06
「おい涼真、俺が問題ってどういう意味だ?」
「あれ、聞いていたの?」
聞いてしまうのか。
ここで「刀花の〇〇が問題かな」みたいに答えるとは考えられないけど。
自分のことなら話してくれる人でも、他の人のことなら抑え込んでしまう人に見える。
「んー栗林さんが関係していることだね」
「一葉が?」
私が?
「いや、やっぱりこれ以上はやめておくよ。それより本田さんが来ているよ、相手をしてあげたらどうかな?」
「ああ、いたのか衣都」
「うん」
うお、そのままそれが当たり前とばかりにくっついた。
刀花もそれについては触れずに「すぐに声をかけてくれよ」と普通に対応をしている。
これはきたっ、そう盛り上がってもいいところだと思う。
「刀花さんはクリスマス、もう誰かと一緒に過ごす約束をしていたりする?」
「ん? いや、まだ決まっていないな。ちなみに、俺と母さんだけだったときは二十四日にだけ普段と比べたら豪華な内容になっていたぞ」
「それなら一緒に過ごしたい」
「おお、友達と一緒に過ごすクリスマスというのもいいな」
よし、空気を読んで離れよう。
腕を組んで見ていた宮嶋先輩と一緒に上階に移動した。
「うーん」
「どうしました?」
というか、私からすれば宮嶋先輩――彼と一緒に盛り上がってこなかったことが意外だった。
「いや、栗林さんはよかったの?」
「はい、私はイヴもクリスマスも家族とだけで終わらせますから。宮嶋先輩は今年こそ刀花を誘いたかった、とかですか?」
「ううん、それは違うよ。そうだなあ、隠していても前に進めないから言うよ」
いや、別にいいけどね。
でも、それで自分がスッキリするということなら出してくれればいい。
「僕はね、刀花には栗林さんといてほしいと思っているんだ」
「結局、刀花のおかげで一緒にいられています」
「でも、偏りつつあるよね?」
それは気に入ればみんなそんな感じではないだろうか。
「相手をしてよ!」なんてぶつける人間ではなくてよかったとしか言いようがない。
「こうしてすぐに離れてしまうのもね」
「あ、勝手に宮嶋先輩も連れていってしまったことはすみません」
「ううん、刀花が本田さんと盛り上がっているところを一人で見ていても寂しいだけだからそれはありがたいんだよ」
正直なところを話しても私の方が変わらなければ同じところをぐるぐる回る羽目になる。
だからやめて彼のことを聞いていくことにした。
「クリスマスは毎年、ある場所までいくようにしているんだ。一人でいくんだけど、それでも寂しさはないんだよね」
「そういうのもいいですよね」
「ただ、今年は瑛人君が参加してくれるみたいだから二人になりそうなんだ」
「まあ、同性とわいわい盛り上がるクリスマスというのもいいですよね」
「そう、だから栗林さんには刀花と過ごしてほしいんだ」
ああ……ここに戻ってきた。
あと、せっかく空気を読んだのに「なに離れているんだよ」と刀花さんが……。
「ね?」
「いや……」
これは勝手にどこかにいかれて気になっただけでしかないし……。
というか、探す場合でも衣都を連れてきなさいよと言いたくなる。
こんなの絶対に面白くない、衣都がSNSをやっているような子なら『あいつ……』みたいにみなまで書かないまでもいまの気持ちを発信しているところだ。
「もうずっと手を掴んでおくかな」
「それがいいよ、そうすれば栗林さんも安心できるよね」
の、乗っかるなー!
「あ、そういうことか」
「なによ?」
「だから拗ねていたってことだな? そりゃそうだよな、気になる相手が乙葉ちゃんや衣都にばっかり構っていたら普通ではいられないよな」
「はあ? 私はね、中途半端にやってほしくないだけよ」
「はいはい、はは、年齢が年齢だから仕方がないよな」
……ぶっ飛ばしたくなったものの、なんとか我慢した。
休み時間が終わるところだったのもいい方に影響した。
こちらのことなんか気にせずに自分が一緒にいたい人と楽しく盛り上がっていればいいのだ。
私がただの構ってちゃんならこんな程度では済んでいないというのに。
授業前、別れる前に呑気な顔で「ちゃんと言えよな」とどこまでも勘違いしている刀花は正直に言えばアホだった。
「はぁ……」
そもそも、どうしてそこまで自分中心で考えられるのかということだ。
内でそう考えるぐらいならいいけど、出していけることがすごい。
「栗林さん」
「あんたいいところに来てくれたわね」
勘違いもされない瑛人なら楽でいい。
「女の子に話しかけられてどうしたらいいのか悩んでいるの?」
「そうですね、友達になってほしいみたいなんですけど……」
「え、そんなのあんたが受け入れるかどうかじゃない? なにか問題でもあるの?」
「周りの人から聞いた話なんですけど、その子には彼氏がいるみたいなんです。だからいいのかどうか……」
彼氏や彼女がいる子達はみんな明るくて「みんなと仲良く!」みたいなスタンスでいるからそんなものではないだろうか。
もし気になるならその彼氏の方に近づいた方がやりやすいかもしれない。
「変な勘違いをされると面倒くさいわよね」
「面倒くさいというか……相手も自分も疲れることになったらもったいないと思って」
ん? あれ、柱の影からこっちを見てきている女の子が……。
いくら仲良くしたいといってもここまでするのは流石にどうなのだろうか。
「ねえ、もしかしてあの子……?」
「ああ……そうですね」
いや、周りが勝手に言っているだけで彼氏なんかいないと考えてしまえばいいか。
別にみんながみんなそういうつもりで近づいているわけではないのだから。
「瑛人といたいの? それならこっちに来て」
「は、はい」
少しぐらいは協力してあげないとなあ。
「あ、あの……」
「二年の鍵冨刀花って知っていたりする?」
「あ、はい、鍵冨君のお姉さんですよね」
「そう、だからそれでたまに話したりするってだけよ」
んー失礼なアレだけど、陽キャラ! という感じはしない。
知り合いで一番近いのは衣都だ、まあ、そういうタイプでもそういうことに関しては積極的、なんてなにもおかしいことではないから……うん、なんて可能性も高いけど。
「いきなりで悪いんだけどあんた、彼氏がいるの?」
「ええ!? あっ、か、彼氏っ……なんかいません、できたことがありません」
「だそうだけど」
演技……には見えなかった。
「郡司さんのお友達に教えてもらったんですけど……」
「……それってもしかして長嶺さんのことですか?」
「は、はい」
「その人の言うことは信じないでください」
ひぇ、怖いな。
とにかく、その情報を信じた彼はどうしたものかと悩んでいたものだから訂正することもできなかったわけか。
「えっと、友達になりたいのよね?」
「はい」
今度は凄くいい顔だ。
「周りの人の言葉は信じたのに郡司さんのことで悩んでしまってすみません」
「い、いえ。私も……急でしたので」
「はは、それは仕方がないですよ」
今日は珍しくいい仕事ができた。
が、せっかく上がっていた気分も「またそうやって意味もなく離れるんだよな」とかなんとかぶつけてきた刀花のせいで下がった。
「もう教室で大人しくしておけよ」
「瑛人に相談を持ち掛けられたのよ」
「弟に優しくしてくれるのは嬉しいけどさあ」
逃げたら追うというタイプもいるわよね。
そして実際、逃げていなかったときは衣都なんかと仲良くしていたからここは言うことを聞こう。
私的にはそのつもりでいても彼女のことを気にしている子達からすれば邪魔でしかないわけだし。
「刀花といられる時間が一番いいわね」
「そ、そうか?」
「まあ、変な勘違いをしてくれているところは疲れるけどね」
「……俺といたくないのかよ」
「んーしっかり切り替えた後なら一緒にいたいわ。あっちはあっち、こっちはこっちという風にね」
中途半端なのが疲れるのはなにも恋をしているときだけではないのだ。
いや、恋をしていた時間よりも一人でいる時間が多かったからこそ私はそのときの気持ちがよく分かる。
ゼロか百ぐらいのつもりでいてほしいかな。
「なんかそれだと二股をかけているみたいじゃないか?」
「はは、じゃあいまのこれはもうそれに該当してしまうわね」
「おいおい……」
「だからまあ、逃げるのはやめるからあんたのやりたいように動きなさい」
まあ、自分に対して百の気持ちでこられたらそれはそれで引っかかるんだけどね。
そういうのもあって私と関わってしまった時点で詰んでいるようなものなのだ。
ああしてもこうしても駄目、でも、例えば刀花から近づいても無視される程ではないレベルのもの。
中途半端を嫌っているのに自分が積極的にそうしてしまっているようなものだから。
「乙葉ちゃんとか衣都のことを考えなかったら?」
「そりゃ一緒にいられるならいいことでしょ」
「だからやっぱり勘違いじゃないってことだな」
そして私は自分中心すぎない考え方をできているということになる。
「となると、このままだとクリスマスに一葉だけ仲間外れということになってしまうな。どうするかなー」
「私の家はどっちも家族だけで過ごすから」
「いや、今年は乙葉ちゃんの力で変わると思うんだよな。そうしたら乙葉ちゃんだけで出かけさせるわけにはいかないし、一葉の力も必要になってくるよな」
「ははは、回りくどいわね」
「だ、だってそうしないと『参加しないわ』とか意地を張りそうだからな」
んー乙葉のためだったら家にいくぐらいはしそうだけど、当日の自分が空気を読んでいるところが容易に想像できる。
それこそ柱にでも結びつけておくぐらいしなければどんな理由から参加しようと同じ結果になると思う。
「……衣都が気になるのか?」
「そうね。イチャイチャは歓迎だけど、仮に乙葉が参加した場合にはちゃんと相手をしてくれないと困るからね」
「そうじゃなくて……」
いや、それでも気にならない。
自分が優先されてしまったときだけに発症する変なものだから乙葉が放置でもされない限りはいくらでもしてくれればよかった。
「衣都ちゃんアターック!」
「きゃっ!?」
ああ、溜まっていた不満をもう抑えられなくなってしまったか。
限界容量を突破してしまったのなら仕方がない、受け入れるしかない。
……でも、刀花が極端に何回も来るようになったとかじゃないんだけど……。
「私はね、悔しいんだよ一葉さん」
「ま、まあ、気に入った相手が自分ばかりを優先してくれるかといったらそうではないじゃない? 少なくとも絶対なことなんてないということよ」
「刀花さんにあれだけくっついていたのに一葉さんは気にするどころか空気を読もうとしてくれたよね!?」
「え、あ、まあほら、ずっと見ていても害はないけど、それ以上のことができなくなってしまうじゃない? 盛り上がったら、うん」
まだ付き合っていなくたって盛り上がりすぎてキス、なんてこともあるかもしれない。
乙葉みたいなまだ小学生! みたいなこともないのだ。
お互いにそれなりの知識があって、それこそ抑えられなくなってしまうときがくるかもしれないから。
「刀花さんに相談に乗ってもらってしてもらっていたのに逆効果だったみたいだね……」
「え、本気ではなかったということ?」
はぁ……とりあえず口にしてみる、動いてみるということが多すぎるだろう。
この件は刀花も同じ、いや、それだけではなくて宮嶋先輩もそうだから似た者達が集まってしまっているのだ。
「もし私が本気で刀花さんを狙っていたらどうしたの?」
「その場合は応援するわね」
「はあ~……」
それならそういうときに邪魔をする友達を、敵を望んでいるのかと聞いてみれば「それは違う」と答えるだろうな。
いても微妙、いなくても微妙、この件は難しすぎる。
「もう知らないっ」
「ストップ」
「一葉さんの馬鹿!」
ぐっ、そろそろ我慢できなくなりそうだ。
あともう少し繰り返されたらこちらも一葉ちゃんアタックを仕掛けなければならなくなる。
「アホっ、鈍い子っ」
「一葉ちゃんアタ――」
「まあまあっ、そこらへんでやめておけって」
きたか。
「ねえ刀花さん、これも逆効果なんだけど……」
「は? もしかしてこれって刀花が言い出したことなの?」
「い、いやー衣都が構ってもらいたいって頼ってきてな……『それならこれはどうだ?』ってなってな……」
「衣都、あんたはなにも悪くないわ、悪いのは全部刀花よ!」
そういうわけでアタックは刀花に仕掛けておいた。
この前みたいに「ぐべ!?」と変な声を出して蹲った彼女を見下ろす。
「大袈裟ね」
「いやいやっ、腹を攻撃されるのって普通に気になるぞ……」
そんなことを言われても知らない。
だってそのせいで衣都は少し危うい状態になったからだ。
私ではなかったら「は? こいつ生意気」みたいに思われていたかもしれない。
「で、でもな? 俺は衣都ちゃんアタックを仕掛けろとは言っていないからな?」
「と言っているけど?」
「うん、だって一葉さんが相手をしてくれないから不満が溜まっちゃって」
なんじゃそりゃ、だったら刀花なんかにくっついていないで来なさいよと言いたくなる。
言っておくけど、ここ最近は待つだけなのはやめて自分から近づいていたりもしていたのだ。
それなのにその度に見せつけてくれたから今度こそ本気なのだとそう思ったのに。
「刀花、あんたはもう少し考えてあげなさい」
「おーう……」
「衣都は……」
刀花にくっつくのをやめろ、みたいに頼むとまるでしてほしくないみたいに捉えられてしまうから難しい。
ということで、これからも一緒に過ごそうと言っておいたのだった。




