10
「はい――あ、宮嶋先輩」
「こんにちは。突然で悪いんだけど瑛人君はここに来ていないかな?」
「来ていませんね」
「そっか。んー上がらせてもらってもいい?」
「別にいいですよ?」
まあ、お茶ぐらいは出そう。
宮嶋先輩はそれを受け取って少し飲んでから凄く真面目な顔になった。
瑛人がいないのか、だったら衣都と出かけていると思うけどね。
「あ、出てこないと」
今日は来訪者が多い日みたいだ。
「はい――あ、衣都」
「一葉さん、瑛人君ここに来ていたりしない?」
「うん、来ていないわね」
「そっか、じゃあ上がらせてもらうね」
は、はあ。
そんなに瑛人を探したいなら二人で探せばいいのでは……。
「あれ、宮嶋先輩も来ていたんですね」
「うん、本田さんと同じで瑛人君を探していたんだ」
「「どこにいったんだろう」」
この二人といないなら刀花といるはずだ。
だから刀花に連絡をしてみる、するといまはこちらに向かっている状態で一人ということだった。
「はいはーい」
「こんにちは」
「上がって」
「は、はい」
よかった、これで探すのに付き合わなくて済んだ。
それからすぐに刀花もやって来て、久しぶりに全員で集まることになった。
「なんか揃っているな」
「こういうの久しぶりじゃない?」
「確かに、最近はそれぞれ別々に過ごしていたからな」
「僕だけ仲間外れだよ、うぅ……」
「笑顔で言われても微妙だな……」
もう目的の人物と会えたのに出ていこうとしないのは休みモードに入ってしまったからだろうか。
「連絡しても全く反応してくれないから困っちゃったよ瑛人君、嫌われちゃったのかと思ったんだから……」
「すみません、スマホを家に忘れてしまいまして」
充電がないとかいまも言ったように忘れるとか、たまにあることだから特になにも言わない。
そんなことよりも衣都がぐいぐいと距離を詰めていることの方が気になる。
私と刀花だってあんな距離では長くいられないというのに。
「それで瑛人君はどこにいっていたの?」
「公園ですね、少し走っていたんです」
「そこからどうして一葉の家にいこうとなったんだ?」
「なんとなく……ですかね、勘です」
思い付きで行動したみた結果、上手くいくときもあるからこの点についてもそれでよかった。
「じゃ、涼真も衣都も本命と会えたんだから帰れよな」
「「えぇ」」
「これから俺達はイチャイチャする予定なんだよ」
「「はは、ごゆっくり」」
いや、私達が今日集まろうとしていた理由は課題をやらなければならないからだ。
それが終わったら掃除をするつもりだ、だからイチャイチャする時間なんてやってこない。
「栗林さんありがとうございました」
「いいのよ」
「それでは」
三人がまとめて出ていって静かな時間となった。
乙葉は今日、友達に誘われていていまはいない、母も仕事があるから完全に二人きりだ。
「やるか」
「そうね」
でも、彼女は課題をやるつもりではなかったらしい。
「課題をやるという約束は?」
「まだ時間があるから大丈夫だ」
こう……抱きしめるにしてもなんでいちいち後ろからなのか。
まあ、自由にやらせておけばいいか。
こちらは最初に決めていた通り、そのままの状態でもできるから課題をやればいい。
「酷いな」
温かいのいいなあ。
休みの日は部屋にこもっていることが多いからエアコンを使用していないため大きく働く。
これをずっとしてくれていれば特に好きではない勉強だって二時間ぐらいはできそうだ。
「ちょっ」
「なんだ?」
いやなにその変態みたいなやり方は……。
私が思ったような反応をしなくてつまらないのだとしても首に……はやめてもらいたい。
「誰かさんのせいでまだキスもできていないからな」
「そういうのは簡単にすることじゃないでしょ」
少なくとも相手が課題に励んでいるときにすることではない。
「じゃあ、一回だけでいいから本気で受け入れてくれよ」
「落ち着きなさい」
「だってよぉ……」
やめさせて顔を見てみたら凄く不安そうな顔をしていた。
流石に自分のせいでこうなっているということは分かったため、正面から抱きしめておく。
「私は他ばかりを優先しているわけじゃないわよね」
「……それはそうだな、乙葉ちゃんがいるときもちゃんと優先してくれている」
「別にあんたが求めてきたからだけじゃないのよ? そうでもなければ他とあんたで態度を変えていたりはしないわ」
サービス精神で頭も撫でておく。
いつも男の子みたいな話し方をしているくせにこういうところはしっかりしているからその差が面白い。
「悪かった、焦りすぎた」
「ゆっくりやっていきましょ」
「でも、くっついていていいか?」
「いいわよ」
脱線しないためにも彼女がくっついているのはいい。
飽きずにそうしていてもらいたいところだった。
「あのね、瑛人君が受け入れてくれたの」
「よかったじゃない、おめでとう」
そこまで多くない休みの日を使って彼女は来てくれた。
もう冬休みも終わろうとしているところだった。
「はは、ありがとう。今更だけど一葉ちゃんもおめでとう」
「刀花はすぐに拗ねるけどね」
「瑛人君は……いつでも余裕がたっぷりでうわーって叫びたくなるときが多いよ」
「想像できるわね」
新しい年になってからはそんなことも増えたかな。
「友達になってほしいって言ってくれて私、嬉しかった」
「もう少しぐらい一緒にいられたらよかったんだけど……」
頼んだ側としては正直……微妙だ。
何故なら刀花とばかりいてしまったから、相手をしてくれる瑛人がそういう意味でもよく見えてしまってもなんらおかしくはない。
「でも、刀花さんみたいな頻度で一葉さんといたらこうはなっていなかったからね」
「はは、それもそうね」
少しぐらいなら惚気話をしてくれてもよかった、が、彼女はそうせずに刀花との話を聞いてきただけだった。
「次の人生では一葉さんと付き合いたい」
「じゃ、また話しかけてきてよ」
「うん」
なんて、人間として生まれられるかどうかも分からないけど。
鍵冨家まで送るついでにすぐに拗ねちゃう子を連れてくることにした。
「ちょ、ちゃんと歩きなさいよ」
「……知らない」
それこそ過度に構われると嫌になってしまいそうな子なのに意外だ。
すぐに足を止めるから近くにあった自動販売機で飲み物を買ってきた。
とにかくよく冷えるから手ぐらいは温めたい。
「まさか衣都と会っていたなんてな」
「え、あんたには送ったでしょ?」
「いや――ほら、なにもきていないぞ」
あれ……? あ、そういえば書き込んでいる最中に母に呼ばれて勢いで……うん。
「ごめん、別になにかやましいことがあったからとかじゃないのよ」
「変なことをしていないだろうな?」
「していないわよ、そもそもあの子はもう瑛人の彼女よ」
「そうか、ならいい」
面倒くさい男の子か!
「ほら、いきましょ?」
「……いく、どうせ帰ってもイチャイチャしている二人を見ることになるだけだからな」
ほっ、よかった。
今日は天使もいてくれているからすぐに機嫌も直るだろう。
「ただ――ぶふぉ!?」
「お姉ちゃんおかえり!」
「た、ただいま……」
最近は限界突破していて毎日私にダメージを残してくれている。
でも、それと同じぐらい癒やしてくれているのもあるので強く言うつもりはない。
「なんだ、刀花お姉ちゃんもいるんだ」
「ゆ、許してくれ」
「仕方がないから許してあげるっ、だけど膝の上に座らせてね」
「おう」
それも甘える内の一つに入るか、だけど流石に私がやると重たいだけなので他の甘え方を考えよう。
うん、足を貸すことが多いから貸してもらうぐらいがいいかな。
「刀花お姉ちゃんって五年生のときはどうだった?」
「俺が五年生のときは構ってくる涼真がうざったくて違うところにばかりいっていたな。親に怒られても、仲良くしなさいと言われても聞いたりはしなかった」
どうせこれは必要以上に悪く言っているだけだろう。
いまみたいに口ではこんなことを言いながらも普通に付き合っていたに決まっている。
彼女とはそういう子だ、結局は過剰に冷たくなんてできないのだ。
というか、そんなことができてしまえる子なら私は好きになってはいないという話だった。
「でも、あの男の人とはいまでもいっしょにいるよね」
「ああ、涼真も離れれば離れるだけ頑張ってきてな」
「なんであの人を好きにならなかったの?」
お、今回ばかりは「実は……」と本当のところを聞くことができそうだ。
だから期待して待っていると「やっぱり男として見られなくてなっ、涼真はお兄ちゃんみたいな存在なんだ!」と求めていない答えで少しガッカリした。
勝手に期待しておいて勝手にガッカリするのは勝手だけど、なにかがあってほしかった。
「いまからでもおそくないよ、刀花お姉ちゃんは他の子を好きになってほしい」
「いや、乙葉ちゃんに冷たくされようと俺は一葉が好きだ、他の人間にはやりたくないぐらいにはな」
あれって自然とそうなってしまうのかな。
内容に伴っている顔というか、いつも通りの格好いい顔だ。
難しい顔をしていた乙葉も親指を立てて「合格!」と、こちらもいい笑顔だった。
「さてと、私はもう大人だから空気を読んでお部屋に戻ります」
「はは、また後でいくよ」
「うん、お姉ちゃんといっしょに来てね」
あらら、こういう成長の仕方は少し寂しいかも。
「刀花がうずうずして表に出すからこんなことになるのよ」
「急につめた!?」
「そりゃ冬だからね、多少は冷たくもなるでしょ」
こんなことになるぐらいなら彼女の部屋に突撃した方がマシだったか。
乙葉は家でゆっくり休んでいるだけなのに私達がいるせいでリビングは禁止にされているようなものだ。
「おい、いいのか? あんまりに自由にやるようなら俺も自由にやらせてもらわなきゃいけなくなるんだけど」
「はは、なにがしたいの?」
「それはキスだ!」
ここでヘタるような彼女ではないということか。
それでキスだって? んー経験はないとしてもこれから延々に言われ続けるのはアレだし、キスを受け入れなかったばかりに去られても困るからしてしまうか。
なにも気に入っているのは彼女だけではないということだ。
「刀花」
「今回は躱そうとしても無駄――ん!?」
あれだな、してみて分かったことは意外と好きな顔が近すぎてまともに見られないから私はいつもの距離感の方がいい。
「ま、こんな感じね」
「ま、まさか一葉からなんてな……」
「あんたにばかりやらせるのも違うと思ってね」
いまはどこかにいかれたくないという理由からだけど、これがいつかはそうしたいからに変わっていくのだろうか。
そんな私か……もしそのときがきたらいま以上に彼女にやられているだろうからおかしくすら感じないかもしれない。
「とにかく、こうして受け入れてあげたんだから拗ねるのはやめて、どこかにいくのはやめて」
「お、はは、結構気に入っているってことか」
「そんなの当たり前でしょ、私は告白をされたからという理由だけで受け入れたりしないわ」
「そ、そうか」
普段積極的な彼女でもこうして押してやれば勝てる。
とはいえ、二つの意味で彼女相手に常に勝とうとしていたって仕方がないだろう。
「刀花のこと好きよ」
「……じ、地味に初めてじゃね?」
「確かにそうかも――で、これで少しは安心できた?」
「いや、襲いたくなった」
「なにそれ……」
これがあれか、可愛い子を見つけたときの男の子みたいな顔というやつか。
まあ、落ち着くためのキス以外にも色々とあるというやつか。
でも、流石にこれはそのままにはしておけない、だから珍しく買ってあったお菓子でも突っ込んでおくことにした。
「もがっ!?」
「ふふ、その調子よ」
おお、どんどん入る。
そういうのもあってついつい食べさせていると「あー!」と乙葉が戻ってきた。
「そのおかし私が食べたかったのに!」
「はい」
「全部食べたかったの!」
いや、欲張ったら駄目だ。
大体は後悔して、見つめながら「少し食べるぐらいがよかったな……」となるものだ。
「刀花お姉ちゃん返して!」
「ぶふぉ!?」
「待って待って、そろそろやばいから」
「もうっ、なんてね!」
……悪いところばかり似ていないといいけどね。
「ははは……一葉に似ているな」
「お姉ちゃんににているならうれしい!」
「これからもよろしくな」
「よろしく!」
上手くコントロールできないときには乙葉を頼ろう。
そうすればみんなで仲良くできる、また常に拗ねられることもない。
なので、乙葉まで頑張ってくれた母にはそういう意味でも感謝の気持ちでいっぱいだった。




