1-6 白猫の言葉
翌朝目覚めたルティは、いつも早起きのガイルがまだ部屋の中にいることに気づいた。
「ガイル?もう起きてる?」
閉ざされた扉に向かって声をかける。
と、すぐに扉が開かれ、焦ったような、不安が的中したかのような顔をしたガイルが現れた。
「ルティか。…悪い、ちょっとトラブルが発生した」
「トラブル?どうしたの?」
「刀が無いんだ」
扉越しに部屋の中を覗く。
ルティが泊まった部屋のそれとほとんど同じのその部屋は、ベッドのそばにガイルの少ない荷物がある程度で、荒らされた形跡はない。
そして、彼の刀がすっかり見当たらないこともすぐに確認できてしまった。
「クソッ、やっぱりすぐに追いかけていれば…!」
「何かあったの?」
「夜中、窓が開いた音がした。何か入ってきたのかと思ってある程度調べたんだけど、特に何も無かった。
でも窓は空いていたんだ。俺は寝る前に戸締りはしっかり確認したから、おかしいと思ったよ。
外に何かいないか見たけど、暗くてよく分からなくて…そのまま、また寝たんだ。刀が無いのに気づいたのは、起きてからだ」
まだほんの数日しか共に行動していないものの、ルティは、ガイルが物の管理をしっかりと行っていることはなんとなく気づいていた。
そのガイルが、目立つ刀を無くすとは、たしかにおかしい。
「ねぇ、刀って…鉄で、できてるよね?」
「ああ、そうだけど。…何か?」
「この村で起きている事件と、条件が一致してない?」
「たしかに…いやでも、細かいことは今日確認してから、本格的に動く予定で……まぁいい、可能性はたしかに高い。昨日のその二人に話を聞きに行こう」
ルティが昨日、二人の鉱夫と出会ったところに行くと、約束した通り、あの二人がそこにいた。
「紛失事件について訊きたいんだろ?」
「話が早くて助かる。できれば、紛失されたもののリストか何かはないか?」
「えーっと、それならあっちのカバンに…ほれ」
渡されたリストには、数十の列に渡って紛失されたものが記載されていた。
「ゼンマイ、螺子、ボルトにハンマー、子供のロボットのおもちゃにフライパン…やっぱり」
「お?何か分かったか?」
「二つ分かったことがある。これは紛失事件じゃなくて盗難事件であること、相手は鉄製の何かを盗んでいることだ」
「たしかに件数は多いと思っていたが…盗難か?」
「ああ。俺の刀が盗まれた」
そうしてガイルは二人の鉱夫に、今朝あったことを話して聞かせた。
「なるほどな…説得力があるってもんだ」
「俺達はどうすりゃいいのかねぇ…?」
「ひとまず、村の人に、鉄製のものを盗まれないよう注意するように呼びかけて下さい。それからできるなら、村の偉い人に、私達が色々と調査することの許可を貰えるかも訊いてくることってできますか?」
「あぁ、そんなことだろうかと、村長には話は通してある。じっくり探索して良いってさ」
「ありがとうございます。行こう、ガイル」
ルティ達は、まず広場にいた村人に、最近怪しい人を見かけなかったかを訊いて回った。
「この村はもともと、人の交流が盛んだからねぇ。ものすごく怪しい風貌をしていなければ、あまり目に止まらないんだ。悪いね」
「仕事道具を盗むメリットなんざ、目の敵の収益をほんのちょっぴりだけ抑えられるだけじゃないか。そんなちょびっとしたもの、盗むやつがかえっているか?」
「悪そうな人は、見かけなかったよ?」
しばらく聞き込みを続けても、同じことばかり返ってきて、まるで進展しなかった。
「うーん、これじゃあ、分からないね…」
「手がかり無しか…?他の人にも聞き込みするとか──」
「ねぇねぇ、ちょーっとそのリスト、見せてくれない?」
二人が振り向くと、そこには一人の少女がいた。そばに連れている白猫が、少女に身体をこすりつけている。
「まぁ、別にいいけど。…ほら」
「おっ、ありがとー。……ふむふむ、やっぱりそうだね」
「何か分かったの?」
「ふふん、なんとなんと、犯人までわかっちゃいました!」
「えっ!?これだけでか?というか、誰なんだ?」
「あたしについてくれば、分かるよ〜」
ルティとガイルは、謎の少女に続いて来た道を戻って行った。
「鉱夫のおじさーん!」
「ん?おや、さっきの二人と…その子は誰だ?」
「よくわからないんだが…さっき出会った」
少女は二人の鉱夫のそばに近づくなり、大声で宣言した。
「連続盗難事件の犯人は、あなたたち二人っ!ですっ!」
「はぁ?犯人がわかるって言っていたからついてきたけど…適当すぎないか?」
「ちゃんと証拠はあるよ!状況証拠が!」
「状況証拠しかないんじゃないか…?」
「そうとも言う!」
ガイルが呆れている間に、少女が証拠…状況証拠について解説を始めた。
「まず一つ目に、昨日と今日に限らず、ここのところ数日間、お二人はずっとここにいた。この時間、他の鉱夫は皆、お仕事のために坑道に潜っているはずなのに!
二つ目に、この二人が頑張って探している間、お二人は何もしていなかった!
三つ目は、私の第六感が、あなたたちが犯人だと告げている!」
「やっぱり適当すぎじゃないか…?」
「う、うん…」
「ちょっと!何で信じてくれないの?」
「やれやれ、やっぱりこうなっちゃったか…代わるよ」
知らない声がしたと思えば、今度は少女の白猫が一行の中心に歩み出た。
「ボクのご主人サマがごめんね?ちゃんとしたことを言えなくてさ。ボクのほうから、ちゃんとした証拠を挙げさせてもらうよ。
まず、君たちのことを調べさせてもらったよ。この村の鉱夫は、村役場に届け出をしている。君たちの外見年齢からおおよそ絞り込んで書類を探した。
それから、その少年が言った、夜中の影についてもこちらで独自に調べさせてもらったよ。この村には常に暗い場所があるからね、そこで生まれた存在についても気を配るべきだと考えたんだ。
結論を言えば、君たち二人の鉱夫の登録は無かった。それどころか、生まれた記録も、引っ越してきた記録も見当たらなかった。
そして、君たちが今立っているその日陰。どのくらい暗いのか、調べてみたんだよ。そしたら、坑道の入口近く、最も明るい場所と同じくらいの暗さだってわかった。
これに加えて、ご主人サマの集めた小さな証拠を合わせてみようか。君たちはこの場を動かなかった。
なぜか?
それは、君たちが動く必要性が無かったとも捉えられるし、君たちが動けなかった、とも捉えられる。
そうだろう?
カゲナゴリくんたち?」
白猫が喋りきると、二人の鉱夫はニヤリと笑った。
「よく喋る猫ちゃんじゃないか」
「猫はニャーニャー鳴いてれば良かったものを…おい、ずらかるぞ!」
そう言って、二人の鉱夫は、日陰つたいに逃げ出した。
「っ、待て!」
「ガイル、そっちお願い!」
ルティは左に向かった鉱夫を追いかけることにした。




