1-5 ある事件
「俺たちは朝飯が遅かったから昼飯はまだなんだが…マヒル、あんたはどうするんだ?確か、フクロウってネズミとかミミズとか食べるよな?」
(み、ミミズ…!?)
「えぇ、まぁそういうのを好む仲間が多いですね。わたくしもネズミは好きですが、昆虫よりかはコウモリとか雛鳥のほうが好みですね。一応わたくしも猛禽類、肉食の鳥ですし、こうまで身体が大きいと、結構沢山食べないといけないんですよ」
ルティが見上げれば、人の二倍くらいの体長のフクロウがにこやかに喋っている。その頭は時々低い樹木の枝にこつんごつんとぶつけているのが気になるものの、当人…当梟は気にしていない様子だった。
「そういえば、どうしてマヒルさんはお喋りできるんですか?」
「おや。今まで、喋る動物に会ったことが無いのですか?」
「ちょっと、特殊な環境にいたもので…」
「ふふ、冗談ですよ。確かにこちらの大陸では、まだ喋る動物、特に鳥類はかなり珍しいですからね。お教えしましょう。
というのも、わたくしはマソコウモリから喋り方を教わったのでございます。捕食しようとしたところ、会話を持ちかけられまして。
話し方を教わる代わりに見逃してほしいと言われ、当時のわたくしは若かったこともあり、興味半分、どうせ他の獲物も見つかるだろうという慢心半分でこの話を買ったのでございます」
「マソコウモリって喋れたっけ?」
「ええ、爬虫類の中でもマソ科に分類されるものは、言語能が発達しておりまして。マソコウモリは非常に早口で同じくらい非常に高い声で話しますので、人の耳では、相当注意しないと聞き取れないと思いますが」
「ルティが最初に追われていた時も、ルティを餌だと勘違いして喚き立てていたぞ」
「そ…そうなんだ……」
「話を戻しますと、その時に喋り方を教わったおかげで、獲物を逃がしその日は空腹に苦しみましたが、以後獲物を捕まえやすくなったのでございます。これは有意義な技術を買ったぞ、と思ったわたくしは、時折旅の人についていって会話を教えてもらいながら暮らしているのでございます。思えば、わたくしが昼に活動するようになったのも、あのあたりからでしたかね」
感慨深げにどこか遠くを見つめるマヒルは、また木の横枝に頭をばしっと打ち付けている。
ルティは、マヒルの頭のダメージを心配しつつも、現在探している女の子ハルテアに思いを馳せていた。
(見た目は分からないけど、きっとすごく頭が良いんだろうなぁ…。もしかしたら、友達になれるかな)
二人と一羽は、よく整備された街道に出ていた。石畳のレンガが道いっぱいに敷き詰められ、馬車などでも通りやすいように配慮されている。
「ここをもう少し行くと、分かれ道にさしかかります。右手がティレ村、左手がカカ村へと続くルートになります」
ふと、ルティは歩く速度を落とした。会話に夢中になっているガイルやマヒルは気づいていないのかもしれないが、視線を感じたのだ。
しかし、しばらく辺りを観察しても、何かがいるような気配は感じられない。
きっと、獣の視線を、人の気配と勘違いしたのだろう。
「ルティ?どうしたんだ?」
「ううん、何でも無いよ」
………………………………
「それでは、わたくしはここで。お互い、朗報を期待しましょう」
「何か手がかりを見つけたら報告するよ」
分かれ道にさしかかり、マヒルはティレ村へ続く道を、二人はカカ村に続く道を進んだ。
しばらく歩くと、遠くの方に茶色の山が見えてくる。低い山だが、奥行きのある山で、よく見れば遠くの方に低い山脈が連なっている。
「あの低いほうが、鉱業の村のカカ村のあるほうだ。マヒルが向かったのは、あっちの高い山のあるほうだな」
「そういえば、ガイルはこの辺りに来たことあるの?地図を見ただけだと、ちょっと分かりにくいと思うけど」
「カカ村のほうは行ったことがある。故郷の国と貿易関係にあったから、戦争が大々的に始まるまでは、護衛としてこっちの視察に同行したことがあるんだ」
「やっぱり、私よりもガイルのほうがここの地形に詳しいんだね…」
「ずっと城に居たんだろ。俺だって、何も無ければ…それこそ、国の人が俺を見つけなければ、同じように故郷に閉じこもっていただろうからな。それに、ルティのほうがこれからの旅路、楽しめるんじゃないか?」
「そうかな?」
「ああ。俺だって、こっちの大陸全部を知っているわけじゃないから、俺の知らない面白いところも沢山あるだろうけど。
ルティは、それを自分の目で、手で、見つけることができる。目新しいものを見たり触れたりするのは、毎日同じことの繰り返しをするより、ずっと楽しいからな」
そうして一時間ほど街道を進むと、『カカ村へようこそ』と書かれた石門が見えてきた。
「思ったより早く着いたけど…もう夕方か。夕飯を食べられる場所を探して…宿も見つけないと」
「宿屋を探すのは、私がやるよ」
「部屋の取り方は分かるか?」
「それくらいは予習済みだよ」
二人は村の入口で分かれ、ガイルは食堂を探しに行ってしまった。
ルティは一人で村を歩きながら、宿屋らしき場所を探す。
「──やっぱり、まだ見つかりそうにないか?」
「こっちも探してはいるんだがねぇ…それらしいものが全く無いんだ」
ふと聞こえてきた会話に注意が向く。
二人の鉱夫らしい男が、道の端で話し合っていた。
「やっぱり、外のやつにも協力を依頼したほうが良いんじゃないか?」
ルティは、勇気を出して二人に近づいた。
「あのぅ…どうかしたんですか?」
「ん?君は…旅でもしてる人かい?この辺りでは見かけない顔だ」
「はい、そうです。その、聞くつもりは無かったんですが、話している内容を聞いてしまって」
「あぁいや、まぁ隠すようなことでも無いから大丈夫だ。どのみち、そろそろ他のやつにも共有しないといけないことだったからな」
「…実は最近、坑道でなくしものをするやつが増えていてね。それも、仕事道具のツルハシだったり、家の鍵だったり、時計だったりでさ。まぁどれも、なくなったら困るやつばかりだから、報告がたくさん上がったんだ」
「それが数人程度なら、おっちょこちょいが重なっただけだと思えたんだが…二日間で、五十人も声が上がったんだ。流石に数が多すぎるんで、調べる必要があるんだけどな。調べても、何も見つからないんだよ、なくした物も、手がかりも」
「なぁあんた、こういう事例に覚えがあったりしないか?」
「私は、あんまり…でも、一緒に旅している人は詳しいかもしれないんです。聞いてみますね」
「もしかしたら、これで何か進歩があるかもな…」
ルティは、二人の鉱夫におすすめの宿屋を教えてもらい、その場で別れた。
「ルティ?随分遅かったけど…大丈夫か?」
「うん、大丈夫。それよりガイルに聞きたいことがあるんだけど…」
食堂で夕食を食べながら、ガイルに先程の二人との会話を教える。
話し終えると、ガイルが言った。
「あいにく、俺はそういった事例はよく分からない。ただ、引っかかる点があるんだ」
「引っかかる?」
「あぁ。…詳しいことは、明日その二人に確認しないと確かなことは言えないんだけどな。…鉄が怪しいんじゃないか?」
「鉄?…あ、そっか」
「ツルハシ、家の鍵、時計…どれも、鉄を含んでいる。とはいえ、まだ憶測の域を出ない。明日、しっかり確認しよう。なんだか、胸騒ぎがするんだ」
「…私も」
その夜は、互いに奇妙な不安を抱えながら、眠りについた。




