん、頼んでみたら『分かりました』って名前で……」
「いけるんじゃない?」
「ま、まだその判断は早いよ」
ああ……未経験のせいでなんにも、うん。
でも、ここで「いや無理でしょ」とか「駄目だと思うけどね」みたいにマイナスなことばかり言うような存在よりはマシだと思いたい。
……マイナスの存在に近い存在ということでアレだけど……。
「ふぁ……なんだ、衣都は瑛人が好きなのか」
「と、刀花さん!?」
「困ったら言えよ、俺が協力してやるからな」
「ありがとう……って、なんでそんなに笑顔なの?」
「えっ? あっ、べ、別にライバルが消えて喜んでいるわけじゃないからな!?」
ああ、格好いい感じが一気に台無しになった。
衣都も「不満があります」といった顔で何故かこちらにくっついてきた。
「なっ!?」
「一葉さんがもっと優先してくれていたらこうなっていた可能性もあるんだからね? だから油断しないように」
「は、はい……」
「なにもなかったんだからそんなことを言わないの」
塩をかけられたナメクジみたいに縮まってしまっている。
「んーどうだったんだろうね。今回のこれは無理やり好意を捨てて他の子に、というわけじゃないけどさ」
「上手くいくといいわね」
「ありがとう。私、頑張るよ」
今更ながらによく付き合ってくれたな、そう思った。
衣都は「乙葉ちゃんを起こしてくるね」と階段を上っていった。
「ほ、本当になにもないんだよな?」
「ないわよ、だって瑛人が好きなんだから」
「瑛人かあ、あいつ誰か一人だけを特別扱いとかできるのかねえ」
「好きになれば一瞬だろうけどね」
それどころかなによりも優先してくれそう。
その点は宮嶋先輩もそうかも、寧ろ放っておいてくれなさそうだ。
「てことは一葉も……?」
「あ、いまだから言っておくけど、実は昔に女の子を好きになったことがあったのよ」
「なに!?」
「幸い、表には出さずにいられたから喧嘩別れとかにもならずに普通に別れることができたけどね」
家族以外に話したのは初めてだ。
はは、その女の子すら知らない話を新しくできた友達の彼女には話しているのだから面白い。
「や、あんたは私が好きなんでしょ? だからこういうことも言っておいた方がいいのかなって。もしかしてそれで駄目だったりする? まあ、あんたなら他にもいい存在を見つけられるだろうからその方がいいのかもね」
まだいくらでもやり直せる。
ここから踏み込まなければ私達は友達のままでいられるだろう。
「じゃ、朝ご飯でも――いたっ、なによ……?」
「……駄目じゃねえよ、他の存在なんてどうでもいいんだよ」
「そ、それだけなら強く掴まなくてもよくない?」
「それはっ……悪い」
あ、謝られても困るけど……。
なんか変な雰囲気になり始めたところで「おはよう!」と元気な天使、乙葉が。
「おはよう乙葉」
「お、おはよう」
「うんっ、刀花お姉ちゃんもおはよう!」
ぷふ、やっぱり私達は乙葉には勝てないようになっているみたいだ。
いやマジで助かったわ……今日も乙葉は無自覚に天使だった。




