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最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第一章:灰色の導き
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1-幕間-1 ウスワナシ草

オークルが仲間に加わり、エルガル駅に向かって歩き始めた頃のこと。


「あっ、ねぇねぇ、あそこに誰かいるよ?」


 ハルテアが道の先を指さしてそう言った。


 道の先には大岩がいくつか道端に転がっていて、その一つに白髪の男性が腰掛けているのだった。彼のそばには馬が二頭並んでいる。


「何かあったのかも!お話聞いてくるねー!」

「あっ、ちょっと、ハルテア!」


 走り出したハルテアに続き、ルティ達も走る。


「こんにちは!おじさん、何をしているの?」

「わしかい?ちょっと休憩しているだけだよ。わしは、旅の商人なのさ」

「おじさんも旅をしているの?あたしたちも旅してるんだ!」


 白髪の男性は、到着したルティ達を見て、言った。


「みんな若いねぇ。どこに向かっているんだい?」

「アーバルト港湾都市に向かっているんです」

「へぇ、じゃあ君達は大学生とかなのかな?」

「いえ、そうではないんですけど」


 書物のことを話すわけにもいかず、ルティが何と言おうか迷っていると、白髪の男性が言った。


「いや、無理に答えなくても良いよ。ちょっとした興味だったからね」

「…ありがとうございます」

「おじさんはどんなものを売っている商人なの?」

「わしは、薬草や薬の類を売っているのさ。これでも昔、若かった頃は薬師として働いていたからね」

「へぇ、おじさんすごーい!」


 ハルテアが元気よく褒めると、白髪の男性は照れたように頭を掻いた。


「なぁ、それなら一つ買いたいものがあるんだけど…今、大丈夫か?」

「良いとも。何が欲しいんだい?」

「この銘柄の傷薬と、軟膏が欲しいんだけど」


 ガイルが懐から、透明な小瓶と白い器を取り出す。どちらも中身は軽そうだ。


「あぁ、軟膏のほうはあるよ。傷薬のほうは…薬草が少し足りなくてね。あれば調合できるんだけど、生憎手持ちに無いんだ」

「なら、取ってくるよ。何て名前の薬草?特徴とかもあれば教えてほしい」

「ウスワナシ草だよ。今の時期だと、白い花を咲かせているはずだ。湿った日陰に生えていることが多いよ」

「分かった。少し待っていてくれ」


 ガイルが周囲を軽く見渡してから、森の中へと分け入って行った。


 ルティ達は、慌てて彼の後を追う。


「ガイル、薬切らしてたの?」

「ああ、もう少し余裕があるかと思ってたんだけど。昨日の戦闘でかなり怪我したから、結構使っちゃったんだ」

「私、治すつもりだったのに…」

「ルティだって魔力を消耗するだろ?薬でどうにかできるならそっちでどうにかした方が良いと思ったんだ」

「でも…!」

「ルティ、君は俺と同じで戦っていた。その時に魔力を使っていた。その上俺の怪我も治すとなると、廃魔素中毒になる可能性があったんだ。それを避けたかったんだよ」

「ハイマソチュウドクって何のこと?」


 オークルの問に、トルテが答えた。


「廃魔素中毒ってのは、魔法の使いすぎによる中毒症状のことを指していてね。症状は、発熱、下痢、嘔吐に腹痛、脱水症状とか色々あるんだよ」

「へぇ、何だか大変そう」

「軽度の症状であれば一日たっぷり休めば回復するよ。ただ、たまに重度になってしまう人がいるけれど、その場合は丸一週間の入院が必要になるレベルだ」

「怖いな…」

「オークルも魔素を使うことがあるから、自分の限界を知っておくことも大切だね」

「そもそも限界まで魔法を使わないように、それ以外の手段で戦える俺やハルテアが頑張ったほうが、全体としてみると安定するんだけどな。けど…」

「けど?」

「誰も無理しないように支えてくれるのはありがたい。ルティ、ありがとうな」

「うん」


 しばらく進むと、空気が湿ったものに変わり始め、苔植物やシダ植物の多い場所に変わる。


 踏みしめる土も、泥とまではいかないものの、水気を帯びた黒いものに変わっていた。


「この辺りは、朝早くとか夕暮れ近くには霧が出るみたいだね」

「それだけじゃない。俺の記憶が正しければ、この辺りは雨も多いはずだ」


 ガイルが指さしたのは、一行の目線の高さに生えている木の葉だった。


 濃い緑色に色づいたその木の葉には、露の雫が溜まっている。


「じゃあ、この辺りに…何だっけ…ナントカ草が生えてるかもしれないんだよね!」

「ウスワナシ草な」

「そうそれ!さっそく探そう!」


 ハルテアとオークルが左側を捜索し、ルティとガイル、トルテで右側を捜索する。


「白い花が咲いているのが目印、だったよね」

「見落とさないように探そう。あ、これつけておいた方が良いかもしれない」


 ガイルが白い手袋を一組、ルティに手渡した。


「これは…?」

「見ての通りの手袋だ。俺は野草や薬草の類は知っている方だけど、知らない植物の方が多い。知らないうちに毒草に触れるのもまずいから、つけておいたほうが良いんだ」

「じゃあ、トルテはどうするの?」

「ボクはボクで気をつけるよ。一応ボクは猫…、獣だからね、ある程度本能で避けられるから」


 二人は手袋を嵌めて、周囲の草むらを探し始めた。


「うーん…これかな?それともこっち?」

「見せてくれ。……こっちはシロテレ花、そっちはアカグロミズナズナだな」

「え?白いよ?」

「生えたばかりのうちは赤黒くなるんだ。きっとそれは、もうすぐ枯れるやつだろう」

「ガイルは物知りで凄いな。私、植物学は苦手なんだよね」

「誰にも得意不得意があるものだよ。さぁ、他を探そう」


 白い花の植物を探してはガイルに確認をとり、彼が知っていれば摘まずに他を探す。


 約十分後、ついに彼の知らない植物を見つけた。


「じゃあ、これがウスワナシ草?」

「可能性は高い。確かなことは言えないけど」

「それなら、これを持ってさっきのおじさんのところに戻ろう」


 ハルテア達と合流する。


 なぜか、オークルが左手にふーふーと息を吹きかけていた。


「オークル、何してるんだ?」

「びりびりしてるから、冷ましてる」

「それ、毒草触った可能性が高いな。あとで薬を調合してもらったら、それを使おう」

「毒草!?そんなのあったの?」

「こんなに植物が生えていたら、あるかもしれないぐらいは考えた方が良いぞ。今回のは軽症みたいだから良かったけど、場合によっては意識障害を起こすような毒草もあるから」

「怖っ!」

「怖いと思うなら、次から薬草探しするときは手袋をつけておくと良い。ハルテアは、探偵の卵なんだろ?手袋、持ってそうだけど」

「うん!持ってるよ!」


 ハルテアが荷物の中から桃色の手袋を取り出した。


「なんでピンク色なのかは置いておくとして、道具を使う意味は理解しておいたほうが今後に役立つ。覚えておけよ」

「おぉー、ガイルが何かそれっぽいこと言ってる!」

「そりゃどうも。さっさと戻ろう」


 一行が白髪の男性のもとに帰ると、彼は二頭の馬の世話をしていた。


「おや、戻ったようだね。ウスワナシ草は見つけられたかな?」

「多分、これじゃないかってのを見つけた。確認してもらえるか?」

「ふむ。……あぁ、ウスワナシ草だ。よく見つけられたね」

「ルティが…彼女が、見つけてくれたんだ」

「私が見分けたわけじゃないんですけどね」

「それでも素晴らしいよ。状態も悪くない。早速調合するとしよう」


 白髪の男性は平らなところにビーカーやらフラスコやら小鍋やらを並べ、着火したり混ぜたり水を入れたりと、手際よく忙しそうに手元の物を動かしていた。


 一時間ほどすると、透明な傷薬が出来上がっていた。


「はい、これでできたよ」

「ありがとう。値段はいくらだ?」

「そうだね、薬草は君たちが採ってきてくれたから…軟膏分の、このくらいで十分だね」


 ガイルがムアを支払い、白髪の男性は二頭の馬と共にその場を離れた。


「おじさーん!また会ったらよろしくねー!」

「君たちも、道中気をつけるんだよ」


 それから、新しい傷薬を使って、オークルの痺れた左手を治す。


 しばらくして効果が現れ、オークルの左手の痺れが取れた。


「よぉし!それじゃあ、先に進もう!」


 ハルテアが先頭を歩き、後にルティ達が続く。


 エルガル駅までは、まだ少し遠かった。

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