episode13【起死回生】
エマに振りかざされたツヴァイの刃
その顔面を引き裂こうと迫るナイフが突き刺さったのは
彼女の顔
「っ!!」
ではなく、
彼女の手の平であった。
(やっぱり・・・・・強い!)
抵抗力を強めても、
ナイフのように生身でじかに触れていられる武器であれば、
ある程度、伝導率は落ちるとしても
抵抗力は乗り、その強さは使い手に左右される。
「ぐぐぐぐぐぐ!!!!
じゃま!!!!!!!!」
「いっ!」
つまり、この一撃は
今、彼女が出せる抵抗力では防ぎようがないということ、
それが頭に刺さるより、
今のように手の平に刺さった方が、はるかにマシだが、
致命傷じゃないだけで、痛いものは痛い。
辛いものは辛い。
それはどれだけ
戦おうが変わりはしない。
鋭い痛みが手の平から全身を這いまわり、
体は危険信号を発し続けている。
「じゃまあああああ」
顔を裂きたいのに
掌が邪魔
それに苛立ったツヴァイは
力を強めて、ぐりぐりとそのナイフを動かして来る。
「・・・!!」
苦痛で顔が歪む。
しかし、同時に彼女はわかっていた。
今の痛さで引いたら、将来後悔する。
今の一瞬の痛さに負けて、顔を引き裂かれたら
二度と立ち上がれないかもしれない。
だったら、動くしかない。
動け
動け
(動け!!)
力を込めて、
エマは腹部を貫いていた腕を引き抜く。
そして、拳を握りしめ、
「がぁ!!!!」
気合の乗った拳が、ツヴァイの顔面を殴りつけた。
純粋な殴打が、右拳が、
その手にツヴァイを捉え、
一瞬、直に頬の感触すら感じ取れてしまうほど
それは確実に
ツヴァイを打った。
「ぶっ!」
恐らく、人類ならば
顔が原型をとどめていられないほどの衝撃を浴びたツヴァイ
社の一階の壁を突き破り、
大広間から別の部屋へと
殴り飛ばされてしまう。
「・・・・・・・・」
ゆっくりと
自分の拳に目を落とすエマ
ナイフで貫かれた方ではない。
殴った方の手
その血に濡れた手の
頬に触れた感触
それが拭えず、
彼女は顔をゆがめていた。
(・・・やるしかない)
決意を新たに
ツヴァイへと向き直るも
彼女は既に
そこに立っていて、
「おばさん!しつこい!」
そう叫ぶぐらいには
元気だった。
砕けた顔面を
粘土でもこねるように、
手で変形させ、元の形へと戻しながら、
貫かれた腹は
足から肉を移し、足りなくなったところは地面を吸収して、
己に組み替えながら
彼女はそこにいた。
彼女もまた
敵意を新たに
より明確な
「しんで!!!もうかえりたい!!!!」
怒りを持って
「帰りたいなら、どうぞ帰って欲しんだけど・・・・」
「しんで!!!」
そう叫ぶのと同時に
ツヴァイの身体が変化する。
露出の多い服を着ていた彼女だが、
その露していた部分の肌が蠢きだす。
海が波打つように
ゆらりゆらりと揺らめいて
そこから幾本もの
肌色の棒が飛び出す。
滑らかな手足ではない、
直線的な棒
真っすぐに彼女から伸びた後は
直角に曲がって、エマの方向へとその先端を向ける。
そこまで来れば
その棒は筒だと理解ができた。
そして、その奥には何かが詰まっている。
先の尖った
細い、円錐のようなナニカが
エマの方を向いていたのだ。
(・・・まさか・・・)
最後にツヴァイは
自身の手の小指から中指までを曲げ、
親指を上に立て、
人差し指をまっすぐエマへと向け、
「ばん!!!」
そう叫んだ。
その瞬間、
「ッ!?」
数多の爆音が発生
ただしそれよりも遥かに先に、
筒の中にあったものが
エマへと着弾する。
形状は円錐
先の尖った弾の雨がエマへと降り注いだ。
(な、なにこれ!?)
咄嗟に腕で顔を覆うも、
全身が痛みで満ちる。
数などわかるわけもない。
後から聞こえてきた音を数えようとしても
膨大過ぎて、数える気が失せた。
隙間なく音が叩きつけられる。
その間も
雨のような弾の乱射は続く。
そのほとんどがエマの身体に張り巡らされた
抵抗力に負け、潰れて地面へ落ちていくが
服は裂け、髪は千切れ、
防御が甘くなった箇所には打撲と出血
更に衝撃自体は殺しきれなかったのか、
じりじりと後ろへと下がらされていった。
「くっ!」
一方、その頃、アリソンとニコは
アインが生み出した肌色の世界に苦しめられていた。
「きゃはははははは」
宙に浮いた首が
口角をあげて笑う。
切り放されたはずの首は
独りでに動いて、宙を舞い、
残された体は両手から
肌色の世界を広げ、そこから幾千の刃を生み出している。
高さは人を三人縦に積み重ねても足りないぐらい
横幅は十人が寝ても、問題ない程度はある。
「おつかい!おわり!」
そんな世界に生まれた何千もの刃は
彼女が自信満々にそう宣言した瞬間、
一斉にアリソンとニコへと切りかかった。
「っ!!」
そこで動いたのはニコ
彼が両手を前に出すと、
刃たちが壁に阻まれたように
途中で動きを止めた。
よく見れば、
半球状に薄い壁が張り巡らされている。
「ニコ!?大丈夫!?」
「ここは僕に任せた方が良い
すべて弾くのは現実的じゃないし、
全体を防御するような魔法はアリソンは使えない
どうにか社長と連携して」
「わかった」
話の途中で
指示を発見すると、
彼女はすぐにそれを実行しようと動き出す。
ただそんなことをしなくても
社長はすぐそこにやってきた。
ただし、雨を引き連れて
「いだだだだだ」
「社長こっち!」
エマを後ろから掴んで
アリソンが半球の中にエマを引きずり込む。
「っ!!??ぐううう」
半球の後ろに弾が当たり出した瞬間、
ニコの顔が歪み、汗が滲み始める。
ただ、それを誰も気にすることはない。
ニコだって気にしない。
それは自分がやるべきこと、
それぐらいは彼がやれること
それに懐疑も心配も必要ない。
「・・・社長どうします?あんなの私たち戦ったことないです」
「・・・・・・・」
黙りこくるエマ
悩んでいられる時間はない、
それはわかっているはずなのだが、
「・・・・・・・」
秒に至るほど、彼女は悩んだ。
それでも、二人は待った、
前後から聞こえてくる
「し~ね」「し~ね」
腹立たしいガキの声を聴きながら。
そして、
「二人とも、
本気出すから、レーガンさん助けに行って」
「はい」「はい」
その返事とほぼ同時に
半球の中が銀色の光で満ちた。




