episode12【バケモノ】
「ぐっ!」
「・・・・」
苦悶の顔を浮かべる
アリソンとニコ
それもそのはず
二人の身体には肌色の蠢くものが巻きつき、
その体を締め付けていたのだ。
こうなったのは、
2人がアインを滅多打ちにした
少し後
「・・・・・・」
沈黙し、その歪さに似合う姿となったアイン
人形が如く、指一本たりとも動かせない、
その姿の方が、その異様なまでの美麗さを見るのに
一番、不自然さがない。
「・・・・終わりました?」
顔を顰めたニコが
アリソンにそう問う。
アリソンはじっと
アインを見つめた。
胸の上下を
口の動きを
体の微細な動きも
一つも見逃すつもりはないと
その目で捉え続けた。
顔は段々と青白く染まり、
熱が体から引いていく。
その様を見て、
彼女が下した結論は
「動いてない、死んでる」
そういうものだった。
それで正しいはずだった。
文字通り、人の顔色を伺うことにおいて、
アリソンの右に出る者はいないと
考えていたニコは、それに安堵を覚え、
視線を外してしまった。
アリソンも
少し気を抜いてしまった。
その瞬間、
2人の腹に何かが巻きついたのだ。
「ッ!?」
巻き付いたそれは肌色
分厚く、弾力のあるゴムのような
何かが伸び縮みを繰り返しながら蠢き、
二人の腹に巻き付き、締め上げた。
だから、勝利したはずの二人が苦しむことになったのだ
「ぎゃはははははは、ひっかかった!!!!!」
先ほどの痛みもそれでどこかに吹き飛んだのか、
アインは楽しそうに笑みを浮かべている。
子供が悪戯に成功した時のような
意地の悪い、満面の笑み
(な、なんで生きて!)
最後の一撃で抵抗力を貫き、
あれは確実に感電死したはず
納得のいく理屈がない
ニコは想定外の事態に、
頭を全力で稼働させ、思考を回すが、
(死んだふりいやアリソンの目から逃れられるような死んだふりができるやつなんて
この世にいるはずないそれに僕も確認したが瞳孔だって開き切っていたんだ呼吸だって
してなかったはず見間違えたのか二人そろってなんてザマだそんな些細な不注意のせいで)
最終的には、意味のない自己反省をするぐらいしか出来ないぐらい、考えることがない。
アレは死んでいたはず、
それなのに今、息を吹き返している。
それだけ受け止めて細かいことは放っておく
そういうのは、
アリソンが得意とするところだ。
(ありゃりゃ、まだ生きてたんだ)
彼女の頭にあるのはそれだけ
目の前にあることしか見ないし、考えられない。
覚えていられない。
だから、起きたことにだけ対処する。
まず、彼女は思いっ切り、その両の腕に力を込めて、腕を押し広げていった。
「げひひひひひひ!!!ばーかばーかばーか」
といっても、動くのはほんの数ミリ程度
弾き飛ばすなんて、夢のまた夢だ。
アインも余裕綽々と言った態度でそう言い放ち、
巻き付けた腕の力を強めていく。
しかも、その腕の先にあるはずの手を刃に変えて
「しーね!」
二の腕や前腕の区別も無くなっていたが、
恐らくそこに位置していた部分で2人を縛り、
そこへとどめの一撃として用意した
二つの刃で首でも落とすのだろうか
思考はしないが、
アリソンはこう思った。
(私ならそうする。)
だから動けた。
そして、彼女が動くには
ほんの数ミリのたわみで十分だった。
ほんの数ミリ、たわんだ輪の中で
彼女は思いっ切り、身を縮こまらせる。
そこからやったことは単純、
自分をなるだけ細くして
両腕を体にぴったりとくっつけて
しゃがみ込んだだけ
「あ!にげるな!!!」
当然、抜け出した傍から
両の手の刃を動かして、アインはアリソンを付け回す。
ただそれも
よくよく考えなくても、
わかりやすいこと
逃げたから追う。
逃れたから攻撃する。
その位置は、
攻撃が来る場所は
当然、憎い相手がいる場所だ。
後は来る時間がわかれば、避けるのは容易い。
そして、それは彼女が思った通りの時に来た。
その瞬間、跳んだ。
するりと、軽やかに跳んだ彼女を捉えきれず、
刃は虚空を切り裂く。
その間に、彼女は近づいた、
方向は、捕らわれた相棒の方
だが、それもわかりやすいこと、
一度躱されたところで、
アインからしても
相棒を助けに行こうとするぐらい
至極当然のことだ。
だから、アインもすぐに追いかけられた。
腕を伸ばして、伸ばして、伸ばして、
刃で切り裂こうと迫って、迫って、迫って
まっすぐニコの元へ跳んでいれば
確実に切り裂ける軌道に刃を近づけていく。
アリソンは跳んで、真っすぐその軌道で
最短で、ニコを追いかけた、
様に見えた
アインからは。
だが、違った。
彼女は刃が来る瞬間、止まったのだ。
刃が彼女を裂く寸でのところで
急停止し、身を屈ませて、刃の二振りを徒労に変えた。
空ぶる二つの刃は想定になかった動きに翻弄され、
散らかし、放り出した糸のように無茶苦茶に絡まり合ってしまう。
それを見て、アリソンは的確に
一方の刃を掴んだ。
「もうなに!!さわるな!」
そして、そいつが伸びて動く前に
その刃でもう片方の刃を切った。
もうその頃になると
アインの頭は追いつかない。
落ちた刃を握りしめ、
アリソンが腕を切り刻もうと
ただ痛いだけで
どうなっているのか
全貌がつかめない。
なにせ、アリソンの動き自体も
それはそれは、滑らかで、素早く、正確だったのだ。
迷いがなかったから。
そうやって取った刃で
ニコを捕えていた方の腕を切り落とすのも早かった。
彼女は、それを計算でやったわけではない。
全部その場で、相手がしそうなことを
何となく感じ取って、やったら嫌がりそうなことをやっただけ
そして、今からも
彼女はそれだけをやる。
助けたから終わりではない。
更にアリソンはその刃を持って、跳んだ。
まっすぐ、アインの元へ
「あああああああ」
口をあんぐり開けて
戸惑いの渦の中に居続けるしか出来なかった彼女の首を
切り落とすために
一気に寄って、
「!」
切り放した。
まっすぐと横へ降られた刃は
綺麗に、首の断面を覗かせ、
首から上を宙へと舞う旅へ誘う。
(これなら・・・)
打撃と電撃
撲殺と焼死で駄目ならば・・・・なんてことは
彼女は考えていないが、
結果的に、これで三つ目
首と胴が別れた。
これで死なない生物は、
少なくともこの大きさなら存在しない、はずだ。
遠目でニコはそう考えていたものの、
現実は非情であった。
「いったい!!」
どれだけ切ろうが、焼こうが、殴ろうが、
アインは痛いと叫んで、逆上してくる。
首と別れたはずの頭が自由に喋り、
自由になったニコをまた切られた腕を元の形に復元しながら
追い回し、
更に、
「うっ!?」
アリソンは後方へと吹き飛ばされた。
ニコの居る方へ
流石に首を切り落とされながら
足を延ばして、蹴りを放ってこられては
アリソンも腕を間に挟むのがせいぜいだった。
遠くから迫るアリソンを視認した
ニコはすぐに受け入れの態勢を整え、
その胸で、体で
跳んで来るアリソンを受け止める。
「ごめん」
「しょうがないよ」
2人の視界に広がるのは肌色。
シミの一つもない絵の具で広げたような色
そんな色で、月明かりの元、
伸び縮みする肉体
至る所に
肌色の何かが広がり、分かれ、伸びて、蠢く。
アインの手足四つの内、
三つは原型がなく、元の形や大きさがわからなくなってしまいそうなほど
滅茶苦茶に変形していて、気味が悪い。
「あひひひひひひひひひ
あははははははは」
その奥で
その中心で、馬鹿笑いをする青の美女
痛くて悲しくて、怒ったかと思えば
2人が彼女を見る顔が好ましいものだったのか
アインは再び笑みを取り戻していた。
「・・・バケモノ」




