2-1-8 ハピア駅の事件(2)
三枚のカードには謎の文章が書かれており、小さな鍵が一つ貼り付けられていた。
「『二・小さなものから大きなものまでものづくりをする上で欠かせないものが並ぶ場所、鏡の横』?なにこれ?」
「『一・白と黒が音を奏でる場所、笛の横』ってこっちは書いてある」
「『四・暗闇の中で光が演じる場所、C』だって」
ハルテアとルティ、オークルがそれぞれにカードに書かれていた文章を読み上げた。
「共通していることは、最初に数字が書いてあることと、特定の場所を示していることくらいか」
「あたし達はここから出られないから、それが指す場所って必然的に商業エリアになるよね?」
「そう思って地図はいくつか貰ってきた」
「さっすが父さん!」
ダディ・ポットは、手に持っていた小冊子を人数分配った。
「頭の文字がフロア階数を示すなら、それぞれ、一階、二階、四階だろうな」
「フロアが絞り込めたとしても、お店の数が多すぎて場所が分からないよー…」
ハピア駅はヨールライ大陸でも最先端かつ最大数の店舗数を持つショッピングモールでもあるのだ。
「いや、ヒントはかなり多いほうだぞ?二階は小物売店を、一階は楽器店を、四階は劇場を探せばいいだけだし」
ダディ・ポットがそう言い、地図の三点をそれぞれ指さした。
「私の推理が正しければ、おそらく小さな箱か何かが置かれているはずだ。鍵はそれを開けるためにあるはずだ」
「そっか。じゃあ、箱を開けるだけなら結構時間の余裕はあるんだね」
時刻は現在、午後七時になろうかという頃合いだった。
「いや、そうとも限らない。私の予想が正しいならば、次のヒントが入っているだろうからな」
「えーっ、それは面倒…っていうか、父さん、何でそう思うの?」
「探偵の勘だ」
「そう言って、本当は計算したからだろう、ダディ・ポット?」
トルテがそう指摘すると、ダディ・ポットは、
「お前には隠し事はできないな。というか、たまには私だって格好つけたいんだよ。良い響きじゃないか?探偵の勘だ、って」
「探偵というものはあらゆる可能性を考慮しながら動くものだって、前に言っていた気がするけどね?」
「トルテ、探偵というものは奥が深くてだな──」
「父さんもトルテもそこまで。…やるべきことが分かったなら、早速行動しようよ。誰がどこに向かう?」
「オークルは楽器に詳しいみたいだし、楽器店が良いんじゃないかな」
「俺は四階に行こうかな。ルティはどうする?」
「うーん、私もガイルについて行こうかな?」
いつの間にか順調に行き先が決まっていき、ハルテアとダディ・ポットが消去法で小物売店を担当することになった。
「トルテはどうするの?」
「ボクみたいな猫が商業エリアで自由に動けると思うかい?ボクはお留守番だよ」
「たしかに…なるべく早く終わらせて、戻ってくるね!」
「気をつけていってらっしゃい」
「……ねぇ、トルテ。ここの鍵、開けておくからさ…」
トルテの耳にこっそり囁く。
「問題は場所が分からないってことなんだけど」
「なるほど。ボクも考えてみるよ」
「そしたら、来てくれる?」
「もちろん。さ、皆が待ってるよ」
……………………………………………………
オークルがやって来たのは、明るい光に照らされた楽器店だった。
入口には弦楽器、特にギターやベースの類が置かれている。オークルにとっても、馴染みの深い楽器類だ。
店員に挨拶を交わしながら店の奥に進み、ハルテアが教えてくれた場所を探す。
「ピアノ、ピアノ…あ、これかな」
オークルが想像していたのは、舞台の上で黒く輝くような大きなグランドピアノだったのだが、小さな店にはそこまで立派なものは置かれていなかった。
代わりに置かれていたのは、家庭にも置けるサイズのピアノだ。
「笛の横…笛の…、見つけた!」
笛──フルートの並べられている横に、黒くて小さな四角い箱が置かれている。
持ってきておいた鍵を使って中を確かめると、赤いカニのぬいぐるみが入っていた。ふわふわとしていて、握り心地が良い。
「これも何かのヒントなのかな…?」
「あの、お客様…?一体何をしていらっしゃるんですか?」
オークルの背後で、女性店員が困ったように声をかけてきた。
それもそうだ。楽器を見たり触ったりするのでもなく、商品を探している様子でもなく、カニのぬいぐるみをいじっている青年がいたら誰でも気になってしまう。
「あっ、えっと、すみません!」
………………………………………………………
エスカレーターを使って四階に登り、ルティとガイルは映画館にやって来た。
「こういう風に、映画館として独立した形じゃなくてフロアの一つのスペースとして映画館を設置したのは、世界でもハピア駅が最初らしい」
「ガイルは映画館に来たことはあるの?」
「無い。利用方法は本で知ったけど、見たことも来たこともない。そもそも、フィルガレ大陸には最近まで映画館なんて無かったはずだ」
「私も無いよ。お互い初めてだね」
「…これが…じゃなくて…なら……のに」
「ガイル、何か言った?」
「いや、何でもない」
二人は受付に向かった。
「いらっしゃいませ。ご希望の映画はどちらになりますか?」
「あー、えっと、変な注文なんだけど、Cスクリーンでやっている映画は何だ?」
「え?Cスクリーン、ですか?」
「ああ」
受付のスタッフが困ったように書類をいくつか確認していた。
「申し訳ございません、本日、Cスクリーンは何も上映しておりません」
「…ここは、正直に話しておいた方が良いか。信じられないかもしれないけど、実は俺達は…」
ガイルが受付スタッフに、自分達二人が事件解決のために物探しをしていること、その場所が映画館のCスクリーンにあることを話して聞かせた。
「なるほど。お客様からお話は伺っております。店長に確認しますね」
「ああ、頼む」
受付スタッフが店長だという男に話を引き継ぎ、ルティ達は男に案内されて特別にCスクリーンに入った。
「要件はすぐに済むはずだ」
「かしこまりました」
ずらりと座席が並び、壁一面には白いスクリーンが設置されている。
中央の座席に、黒くて小さな四角い箱が置かれていた。
「これだな」
「はい、鍵」
「ありがとう」
鍵を開けやすいようにしゃがみ、ルティから受け取った鍵で錠を開ける。
中に入っていたのもまた、小さな小箱だった。
「それ、何?」
「開けてみるか」
箱を開けてみると──中には、指輪が一つ入っていた。
「指輪…!?」
「ガイル、よく見て。これ、おもちゃだよ」
「え?あ…本当だ」
少々ガイルが動転したものの、箱の中にはおもちゃの指輪以外何も入っていない。
「これが、何かのヒント…?」
「たしかなことは分からないけど、ハルテア達と合流してみよう」
「うん、分かった」
ルティは、持ってきておいた赤色のペンを取り出した。
「この魔法は使えるみたいで良かった」
「結構便利だよな、それ」
……………………………………………………
ハルテアは、ダディ・ポットと一緒に二階の小物売店に足を向けていた。
「父さんはさ、どこまで読めているの?」
「最近読んでいる小説か?そうだな、主人公が恋人と別れたあたり──」
「父さん、とぼけなくて良いよ。父さんのことだから、あたしと一緒で犯人はもう分かっているんでしょ?」
「おや。ハルテアももう分かっていたのか」
「今回のはね。ビギナーズラックならちょうど良いかもしれないけど」
「ちなみにお前は誰だと思う?」
ハルテアが犯人だと思う人物の名前を挙げると、ダディ・ポットが同意を示した。
「だろうな。居場所は分かるかな?」
「そこまでは分かんない。父さんは分かるの?」
「この建物の構造を考えると、おそらくここにいるだろうと推測を立てることはできる」
「ヒントくれない?」
「彼の立場…犯人の立場になって考えると良い。何の目的で今回の事件を起こし、そのためにどこにいたほうが動きやすいか」
「その目的が、まだ分からないんだけど…?」
「ふふ、ハルテアもまだまだこれからってことだな」
そうやって話しながらも、二人は店の中に入り鏡を探していた。
一通り店内を歩き鏡を探すが、化粧品売り場にしか鏡が見当たらない。だのに、それらしいものは見当たらなかった。
「手洗い場とか?」
「行ってみよう」
果たしてそこにあった。
黒くて小さな四角い箱の鍵を開けると、中からもう一つ別の鍵が現れる。
「これ、どこのだろう?」
「犯人がいる場所だ」
「それ、あたしが答えを導けってことだよね?」
「さぁ、やってみてくれ」
ハルテアは、父から貰ったヒントを頼りに鍵が刺さる場所を考えた。
「鍵が必要な場所ってことは、普段は鍵のかかっている場所で…それから、あの人がいそうな場所…?」
手に持っていた地図を眺めて、答えに近づく一文を見つけた。
「父さん、今って何時?」
「午後八時だ」
「ってことは…分かったよ、父さん!」
「なら、向かおうか」
「ちょっと待って、ルティ達と合流しないとだから!」




