07
「なんで誘ったら誘ったで積極的に断るのよ」
「矛盾しているよな」
そのうえで一緒に過ごしている相手が瑛人だから余計に言いたくなるのだ。
あの子のことは分からない、仲良くなれても常にこの状態から変わらなさそうだった。
「でも、俺は嬉しいけどな」
「は? 断られてそれを嬉しがるって最低でしょ」
「だってこの時間は一葉と二人だけでいられるんだぜ?」
「はぁ……乙葉ガチ勢のくせによく言うわね」
さっきまで足の上に乗っけて「乙葉ちゃんは可愛いな」なんて言っていたくせに。
「乙葉ちゃんが可愛いのは事実だろ」
「そうね」
「なんだ、やっぱり嫉妬か」
このにやにや顔を見ているとまたお腹に攻撃を仕掛けたくなるものの、そんな暴力キャラではないからまた課題をやることにした。
これが衣都とか宮嶋先輩、瑛人なら合わせているところだけど、刀花なら必要ないだろう。
まあ、分かりやすく態度を変えて甘えてしまっているような状態なのは……アレだ。
「課題多いな」
「そっちはあんまり出ないの?」
「いや、こっちも多い。でも、こういうときに友達を優先できるようになるべく休み時間の間に終わらせることにしているんだ」
「へえ、あんたよく来るのにすごいじゃない」
「その分だけ一葉達といられるからな」
……喋り方といい言葉の軽さといい、駄目な男の子感がすごかった。
本人は全く自覚がないからこそ続けられるんだろうけど……。
「冬休みになったらどこかに出かけようぜ」
「どこにいきたいの?」
「他県だな、それで美味しいご飯を食べたりしたい」
「女の子みたいね」
「お、俺も女だ」
女の子で乙女の彼女は何故『俺』にしてしまったのか。
よくある男の子扱いをされたとか、意地悪をされたからだろうか。
「まあいいわ、あんたはいつも付き合ってくれているから合わせるわよ」
「よっしゃっ、それなら頑張れるぜ!」
んー他県となると乙葉を連れていくのは少し厳しそうだ。
でも、どこにいくのかを話す際に「私もいきたい!」となるのは容易に想像できる。
何故かって分かりやすく大好きな彼女がいるわけだからね、私でも気に入っていたらそうする。
「まあ、テストが終わったらもう冬休みみたいなものだけどね」
「いやそれは違うだろ、やっぱり朝から出かけられてこその休みだろ」
「はは、はいはい」
動くなら早い内に動いていた方がいいか。
いまこうして別行動をしているのは学校で疲れたのかおねむな状態になってしまっていたからだ。
だから部屋にいったところで寝ている可能性が高いけど、そこは彼女の魅力に賭けるしかない。
そうなったら参加する方に傾くばかりでしかないとしてもだ。
「いきたい!」
「じゃあお母さんが許可してくれたらね」
「ぜったいに説得する!」
で、それに対する母の対応はというと、
「一葉ちゃんだけじゃなくて刀花ちゃんもいてくれるなら大丈夫だね」
これだった。
彼女なんかは滅茶苦茶いい笑顔で「任せてください!」なんて返しているし、乙葉はそんな彼女に抱き着いていた。
もうこれ彼女がお姉ちゃんでしょ……。
「あっ、刀花お姉ちゃんがいるからこんなに喜んでいるわけじゃないからね? お姉ちゃんがいてくれるからだよ」
「うぅ……なんか悲しくなってきたんだけど」
「正直なところを吐いてくれればいいのよ、乙葉も素直になりなさい」
「え、だからこれが本当に言いたかったことだけど」
急にそんなことを言われてもいまいち信じられないのだ。
私と出かけられることになって喜んでいるのなら私にくっついてほしい。
もちろん、拗ねているとかではないけどね。
「あー刀花ちゃん」
「ふぅ、なんですか?」
「私も参加していいかな?」
「はいっ、お母さんなら大歓迎ですよ!」
お、これは私的にもありがたいな。
やっぱり子どもの私達だけで小さい乙葉を連れていくとなるとなにかが起きたときに対応できないかもしれないからね。
「連絡先を交換しましょう」
「うん」
なんか母も嬉しそう。
大人になってからだと新しい友達を作るのも大変だろうし、これは少し役に立てた結果……なのだろうか。
彼女も友達の母だからとすぐに会話を終わらせたり、どこかにいったりしないから話しやすいと。
あ、そういうときでもないと乙葉にゆっくり構ってあげられないというのもあるか。
「お母さんとお出かけできるのも楽しみ!」
「ふふ、よろしくね」
元々笑顔が多い子でも彼女が来たときにはもっと増えるわけで……頑張ってくれているのは彼女も同じだ。
なのにこちらはなにもできていないのは……。
「刀花ちょっと」
「ん? おう」
廊下に出たらすぐに壁に押し付けた。
「せ、責めるためだったのか?」
「……違うわよ、ただあんたに世話になるだけなっておきながらなにもできていないことが気になったの」
「なにもできていないってことはないだろ、もう既に何回も泊めてくれたりしているしな」
「そのときだってこの家を維持してくれているのはお母さんで、それ以外では乙葉が癒やしパワーで……とにかく、動いているのはあの二人でしょ?」
自分で出していくからこそ地味にきついところだった。
結局、今回も「いや違うだろ」と納得はしてくれなかったから前には進められなかった。
「はぁ……今回も断られた」
しかも今度は相手が宮嶋先輩って……これだと男の子をとっかえひっかえしている女の子みたいだ。
「もしかしなくてもだけど私、嫌われていない?」
という感じで、一人でいるときだからこそ独り言が多くなってしまう。
直前になって「やっぱりやめた!」とならないようにギリギリに誘ったことが間違いだったか。
もっと余裕を持って誘えよとツッコまれたら悪いのは完全に私だ。
「お姉……ちゃん」
まあ、乙葉がこの状態で衣都が参加してきていても出かけることができなかったから結果としては正しい選択になってしまったわけだけども。
「大丈夫?」」
「うん……朝よりはよくなった」
「それならよかった――で、こんなときに話すことじゃないと思うんだけどさ」
「……どうしたの?」
いやもう本当に今日話さなければいけないことではない……ようなそうではないような。
「クリスマス、刀花達と一緒に過ごしたい?」
「あっ……えっと……」
これは……うん、明らかにそのことに食いついたな、と。
「と、刀花お姉ちゃん達がいいなら……いっしょにすごしたい」
「分かったわ。じゃ、そのことは絶対に守るから乙葉は体調を治して」
「うんっ」
いい笑顔だぁ……。
さて、お姉ちゃんは戦いにいくか。
連絡先は交換してあるからちまちまメッセージは打たずに電話をかけることにする。
どういう風に切り出すかを考える前に主が出て「どうした?」と。
「乙葉ちゃんは大丈夫か?」
「ええ、それは大丈夫よ。いま電話をかけたのはクリスマスのことで相談したかったからなの。まあ、ごちゃごちゃつけ足してもあれだから言うけど、クリスマスにみんなで集まりたいのよ」
あれ? これだと乙葉の名前を利用して自分も参加しようとしているような……。
「そうか!」
「えっ、な、なんでそんなにハイテンションなの?」
「いやー乙葉ちゃんは最高なことをしてくれたな!」
ああ、乙葉がそうであるように彼女は乙葉ガチ勢だからか。
いや、これは衣都に対しても最強のカードではないだろうか?
私単体では無理でも乙葉パワーがあれば流石の衣都も参加することを選ぶ。
送り迎えをするという前提でそのままちゃっかり開催場所を私達の家にさせてもらえば……くくく。
「いまからいく」
「流石にそれは気が早すぎでしょ……」
「待っていてくれ!」
そりゃ出たりはしないけどさ。
まあ? 今日は元々集まる約束をしていたから彼女がおかしいわけではないか。
それよりも大好きな乙葉と出かけられるというところで取り上げられたら気になるだろう。
「はいはい――早いわね……」
「そりゃあな」
で、そのまま乙葉のところにいくかと思えばそうではなく、何故か大人しくソファに座っていた。
「はい、飲み物。でも、なんでここで大人しくしているの? いつもみたいに乙葉のところにいけばいいじゃない」
「今日は風邪だから悪化させたくないんだよ、それにお姉ちゃんが拗ねちゃうからかな」
「ふーん」
いやでも、そういうときこそ彼女の力が必要だから連れていくことにした。
ちなみに、母は心配しすぎて疲れていたからいまは休んでもらっている状態だ。
「乙葉入るわよ」
彼女を見るなり体を起こして「刀花お姉ちゃん」といつもよりも少し弱々しく感じるものの、それでもやっぱり影響力が違っていた。
「クリスマス、一緒に過ごしたいから早く治してほしい」
「うん……じゃなくて、今日はごめんね?」
「気にしなくていい、クリスマスに一緒に過ごせればそれで十分だよ」
「ありがとう」
「はは、どういたしまして」
あ、これだと……。
また廊下に連れ出して壁に押し付けると「こ、こうしないといけないルールでもあるのか?」と不安そうな顔をしていた。
「あんた的に乙葉が付き合ってくれるクリスマスだけで十分よね?」
「え、出かける話はなしになったのか?」
「そ、それはちゃんと守らないといけない感じ……?」
って、守らなければいけないよなあ。
自分から合わせると言っておきながらなしにできるわけがない。
いまのは私が馬鹿だった、ぶつける前に気づきたかったところだ。
「だってそういう話だっただろ? ――あ、そのときは二人な」
「な、なんでよ?」
「そんなの俺が望んでいるからだ」
いやまあ、それ以外に理由はないだろうって感じだけどさ……。
逆にそれでいいの? と聞きたくなる内容だ。
で、実際に聞いてみたら「いいんだよ」と即答で。
「クリスマスの後でいいな」
「分かったわ」
他県だっけ? そんなに遠くないなら付き合おう。
これを出したのは私だけど、二回目のそれは彼女が言い出したことだから文句を言われても受け入れるつもりはなかった。




