↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第二章:紅色の決意
58/68

2-1-7 ハピア駅の事件(1)

列車のスピードが徐々に遅くなり、やがて停車する。


 この列車の終点駅であり、アーバルトに向かうための中継駅、ハピアに到着したのだ。


 列車に乗っていた乗客が、各々の荷物を抱えて次々と列車を降りる。


 ルティ達もまた、同じように列車を降りていた。


「アーバルト行きの列車は、明日出るやつに乗るんだ。今夜は、ハピア駅のホテルに泊まるよ」

「ルティ、オークル。ハルテアや俺とはぐれないように気をつけろよ。人も多いし、ハピア駅って結構大きいから道に迷いやすいし」

「そうなの?」

「ああ。びっくりするくらい」


 そう話すガイルとハルテアの後ろに続いて、ルティとオークルは、階段を登ったり、長い通路をいくつか歩いたりした。


 通路の横には何箇所か小窓があって、そこからは、異なる列車がいくつも止まっているのが見えた。


「けっこう歩いたけど、まだつかないの?」

「あとちょっとで商業エリアだよ!頑張って!」

「商業エリア?」


 二人が首を傾げていると、広い空間に出た。


 そこは今まで、ルティが見たことがないほど広い空間だった。


 高さは四階以上はありそうで、天井のシャンデリアが小さく見える。各階にランプが設置されているのは、シャンデリアだけでは明かりが足りないからだろう。


 一階部分はホールになっていて、列車を利用する人々や駅員が多数すれ違い、それぞれの目的地に向かって歩いていく。


「正面に見えるのが全部、商業エリアだよ!」


 ハルテアが指さした先には、多種多様な店舗が並んでいた。


 飲食店に服飾の店、本屋に寝具店、映画館もある。


「ヨールライ大陸のチェーン店で、ハピア駅に無い店は無いって言われているくらい、お店が多いんだ!」


 ハルテア曰く、ここから見えるのはほんの一部で、奥の通路を進めばさらに店舗があるという。


「で、こっち側が、宿泊エリアになってるの。色んな人が日夜利用する駅だから、ホテルも併設されているんだ。まずは、チェックインしよう!」


 エレベーターに乗り込み、ぐんぐんと上階へと昇る。


 しばらくすると、ベルの軽快な音と共に扉が開いた。


「さ、先に外に出て。左に進むと受付なんだ」


 ハルテアがボタンを押しながらそう言った。


「受付してくるから、ちょっとそこで待っててねー!」


 彼女は元気よくそう言い、チェックインの手続きを行う。


 その間、ルティはずっと、手慣れたように作業を進めるハルテアを見ていた。


「ハルテア、本当にすごいな…」

「よく分からないものも当たり前のように使いこなしているから、見習うべきことばかりだよ」

「まぁたしかに、ヨールライ大陸の最新機器はハルテアのほうが知っているな」

「お待たせー!部屋、行こっか!」


 ハルテアに案内され、別のエレベーターに乗り込む。


「部屋について荷物を置いたら、商業エリアに行こうよ!」


…………………………………………………

全員荷物を置いて身軽になり、商業エリアに向かうためにホールに到着した時だった。


「なんか、さっきより混んでないか?」

「本当だ。ホームで何かあったのかな?」


 ルティ達が列車を降りた時よりさらにたくさんの人がホールに集まり、ごった返していた。


 困惑や混乱の気配が空気中に漂い、平常ではないことが、初めてここに来たルティにも伝わってきた。


「うーん…何があったのか知りたいけど、知ってそうな人は…?」

「ハルテア!」


 ハルテアがそう呟く背中に、声がかかった。


 ルティ達が振り返ると、ダディ・ポットが人混みをかき分けこちらにやって来るところだった。


「父さん!列車に乗ってなかったの!?」

「乗ろうとしたんだがね、跳ね返されたんだよ」

「跳ね返された…?」

「結界のようなものが張られているようなんだ」


 ダディ・ポットが言うには、ハピア駅の四箇所の出入り口及び八箇所のホーム入口に結界が張られているようだという。


「ハピア駅に到着することはできるんだがね、出ていくことができないんだ」

「なんで、あたし達が来たときは騒ぎになって無かったんだろう?」

「さぁな…情報があまりにも少なすぎる。私も動くに動けないんだ」

「父さんでも…?」


 すると突然、ホールの中央から悲鳴が聞こえた。


 群衆が一気に後ろへと下がり始め、端にいたハルテア達にも中央の様子がよく見えるようになる。


「あれは…魔物か?」


 統一感の無い雑多な魔物が、およそ五十体ほど群れをなしていた。


「どうして駅の真ん中に、突然…!?」

「驚いている場合じゃない。俺達が助けないと。行くぞ、皆!」


 ハルテア、ガイル、オークルが飛び出し、中央の魔物を倒していった。


 どの個体も素早く軽い身のこなしをしたが、それぞれの体力はあまり多くなかったせいか、さほど苦労することなく数を減らす。


 残りあと十体ほどになったところで、ハルテアは周りを見渡し気づいた。


「ルティは!?」


 振り返ると、少し離れたところでステッキを振り回していた。その先からは細い水が飛び出しているが、あれでは魔物と戦えそうにない。


「ルティ、大丈夫?」

「ううん、あんまり良くない。それより、三人は魔物を倒す方に集中してほしいな」


 ルティがそう言ったので、三人は残りの魔物を討伐した。


「ルティ、どうしたの?」

「この場所、さっきエレベーターを降りてきた瞬間からかなり強い魔力が滞留していて…私の魔法が、かき消されちゃうの」

「強い魔力…結界にも関係しているのか?」

「分からない…ん?あれは…?」


 先ほどまで魔物が暴れていた中央に、一枚の紙が落ちていた。手のひらサイズの長方形に切り取られた紙で、こう書かれている。


『名探偵とその娘及び友人たちへ

 この駅は私が乗っ取った

 乗客らを解放したくば、次の指令を待て』


「これってまさか…犯行声明ってやつ!?」

「ハルテア、落ち着け。その前に色々と状況を考えろ。ここだとまずい」

「あ、そうだった。父さんのところに戻ろう」


…………………………………………………

「…それで、これがお前達の足元に置かれていた、と」

「うん。何か分かるかな、父さん?」

「何も分からないわけではない。が、推理を展開するにはまだ足りないな」

「やっぱりそうだよねー…大人しく次の指令を待つかー…」

「自分にはどういう状況なのかよく分かっていないんだけど、これってどういう状況?」

「ハピア駅が何者かによって乗っ取られた。犯人は私とお前達に何かをさせたがっていて、それの完遂をしなければ乗客は外に出られない」

「多分、その他にも、強い魔力を持った人が場を制御しているってのもあるかも。結界が張られているし、私、魔法が使えなかったし…」

「これってかなりまずいよね?」

「犯人の動向と目的によっては、色々とまずいことになるな」


 ルティ達は、ホテルの部屋に戻って現在の状況を確認していた。


 五人の間に置かれたテーブルには、先ほどの紙が置かれていて、何かヒントが隠されていないかと色々試したが、何も無かった。


「現在は、駅員ですらホームに入れない状況だ。このまま時間が過ぎれば、列車は止まったままだろう」

「それって絶対、色んな人が困っちゃうよね?うー、早く次の指令来ないかな?さっさと終わらせないと、かなりまずい!」

「犯人の目的は何だろうな」

「身代金…だとしたら、結界が邪魔をしてお金のやり取りはできないよね…刑務所に入れられている誰かの解放とか…?でもそしたら、やっぱりあたし達は外に出られないから、何もできないよね…?」


 ハピア駅を囲う結界は、人や動物だけでなく、紙でも服でも鉄パイプでも、何も通さなかったのだ。


「この駅の中で、やってほしいことで、この駅の中で完結できること…?」

「おつかいとか?…そんなことはないか」


 時刻はすでに午後六時をまわっていた。


 ハピア駅に囚われた人々は、特例でホテルの空き部屋が無料で貸し出されており、当面の安全は保証されている。


「うう…考えてたらお腹空いてきた…」

「まぁ、もう夕食の時間だからな。ホールで弁当の配布が行われているらしいし、俺が取ってくるよ」

「一人だと大変だろう。私も行くよ」

「自分は…ううん…」

「オークルはここに残っててくれ」

「…分かった。二人とも、気をつけて」


 ガイルとダディ・ポットが部屋を離れ、ホールに向かった。


 残されたハルテアとルティ、オークルは、変わらず何も情報のない紙を前に頭を抱えていた。


「色々と、引っかかるんだよね」

「ルティ?」

「どうしてこの人は、ダディ・ポットさんがいることを知っていたんだろう?それに、私達のことも認知しているみたいだよ」

「たしかに…まさか…犯人って、あたし達が乗っていた列車にいた人だったりする…?」

「分からない。でも、そう考えると納得のいくところがあるんだ。結界が展開されたのは、私達がここに到着してからだし、私達四人が魔物と戦えることも知っていることになる」


 ルティとハルテアは、途中駅で魔物を退けたことがあるし、ガイルは抜刀こそしていないとはいえ、常に帯刀している。オークルは一見ただの吟遊詩人にしか見えないが、魔素に敏感な人が近づいたら、彼もまた戦える人なのだと気付けるだろう。


「あたし、犯人分かっちゃったかも」

「え、もう?」

「うん。でも、そうすると、本当に犯人の目的が分からないんだよね。それが分からないと、犯人の場所も分からないし」

「もうそんなところまで考えているんだね…すごいや」

「えっへへー!これでも探偵の卵ですから!」


 ハルテアが自慢気にしていると、オークルが、心配したようにルティに話しかけた。


「ルティ、魔法使えないけど…大丈夫?」

「戦いにはあんまり関与できないかもしれないけど、体調には変化は無いよ」

「当たり前のように使える力が突然使えなくなるって…怖くないの?」

「怖いよ。…でも、ここには頼れる皆がいる。私は一人じゃないし…私にしかできないことはきっとまだあるって思うんだ」

「そういうの、早く見つかると良いね」


 オークルがそう言ったちょうどその時、ガイルとダディ・ポットが戻ってきた。


 両手に袋を持っていて、その中には弁当が人数分入っている。


「あ、おかえりー、二人とも──」

「緊急事態だ」

「えっ、どうしたの?」

「これを渡された」


 ガイルが空いた手で何かを差し出す。それは三枚のカードで、どれも同じような筆跡で文章が書かれていた。


「これってまさか…次の指令?」

「渡されたって、どういうこと?」

「ホールで、部屋の番号と人数を言って弁当を受け取るスタイルだったんだ。そしたら、これが預けられていましたって渡された」

「その指令の制限時間をよく見てくれ」


 ダディ・ポットに言われ、カードをよく見る。


 書かれている文章はどれも異なっていたが、最後の一行だけは同じ言葉が書かれていた。


「『制限時間は、本日二十一時まで』…午後九時までってこと?」

「ああ、どうもそうらしい。あまり時間がない。できれば、さっさと弁当を食べよう。頭を使う時間は、できるだけ長いほうが良い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。