武器紹介『弓』編
さて、今回の武器紹介は『弓』です。その歴史は大変古く、紀元前一千年前以前から存在していたといわれています。
弓という武器は、アニメや漫画などで目にするスマートでスタイリッシュな印象(私の偏見かもしれませんが……)からは想像も出来ない程凶悪な武器であり、銃や爆撃が導入される以前の戦場において、もっとも多くの命を奪った武器……それが弓です。
現代人である我々の感覚からすると 銃>弓 と考えてしまいますが、中世頃においては決してそんな事はありませんでした。(銃は9世紀頃には原型となるモノが存在していました。9世紀というと日本では平安時代頃です)
流石に近代的なライフル銃と比べるとその差は歴然ですが、パーカッションロック式の銃が出始める辺りまでは、威力、命中精度、飛距離、連射性能で上回っていまし、汎用性も雨天だと使用が出来なくなる火縄式の銃を上回っていました。日本の火縄銃が恐れられたのは、性能面というよりも凄まじい発砲音だったという説があります。
曲射が出来るのも銃器との違いですが、これは一概に利点とは言えません。遮蔽物越しに攻撃できるという意味では利点ですが、ある程度飛距離を出そうとすると、どうしても弧を描いてしまう弓は、高さ制限の有る場所では使い難くなります(三十三間堂の矢通しなんていい例ですね)
また、発砲音もしない為、狙撃を行った際位置が露見し難いという利点もあります。
ただ……弓は強力になればなる程使い手を選び、習得にも大変時間が掛かります。対して銃は、短時間の訓練である程度誰でも使え(高度に扱おうとすれば、勿論時間は掛かりますが……)、しかも技術革新によって性能が飛躍的に上昇していったのが、弓から銃へ時代が移っていった理由です。
まず、弓といっても幾つか種類があります。
弓は大きく分けて五種類。ショートボウ、ロングボウ、和弓、コンポジットボウ、コンパウンドボウとなります(分け方に少し悩みました……正確にいうと、和弓も一種なので……)
クロスボウは性質的に弓と似ており、説明がかぶる部分が有りますが、弩として別説明にします。
『ショートボウ』
ショートとはいえ、侮る事の出来ない威力で、最大飛距離は200m程、有効射程は100mぐらいです。日本以外では、馬に乗る際に使う為、騎馬弓(馬上弓)ともいわれます。
連射と携帯性に優れ、割と力の弱い者でも扱えるのが魅力です。
アニメやゲームではサブウェポンとして使われる事が多いですが、威力的にも十分メインウェポンとして使えます。
『ロングボウ』
ファンタジーで弓と言えばこれ、長弓ともいわれるロングボウですね。最大飛距離350~400m。有効射程は150~200m程です。
非常に威力が高く、100m先の木の板(5~6cm程の厚さ)を撃ち抜く事が出来たそうです。
ロングボウの発祥地であるウェールズ公国は、ロングボウマン(長弓兵)の力で、大国イングランドの侵攻を幾度も退け、イングランドに併合された後もロングボウマンは各地で猛威を振るいました。
『コンポジットボウ』
混成素材で作られた弓の総称です。ロングボウの素材となる長くしなやかな木(主にイチイの木、イチイは堅く割れや反りが少なく、その割に加工がし易い為、ロングボウの素材として重宝された)は、手に入れられる地域が限られていました。そこで様々な素材(木材だけではなく、革なども使われた)で、優れた性能の弓を作ろうと開発されたのが、コンポジットボウです。
性能は使う素材によって違いますが、ロングボウに勝るとも劣らない性能を発揮します。
『コンパウンドボウ』
現代のアーチェリーで使用する近代的な機械的な弓(化合弓)です。近代的な合金や繊維を使用し、滑車やテコの原理を用いて、小さな力で引ける様工夫されており、弦を引いた状態での待機姿勢を維持しやすく、狙いをつけ易い為命中精度が高い。
ファンタジーでは扱いが難しいかもしれませんが、近代素材の代わりにファンタジー素材を使い、機械工学の得意そうな種族のオリジナル武器として登場させると面白いかもしれません。
『和弓』
先にも記載しましたが、分類的にはコンポジットボウの一種になります。ですが他の弓に比べ、形状や使用方法が異なっている為別枠としました。
和弓は構えた時、上が長く下が短いアンバランスな形状をしています。これは、長くなりすぎた(威力や射程を上げるには、弓全体が長くなる)為、この様な形状になったといわれています。
ショートボウの説明で、日本以外では馬上で用いる際使用する弓であると書きましたが……日本では徒歩でも馬上でも同じ弓を使います。上記の様に弓下部が短いので馬上でも使用出来るのです。
馬上においてロングボウ並みの弓を射る事が出来ますが、撃てない方向もあり、携行性の低さなどを考えると、一概にショートボウよりも勝っているとはいえません。
最大飛距離は400m以上あり、有効射程もロングボウと同程度かそれ以上有るといわれています。
独自の進化を遂げた和弓は、西洋弓とは矢の番え方、弦の引き方などの射法が違います。
射法はアニメや漫画などを意識している方には大変重要です。特に分かり易いのが矢の番え方や持ち方ですね……
勿論ファンタジーならば、和弓に似た弓だからといって、必ずしも射法まで真似なくても構わないとは思いますが、長い歴史の中で研磨されてきた技法には、それなりに理由があるものです。特に理由が無いのなら合わせておいた方が無難でしょう。
射法についてはその内折を見て行います。
先程から弓の説明ばかりですが、弓は矢が有って初めて成り立つ武器です。本当は矢の説明までできるといいのですが……今回は省略します。
ここから弓の性能解説に入りますが……種類によって大分変るので、一番メジャーなロングボウを基準にし、矢は鉄製の鏃とします。
ダメージ性質は
斬り 刺し★★★★★ 殴り
距離50mなら鉄板を軽く射抜くといわれるその威力は、★5でもお釣りがきます。実際、鉄製の鎧を貫いて致命傷を与える事の出来る武器でした。
勿論距離によって威力は減少していきますが、狙撃可能距離内(後程説明しますが、有効射程の半分程……と思ってください)においてならば、近距離武器とは比べ物にならない威力が有ります。
対して、斬りや殴りの性能はありません。弓を使った近接格闘術もあることはあるのですが……本来の使い方ではないですし、武器を持ち替えた方がいいでしょう。
ただ、緊急時(武器を持ち帰る暇もない程突発的な)の対処法として、そういった格闘術を取り入れるのはアリかもしれません。
攻撃可能距離……★★★★★
銃器を除けば、個人で携帯できる武器の中では最高峰といってもいいでしょう。つまり、ファンタジーの世界においては、魔法と並び遠距離攻撃の花形となります。
近接武器はいうまでもなく、スリング(投石器)やジャベリン(投げ槍)等他の遠距離武器と比べても、圧倒的な攻撃範囲を誇ります。
刀の説明の際にも少し触れましたが、射程の短い武器で、射程の長い武器に挑むには、数倍の実力差が必要になります。相手の攻撃が届かない所から、一方的に攻撃を仕掛けるのは兵法の基本です。攻撃範囲というのは、それだけで戦局を左右するモノなのです。
重さ……★
材質によっても変わりますが、およそ1kg前後と武器の中では軽量です。弓は重さが威力に直結しないので、軽い事による不利益は有りません(勿論、剛弓になればそれなりに重いです)。
付随する矢は、数を持てば装備重量は当然重くなります。1本の重さは20~40g程です。矢の重さは単純に重ければ威力が高くなるという訳ではありません。弦の張力に合った物を使用しないと、威力を発揮できないだけでなく、弓自体の耐久力を無駄に消費してしまいます。
扱い難易度……★★★★★
凶悪な攻撃力、圧倒的な攻撃範囲、高い連射性能を誇りながら、武器自体の性能としては圧倒的に劣る弩に取って代わられた理由が、正に扱いの難しさ故です。
補充のし易い(扱い易い)弩兵と比べ、訓練に時間の掛かる長弓兵は補充が難しく、連戦になればなる程弱体化してしまいます。
また、弓は力の弱い者の武器と描かれがちですが、強力な弓を引く為には当然それ相応の力が要ります。腕力(腕というより背筋ですね)では無く、瞬発力で引くという方法も有りますが、狙いを定める(弦を引いた状態を維持する)事が難しい為、更に難しくなります。
耐久力……★★★
弓それ自体で攻撃を与える事はほぼ有りませんが、弓にも耐久力は存在します。
弓というモノは、材質の形状復元力を利用して、物体(矢)を勢いよく撃ち出す武器です。使い続ければ当然形状復元力は弱くなっていきます。
弦を張ったままにしておくとしなり(反り)が大きくなり、弦を張り直さなければなりません。使用しない時には、弦を外しておくのが一般的です。しなりが大きくなりすぎると、最悪使えなくなります。
刀程都度のメンテナンスは重要ではありませんが、それでも定期的なメンテナンスは必要です。特にスナイピングを行うなら丁寧なメンテナンスが必要です。
矢は現実的には何度か使いまわします。一本一回限りでは財政的にも物資的にもキツイでしょう。折れたり、鏃が修復不能な程欠けるまでは、戦闘後に回収の後メンテナンスして使います。
ただ、どうしても矢は消耗品ですから、何度か使えば壊れますし、回収できない事もあるでしょう。そう考えると、継続的に金の掛かる武器といえるかもしれません。
私の個人的な見解では、弓は冒険者には必須の武器といえます。攻撃力は勿論ですが、攻撃範囲という点で必需品です。
モンスターの中には、近距離では手の出せない相手(大きすぎる、空を飛ぶ、近づけない)に対しての攻撃手段として必要になります。メインで弓を使う人物の他に、サブウェポンとして扱う人物がいてもいい位重要な武器です。
ただ、上でも記載しましたが、扱いが非常に難しい武器でもあります。
どの位難しいかというと……狙いが手元で1°ズレると、100m先では約1,74mもズレます。更に、実戦では風向きや風速、天候といった様々な点を考慮しなければならない上、当然の事ですが風向きなどは常に変わりますし……標的は動きます……
実戦ではそういった要素を瞬時に計算……つまり、修練と経験による勘によって導き出さなければなりません。弓スナイパーは非常に貴重な存在といえます。
私の作中でエリクが使用する弓は、和弓をイメージしています。
これは私が和弓の形が好き……というのも多少有りますが、エリクの背丈に関係しています。
高威力の弓を持たせると、背の低いエリクでは取り回し難いと考え和弓にしました。
ただ力が足りない分、全身のバネを使って撃つ為、移動しながらの射撃は苦手という設定にしてあります。
色々書きましたが、上記のデータ等は私の知識から引っ張り出し、ザックリと纏めたものです。色々と異議がある方もいるとは思います(特に問題は最大飛距離でして、ショートボウの集団が300mの距離で撃ち合った……とか、ロングボウで900m以上飛ばしたとか、果ては2km離れた所に届いた等々……弓は戦場の花形だったからか、書物を紐解くと眉唾物の逸話が数多く存在します)
ちなみに……
最大射程距離=矢が到達できる(殺傷能力は関係無く)最大の距離。
有効射程距離=当たれば傷を負わせる事が出来る距離。
狙撃射程距離=狙った場所に撃ち込む事が出来る距離。
です。有効射程なんかは射手や狙う相手によっても当然変わりますが……
屋島の戦いで那須与一が扇を射抜いたのが恐らく80m前後、ロビン・フットの逸話が90m前後(この逸話からアーチェリーの一番遠い距離は90mです)、近代弓道の遠的が60mです。以上の話から考えると、高低差や風向き、射手の腕前によっても変わりますが、和弓もロングボウも狙撃距離は恐らく60~100m程(80~90mで伝説になるのですから60mでも十分達人です)でしょう。ただ、これも割とあやふやで、200m先の的を狙って撃ち抜いた等の文献が有ったりします。
弓は使い手によって性能が大きく変わる武器です。その辺りを上手く書けると面白いと思います(私も苦心しております……)
最初の投稿の際、アーチェリーもコンポジットボウの一種と書きましたが、正しくはコンパウンドボウ(化合弓)というそうです。
滑車やテコの原理を取り入れた近代弓の総称です。
ここにお詫びと訂正をさせていただきます。申し訳ありませんでした。