2-1-10 未来の探偵への手紙
「あーーっ!あの人、いつの間にか逃げてる!」
ハルテアが叫びながら屋上を駆け回り、ジョンソンを探したが、彼はすでにどこにもいなかった。
「もうっ!捕まえようと思ったのに!」
「まぁまぁ。また次に捕まえれば良いんじゃないかな」
「トルテは何でそんなに落ち着いていられるの?」
「ボクは大人だからね」
ぷんすかと怒っていると、父親と仲間達が駆け寄ってきた。
「ハルテア、大丈夫!?」
「あたしは大丈夫──わっ!」
ダディ・ポットが勢いのままハルテアを抱きしめた。
「心配したんだぞ、ハルテア」
「あー、たしかに父さんはびっくりさせたかも…」
「ダディ・ポットだけじゃない。俺達も心配だった」
ルティとオークルも、心配していたと口々に言う。
相当な心配をかけていたことに今さら気づき、ハルテアは謝罪した。
「ごめん!身体が先に動いて、後のこと何にも考えてなかった!」
「もう二度としないでくれ。私の寿命が縮まる…」
「できるだけ気をつけるよ」
これからも冒険の旅を続ける以上、確約はできない。だから、父親には悪いけれども、それ以上は無理だと言うしかなかった。
「すっごく疲れちゃった!早く部屋に戻って寝よう?」
「自分も、クタクタだ…」
「オークルは、魔物以外の生物と戦ったの、初めてだもんね」
父親の腕からするりと抜けたハルテアは、出入り口に向かって走り出した。
「さっ、皆!誰が一番に部屋に到着できるか競争だよ!」
………………………………………………………
ハルテアはよっぽど疲れていたのか、翌日の午後になってようやく起きてきた。
「おはよう、ハルテア。…こんにちは、のほうが合っているかな」
「おはよう、ルティ!ルティは寝れた?」
「ぐっすり眠れたよ」
結局昨夜は、誰も競争に勝たなかった。
皆疲れていて鍵を開けるのに手間取り、同時に部屋を開けたのだから、勝ちようが無かったのである。
強いて言うなら、戦っていないダディ・ポットはきびきび動けていたが、彼は娘の無事を心配して後ろで見守っていた。
「もうこんな時間ってことは、父さんはもう出発したのかな」
「まだもう少し後だと思うけど…見送りにはいかないの?」
「うん。父さん、急な仕事が入ることもしょっちゅうだったから、見送ること自体あんまりしないんだよね」
「忙しい人なんだね」
結界を張った張本人がハピア駅を離れたことで結界も解除され、列車は予定通り運行していた。
ルティ達は本当は今朝の列車に乗ってアーバルトに向かう予定だったが、ハルテアが疲れているのもあって、出発は翌日に延期していた。
「ルティはもう魔法は使えるの?」
「うん。ほら」
ルティはそう言って、水のリンゴを作った。流れる水はリンゴの芯がある部分で上昇し、再び頂上で流れている。
「おー、さっすがルティ!キレイだし再現度高いね!」
そうやって話していると、扉がノックされる。
鍵を開けると、扉の向こうにガイルとオークル、トルテがいた。
「やっと起きたか、ハルテア」
「おっはよう!二人は寝れた?」
「自分はたっぷり」
「俺はいつも通りに寝ていつも通りに起きたよ」
二人と一匹を部屋に招き入れる。
「あれ、オークルが持ってるそれって…」
「このぬいぐるみ?」
「気に入ったの?」
「気に入った!」
オークルが握っていたのは、昨日見つけたカニのぬいぐるみだ。
「ふわふわもちもちで握り心地が良いんだよ」
触ってみる?と言われぬいぐるみに触れる。たしかにふわふわもちもちだ。でも、
「あたしにはトルテがいるから、大丈夫だよ!」
トルテはもちもちではないが、ふわふわだ。撫で心地も良い。
「トルテ、昨日はありがとう!」
「作戦が功を奏したね」
「どうして屋上だって分かったの?」
「ボクはハルテアの相棒の探偵猫だよ。推理したのさ」
「父さんもトルテも、推理だけで場所を当てたんだね。あたし、まだまだだなぁ…」
「そうだ、ハルテア。手紙が届いていたぞ」
「手紙?」
ガイルが差し出した封筒を開くと、たしかに手紙が入っていた。
『今日は楽しい夜を過ごせたよ。君が一人前になったら、また顔を出すとしよう。それまではさようならだ。鍵は返しておくから安心してね』
「これって、ジョンソンさんの手紙…?」
「そうみたい。ねぇルティ、火を借りても良い?」
「え?火?」
ルティが指先に炎を呼び出す。
ハルテアはその炎に手紙をかざし、引火させた。
「は、ハルテア!?」
「見てるとむしゃくしゃしてくるんだもん」
手紙はあっという間に灰と炭になり、落ちた塵は全て拾ってゴミ箱へ。
「良かったの?」
「あれが予告状とかなら証拠として保存しておくんだけど、あくまで私宛に出された手紙で、しかも事後報告でしょ?大丈夫でしょ」
ベッドに腰掛けて伸びをする。起きてからあまり時間が経っていないのもあるが、身体はすっきりしているのに、頭が疲れていた。
「やっぱり、あたしは探偵の"卵"だよ。まだまだ一人前にはほど遠いよ」
「昨日のハルテア、かっこよかったよ」
「そうかな?」
「ああ。結構助けられたからな」
「ハルテア、すごい!」
「えへへ…」
褒められるのにはあまり慣れていないけれど、褒められるのは心地が良かった。
「さてと。次はいよいよ、アーバルトだね」
「そうだね」
「本の進捗はどのくらい?」
「あと少し解読したら、意味を考える範囲になるかな。全体を通して何が言いたいのかを考えないと、お母さんが何で私に神様を復活させたいのかが分からないから」
「お母さんのヒント、見つかると良いね」
「うん。ハルテアは、ハルテアのお母さんと仲直り、だよね」
「ゔっ…本当にどうしよう…」
ハルテアは頭を抱えた。あの厳しい母親と仲直りをするイメージが、まるで湧かない。
「私達も何か手伝えることはあるかな?」
「…一緒に来てくれる?」
「もちろん」
「ありがとーー!本っ当にありがとう!お願いするね!!」
「う、うん」
ハルテアの勢いにルティが驚くが、ハルテアは申し訳ないと思う感情と、友達が来てくれるという喜びとがないまぜになって抑えられていなかった。
「ハルテア、落ち着きなよ。ルティが困っちゃうよ」
トルテに止められてようやく、ハルテアは落ち着いた。
「何事も無いと良いんだけどな」
「ガイル?」
「いや…ここのところ、事件続きだっただろ。たまには、何事もなく終われれば良いなって」
ノアラターンでの依頼に始まり、ヒラテルヒアの奥地の冒険、センターでの激闘ときて、今回の事件だ。
よく考えてみればたしかに事件続きである。
「そうはいっても、アーバルトだって魔物は出るよ?たまにだけど」
「そのくらいなら事件とは言わないよ」
「魔物退治だったら、自分も頑張るよ!」
オークルがやる気を出していた。
「おお、オークルやる気だね。あたしが寝ている間に何かあった?」
「ああ。オークルって、どちらかといえば支援職で、自衛手段は何も持っていなかっただろ。それだと色々大変だろうと思って、武器を渡したんだ」
「これ!かっこいい!」
「投げナイフ?」
「危ないからしまっとけ。そう、投擲が得意だって言ってたからな」
「今朝、おもちゃのダーツで遊んでみたけど、オークルが一番得点稼いだもんね」
「あたしが寝ている間に色々やってる!?あたしも遊びたい!」
「ならまずは腹ごしらえからだな」
昨日の夕食以来何も食べていないハルテアのお腹が鳴る。
「じゃあ、お店に行こう!」
「ハルテア、まずはパジャマから着替えて!」
少々騒がしいけれども、この賑やかさが心地良い。
ハルテアは、この仲間たちのいる空間が、大好きだと叫びたいくらいだった。




