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episode17【暖かな場所】

「ひぃ・・・ひぃ・・・」


疲れた訳でもないのに

息が上がる。


滝のような汗が流れる。


「大丈夫そうです?」


「は、はいぃ・・・」


あんな急降下と急上昇、


乗せて運ばれるだけで

寿命が縮んだ気がしていた。


「ふうー・・・こ、子供達の家?」


一息ついたレーガンの目に飛び込んできたのは、


門の横に

そんな名前が刻まれた

大きな施設だ。


「学校・・・みたい・・・」


「廃校を買い取って、改築しただけだから

 まあ、ほぼ学校だよ」


廃校だったとは言うものの、

今、そんな面影はどこにもない。


旧い感じはあるが、

それは寂れているからでもなく、

ボロボロになっているからでもない。


それが、少し昔を思わせるような

赤黒いレンガ造りの建物だからだ。


門の前に立っているが、

この敷地を取り囲む壁は、

その端がここから見えないほど遠くにあるようで、


赤レンガの建物も一つや二つではない。


遠くの方にもいくつかあるのが見て取れる。


全て三階、四階建ての

どこか城を思わせるような凸型の建物


歴史を感じさせるたたずまいのそれらに


レーガンはいつの間にか

目を奪われ、体の辛さも忘れてしまっていたらしい。


「・・・久しぶりだな」


男のそんな声に


「ひゃあ!」


大層驚いて、腰を抜かしかけてしまうほど

レーガンは気が抜けていたようだ。


「だ、大丈夫です?!」


「あ、はい、すいません・・・」


咄嗟にエマが体を支えたので、

どうにか立っていられたが、


やはり、さっきの上下もそうだが、

何より、この晩は一睡もしていないし、

あんなこともあったのだ、彼女の体力も精神も十分にすり減っていたらしい。


「・・・なんか悪いな、こっちも」


あまりの驚きぶりに

その声の主もどこか申し訳なさそうだ。


「い、いえ!こちらこそすいません・・・えっと」


レーガンが顔を声の主へと向ける。


それは、

いつの間にか、

彼女らの数メートル横に立っていた

男だった。


見た目は、二十代前半くらいだろうか、


明るい水色の髪、水色の目

背丈は、180cmの後半


長袖の白いシャツに、深い青のジャケット、

黒いズボンを履き、靴は履き潰されたスニーカー


ラフな格好をした、

少し体格のいい、何処にでもいそうな好青年だ。


髪の色は多少目立つかもしれないが、

今どき、こんな髪色にしていても、

そこまで拒絶されることはないだろう。


第一、彼の前にいる、

髪色が、白と黒がだいたい半々ぐらいで混じっているという

とんでもない奇抜な奴が目の前にいるのだから


それに比べれば、全部水色なんて

むしろ、そういう体質なのかなと思われるぐらいには

自然である。


「久しぶり・・・だっけ」


「1ヶ月丸々来てなかっただろ?

 皆、寂しがってたぞ」


口調は少し荒く、雑な感じもするが

目や声には、どこか温かみがある。


「いやあ、ごめんね

 今帰ったから許してよ」


「それは皆に言ってくれ」


「わかった。

 それでさ、急で悪いで悪いんだけど」


そう言うと、

エマはレーガンの肩に手を置き、


「まず、紹介するね

 こちら、ハンナ・レーガンさん

 ウチが今、独占取材中の学者さん」


彼女を紹介した。


「は、はい、ハンナ・レーガンです。よろしくお願いします。」


「・・・アダムです。よろしくお願いします。」


警戒しているとか

そう言うわけではなく、

単純に緊張しているようで、

2人ともぎこちない掛け合いで、

挨拶を済ませた後、


エマが言葉を続けていく。


「それでさ、

 本当に、悪いんだけど

 何泊かさせてくれない?

 会社が大変なことになっちゃって」


彼女は片手を前に出し、

申し訳なさそうな顔をしながら。

それに軽く頭を下げた。


「・・・アンタの院なんだから

 自由に泊ってけよ、別に居候に許可取る必要もないだろ」


それに対し、アダムは投げやりな言い方だが、そう言った。

投げつけたものは、どこか柔らかくて、暖かい。


「居候なんて・・・アダムはみんなのお兄ちゃんでしょ?」


「お兄ちゃんなんて歳かよ。もう爺だ。」


「そこはお互い様だよ」


二人の付き合いは

それなりに深いものらしかった。


少なくとも、レーガンにはそう思えた。

彼女が受けた印象では、数年、十数年単位の関係に思えたようだ。


少なくとも、エマと昨日会ったばかりのレーガンが

割り込めるものではない。


「・・・・・・・」


そうやって、

どうしていようかと

レーガンが少し居心地が悪そうにし始めた頃、


「あ、ごめんなさい、

 まあ、じゃあ、お言葉に甘えて、

 お部屋使わせてもらおうかな」


エマはレーガンを見て、

そう切り出し、


「どうぞ」


アダムは閉じた門を

慣れた手つきであけて、

2人を先に通らせた。


目の前に広がるのは

一面、緑の大きな庭


前は校庭だったのだろう。


背の低い緑が

見渡す限りを覆い、

その緑を子供たちが踏みしめていた。


ざっと見渡すだけで十数人


10歳にも満たないような幼い子も居れば、

もう大人と変わらない風体の子もいる。


そんな子供らが、

年齢に関係なく、同じ目線で、

笑い合い、走り回り、遊んでいた。


そんなところへ、

門の鈍い金属音が辺りに響き渡る。


当然、何人かの視線は

三人の方を向き、


まず、

「おかえりー、アダム兄・・・あ!園長先生!!」


近くに居た男の子が

真っ先にそう叫んだ。


それに続いて、

「あ、ほんとだ!園長だ!」「えんちょー」「最近来てなかったの何で?」


そんな具合に、

口々に喋りながら童たちが、

エマの方へと近寄ってくる。


気づけば、

庭にいた全員が、エマを取り囲み、

思い思いに話しかけていた。


「ごめんな、ちょっと最近仕事が忙しくてさー」


あっという間に子供に取り囲まれたエマは、

彼らと目線を合わせるため、しゃがみ込み、

優しく微笑みながら、皆と語らい始めてしまう。


「・・人気ですね」

「まあ、皆の・・・お母さん?おばあちゃん?みたいなもんだからな」


ぽつんと残された二人


目の前に皆が居るのに、

二人がいる場所から、

彼ら、彼女らが今いる場所は何だか

とても遠いような気さえする。


あの無邪気な笑顔を見ると、

特にレーガンは


「・・・・・」


何だか居たたまれなくなって

身体がそわそわと動きだそうとし始めた。


あんなところ、

いつか見たような


「・・・・レーガンさん?であってる?」


「・・・あ、はい、そうです。」


「・・・部屋、俺が案内するから、ついてきてくれ」


「わかりました。」


アダムに続いて、施設へ歩く中、

時々、後ろを振り返って、それを見る。


暖かな世界を。


そんな光景を最近、どこかで見た気がして

つい何度も、振り返ってしまった。


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