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episode15【凍えそう】

朝日が昇り、仄かな明かりが世界を包む頃、


日が、崩れた壁から差し込み、社内を照らす。


民の守り人

その社内、


そこは、

昨日まで誰かがデスクワークをやっていた場所であったとは

とても思えない有様で、


そこに人がいることも


崩れた場所で、わざわざ椅子を立て、

律儀に座っていることも


何だか滑稽に思えるほどであった。


「・・・はぁ・・・・」


座った椅子でため息を漏らしたのは、

白黒髪の社長、エマ


そして、

その前には、


「それで、戦闘を行ったと?」


数人の男が立っていた。


「・・・すいません。」


「通報では、魔法を使って戦闘をなさったとか?」


彼らは迷惑そうな顔で

矢継ぎ早に質問を重ねる。


黒く、分厚い上着を着た彼らの胸には金色の大きなバッジが一つ


剣と銃が交差するその紋章が意味するのは

彼らが騎士であると言う事


騎士というものが、

国に雇われ、国が指示した通りに

武力や権力を行使する存在、


つまり、ただの公務員になってから

数十年が経っていた。


昔のような

個人の道徳性や精神性、騎士道精神みたいなものは

鳴りを潜め、


ただの組織人として

彼らは動く。


彼らが、エマを質問で詰めているのは、そういう訳だ。


「・・・・はい、すいません。」


彼女は今、


突然、街中で、下手をすれば、

一つの街ぐらいならば、崩壊しかねない威力の魔法や攻撃を行った不審人物の管理者であり、当事者でもある、


「た、ただ、こっちからやったんじゃなくて

 あっちから仕掛けてきたと言いますか、

 殴りこみかけられて、会社ボロボロになって

 僕も結構、迷惑してるっていうか」


そう弁明したところで

表面上は


「承知いたしました。

 ちゃんと上には事情も伝えますので、

 もう少し続けさせていただきますね」


きちんと丁寧な言葉で

応対してくれるが


目の前にいる

ガタイの良い、中年の男の目からは

放たれる冷たさに凍えそうになる。



「・・・・・・」


青い髪、藍色の暗い目、黒の服


それらに似合う冷たさに、

決まりの冷たさに、エマはやられていた。


(やばいー、いやでも、流石に実刑とかはないでしょ、

 流石に、いやーいやー)


「それでですね

 一体、どういった魔法を使用されたか

 具体的に教えて頂いても」



正当防衛だろうが

魔法を使って、公共設備を破壊した時点で


こちらにも何かしらの処罰が下る。



それをどうにか回避しようと


「あはは、ええとですねー・・・・」


どうにか言葉を重ねるが、


役人は表情を変えず、

ただ記録を取るだけ


何を喋れば正解になるのか

印象が良いのか、教えてくれない。


(この人こわいよー

 た、助けて―誰か―・・・・はぁ・・・・・)


助けを求める人はいない、

彼女はもう誰かを助けなければいけない側だ。


これで、彼女は損を被ることが確定しているのに、

自分でその説明をしなくてはならない。


そんな、気が滅入りそうな時間を

エマは過ごしていた。


一方、

そうやってエマが2人から聞いた話を元に

騎士たちにどうにか事情を説明する間、


他の三人は、

会社の隅で缶を開いていた。


「無事でよかったです~」


髪の乱れも、多少の汚れも、

何も気に留めず、


アリソンが缶を素手でこじ開け、

中身をフォークで刺し、丁寧に食べていく。


「・・・・」


アリソンの食べ方に

驚きを隠せないレーガン



「ニコ、レーガンの開けてあげて?」



「わかった」


ニコが魔法で

缶の蓋を綺麗に取り払っても


「あ、ありがとうございます・・・・」


生返事が返ってくるばかりだった。


「・・・・」


静寂の中、

この荒れ果てた床の上で

缶詰を頬張る二人と


ちびちびと口に運ぶ一人


「・・・ご、ごめんなさい」


その一人が

突然、そうやって、口を開いた。


「・・・別にレーガンのせいじゃないよ?」


まるで友達と話しているみたいに

アリソンはそうやって返す。


もう誰も、それに違和感や疑問を覚えたりしない。


「で、でも」


「ウチはああいうのたまにあるから

 この会社もこれで三件目だし」


そう言って、笑顔で励ますアリソン


「あ、そ、そうなんですね・・・・」


励まされていると言うよりも

その境遇の方が気になって仕方がないと言った様子だが


「僕たちも慣れているので、

 あまり気にする必要はないですよ」


ニコも同じ慰め方をしてくる。


「い、いや、気には・・・しますよ」


そう言われたって、

気になるものは気になるものだ。


「ど、どう考えたって、私があの件持ってきたから」


誰だってそう考える。


国家の機密事項を新聞社に告発したその晩に

その新聞社が襲われた、


もしそんなことがあったら

その告発をしたのが、自分だったら


会社がこうなったのは

告発のせいだろうと

誰だって思う。


「そうかもしれませんし、

 違うかもしれません。


 まだあの人たちに話を聞けてないので」


しかし、少なくともニコはそう考えていないようだ。


「・・・・」


彼が見た方には、


時折、紫色に光る線が浮かぶ鎖に縛られ、

会社の中で寝かされている、


襲撃犯の浮浪者たち


うち、1人は顔面がぐしゃぐしゃだ。


「僕らは何もわかってません。

 何の情報もないのに、憶測だけで決めつけるべきではないです。


 それに

 僕らは社長の言う事、

 社長の方針に従います。

 

 そして、その社長が、総督からの指金ではないと

 あの食事の場では考え、それを表明した以上

 

 今の所、それは他の可能性と同程度と考えるのが

 僕の方針です。」



「そうそう、大丈夫!気にしないで?」


喋る速さが違いすぎて

耳が変になりそうだが


とりあえず

二人は、レーガンに

あまり気にしないで


と言っているのは変わらないようだ。


「わ、わかりました。ありがとうございます・・・・」


それで一先ず

レーガンは納得した。


ただ、同時に気になった。


「い、一応聞きますけど」


「はい」


「ここ、普通に総督の政策、こき下ろしてましたよね?」


それで有名だから

彼女はここに来たのだ。


独裁者が支配するこの国において

唯一、独裁者の政策を何度かこき下ろしたことがある新聞社


それが跳ねすぎて

そういう記事以外を書くと、

あまり売れない新聞社


それが

民の守り人


大層な名前を付けた割には

購買層は、反体制派の本当に危ない奴か、日々の鬱憤が募る労働者


それと、一部の教養のある人たち


大半は労働者が

憂さ晴らしに読むものの一つと成り果てている。


しかも、彼らからは

当たり外れが酷いなんて

呼ばれてしまう


そんな新聞社が彼らである、


レーガンはそんな認識だった。


「ええ」


しかし、即答された。


「・・・・そ、それとこれはとは完全に別なんですね

 ほ、本当にちゃんとしてらっしゃる。」


正直、彼女はここに来るまで

どうにか総督にケチを付けようと躍起になっている

人たちばかりがいるものだと考えていた。


実際は違うらしい。


「仕事に私情は挟まないのは、

 特に、僕らみたいな仕事をやる上で重要だと

 社長から教わりました。」


後ろでアリソンも大きく首を縦に振って頷いていた。


本当にわかっているのか、

それは少し怪しいが


「で、でも今回の件、

 絶対、関りはある気がするんですけど」


「僕らも社長がそう考えれば、

 それを第一候補として考えます。

 ただ、今、聞ける状態ではないので」



「そ、そうですね・・・・大変そうだなあ・・・・あっち・・・」


社長は今、

社長とは思えないほど、戦いで出た汗とは全く違う汗をかきながら

肝を冷やし、体を縮こまらせながら

怯えていた。


威厳はない。


ただ、

決まりの上で生きる人として


決まりの制裁に怯えること


それは

正しい姿なのだろう。


その姿は

色んな意味で、


庶民らしさに溢れていた。


「ほ、本当にすいません・・・」


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