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最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第一章:灰色の導き
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1-幕間-2 川遊びは危険

その日は、天候があまりよくなかったので、冒険を早めに切り上げ、夕食の準備を午後早くからすることにしていた。


 ルティとハルテア、そしてトルテが近くの森の中に入り、食べられそうな木の実や果物を探しに行っていた。


 ガイルとオークルはと言うと、川辺で釣りをすることになっていた。


「川の水は、見た目以上に速いから、入らないように気をつけろよ」


 手作りの竿をオークルに渡しながら、ガイルはたしかに忠告した。


「うん。分かった!」


 と、オークルも答えていた。





…はずなのだが。


「助けてー!ガイルー!」


 少し釣りに夢中になっていて気づかなかったのだが、いつの間にやらオークルが川の中央に浮かんでいたのだ。


 幸い岩に引っかかっており、流される心配は無さそうだったのだが。


「あいつ、入らないって約束したよな…?」


 ガイルは半ば呆れながら、オークルを助けるために釣りを中断した。


 オークルが引っかかっている岩は岸と崖の間のちょうど中間で、そこそこ距離がある。


 下流のほうを下にしたVの字のように岩が並んでいるため、彼が流されないようになっているが、かえってそれが救出を妨げる要因になっていた。


(ここからだと距離があるから、ロープか何かを使って引き寄せるのが良いだろうけど…あの形だと、水流が強すぎてオークルが岩場を抜けられない可能性が高いな)


手元に丈夫で長いロープはあるが、そもそもこれをオークルのいるところに投げることがまず難しい。


 仮にそれができたとしても、オークルがロープをしっかり掴めるかも怪しいところだ。


 ちょうどその時だった。


「フンフーン、おやガイル。釣果はどうかな?」

「トルテ!良いところに!」

「おや?何かあったのかい?」

「実は…」


 川の中央に浮かぶオークルを指さしながらトルテに今困っていることを早口で話す。


「なるほど。じゃあ、ボクがひとっ走りしてルティ達を呼んでくるよ」

「急ぎで頼む」


 トルテが来た道をすぐに戻り走り出す。茂みの中に飛び込み、ガサガサと音を立てながら、急いでルティ達の元に向かってくれた。


 その間ガイルに出来ることといえば、オークルが流れないように見守ることだけだった。


 下手に一人で救助しようとすれば、二人とも助からない可能性があることを、ガイルはよく知っていた。




 少しすると、慌てて駆けつける足音が複数聞こえてきた。


「ガイル!」

「オークルは!?」


 ルティとハルテアはトルテから現状をすでに聞いているらしく、すぐに準備を始めた。


「ルティ、水の流れを制御することはできるか?たとえば、速度をめちゃくちゃ遅くする、とか」

「頑張ればできると思う」

「よし。それなら、この辺りだけ流れを遅くできるかやってみてくれないか。それから、ハルテア」

「なになにっ!?」

「俺の腰にロープを巻いてくれ。俺がオークルを引っ張り出す」

「やってみる!」


 ハルテアが素早くガイルの腰にロープを巻き付ける。


 その間、ルティは川辺の浅いところに行き、手の甲まで川の水に突っ込んだ。


「川の勢いを、すごく弱くすれば良いんだよね……」


 魔法で川の速度をできるだけゆっくりにする。


 が、水流が完全に無くなったわけではない。滝ほどの勢いだったものが、浜辺に寄せる小波くらいになっただけだ。


「もうちょっとかな……」


 できるなら、水たまりくらい流動性の低い状態にしたほうがガイルもオークルを助けやすいだろう。


 川の勢いの要因である水量とか傾きとかは、ほとんどがここより川上の山で決まっていることだ。


 今のルティができることは、おそらくあと一つだけだろう。


「奪った川の速度を逆流させて…渦を作る!」


 勢いの同じ逆の方向に流れる水が一点でぶつかると、渦が出来上がる。


 当然その渦に巻き込まれたら中に入った人はもみくちゃにされてしまうのだが、さすがにそこは考慮してある。


 ガイルが進む位置から少しずらしたところに渦ができるように水流を調整した。


「ガイル、こっちは準備できたよ!」

「ありがとう、あとは俺がやる」


 ガイルが川の中にざぶざぶと入っていく。


 途中から地面が深くなるので、一瞬彼の姿が水中に隠れるが、すぐに浮力が働いて頭が出てくる。


 ガイルはオークルがいる岩場まで泳ぐと、手を伸ばした。


「さぁ、迎えに来たぞ。しっかり掴まっておけよ」


 オークルの両手が伸ばした片手に掴まる。ガイルはオークルの背中に腕を回し、ゆっくりと岸辺に向かって泳いだ。


 これも全て、ハルテアがロープを握っていてくれることと、ルティが魔法で川の流れを操作してくれているおかげだ。普通は取れない手段と救助方法だが。


 やっと岸に上がると、オークルが言った。


「あのね、大きな魚が飛び跳ねていたけど、中々釣れなかったから、直接獲りに行ったんだ」

「その前にまず、言うべきことがあるんじゃないか?」

「あ…ごめんなさい……」

「もう、トルテから話を聞いてびっくりしたんだから!」

「うぅ…」


 オークルが困った目でルティを見る。ルティは彼のそばにしゃがみこんで、言った。


「オークルは、きっとみんなに美味しい魚を採ってきてあげたかったんだよね」

「うん…」

「だけど、それでみんなは心配したの。ガイルに言われなかったかな、川は危険なんだって」

「言われた…」

「川はね、泳ぐのが得意な人でも、流されちゃって死んじゃうこともあるの。オークル、泳げるわけじゃないでしょ?」

「泳いだことないよ」

「泳いだことないのに川に入ったのか…」

「今度はもう、勝手に入らないようにして。いつも私達が駆けつけられるわけじゃないかもしれないから」

「分かった」


 オークルは返事をするのと同時に、くしゃみをする。


「川に全身浸かっていたからびしょびしょじゃん!乾かさないと!」

「すぐに着替えよう。オークル、俺のだとサイズ小さいだろうけど、今日は我慢してくれ」

「私、乾いた枝を探してくるね」

「あ、あたしも行く!その間に二人とも着替えておいてね!」

「ああ、ありがとう」


 女子二人の行動に感謝しながら、手早く着替えを済ませる。


 びしょびしょになった衣服は、近くの木の太い枝にかけておいた。


「今日は風が強いから、雨が降らなければ明日の朝には乾いていると思う」

「雨、降らないといいね…」


 三人に怒られてしゅんとしたオークルは、いつもより小さく見えた。


 ある意味命の危機を乗り越えたばかりなので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


「オークル、今日ので分かっただろ。皆心配していた。誰も、オークルに死んでほしくないんだ。これからは、気をつけてほしいと言ったことには気をつけて行動するように心がけてほしい」

「うん、分かった」


 オークルはまだまだ知らないこと、分からないことだらけだ。


 彼が危なくならないように。そのために、ガイル達ができることは、教えて導くことだろう。


 それはいずれ、彼が一人で生きられるように支えるためでもある。


「ただいま。枝、たくさん見つけられたよ」

「落ち葉も拾ってきた!」


 ルティとハルテアが戻ってきて、腕いっぱいに抱えた枝と落ち葉を見せる。


「火をつけるから、これで乾かそう。そうだガイル、魚は釣れた?」

「あぁ。今取ってくる」


 川辺の岩に戻り、釣りをしていた場所に戻る。


 籠を持って三人のところに戻った。


「魚はざっとこれくらい捕れたよ」

「おぉー!ガイルって釣りの天才なの?めちゃくちゃ捕れてるじゃん!」

「褒めすぎだ。ただの偶然だよ」


 ガイルが持ってきた籠の中には、およそ二十匹のそこそこ太った魚が泳いでいた。


「これで今晩の夕食は何とかなるね!」

「というわけだ、オークル、捕れなかったからって皆が食に困ることはないからな」

「えっ、何で分かったの!?」

「顔に書いてある」


 オークルはそう言われて己の顔をぺたぺたと触った。


 どうやら彼には、比喩表現というものがあることもいずれ教えなくてはならないようだ。


「さ、とりあえずこれを焼いて食べようか」

「串はこっちにあるよー!」


 ハプニングのありすぎた釣りだったが、オークルは命の大切さを少しは学べただろうし、悪くは無かっただろう。


 くれぐれも、川に行くときは一人で中に入らないように。

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