1-9 ハルテア、旅に加わる
盗品リストの照合が完了し、寝ぼけ眼のカゲナゴリを連れて歩きながら、一行はランプの置いてあった空間へと戻ってきた。
その頃には、カゲナゴリもはっきり喋ることができるようになっており、少女からの尋問──本人曰く聞き取り調査──が行われていた。
「なんで村人から大切な物を盗んだんですか?」
「答えねぇぞ」
「先程言っていた、取引先って何ですか?」
「黙秘権を行使する」
「坑道に潜伏していたのはなぜ?」
「ちょっと考えりゃ分かることだろ」
「ムキーーー!ムカつく!ちゃんと答えてよー!」
「ご主人サマ、そこで怒ると相手の思うままだよ」
白猫が指摘しても尚少女の怒りは収まる気配を見せなかったため、ルティが二人の間に割って入るしかなかった。
どうにか二人を離れさせると、カゲナゴリが言った。
「俺らの潜伏は完璧なはずだった。だのに、なんでここが分かったんだ?」
「ムッカーー!あたしの質問には答えないくせに!」
「ランプがあったから」
「ランプ?」
「これだよ」
暴れる少女を抑え込みながら、ルティは、持っていたランプを指し示した。
「そんな眩しい状態のものが?あいつが置いて行ったにしても妙だな…」
「細かいことを確認するにも、調べものをするにも、明るいところでしよう。まずはここを出ることを先決にしないか?」
ガイルの言葉に肯定する意味でも、暴れる少女を抑えるためにも、ルティは目の前の横穴に潜り込んだ。
………………………………
坑道をようやく出た頃にはもう、空は茜色に染まり夕暮れが村を覆っていた。
村の警備隊が駐屯する建物にカゲナゴリを連れて行ったあと、三人は夕食をとることになった。
「お腹空いた〜」
「あんだけ余分に暴れていたら、そりゃお腹も空くだろうな…」
「あぁいや、そうじゃなくてね、ボクとご主人サマ、財布が手元に無いから昨日から野苺しか食べてないんだよ」
「盗まれたのか?」
「ううん…置いて行った、のほうが合ってるかも…」
「家に忘れたのか?」
「家というか…親切な人が泊めてくれた家に置いて行ったっていうか…」
ガイルと少女の会話を聞きながら、ルティは、なんとなく数日前のことを思い出していた。
(たしか…マヒルさんが泊めた女の子、猫を連れているって言っていたような…)
「…ねぇ、そういえば、今までお名前を聞いていなかったなって思うんだけど…訊いても良いかな?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
少女が謎のポーズを取りながら続けた。
「あたしは、探偵の卵ハルテア!こっちにいるのが、探偵猫のトルテだよ!」
「ご主人サマ共々、改めてよろしく」
「なるほど、君が…マヒルの家に色々忘れていったっていう…」
「忘れていったっていうよりか、置いて行ったの!」
ハルテアが先を続けようと口を開いた時、またしても大きな腹の虫が辺りに鳴り響いた。
「ハルテアのお話は、ご飯を食べながら聞こうよ」
「そうだな」
三人と一匹は、一昨日も訪れた食堂に入った。
明るい店員に案内され、窓際のボックス席に座り、注文する。
「ステーキとー、トマトスープとー、オムライスとあとパスタでしょー、それから…」
「えっと、食べ切れそうな量を注文しなよ…?」
「一応言っておくけど、あくまで今回は奢りじゃなくて立替だからな。マヒルと合流して財布を受け取ったら、ちゃんと返してもらうぞ」
「ご主人サマ、こう見えて結構稼いでいるほうだからその点は安心してよ」
「…あと、パフェとパンケーキ!お願いしまーす!」
「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」
店員が一礼して去るとすぐ、ハルテアが喋りだした。
「依頼主にはね、名前は伝えないでほしいけど調査目的は伝えておいてほしいって注文されているの。だから伝えるんだけどね、あたしとトルテは、あなたたちを探していたんだよ」
「私達を?」
「…東の大陸からか?」
「うーん、少なくとも東の大陸ではないよ。あそこって、なんて言えば良いんだろうなー…天国、みたいな感じの場所でさ。大きな神殿みたいな門があって、その前であたしとトルテは依頼主に会ったの」
「依頼主が言うには、君たちの持っているあるモノの手助けをしてほしいってニュアンスだったよ」
「そうそう。えっとね、『僕が何も考えずに行ってしまったことの結果が、今の世界に繋がっている。本来であれば僕がどうにかするべきなのは重々承知しているが、僕は暫くここから動くことができない。あるモノをこれから言う人物の手に渡るよう手配する。君達は、彼女達を追いかけて合流し、協力してやってくれ』って」
ルティは、荷物の中にある書物のことだ、と直感的に感じた。同時に、それがハルテアの言う依頼主によって託された物であるということに、違和感を覚える。
書物を見つけたのは、ルティだ。ルティが自分の意思で入った立入禁止の書庫にあったのが、この書物だ。誰かの意思が介在したとは思えなかった。
「だからね、あたし達は、マヒルのところに行ったあと、あなたたちの騒ぎを聞きつけて、こっち来るんじゃないかって思って、確実にマヒルが二人と接触できるように、荷物を全部置いて行ったの」
「マヒルは昼行性の珍しいフクロウだからね。彼らにバレずに行動するには、彼の助力を引き出すしかないと判断したんだ」
「彼らって?」
「あなたたちの旅の、全部に関わる集団組織だよ。なんとかプスっていう神様を信仰していて、各地で争いを起こしていて、その神様を目覚めさせようとしているんだって」
「それって、エヌプスのことか?」
「…多分、それ!」
ハルテアが元気に答えるとほぼ同時に、注文した料理が届いて机の上に並べられた。
ほぼ料理の皿でいっぱいになり、三人はしばらく食事に集中した。
半分ほどの皿が空になると、ハルテアが再び喋りだした。
「さっき言った集団組織だけど、分からないことだらけなのに危険だってことしか、分かってなくてさ。色々気になることだらけで、調査も並行して行いたいんだよね。良いかな?」
「良いかって…まぁ、勝手にやっておけばいいと思うけど…なんでだ?」
「あたしたちも旅についていくから!」
「ティレ村までじゃなくって?」
「その先もだよー!というか、それが依頼主の依頼なの!」
「探偵に頼む依頼にしては随分個性的な依頼だな…」
「賑やかになるのは良いけど…でも…」
(書物のことについてはガイルに話したけど、ハルテア達には話しても良いのかな…?)
ルティは迷ったあと、やっぱりハルテアにも話しておいたほうが良いかもしれない、と思った。探偵ならば、秘密を秘密のままにしておいてくれるだろうから。
その後デザートまでしっかり食べたハルテアの分も、とりあえずガイルが支払うこととなったが、その桁数の多さにガイルがへんてこな顔になっていた。




