episode10【青の人形】
ニコとアリソンの方へ
「誰かしらぁ」
「・・・・」
「うふふふ」
青い髪の人形が
姿を現す。
人形とは
彼女らの印象、
実際は、生きた、自由に動く人間だ。
背丈は150cm前後
二十代そこらの若い女
そのはずだ。
しかし、ソイツは人形のようであった。
一部の男が妄想する理想の人間の女性、
その形を模したナニカのように思えた。
なぜなら、
その形が人間離れしすぎていたから
一切乱れがなく、枝毛も一本も見られない
耳の下辺りで、目に少しかかるぐらいで
短く切り整えられた、
その青い髪の
艶やかな色艶と言い、
宝石のような煌めきと言い、
とても自然物とは思えなかった。
胸の大きさは凄まじく、
あの小顔より少しばかり小さい球が、二つも付いている。
それに比べた腹の周りの細さは異常という他ない。
あばら骨が浮き出ていたり、痩せこけているわけではない。
ただ、無駄があまりにもなさすぎるのだ。
その上、腰回り、臀部の大きさは
胸に匹敵するだろう。
そんな体が描くの曲線の形と言い、
その顔の整い方と言い、
その全てが
不自然なほど
性的であった。
確かに綺麗ではあるが、
あれが街中を歩いたりすれば、
彼女の横を通る者が
性別関係なく、足を止めてしまうだろう。
そんな人間、なのかと一瞬疑ってしまうような
異常な存在が両方の目の前に現れた。
「こんばんは」
ニコとアリソンの前に現れた
青い短髪、青い宝石のような目に、
色白の肌をした人間が手を振りながら
そう挨拶をした。
「・・・・・・」
「こんばんはぁ」
挨拶を返したのは
アリソンだけ、
ただ、興奮冷めやらない様相は相変わらずなのだが、
その目つきは、彼女を捉えた時から
どこか鋭くなっていた。
青髪の女は、
黒く、肩や首回りが露出した、
スカートの丈は膝上までの、
レースで、ところどころが透けた生地で出てきた
長袖のワンピースを身に纏い、
本来なら、
その多くが外へ晒されているはずの腿や脹脛は、
漆黒の、極薄の生地で包まれ、
足には皮製の黒いブーツを履いていた。
かつかつと
そのブーツで
人気のない夜に、よく響く音を奏でながら
彼女はゆっくりと二人の方へ近づいて来る。
そして、
「いた、いた
しんぶんしゃ」
2人を指さし、
笑みを浮かべながらそう言った。
その声と口調は
舌足らずで、まだ喋りはじめてから、
数年しか経っていないような子供じみた喋り方であった。
顔や体つきから想像されうる人物像との乖離は凄まじく、
「おとおさま
おとおさまのため、えひひひ」
アリソンの笑い方は
ただの癖の範疇で止まるだろうが、
それに対し、
この女は顔と体が二十代に見えるだけで
中身は本当に五歳児ぐらいなのではないかと思えるような
そんな喋り方と仕草だ。
(何だコイツ)
「うふふふふ、良いお洋服ですね~
あのレース生地のスカートとか、タイツとか、
ブランド品でしたよねえ?
どこで買ったんですかぁ?」
「おとおさま、に、かってもらった。
かわいい?」
「うん、すっごく可愛いよ?」
「えへへへへへへへ」
アリソンに褒められ、
頬を赤くして、笑う様など
幼子そのもの
たまに
口元に垂れた涎を
手で拭う様などは
あの出で立ちや、身に着けている物からは
とても想像できない。
「お名前は?私はアリソン!」
「あなた、ありそん!
わたし、アイン!」
「アインちゃん?ほんと可愛いねぇ」
「でしょ?」
「うん!ほんとに可愛い!」
「きゃああ」
「きゃああ」
一緒になって
子供のようにはしゃぐ
アリソンの後ろで
「・・・・・」
ニコは警戒を強めていた。
後ろに隠した掌に赤い雷を作り上げていきながら、
相手の出方を伺い続けている。
「えひひひひひ・・・・あ」
そんな時、
アインと名乗る青髪のソイツが突如、
笑うのをやめて、動きを止めた。
「どうしたの?」
「ごめん、あたし、おつかい、しなきゃなの」
指先を口に含みながら
突然、申し訳なさそうにそう話す青髪の女
「おつかい?何を頼まれたの?」
「ええと・・・そう!」
彼女は、少し悩んだ後、
思い出したかのようにそう呟くと、
「ころす!」
一気にアリソンの方へと駆け出した。
その手には、袖の下から取り出した
先の細い鋭利なナイフを持ち、
アリソンへと迫る。
「ふふふ」
アリソンは笑みを浮かべながら
そんな走って向かって来る女の方へ
ゆっくりと歩き出した。
「あはぁ!」
間合いに入った瞬間、
ナイフを突き刺しにかかるアイン
狙いは顔面
アリソンの顔を串刺しにしようと刺突を繰り出す。
アリソンは事も無げに体と首を軽く傾け、
その一撃を躱してみせたが、
(・・・あら)
アリソンの笑みに赤い筋が一つ
頬をかすめた刃がその顔に鮮血を滴らせていた。
「いひっ!!!!」
それを見たアインに笑みが深くなり、
更に攻勢を強める。
続けざまにアインは刺突を繰り出そうと手を引き戻す。
その瞬間を見逃さず、
アリソンはその引手の側に回り、
更に彼女の後ろの側へ跳んでいった。
「まて!」
逃げるように
跳んでいくアリソンを追いかけ、
またそのナイフで刺そうと試みるアイン
銃の連射を食らっても
傷一つ負わなかったアリソンの肌に、
あっさりと切り傷を作ってみせた彼女は
何度も何度も
彼女に向かって刺突を繰り返す。
狙いは顔、体、顔、体
その速さは銃の火の弾と大差はないが、
まともに当たれば、命に届きうるだろう。
「ふふふ」
しかし、
いくら手数を増やそうが
「んん!」
肌をかすめるか、
髪を切り裂くばかりで
体に当たることはない。
執拗に繰り返された刺突は、
軽く後ろに引かれる、手で払われる、側面へ回られる
そんな具合に、上手くやり過ごされてしまう。
しかも、
アインは気づかなかった。
攻勢に回るのに
霧中になり過ぎて、
自分が相手をしているのが、
目の前の一人だけではないことを
忘れてしまっていた。
「いたい!」
突如として、
稲光が現れ、ほんの少しだけ、遅れて音が届く。
アインの背中から全身に熱がせり上がり、体が固まる。
声が出せる余裕があるだけ、
その耐久力は凄まじいという他ないが
それに気を取られたなら、
今まで追い回していた、目の前の敵は野放しになっているということになる。
「あっ!」
雷に撃たれた瞬間、
アリソンは、ナイフを持ったアインの腕を脇と、腕、体で挟んだ。
挟み、肘と手首を固定し、
ナイフを持った手に掌底を浴びせ、
ナイフを弾き飛ばす。
「むぅっ!!!!!」
それに気づいたアインは手を振り回して
それを振りほどこうとする。
それは案外あっけなく成功した。
ただし、
「いだいぃい!」
腕はぐちゃぐちゃで
とても動かせる形ではなくなってしまったが。
肘関節と手首が曲がってはいけない方向に曲がっており、
完全に動かなくなっている。
彼女が子供っぽいから泣き喚いているからではなく、
誰だって、腕がこんなことになれば
泣き叫ぶだろう。
そんな彼女が
「う゛う゛!!」
怒りを露に
残った手で殴りかかろうとするが、
そんな彼女を再び雷が撃つ。
「あぎっ!」
再び体勢が崩れたアイン
そこへアリソンが迫り、
その拳で打った、
腹を
顔を
胸を。
蹴った、
脇腹を
足を
頭を。
鮮やかな身のこなしから放たれる
拳と蹴りの連打
当たる度に鈍い音が響き、
美麗な顔が歪んでいく。
「い゛ぁ」
止めに
側頭部への肘打ちと
崩れ落ちた頭を掴んでの膝蹴り
そうやって、打ち上げた顔へ真っすぐ放たれた右拳
そして、大きく体を反らして倒れ込んだところに雷が撃たれたことで、
「っ・・・・・・・・」
青髪の少女は倒れ伏した。




