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最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第二章:紅色の決意
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2-2-11 ハルテアの実家

たった二日前に起こった事件のことなど始めから無かったかのように、ハピア駅の日常は巡っている。


 列車は定刻通りにホームに到着し、乗客が列車に乗ったり降りたりする。


 商業エリアには、買い物客が大陸各地から集まり、ショッピングを大いに楽しんでいる。


 ルティ達はその日、ハピア駅を経つためにホームに集まっていた。


「ハルテア、駅員さんに呼び出されていたけど、大丈夫かな?」

「何か悪いことがあったようには見えなかった。届け物かなにかじゃないか?」


 出発時刻に余裕を持って駅に集まろうとしたところ、ハルテアだけが駅員に呼び出されたのだ。


 しばらくすると、どんよりした雰囲気のハルテアが戻ってきた。


「ハルテア、おかえり。…大丈夫?」

「…さんから…」

「え?」

「父さんから母さんに電話がいってたの…!」


 ハルテアがそう言いながら、手に持っていた紙を見せてくれた。


『ハル アーバルト帰る なら 家に来なさい 待ってます』


ハルというのが電報による字数制限なのか愛称なのかは分からないが、ともかくハルテアのお母さんは彼女を家に呼び出していた。


「仲直りしやすくなって良かった!」

「良くないよ、心の準備が…」


 オークルとハルテアの気持ちがズレていた。


「どうせアーバルトに到着するまであと三日はかかるんだ。その間に心の準備は済ませておけよ」

「ガイル酷いよー…」

「親と喧嘩したならすぐ仲直りする方が良い。二度と会えなくなる前に」

「うぅ…」


 ルティはルティで、別の心の準備が必要だった。


 この長い旅はきっと、もうすぐ終わってしまう。


 訪れるその日が怖くても、ルティはきっと笑顔で二人を送り出さなくてはならない。


「出発前に皆どうしたのー?暗い顔してるよ?」

「あ…オークル、ごめんね」

「ううん、大丈夫!列車、そろそろ来るみたいだよ?」

「そうか。なら、向こうに行こうか」


………………………………………………………

三日間、列車を乗り継ぎ、南へと進んでいく。


 森や山ばかりだった景色はいつの間にか、住宅街の並ぶ場所ばかりになり、住人の多さを伺わせる。


 夜は駅の付近にあるホテルで一泊し、日中は列車に乗って移動する。ずっと座っていると疲れるので、時々駅間が短い場所などは降りてひと駅歩いたりもした。


 そしてついに、列車はアーバルトに到着した。


「ここが…アーバルト…!」

「ハピア駅とは見劣りするだろうけど、結構立派な場所なんだからね!」


アーバルト駅の駅舎はハピア駅よりは質素で小さいものの、あそこが格別なだけで、ここもきれいに磨かれていた。


 白い柱が等間隔に並び、ガラス張りの天井からは晴天の光が差し込んでいる。


 道の途中に植えられている植物や花々はどれも青々しく、花開いては豊かな香りを発していた。


「ここはアーバルトの北東地区だよ。うちは東地区にあるの」

「ここからまだ歩きそうだな。…ん?バスが出ているのか」

「えーっ、歩いていこうよ。ずっと座ってたから、歩きたい」

「ご主人サマ、家に帰るのをできるだけ遅くしたいってのもあるんじゃないかい?」

「トルテは静かにしててよ!」


 ずっと乗り物に乗っていて疲れていたのは事実なので、結局歩いて向かうことになった。


「ここもノアラターンみたいに、場所によって役割が違ったりするの?」

「北東、北西、南東、南西は完全に住宅街だよ。北はアーバルトの入口で、駅があったり商店街があったりするの。

西は博物館とか劇場のある場所で、東は会社とかが多いの。南にあるのは波止場で、主にフィルガレ大陸への出発点になっているんだ。

それから、中央にあるのが──あれだよ。向こうに見えるでしょ?」


 ハルテアが指さしたのは、ルティ達の目線のちょうど向こうにある大きな建物だった。


 立派な城だ。ルティの故郷、ディルナッケ城がいかに小さいのか、理解してしまうほどに、その城は大きくて荘厳だった。


「あれが、ヨールライ大陸最大の学府、アーバルト大学だよ」

「あれが…!」

「お城が大学って、すごいなぁ!」


 ルティとオークルは、遠くにそびえ立つ城を見て感動していた。


「俺も昔遠くから見たことはあるけど、詳しくは知らないんだ。どういう大学なんだ?」

「そういう話は、母さんのほうが詳しいよ。母さん、あそこで働いているもん」

「ハルテアのお母さんは、何を教えている人なの?」

「主に歴史を取り扱ってるよ。あとは、生徒会の顧問もしてる」

「せーとかい?」

「そう。一般的には、学校行事や部活動なんかの記録とか金銭管理とかしている組織。アーバルト大学はもっと特殊で、街の自治にも関わっているんだ」

「じゃあつまり、ハルテアのお母さんは議員みたいなものでもあるってこと?」

「直接議員名簿に名前があるわけじゃないから、違うけど似てるかもね」

「あそこに歩いているのは街の人?」


 オークルが指さしたのは、若い三人の女性だった。


 髪型は全員バラバラだが、着ているものが同じだ。茶色のブレザーに、赤いミニスカートを履いている。


「ああ、あれは制服だよ。アーバルト大学の。正確に言えば、女子生徒の、だけどね」

「可愛いね!ハルテアにも似合いそう!」

「ルティのそれが皮肉じゃないからこそ、ぐさっと来るんだよね…」

「男子生徒の制服はどういうものなの?」

「茶色のブレザーに、紺色のズボンだよ」

「制服って統一感があるからかっこいいよね」

「そうかなぁ?」


 何度か道を曲がったり、進んだりする。


 途中で、アーバルトの名物の一つであるという塩アイスクリームを食べたりしながら、やがて一軒の家の前に到着した。


「ここがハルテアの家?」

「そうなんだよねー…はぁ……気が進まない」

「かといって、ずっとここにいるのも迷惑にならないか?」

「それもそうなんだよー…」

「ハルテアの元気がいつになく無いね…」


 そうやって話していると、背後から声がかかった。


「ねーちゃん?帰ってきてたの?」

「げっ、アビット…!?」

「弟に対してげって何だよげって。邪魔だからさっさと家に入ろうよ。隣にいるの、ねーちゃんの友達?」

「初めまして」

「ふーん、女一人男一人…中性的なやつ一人か。ねーちゃんにしては珍しい?」

「ちょっと!失礼でしょ!」

「あんまり騒いでいると近所迷惑にならないか?」

「ほら、この人のほうがしっかりしてる。さっさと入ろう」


 アビットがルティ達の間をすり抜けて家に続く階段を登っていった。


「ハルテア、行こうよ」

「うぁー…頑張ろう…」

「家に帰る人の感想か、それ…?」


 家の中は、温かみのある場所だった。青緑色の壁紙には、家族写真と思われるものがいくつか掛けられていたり、幼子の描いた絵のようなものも掛けられている。


 観葉植物にはしっかりと水やりのされている痕跡があり、大きな葉っぱに水滴が滴っている。


「お邪魔します」

「た、ただいまー…」


 ハルテアが小声でそう言うと、女性が一人やってきた。


「待っていたわ、いらっしゃい。あなた達が、ハルテアのお友達?」

「はい」

「詳しいことは後で聞きたいから、先にリビングで待っていてもらえるかしら。アビット、案内お願いね」

「うん、分かった」

「ハルテアはここで話があるからね」

「ゔっ!」


 ルティとガイル、オークルの三人は、アビットに案内されてリビングに通された。


 大きな窓にレースの白いカーテンがかかっており、そよ風を受けてふわりとふくらんでいる。


 漆喰の塗ってあるテーブルは家族用にしては少し大きい。客人を迎える時にも使うのだろうか。


「あとで母さんから話があるとは思うけど、適当にくつろいでて良いよ」

「あ、ありがとう…?」


 他人の家に入ることなど旅に出てからしかしたことのない経験なので、上手くくつろげる自身が無かった。


 ルティはそのぎこちないままで椅子に着席する。


 閉ざされた扉の向こうからは、先程の女性のくぐもった声が聞こえてきた。内容ははっきりとは分からないが、トーンからしてハルテアを叱っているようだ。


「ハルテア、大丈夫かな…?」

「生憎俺は、反抗期に親に叱られるっていう経験がないからわからないな」

「さすがに生きてるとは思うよ?」

「あんたの中でうちの母さんはどういう人になってるの?」


 しばらくすると声がやみ、扉が開かれ、先ほどの女性と、へろへろになったハルテアが入ってきた。


「お待たせしました。今、お茶を用意しますね」

「ありがとうございます」

「母さん、おれ、何か手伝おうか?」

「じゃあ、お茶菓子の用意をしてくれる?」

「わかった」


 ハルテアの母親は、普通の母親らしく息子と接していた。


 これを見るとなおさら、ハルテアが一体何をしてあんなに怒られる事態に繋がったのかが分からない。


 かといって、今この瞬間彼女に訊くのは酷なことだと思われた。


 紅茶と茶菓子が並べられ、全員が着席する。


「改めまして、ハルテアの母のアルマイラと申します。こちらにいるのが、息子のアビットです」

「よろしく」

「私はルティです」

「オークル!」

「ガイルです」


 アルマイラは一口紅茶を飲んだあと、三人の顔をじっと眺めた。


「あの…?」

「あなた達がよければ、なのだけれど。年齢と誕生月も教えてくれないかしら?」

「え、何で?」

「母さんの教師スイッチが入っちゃったんだよ…」


 ハルテアが呟いた。どうやらこの反応はよくあるものらしい。


「えっと、私は十六歳です。生まれたのは十二月です」

「俺は一応十七歳だけど、あと二週間もしたら十八になる」

「自分は年齢も誕生月なるものも知らないんだ」

「あら、どういうこと?」

「これには複雑な事情があるんだよね…」


 オークルが育ってきた環境について全て話すには時間が足りないので、彼が記憶喪失である旨のみを伝える。


 それでアルマイラは納得したようだった。


「それで、なぜ年齢と誕生月を…?」

「彼から聞いたわ。あなた達、しばらくこの街に滞在するのでしょう?」

「はい」

「その間、何をするつもりなの?」

「ルティはやるべきことがあるから、それを進める。俺とオークルは特に決まってないな」

「やっぱりそうだったのね」

「今のこの時期で、母さんのやっぱりってことは、もしかして…?」


 ハルテアがそう言うと、アルマイラが宣言した。


「わたしが教えるわ。あなた達、模擬授業を受けなさい」

「やっぱりーーー!!!」

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