05
衣都を追っていた。
というのも、最近は宮嶋先輩に追われたりもしていないのに一人でこそこそしているからだ。
せっかく友達になれたのにあんまり一緒にいられていないことも影響している。
「あっちは……」
公園があって、それよりも更に歩けば駅がある。
誰かとなにか約束をしているのだろうか、まあその場合なら一人でこそこそされているよりもマシだ。
「乙葉ちゃん!」
「衣都お姉ちゃん!」
ああ、そういう。
そういえばこの前も二人で会っていたとかなんとか言っていたか。
これは衣都が気に入っているのもあるだろうけど、乙葉が会いたがっているからこその結果だと思う。
「またあそこにいきたいの?」
「うん」
あそこ、どうせ衣都の家とかそんなところだろう。
まあ、姉としては妹に優しくしてくれているだけで十分だから尾行はここまでにしておいた。
「見て、あそこに一葉さんがいるよ」
「本当だ、お姉ちゃんが一人なんてめずらしいかも」
何故だ……。
あと、衣都や刀花と話せるようになるまでは一人だったから乙葉には申し訳ない気持ちになった。
所詮お姉ちゃんなんてそのレベルだ。
「え、気づいていたの?」
「うん」
「……なんかごめん」
「ううん、それは気にしなくていいよ」
一緒にいくことになったものの、出しゃばらずに見ておくことにした。
二人は手を繋いで本当の姉妹のように見える。
刀花との組み合わせもいいけど、衣都が姉というパターンも悪くない。
私が乙葉の隣にいるときはどう見えているのだろうか?
「ここだよ」
「はは、やっぱりね」
「私だけで乙葉ちゃんを色々なところに連れ回すわけにはいかないからね」
結構大きい家だ。
車も三台は止められそうな駐車場があって、そのうえで庭なんかも広くある。
休日なんかにはこの広い庭で休むのもよさそうだ。
「先にいくね!」
「うん」
小学生ならではの大胆な行動か。
「ありがとね」
「ううん」
なんか気まずいな。
最初と違って衣都も変わってきてしまっているから会話が続かない。
もうこれは任せて帰るか……? このまま付いていっても邪魔にしかならないような……。
「ん……? な、なによ、そんな分かりやすく『私、不満があります』みたいな顔をして」
「……一葉さんは刀花さんがいればそれでいいんだよね」
「もしそれだけだったら尾行とかしないでしょ?」
違うところを見られてしまった。
んーこれを見るに全く興味がないわけではないみたいだ。
とはいえ、ここには乙葉もいるのに長時間離れたままなのは駄目だから二階にいくことにした。
まだ終わっていないからなと言わんばかりにこちらの腕を掴んできていた。
「なるほど、ゲームか」
「うん、あれが好きみたい」
あれは結構最近のゲーム機だ、もう一台あれば二人で楽しむ……みたいなこともできるはずだ。
ただ、家にはない、値段も高いとなると簡単に「買ってあげるわ」みたいにはできない。
あれか、それを母に向けても同じようになるから衣都に協力してもらっているのだ。
「色々な意味でありがと」
「最近はやりたいソフトとかもなかったからいいんだよ、ただ埃がかぶっていくよりは使ってもらえた方がゲーム機もありがたいと思うよ」
「え、これだけソフトが揃っているのにそんな気持ちになるの?」
大きな棚もソフトの箱で埋まっているぐらいなのに。
本とかなら分かるけど、ゲームはそれぞれにそれなりの内容が詰め込まれている物、やりこんでいけば一日程度では終わらないだろうからいくらでも遊べると言ってしまってもいいぐらいの量に見える。
「あはは……買ったらその日にクリアしたくなる性で……」
「もっと味わいつつやりなさいよ……」
「もっともだよ……」
まあでも、クリアしたらそれで満足という人もいるか。
「そこにいるのは分かっているよっ、バンッ――よしっ、私の勝ち!」
た、楽しそうね。
衣都の家にいって一時間程度遊ぶぐらいなら目にもそこまで悪影響ということはないだろう。
「二人きりのときもあるのよね? その間、衣都はなにをしているの?」
「読書かな」
「あんた、本を読むのも好きなのね」
「うん」
この様子なら少し離れても大丈夫か。
廊下に出てすぐのところの床に座る。
「刀花ばかりに偏らせないようにあんたも来なさい」
「……いいの?」
「当たり前でしょ? というか、あんたの方が先に友達になってくれたのよ? それなのにほとんど一緒にいられないっておかしいじゃない」
一人仕様から変えていかないとな。
「私、刀花さんとも仲良くなりたい」
「どんどんいって困らせるわよ」
「こ、困らせない程度にいきたいな」
大丈夫、その内刀花の方から衣都に何度も近づくようになる。
私はどちらとも一定の距離があってくれないと困るからそこでも見ているだけにしておけばいい。
友達として仲良くできれば十分だった。
「な、なあ」
課題のプリントから声の主に意識を向けてみると凄く困ったような顔をしていた。
ただ、なにを言いたいのかは分かるから待っていると「なんか最近は衣都がすぐに来るんだ」と予想通りの内容で。
「いいことじゃない」
「でも、何故かそのままくっついてくるんだ」
「嫌なの?」
「嫌じゃない、だけど……」
引っかかるなにかがあるらしい。
私みたいに勘違いしやすくてすぐに危うくなってしまうからだろうか?
もしそうなら気持ちは分かる、なにもないならくっついてきてほしくはないから。
「何故なら俺には乙葉ちゃんがいるからな!」
「十七ぐらいまで待つとなるとそのときにはもう私達は成人しているわけで、そうしたらそれはそれで問題になるわよね」
バレなければセーフ、とはならないだろう。
まあ? 家のふわふわ母なら「刀花ちゃんならいいかな」ぐらいは言いそうだけども。
「くっ、衣都はゲームを貸すことで乙葉ちゃんとの時間を自然と増やしているんだ……俺はどうしたら……」
「それなら肩車でもしてあげたらいいんじゃない? それか抱っことか」
「体重的には無理なことじゃないけど、そんなことでゲームに勝てるとは思わないんだけど……」
まだまだよしよししてもらいたかったり、抱き着いたりして相手の体温に触れていたっかりする子だから効果はあるはずだ。
なんならゲームをするときも運べる点を活かして足の上に座ってもらいながらやってもらえばいい。
「それならもう衣都に魅力で勝つしかないわね」
「……勝てると思うか?」
んー同じような性格、見た目というわけではないから結局は乙葉的にどうなのかが大事なわけで。
「乙葉が欲しいなら諦めずに頑張るべきね」
こちらは応援をするだけだった。
さて、そろそろのんびりするのもやめてご飯を作るために帰るか。
私達はそれなりに早くあの家に帰ってくることになるからすぐに食べてもらえるのが大きい。
「俺もいくぞっ」
とまあ、変なのも付いてきたけど一人分食材を多く消費することになっても母なら文句も言わないだろう。
私がご飯を作っている間は乙葉とわいわい――盛り上がっているのかどうかは乙葉の部屋にいってしまったから分からなかった。
この調子なら衣都に対してはっきり言わなければときがくると思う。
「ただいま」
「お母さんおかえり」
「今日も刀花ちゃんが来てくれているんだね」
「うん、乙葉のことが大好きなのよ」
あれ、何故か物凄く優しい顔で頭を撫でられているぞ……。
「それだと一葉ちゃんは寂しいよね」
「全くそんなことはないんだけど……」
「冗談……には見えないね」
「うん、乙葉が楽しそう、嬉しそうならそれでいいわ」
ご飯ができたから二人を呼びにいこう。
そうしたら二人仲良く床でぐーすかと寝息を立てていたから無理やり連れてきた。
作ったからにはすぐに食べてもらいたいから仕方がない。
「あーもうほら、こぼれているわよ」
「悪い……」
「乙葉を見習いなさいよまったく……」
乙葉はしっかり切り替えてもしゃもしゃ食べていた。
すぐに「おかわり!」と、うん、お腹も方も元気でいい。
「ふぅ……年上として止めなければいけなかったのに一緒になって寝てしまった。これで乙葉ちゃんが育たなくなったらどうするか……」
「えっ」
「こんな数時間程度で変わるわけがないでしょ? 乙葉も気にしないで食べて」
他所の家の小さな子に厳しくなんて中々できないし、仮に乙葉が義理の妹として家族に加わってもできない。
刀花が刀花だからこそだ、ただ、だからこそ気に入られる可能性が高いというのも本当のことで。
「刀花ちゃんぐらい大きくなれるといいね」
「うんっ、それでお姉ちゃんをお家まで運ぶんだ!」
「ふふ、それならお母さんも運んでね」
「任せて!」
はは、刀花が羨ましそうに乙葉を見ている。 で、こういうときにちゃんと気づいてあげられる子だった。
「刀花お姉ちゃんも運んであげるからね!」
「ふっ、そのときになったら俺は乙葉を貰うぞ」
「もらうって?」
「まあ、いまは分からないままでいい」
うーん、だからといって乙葉ガチ恋勢すぎてもね。
まず、そのときまで周りが乙葉を放っておくかどうかだろう。
これだけ可愛くて、優しくて、困っている子にすぐに「どうしたの?」と聞いてあげられるような子なら何人もの男の子が勘違いしてしまってもおかしくはない……って、刀花は確か乙葉から好きな子を教えてもらっていたような……?
「あんた、奪うつもりね?」
「ん?」
「まあ、いまは分からないままでいいわ」
家に帰って一人になったときに少し冷静になってくれればすぐにそこにたどり着く。
乙葉でもないのに「無理よ」みたいに言うのも違うし、乙葉といられて楽しいいまこのときだけは水を差さないようにしたのだった。
「なあ、この前のどういうことだ?」
あら……どうやら気づいてくれはしなかったようだ。
「ほら、乙葉には好きな子がいるのよね?」
「ああっ……って、俺がガチで乙葉ちゃんを貰うつもりでいると思っていたのか?」
「は? そのつもりもないのにあんなことを言っていたのならそれの方が問題じゃない」
「乙葉ちゃんだってそのつもりはないよ。はぁ、お姉ちゃんがこうだとはなあ」
は? なにちゃっかり攻撃してきているのか。
流石にむかついてお腹に攻撃を仕掛けたら「ぐべ!?」みたいな変な声を出していた。
「な、なんで俺は攻撃されたんだ……」
「知らないわ」
放課後なのをいいことに歩いてくることにした。
そうしたら途中のところで話している宮嶋先輩と瑛人が。
近づくのも違うから隠れつつも聞いてみることにした。
「最近、本田さんが刀花と仲良くしたがっているみたいでね」
「そうですか? 本田さんって栗林さんに興味を持っているように見えますけど」
いやいや、それはない。
「でも、その刀花が問題でね」
「刀花さんが問題?」
確かに、少し乙葉好きなところがあるだけで最近は暴れたりもしていないし、問題はないと思うけど。
「お、俺に問題がある……だと?」
「あ、出ていくのはなしね」
腕を掴んで止めておいた。
実は付いて来ていたなんてこの子に限って言えば普通のことだから気にならなかった。




