1-幕間-3 活性魔火石
「そこの旅の方!助けてくだされ〜!!」
「うわっ!」
石橋を渡っていた一行の後ろから、赤い帽子を被った小柄な男性が飛びついてきた。
飛びつかれたガイルは咄嗟に彼を避けてしまい、小柄な男性は顔から橋に着地する。
「悪い、避けちゃった…大丈夫か?」
「へぇ…この通りで…」
幸い小柄な男性に怪我は一つも見当たらず、彼はしゃきっと立ち上がると、一番近くに立っていたオークルの両手をがっしと掴んだ。
「ぜひとも!ぜひとも、我が採掘道具を回収してきていただきたい!」
「採掘道具?」
「ええ、わたしは活性魔火石の採掘をする鉱夫なんですが、まだ誰も見つけていないような、新しい洞窟を発見したので。
そこに潜って、そりゃまぁ綺麗で大きな活性魔火石を見つけたんでさ。
そしたら、洞窟の奥からでっけぇ魔物が何体も現れたんですよ。
わたしは大慌てで洞窟の外に出たんですが、仕事道具の採掘道具は洞窟の中だし、かといって戻ることもできないしで困っとったんです。
そこに、旅の方、あなた方が通りかかったんですよ!」
「かっせいまかせきって何?」
「自ら発熱する鉱物でさ。原理はわたしにはイマイチ分かっとらんのですが、アチアチになる石なんです」
「あたし達で取り返してあげようよ!」
ハルテアがそう言うと、小柄な男性の顔がぱあっと明るくなる。
「話は分かった。それに、俺が避けちゃったせいで痛い思いもさせちゃったからな。ここは引き受けるか」
「あぁ、旅の方、あなた方は天使ですか!」
「いや、生身の人間と猫だけど…」
「あるいは神様!」
「自分は神様ではないと思うなぁ…?」
「とにかく素晴らしいお人!お願いします!」
小柄な男性はすぐに地図を記入して、それをオークルに渡した後、一行を見送った。
「歩いていける距離ではあるけど、そこそこ遠そうだな」
「まぁ、日暮れまでには戻れそうだし、一歩ずつ進めばいいんじゃない?」
「それもそうだね。さぁ、行こう」
小一時間ほど歩き、地図に従って進むと、人が通らなさそうな場所に小さな洞窟があった。
なだらかに下る洞窟の中は暗く、あまり奥の方まで見ることができない。
ルティが光の魔法を使い、辺りを照らした。
湿った洞窟の中は、黒っぽい岩でできていて、ところどころに苔が生えている。小さな爬虫類が時折一行の足元を走り過ぎる以外は、生き物の気配はしない。
「洞窟に入ったの、初めてだ!」
「オークルはずっとセンターにいたんだもんね」
「そういえば、俺とルティがハルテア達と出会ったのも、こんな洞窟がらみの事件だったよな」
「あの時は荷物無かったから色々と大変だったんだから!」
「荷物を全部置いて行ったのが悪いと思うぞ」
オークルにはルティの口から出会いについては話してあるが、改めてその話を全員でする。
もう、ひと月ほど前のことではあったが、鮮明に思い出すことができた。
「さて皆。お喋りに夢中になるのはいいけど、目的を見失わないようにね」
「ありがとう、トルテ。ちゃんと覚えているよ」
「採掘道具、だったよな…ツルハシとか、バケツとかか?」
「まぁ、概ねその類だろうね。どこに落ちているか分からないから、足元もよく見ておくんだよ」
トルテがそうやって一行に注意するよう言うと同時に、洞窟が開けた空間に出る。
鍾乳洞のようなその場所には、鍾乳石とは異なり青や緑、真っ赤に輝く円錐型の岩が、天井から、地面から生えている。
「絵本で見たしょーにゅーせきそっくりだ!」
「これ、鍾乳石とは違うものみたいだな」
「え、違うの?」
「鍾乳石は、生成の科学的変化からして、白っぽい黄色とか、茶色っぽい赤色になるんだ。
同じ赤色でも、ここまで真っ赤だと多分別物だろうな」
オークルが素手で謎の岩を触ろうとし、トルテが慌てて彼を止めた。
「素手で触っても問題ないとは限らないだろう。せめて布一枚挟んでからにしなさい」
「はぁい」
「オークルは好奇心旺盛なんだね」
「見るもの触れるもの、耳に入るもの、全部が新鮮なんだもの!」
全身で喜びを表現するオークルの足元に、何か黒いものが転がっていた。
ルティはそれを拾い上げ、観察する。やはりそうだ。
「これ、さっきの人の採掘道具じゃない?」
「ん?…たしかにそうかもな」
「え、なになに?……何、これ?釘?」
「タガネだな。これをハンマーとか使って打ち付けると、部分的に岩を砕くことができる。そうやって、鉱石を掘り出したりするんだ」
「へぇ、本当にガイルって物知りだよね。護衛にそんな知識が必要なの?」
「必要じゃないな。俺の興味から調べたことだから」
よく辺りを見回せば、他にもツルハシやハンマー、採掘用の籠などが散らばっていた。
それらを全て回収し、傷や破損が無いかを確認する。
「素人目線だと、壊れてはいないみたいだな」
「やっぱり、あの人が見たほうが確かだろうけどね。あたし達、専門家じゃないし」
「とにかくこれで、採掘道具は回収できたし、戻る?」
ルティがちょうどそう言った瞬間、低い唸り声が響いた。
声は洞窟の中で反響し、声の主がどこにいるかを掴みづらくする。
周囲を見渡した一行の真横に、魔物が躍り出た。
「ハルテア!」
「わわっ、えいや!」
ハルテアの方に突っ込んできた魔物は、勢いをつけて飛びかかる。
ハルテアは驚きながらも拳を突き出し、威嚇の姿勢をとった。
魔物は瞬時にターゲットをオークルに変える。
「させないよ!」
ルティが強力な電撃をお見舞いし、魔物が怯む。
その隙を見逃さず、ガイルとハルテアが切り込んだ。
やがて魔物は情けない声を出しながら、洞窟の奥深くへと逃げ去って行った。
「やっつけなくていいの?」
「魔物が人間の領域に入ってかつ人を襲っているっていう状況なら退治するけどな。
今回は、俺達が魔物の領域に自分から入って来たから、退治するんじゃなくて一時的に追い払うだけで十分なんだ」
「へぇ…あれ?あそこに光ってるのは何?」
オークルが指さしたのは、魔物が去っていった方角にある真っ赤な石だった。
一行がその石の山に近づくと、石はより赤く輝き出す。
「あ、これ、活性魔火石だ」
「ルティ、分かるの?」
「うん…多分そうだと思うっていう程度だけどね。活性魔石って、魔素に反応するんだ。私、今魔法を使っているから、それに反応しているんだと思うの」
ルティは分厚いハンカチを取り出して、そっと活性魔火石を拾い上げた。
「綺麗だね!」
「綺麗だし、温かいよ」
「え!?あったかいの?」
「うん。ほら」
オークルにハンカチごと活性魔火石を渡す。
ほんのりと温かいこの鉱石は、たとえるなら春の日の寝起きのベッドくらいの温もりを発している。
「これは小さいから温かいくらいだけど、もっと大きいと熱いくらい温度が高くなる鉱石なんだ」
「なんで熱くなるの?」
「原理はよく分かっていないんだよ。魔素に反応しているってことは確かなんだけど、有機物でもないのに燃えることがあるし」
「ゆーきぶつって何?」
「あー…これは化学の話になるから、ちょっと難しいんだけど…簡単に言えば、燃える素材が入っているかいないかって話なんだ。
燃えない素材しか使われていないのに燃えるから不思議だって話だ」
「んー?よく分からないや」
「まぁ、難しいからな。ルティ、それ持って帰るのか?」
「ちょっとだけ。あの人が採っていたのってこれでしょ?」
「そうだな。じゃあ籠に詰めていこう。低温火傷しないように気をつけろよ」
持てるだけの活性魔火石を籠に詰め、採掘道具を持って、一行は洞窟の外に出た。
日暮れが近づく頃、ようやく石橋にたどりつく。
小柄な男性は居眠りをしていたが、ハルテアが揺らすとすぐに起きた。
「やぁ!ありがたい、見つけて来てくれたんだなぁ!」
「壊れてはいないと思うけど、一応確認してもらえるか?」
小柄な男性は採掘道具を一つ一つ丁寧に確かめ、問題ない、と笑った。
「それにしても、活性魔火石まで採ってきてくれるとは!」
「きっと必要だと思ったから」
「そうだ!報酬は、ムアとこれにしよう!」
小柄な男性はそう言って、人数分の小さな活性魔火石とムアの入った袋をルティに渡した。
「良いんですか?」
「助かったからね!これでまた、仕事することができる!」
「あの洞窟に入るときは注意しろよ。一応魔物は追い払ったけど、また戻ってくるかもしれないし」
「あいわかった!」
小柄な男性はそう言って採掘道具を背負い、一行のもとを去っていった。
「悪くないね、この石は」
「今夜は少し冷えそうだから、これで温まりながら寝るとしようか」
その晩は、貰った活性魔火石のおかげで優しい温もりに包まれながら夜を明かすことができたのだった。




