episode11【赤の人形】
「・・・・・・」
2人が帰ってこないことに不信感を抱き、
外を感じるエマ、
そうやって外へと意識を向けていた
彼女よりも先に
「ひっ!」
レーガンが先に
その音に気付いた。
床板を踏みしめる音
「後ろに」
後ろへレーガンを隠しながら
エマは一階の裏口から侵入してきた
その音の主を探る。
(・・・・・一人・・・だけど・・・)
強い
そうすぐに確信した。
炎で、雷で焼く、相手を締め付ける、抑えつけるといった魔法を行使する、
外部から迫る害があると思わしきものを弾き、押し返し、抵抗する、
抵抗する力、はじき返す力で体を固め、相手に押し付け、殴る、蹴る、斬る、
それら全てを行う際に、
必要な魔力が、
その量が、その出力が、
並外れていた。
「お、おばさーん、でてきてくださーい
しゃちょうさーん」
いきなり人をおばさん呼ばわりする
その声は少女の声
酷く怯えているようにも思える。
所々どもり、震えている。
「でてきてー
しゃちょうさーん」
二階からでも聞こえるほど、
大きなため息をつく声の主は、
その後も何かつぶやきながら、
一階を練り歩き、二階の彼女らに
その姿を現した。
耳の下辺りで、目にかかる辺りで切り整えられた
宝石のように煌めく真っ赤な髪
色白の肩や首回りが覗く
純白のワンピースに身を包んだ、
不自然とも思えるほどの美しい曲線を描くその体
髪と同じかそれ以上の輝きを放つ真っ赤な瞳
異常とも言えるような整い方をした顔の造詣
全てが作りものじみていた
不自然なほどの美
そんな人形のような赤い髪の誰かが、
まるで怯えを隠さず、背中を丸くしながら、
一階の広場を練り歩いていた。
(・・・・あれ、本当に人なの・・?)
あんなものが動いていることに
息をしていることに、自分たちと同じ世界にいることに
違和感が拭えない。
「い、いた!」
そんな声と同時に
何かが社長たちの方へと放たれた。
一階を見下ろせる
二階の通路、
そこに立っていた社長、
その前にあった転落防止用の柵
それらが一瞬で爆炎に包まれる。
「・・・」
煙が漂い、
柵に炎が燃え移っていく。
このままなら、
ここは全焼待ったなしだろう。
しかし、
突如として、燃え盛る炎は消え去り、
煙はふっと消えてしまう。
消えた先には、
堂々と、そこに立つ
エマ・オリエ
「・・・・・」
後ろにいるレーガンは、
いつの間にか、そこにはおらず、
この空間に残った
2人だけがその視線を交わしていた。
「・・・・どちら様?」
高みから見下ろす
エマの視線は、きわめて冷ややか
いきなり入り込んできて、
会社の柵をぶっ壊してきた外敵を威嚇し、圧する
敵対者としての視線だ。
「・・・・・・」
対して、
赤い人形のような彼女は
その視線に怯えていた。
まるで叱られることに怯える子供の様な
体を丸め、顔を落とし、
敵の方を見たいが、見たくない、
そんな相反する思いからか
彼女の視線は
エマを見ていたり、壊した策を見ていたり、地面を見ていたり、
おどおどと
そこらかしこに移り続けていた。
「つ、ツヴァイ」
「・・・・君の名前?」
「う、うん」
「じゃあ、ツヴァイちゃん、何でこんなことしたの?」
「・・・・・・お、おつかい」
「おつかい?」
「お、おとおさまのため
おとおさめのため
うう・・・・」
ツヴァイと名乗ったその女は、
苦しそうに唸った後、
また、再び、エマに向けて火を放つ。
さっきよりも大きな爆発が
今度は、エマの身体に直撃した、ように見えた。
だが、彼女の身体を、
体から限りなく近い距離に現れ、守り、固くなる力
魔力に依存する、外部へ抵抗する力、抵抗力が守り、
そこらの一般人なら
爆発の衝撃で粉々に吹き飛んでいたであろう、
その攻撃も、エマは無傷で受け切ったのだ。
「・・・」
「な、なんで!」
眼前に変わらぬ姿で立つエマに
傷の無いその姿に、ツヴァイは動揺を隠せず、
「なんでなんでなんで!」
頭を掻きむしり、
その綺麗な髪を自らかき乱しながら、
何度も何度も地面を踏みつけ、
地団太を踏み、床板をへこませ、
「はやくしんで!はやくしんで!」
そう叫び狂い、憤慨して涙を流しながら、
何度も炎をエマにぶつけてくる。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
当たる度に
焔と音をまき散らして
爆発する火の玉
それらが外れる度に、
後ろの部屋が、壁が
粉々に砕け散る。
しかし、エマは壊れない。
「・・・・・・・」
無言で佇み、
煙の中から度々その姿をのぞかせてくる。
普通なら、
そこでツヴァイはやり方を変えるべきだろう。
いくら
その攻撃が
普通の人類を粉々に吹き飛ばすような威力だとしても
通じないなら
別の方法を考えた方が良い。
何のからくりがあるのか
考えた方が良い。
だが、
ツヴァイは変えなかった。
「ああああああああああああああああああ」
叫んで、同じことをするだけだった。
思い通りにいかないのが気にに入らない幼子
自分がやりたいことだけやって、相手の反応は見ない、
そういうただの子供の様、
そのものと言っても良かった。
「・・・・・」
どれだけそんな炎を浴びせようが、
エマが全く動じていないと言うのに
彼女がやることは
泣き叫びながら
同じことを繰り返すだけ
(・・・この子、一体何歳・・・・)
「やだ!!死んで!」
少し戸惑いつつも
(止めないと)
爆発で壊れた箇所をいちいち直すのも面倒になってきた。
耐えるのでだって、魔力を使う。
元凶を黙らせる方が
一番、魔力と体力に優しい。
(ごめんね)
そこで、エマが動いた。
何のことはない。
「や!!」
ただ近づいただけ
顔をはたくような風を感じる前に
床板を踏み抜き、壊す音が聞こえる前に
ツヴァイの近くに寄っただけ
たったそれだけのことなのに
これに対して、
ツヴァイがやれたことは出そうとした炎の行く先を
間近へとどうにか変えることだけ
「ぎぃ!!」
そうやって
炎を浴びせられはしたものの
エマは止まらない。
炎を浴びながら、爆発をその身で受けながらも
エマは動き続ける。
動き方は単純
何のひねりもなく、
何の小細工もなく
その右手を
ツヴァイの顎へと運んでいく。
その動きに
まじかに来てもなお
攻撃の手をやめなかった
その攻撃で怯ませることすら叶わなかった
ツヴァイに
「ッ!」
それへ対応することは不可能だった。
叩き込まれる拳
速度、重さ
その全てが、その体躯からは全く想像もつかないもの
振り上げられた拳は彼女の顎をかち上げ、
「!!」
その勢いのまま、彼女の体ごと、上へと回転させ、弾き飛ばす。
子供に乱雑に捨てられた人形のように
ツヴァイは飛んでいった。
人がするとは思えない挙動は、
綺麗な円の軌跡を描いて、
くるくると
彼女は天井を突き破って、月夜を拝むこととなった。
「・・・・」
宙に打ち上げられ、舞うツヴァイ
「・・・・・」
満点の星空
街灯が落ちた今、
星たちの光は何にも邪魔されることなく、
彼女らへと降り注いで生きている。
綺麗に満ちた月は
日には負けるかもしれないが、
変わらず彼女を照らしていた。
だが、そんなことは
「いたい」
何の慰めにもならない。
痛いことに変わりはない。
現状が辛い事を、何も変えてくれやしない。
癒すことなどしてくれない。
「いたい゛!!!!!!!!!!!!」
宙で身を翻し、
その叫び声がエマに届く前に
ツヴァイは宙に浮き、エマの方へと飛んで来る。
(魔法で戦う奴なら、そりゃ、空は飛んで来るか)
まっすぐと
一直線にエマへと降りて来る。
(でも)
何処に隠し持っていたのか
刃物をまっすぐエマに向けて
突撃してくる。
ただ、その軌道は、その敵意は
あまりに単純であった。
(単調)
彗星のように降り立つその軌道は、
予想と少しも相違がない。
何も捻りがないのだ。
「しねっ!」
刃が振られる。
しかし、それはかすかにエマの髪を裂くばかり
「っ!」
そのままツヴァイは地面へ衝突し、
がしゃりと、どすんと
床板を弾き飛ばして、辺りに細かな木くずや砂塵が舞わせる。
「よけんなあ!!!!」
砂塵に囲まれ、視界もままならぬ中
彼女が優先したのは、彼女の不満の吐露
腕の一払いで
辺りの視界を明瞭にすることはできたものの
それでは遅かった。
「ふん!!!!!」
露になった視界に現れたのは、
ツヴァイに拳を振るうエマの姿
「あ」
気づけば
その拳が腹部に迫り、
レースの生地を突き破り、
「っ!」
(まずっ!)
彼女の身体を貫いていた。
瞬間、やってしまったとエマの顔が歪む。
もちろんそれは
(やり過ぎた!)
自身の加害の罪に対してだ。
しかし、
彼女は甘かったらしい。
「いだい!!!!!」
貫いた手をツヴァイが掴む。
「っ!?」
体内にめり込んだ手には
生ぬるい感覚で満ち溢れている。
だと言うのに、
目の前の女はそのまま動いてきたのだ。
「ぢね!!!!!!!」
まるで止まらず、
その凶刃をエマに突き立てようと
迫ってきた。




