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最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第二章:紅色の決意
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2-1-外  名探偵ダディ・ポット

名探偵ダディ・ポットは、昔から名探偵だったわけではない。


 そもそも十代の頃は、ただの夢見る若者だった。


 学校を時々サボり、適度にアルバイトをして、両親の買い物に付き添ったりして、休日には友人と遊び倒す。


 そんな、ごく普通の若者だった。


 そんな彼がどうして突然探偵を目指し始めたかといえば、それは主に二つの原因がある。


 一つは、アルバイトの一環で子猫探しをしていたところ、子猫の行く先を当てるのが上達していたこと。


 もう一つは、ちょうど流行りの小説が探偵をテーマにした作品だったということ。


 小説を読破したとき、なんとなく、思ってしまったのだ。


──僕、探偵になれるんじゃないか。


──よし、やってやる!


 それからの行動は早かった。


 まず、探し物のアルバイトを増やした。


 迷子の子どもやペットを探す簡単なものから、失くしものを探すものまで。


 次に、新聞をよく読むようにする。


 探偵を目指す者なら、街で起こった事件のことについては知っておかなくてはならない。


 できるなら事件が起こったその瞬間に居合わせられれば良いのだが、それは難しいので、後日事件現場を見に行く。


 それから、困っている人を助ける。


 学校で恋愛に悩む友人の相談にのったり、先生の仕事の手伝いをしたり。部活動やサークルに色々と参加して知識と経験を蓄えたり。


 大学を卒業する頃には、若きダディ・ポットは街の中でも有名人になっていた。




 さてその頃ダディ・ポットの頭を悩ませていたのが、名前のことだった。


 当時のダディ・ポットは本名で活動していたのだが、どうにもこれが…ダサい。


 いや、本名そのものは両親がつけてくれた素敵な名前なのだが、探偵として、と考えるとなんだかダサいのだ。


 ちょうどその頃に出版された、愛読書の探偵シリーズで、主人公の探偵が偽名を使うシーンがあった。


「これだ!!」


 部屋の中、いや家の中を、本を片手に歩き回りながら、良い案は無いかと、ページを睨みつける。


 そうすることおよそ五分後。


 ガッシャーン、という衝撃と共に、若きダディ・ポットはその名を決めた。


「ダディ・ポット!それが今日からの僕の──いや、私の探偵ネームだっ!!」

「おい、──!俺の大事なポットを割っただろ!?」


 普段怒鳴らない父が怒鳴り込むレベルで大事にされていた、超高価なポットを犠牲にして、こうして、ダディ・ポットがこの世に名を馳せることになったのだった。




 結論から言えば、ダディ・ポットはすぐに有名になったわけではない。


 ヨールライ大陸の各国・各都市、村や集落にある程度留まり、いくつかの細々とした問題を解決しながら名前を売っていく。


 ようやく大陸中でも有名になってきたのは、ダディ・ポットが三十歳になる頃だった。


 久しぶりにアーバルトに戻ってきたダディ・ポットは、母校の大学で講演をすることになっていた。


 その時、出会ったのだ。


 未来のパートナーである、アルマイラと。


 それは、一目惚れだった。


 その日から、ダディ・ポットはアルマイラとよく接触するようになった。


「私と食事にいかないかい?」

「実はこの間、こんな事件を解決してね──」

「わお、君、大学教師を目指しているの?すごいね!あっちょっと!…何か怒らせること、言ったかなぁ?」


 微妙なすれ違いも何度かあったものの、ダディ・ポットとアルマイラの距離は、遠からず近からずで保っていた。


 ダディ・ポットが彼女に接触してからおよそ一年後のこと。


 彼女と明確に距離が縮まったと感じたことがあった。


 皮肉にも、それが、ダディ・ポットが名探偵になった瞬間でもあったのだが。




 アーバルト路面電車で発生したジャック事件を解決し、ダディ・ポットは一躍有名になった。


 たまたまその日、ダディ・ポットはアルマイラと共に件の車両に乗っていたのだが、彼女と二人で事件を未然に防いだのだ。


主にダディ・ポットが頭脳戦を制し、逃げた犯人をアルマイラの容赦ない剣戟が捉え逮捕にこぎつけた。


 一度に数十人の命を助けたダディ・ポットはその後、交易の都合上問題の多いアーバルトにおいて大活躍を重ねる。


 複雑で難解な事件をいくつも解決している間に、いち探偵であるだけだったダディ・ポットは、ヨールライ大陸でも有名な名探偵になっていたのだ。


 その後、アルマイラと結婚し、二人の子どもに恵まれ、ダディ・ポットは幸せな日々を送っている。


…………………………………………………………

一年前に突然、愛猫のトルテと共に家出した愛娘、ハルテアと再会した。


 ハピア駅での事件を、娘と、娘の新たな友人達と共に解決し、ダディ・ポットは目的地へ──ファルトケルトへと向かっていた。


 到着までおよそあと三日。それまで何をするかといえば、現状分かっている情報の整理といったところか。


 調査もできれば良かったのだが、今から向かう乗客が仔細を知っているわけもないので、それは到着してからにする。


 手元の書類カバンを開き、今回の事件についてまとめたファイルを取り出した。


 『ファルトケルト連続少女誘拐事件』。


 犯人の動機も犯行声明も無い状況だったから推理がまるで進まなかったが、ハルテアの友人の一人が情報を提供してくれたおかげで少しは推理も進みそうだ。


 出発前に彼に渡されたメモに一通り目を通す。


 フィルガレ大陸の青の帝国第二皇女は、配下を若い──幼いとすらいえる年頃の少女で固めている。


 その目的は利己的なものだ。ただ自分より幼い女の子に給仕されたい。それだけ。


 おもわずため息が出るが、そこで止まるわけにはいかない。視線を下にずらし、次のメモを見る。


 これは己がまとめたものだが、被害者の名前や年齢など、分かっている情報をできるだけ羅列したものだ。


 被害者は合計七人。うち二人は目撃情報があるが、残りの五人は不明。


 現在の居場所がフィルガレ大陸の青の帝国であるならば、身柄の解放は娘達ができるだけのことはしてくれるだろうが、万事上手くいくとも限らない。


 そういえば、昔、「これからはフィルガレ大陸で暮らすつもりだ」と言っていた爺さんがいたような。


 彼なら、少々…かなり癖があるが、娘達の助けになってくれるだろう。


 さっそく便箋を取り出して、彼に手紙を書く。


「たしか…スペルはこうだったような…」


 本人はそう思っているが、スペルはぐちゃぐちゃだ。


 幸い郵便番号と住所は間違っていないから、届いたには届いたのだが、宛先の老人は手紙のスペルを見て、二日は頭を悩ませることになる。


 ダディ・ポットは手紙に封をして、次の書類に目を通した。


 半分仕事モードではあるが、残り半分は父親モードだ。両目と右脳は現在見ている書類に集中しているが、左脳は娘のことを考えていた。


 見ない間に娘は立派に成長していた。身長もそうだが、心も成長しているようだった。


 アーバルト以外の国には、ダディ・ポットかアルマイラが必ず付き添っていたから、国外での生活は初めてだったはずなのに、トルテと二人三脚で生きてこれたのだろう。


 自信もたっぷりついたようすで、父親として、とても誇らしかった。


 話を聞いた限りでは、様々な事件をすでにいくつか解決している様子だったし、正直、同じ年頃のダディ・ポットと比べれば躍進中といえる。


 娘がこれからどんな冒険や事件に立ち向かうのか。探偵として期待したい反面、父親として心配する気持ちもある。


 だから、出発前に、ダディ・ポットは彼女の友人達にお願いしていた。


 きっと彼女を支え守ってくれるように、と。


 多分ハルテアはずんずんと前に進んでいってしまうタイプだから、止めるのは難しいだろうけれども、隣に並んでいてあげてほしい、と。


 そうしたら、三人とも、当たり前だ、と頷いてくれた。


 彼らならきっと、旅の終わりまでハルテアと一緒に進んでくれるだろう。


 願わくば、彼女ら彼らを傷つける人が現れないように。


「ハックシュン!…誰かに噂でもされてるのか?」


 ダディ・ポットは今日も走る。


 それは世のため人のため、時々家族のため。


 名探偵はいつも、誰かを笑顔にするためにあるのだから。 

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