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274  作者: Nora_
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04

「おい一葉、乙葉ちゃんが来たぞ」

「きょろきょろしているわね」


 塾にいっているとかでもないのに高校生組より帰ってくるのが遅いから探そうとした結果がこれだった。

 すぐにこうして見つけることができたのはいいけど、そわそわ落ち着かない感じで気になる。

 急に刀花と出ていったことといい、最近は変わってきてしまっているのも確かなようだった。


「乙葉」

「お、お姉ちゃん!?」


 む、いつもなら「お姉ちゃん!」となるところなのにこの子ときたら……。


「そんなに驚いてどうしたの?」


 でも、一応は隠して対応することができる。

 この点は一人の時間が多かったからこそのことで、まあたまにはそういう時間も必要だということだ。


「乙葉ちゃん、お姉ちゃんの一葉に言いづらいならまずは俺に教えてくれないか?」

「……刀花お姉ちゃんならいいよ」


 うぐはあ!?

 ……好きな子ができればこんなものか。

 なんか立って待っているのも微妙になって玄関前の段差に座って待っていると「待たせたな」と。


「乙葉ちゃんは家の中に入ってゆっくり休んでくれ」

「う、うん」


 どれぐらい外にいたのかは分からないけど、なるべく外にいない方がいいのは本当のことだ。


「よっこらしょっと」

「なにか危ないことに巻き込まれたとかじゃなければそれでいいのよ」

「その点は大丈夫だ」

「はは、直接教えてもらえたあんたがそう言うなら安心できるわ」


 うん、想像が現実になって少しダメージを受けたものの、私自身はこういう存在を求めていたわけだから大丈夫だ。


「それより涼真のことだ、あいつ段々と本格的にやばくなってきていないか? 今日も虚空に向かってぼそぼそ呟きつつメモを取っていたぞ」

「最近まではなかったの?」

「ああ、なかった。……鬱陶しくはあったけど、来ないとそれはそれで気になるぐらいの存在だったのに……」


 自分の全てを気にせずに出していける存在ばかりではないだろう。

 とはいえ、あの人なら平気な顔をして「実は〇〇なんだ」と本来なら仲がいい人しか聞けないような情報を教えてくれそうな感じもするけど。


「あ、刀花が私達とばかり一緒にいるようになったからじゃない?」

「寂しいからってことか……? まあ、確かに『寂しいから相手をしてもらいたいんだ』とはよく言っていたな」

「はは、可愛い人じゃない」


 そう思っていてもみんながみんな真っすぐにぶつけられるわけではない。

 だから一緒に過ごす側としてはありがたいかも、出していってくれないと自分の考えが正しいのかどうかで悩むことになるし。


「仕方がないからいってやるか、一葉も来てくれ」

「あんたはよくこうして付き合ってくれているし、いいわよ」


 母もそろそろ帰ってくるから大丈夫だろう。

 それでもちゃんと説明してからいこうとしたら「私もいく!」といつもの明るさを見せてくれたのはいいけど、困ってしまった。


「刀花……もしかして乙葉は……」

「あ、涼真のことが好きとかないからな? そもそも会ったことがないだろ」

「あ、確かに……」

「はは、誰が相手でもそういう風に考えてしまうのは危険だな」


 いやこれは弟とか妹とかがいる存在なら分かってくれるはずだ。

 余計なお世話だとは分かっていても気になってしまう。


「こんにちは、お昼休みぶりだね」

「こんにちは」

「おや? 今日は本田さんよりも更に小さい子がいるね」


 別にいちいち衣都のことを出さなくても高校生と比べたら小さいに決まっている。


「乙葉、私の妹なんです」

「そっか。僕は宮嶋涼真、よろしくね」

「よ、よろしくお願いします!」


 お、今日は隠れなかったし、ちゃんと挨拶をすることもできている。

 こういうところがいいよなあ、でも、同性の二人に対して隠れるぐらいなのに宮嶋先輩にこうなのは不思議だ。


「はははっ、元気がいいね!」


 あれ、今日は凄く楽しそう。


「涼真、最近は変だぞ」

「そうかな? 僕はなにか変えているつもりはないけど」

「瑛人にだって引かれていたぞ」

「それは瑛人君が僕のことを知らなかっただけだよ」


 ただ、この前みたいなやり方は本当であってもよくないと思う。

 悪い意味で注目されてしまったらやりづらくなるだけだ。

 悪い意味であっても注目されたい、目立ちたいということなら……いやでも、自由にやってくれとは言えない件か。


「刀花お姉ちゃんおんぶして」

「ん? おう」


 分かる分かる……いやもうこれ刀花の方が姉に相応しいでしょ。

 沢山のお金を持っていたらちゃんと生活費なんかを払って刀花に任せているところだった。

 さあ、私は宮嶋先輩と二人で話をしてみよう。


「なにかないんですか?」

「ないかなあ、刀花はあれでいて友達も結構いるから一緒にいられないなんて普通だったからね。それより、栗林さんはなんか寂しそうな顔をしているね」

「……表に出しているつもりはなかったんですが……」

「妹さんが関わっていると残念ながら出てしまっているみたいだね」


 ぐっ、恥ずかしい。


「でも、刀花は妹さんばかりを優先しているわけじゃない、そうだよね?」


 今日も当たり前のように一緒に帰って、たまたま乙葉がまだいなかったから一緒に探すことになっただけなのだ。

 まあ、乙葉が最初から家にいたらそっちを優先していただろうけど、それまでは二人きりだったわけで……。


「……はい、あの子とはまだ関わり始めたばかりなのに私はもう……あの子といられないと嫌だと思っています」


 こんなのを本人に聞かれていたら大爆発どころの話ではない。

 でも、ここで必死に嘘をつこうとしたって内の自分に事実を突きつけられるだけだから意味がないのも分かっている。


「正直に言うと意外かな」

「一人でいる時間が多かった分、その差にやられてしまったんですよ」

「そうなんだ」


 ……刀花の話は興味があっても私の話とかどうでもいいでしょ……。

 なーにをやっているのか。


「すみません、宮嶋先輩の話に戻しましょう」

「僕的には刀花が友達と楽しそうでそれだけで嬉しいんだ」

「もしかしてそれで距離を……?」


 これはただ同じような状態になったら私ならそうするという考えからぶつけさせてもらっているだけだ。

 本人は既に「変えているつもりはない」と否定してくれている状態だから、うん。


「う、うーん、そんなつもりはなかったんだけど……そのように見えてしまっていたのかな?」

「この前みたいな行動をこれまではしていなかったとのことでしたので」

「ああ……やっぱりあれはやりすぎだったよね」


 ほっ……よかった、変な存在はいなかったらしい。


「ありがとう」

「え? あ、いえ、私も色々と聞いてもらいましたので……」

「うん、これからもよろしくね」


 宮嶋先輩が寂しがり屋というのは本当のことかもしれない。

 あとは年上でもそこまで変わらない存在ということがありがたかった。




「お姉ちゃん」

「乙――あだっ」


 机の下に落ちてしまったシャーペンを取ろうとしたときに来られたものだから……痛い。


「ど、どうしたの?」


 変と言えば乙葉の方が変だった。

 上手く対応できなければ終わる、それぐらいの気持ちでいなければならない。


「最近、一人で不安になっていたんだけど、もうだいじょうぶになったから来たんだ」

「不安だったの?」

「うん、だってお姉ちゃんを取られちゃうかと思ったから」


 似た者姉妹かっ。


「でも、刀花お姉ちゃんも衣都お姉ちゃんもちゃんと考えてくれているから安心できたんだ」

「その衣都はあんまり来ないけどね」

「昨日、お姉ちゃん達と過ごす前に会っていたんだ」


 えぇ、昨日なんかは「今日は用事があるからごめんね!」とか言って走っていったのに。

 つまり、乙葉と会うために離れていたと。


「お姉ちゃん抱っこして」

「だ、抱っこ……まあ、いいけど」


 お、おぅ、これは結構腕や体に……。

 それでも、まだこうして甘えてくれている内は大丈夫なのかもしれない。


「満足したっ、今日はお姉ちゃんのお部屋で寝る!」

「はは、分かったわ」

「あと、そろそろご飯を作れるようになりたい」


 そういえば一人で頑張ってくれている人に色々と任せすぎていたか。

 いまはもうなんでもネットで調べれば知ることができる時代、私も作れるようにならなければならない。


「じゃ、一緒にやりましょ」

「うん!」


 はあ……可愛くてしんどい。

 というか、あのまま刀花や衣都を気に入ってくれていた方がよかった。

 乙葉が可愛くて優しい子である分、変わるときがきたら今度こそやられる。

 宮嶋先輩にバレてしまうぐらいならそれこそあの二人にはバレバレだろうし……恥ずかし死することになりそうだからだ。

 できるのなら早い内に、これはなんに対してだって変わらないことだ。


「ただい――うわあ!?」


 いやもうこれは仕方がない、あと母だってこの気持ちは分かってくれるはずだ。


「ひ、一葉ちゃんがくっついてくるなんて珍しいね?」

「……乙葉がどこかにいったらどうしよう」

「え、乙葉ちゃんどこかにいっちゃうの?」


 ちゃんと説明してみたら物凄く優しい顔になって「それは仕方がないことだよ」と言われたうえに頭を撫でられてしまった。


「あっ、お母さん私にもして!」

「ははは、よしよし」

「ありがとう!」


 ま、まあ、既に物凄く恥ずかしいところを見せてしまったからなんとかなるか、流石にこれを超える恥ずかしさにはならないだろうと切り替えることができた。


「おふろ気持ちよかった!」

「そうね」


 乙葉の髪はどんどんと伸びている、ついでに身長……もきっと伸びているはずだ。

 あまり効果がないとかなんとか聞いたことがあっても単に美味しいという理由で牛乳を温めて二人で飲むことにした。


「お姉ちゃんぐらいになったときにはここ……大きくなっていてほしい」

「んー……」


 母もサイズがこう……ね、だから難しいのかなと。

 大きくなってほしい乙葉には悪いものの、巨乳すぎても周りにじろじろ見られそうだから悲しくならないぐらいで抑えてほしいところだった。


「あとはお姉ちゃんぐらい大きくなりたい」

「それはいけるでしょ、なんなら超すかもしれないわ」

「そうしたら私がお姉ちゃんをお家まで運ぶ!」

「疲れたときは頼りたいからお願いね」


 乙葉が十歳で私はもう十七歳だから乙葉が十七歳になったときには二十四歳か。

 二十四歳の私はなにをしているのか、そのときになってもまだ刀花や衣都といられているのだろうか。

 私だけが特別な存在を見つけられていない、なんてことになりそうだった。




「瑛人」

「はい、刀花さんなら意外と家にいてくれています。話しかけても嫌そうな顔はしませんし、こっちのことを考えて動いてくれます」

「あの子、口では色々と言っていても大人なのよね」


 いまは衣都と一緒にいるはずだ。

 二人きりのときにどう過ごすのかは分からないけど、どうせすぐに「どうしたい?」とか「任せろ」みたいにぶつけて相手を安心させているはずだ。


「ただ、父さんとはまだまだぎこちないですね」

「お母さんとはどう?」

「刀花さんのお母さん――いまは僕のお母さんでもありますけど、あの人はまんま刀花さんが大人になった感じです」

「じゃあ、優しいのね」

「はい」


 お礼を言って床に座る。

 彼は「汚れてしまいますよ」と言いつつも隣に座ってくれた。


「栗林さんのお母さんは凄く明るい方だと刀花さんから聞きました」

「そうね、あの頃以外はずっとそうよ」


 緊張している相手でも三十分もしない内になんとかできてしまう力がある。

 ただ、意識して相手に〇〇してもらおうとは考えていないと思う。

 もうそこにいるだけでいい影響を与えてしまう存在というのはいるのだ。

 その逆もいるから自分がそちら側でないか不安になるときはあるのだ……。


「今度、問題がなければ会ってみたいですね」

「それなら刀花と一緒に来ればいいわ」

「その方が栗林さんも安心できますよね」

「え、なにか変な勘違いをしていない? 別にあんたが単独で来たってなにも問題ないのよ?」


 男性恐怖症というわけでもないし、全く知らない男の子というわけでもない。

 しつこく何度も家にいきたいとぶつけてきているわけでもない、だから彼なら大丈夫。


「いえ、それは栗林さんと栗林さんのお母さんに悪いので刀花さんに頼んで付いて来てもらいます」

「まあ、そうしたいならそれでいいけどさ」


 あれか、それこそ私に変な勘違いをされたくないからか。

 刀花なら頼めばすぐに来てくれるだろう。


「おい」

「おっと、刀花さんにバレてしまいましたね。それではこれで」

「ありがとね」

「はい」


 衣都と過ごした割には怖い顔をしている。

 とりあえずは横に座るように誘ってみるとどかっと――は言いすぎとしても音が鳴っていそうなぐらいの勢いで座った。


「瑛人となにをしていたんだ」

「少し話し合いをね」

「なんの話し合いだ」

「はは、やけに気にするじゃない」

「一葉、俺は真面目に言っているんだ」


 そう言われてもねえ。

「あんたの話をしていたのよーあんたのことを聞いていたのよー」なんて言えるわけがない、悪い意味でではないとしてもだ。

 いや、プラス方向でのことなら私がただただ恥ずかしくなるだけで終わってしまうから駄目だ。

 ちなみに、しつこく聞かれた場合は瑛人にちゃんと答えるように頼んである。

 だってあの子は巻き込まれただけだ、このことで疲れさせてしまうのは悪い先輩でしかないからそこは仕方がない。


「答えないなら毎日泊まるぞ」

「別にいいんじゃない?」

「あ、あれ」

「お母さんも『刀花ちゃんをまた連れてきてほしいんだ』と頼んできているぐらいだしね」


 だからあとは刀花がそうしたいかどうかでしかった。


「あとはほら、乙葉よ」

「……一葉は?」

「まあ、あんたがいるといいかもね」


 いやこれは実際、本当のことだった。

 ご飯を作るようになってからどれぐらい食材を使うのかも私次第となったし、お客さんである彼女が来ればそこまで気にする必要もなくなる。

 ただ一番の理由はお客さん目線の味の評価が欲しかったからだった。

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