1-3-46 四人目の仲間
オークル達が作ってくれた、ルティの大好物の夕食を食べ終え、ルティはハルテアと共に部屋に戻った。
「ハルテア、今回は色々とありがとう」
「友達なんだもん!このくらい当然だよっ!」
「友達…」
「あれ、嫌だった!?ごめん、」
「ううん、嬉しいよ。今まで、友達いなかったから」
「わぉ。ルティの住んでたお城、同年代の人いなかったの?」
「一人だけいたけど、彼女とはあまり会う機会が無かったの」
ディルナッケ城の姫とは、二、三回しか会ったことがない。それだって遠目に見かけただけなので、友人とは言えないだろう。
「トルテとオークル、ちゃんと許せた?」
「まぁ、一応ね。今後はもうしないって約束もしたから。もしまたやったら、今度は本当に許さない」
「オークルは会ったばかりだから何とも言えないけど、トルテはそこのところの約束はしっかりするタイプだから、もうしないと思うよ」
トルテと長い付き合いだというハルテアの証言はしっかりしていて、信頼できそうだった。
「次の目的地はエルガル駅だよね。ルティは、列車に乗ったことはあるの?」
「私は無いかな。ハルテアはあるの?」
「あたし、アーバルト出身だから、列車にはよく乗っていたよ」
「えっ…!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「うん。初めて聞いた」
たしかに、アーバルト港湾都市はこのヨールライ大陸の中でもかなり大きな都市だ。都市、と名前はついているものの、都市国家としてもおかしくない機能や設備も揃っているらしいと聞いたことがある。
旅の仲間が、偶然その都市の出身でも、よく考えればおかしなところなど何もないのだった。
「オークルは列車どころか馬車すら乗ったことなさそうだけど…ガイルはどうだろう?」
「んー、隣の大陸の皇子様の護衛だったんでしょ?もしかしたらあるんじゃない?」
「やっぱり本人に聞かないと分からないね」
「そういえば、ルティはガイルのこと、どう思っているの?あたしがルティ達に出会う前から一緒に旅しているよね?」
「頼れる仲間だって思っているよ。私は魔法で戦うけど、どうしても距離を詰められたり、突然襲われたりすると、対処するのが難しくなっちゃうから。
その点、ガイルは瞬発力も高いし、近距離戦もこなすから、凄いなぁって思うよ。どうしても、怪我をたくさんしちゃうのが心配なんだけどね」
ハルテアには言わないでおいたが、彼はかけがえのない人だと思っているし、いずれ訪れるお別れの日が来るのが怖いという思いも胸の奥にあった。
「ルティも、さっきの戦闘でボロボロだったんだから、今日は夜ふかしせずに早く寝なよ?それとも、あたしが寝かせてあげようか?」
「忠告ありがとう。一人で眠れるよ」
以前、ハルテアが子守唄を歌ってくれたのだが、音を外しまくっていた上に転調が多く、中々眠れなかったことがあったので、今回は遠慮しておいた。
「それじゃあ、おやすみ」
……………………………………………………
夢を見た。
自分を外から見るような、不思議な夢だった。
夢の中のルティは、泣きながら誰かに覆いかぶさっている。それが誰であるのかは、なぜか全く分からない。男なのか女なのかも分からなかった。
やがて夢の中のルティと横たわる人物が黄金色の眩しい光に包まれる。
場面が変わり、急に辺りが吹雪に包みこまれる。
吹雪の中、ルティはやはり誰かの後ろに立っている。その誰かは、なんとなく、さきほど夢の中のルティが助けようとしていた人と同じであると直感した。
幼い女の子が一人やって来て、言う。
"みんなをどこにやったの?"
それに答えようというところで、夢から覚めた。
「おはよう、ハルテア…ハルテア?」
「あっ、おはよう、ルティ!あたしはこっちだよ!」
洗面室からハルテアが飛び出してくる。肩にはタオルが緩く巻きつけられていて、ついさっき顔を洗ったばかりであるようだ。
「ルティも、そろそろ着替えなよ。あたしは先に降りてご飯食べているから、ルティも後で来てね!」
それだけ言って、ハルテアは部屋を出ていった。
ハルテアに言われたとおり着替えてから階下の食堂に向かうと、皆がいた。
ハルテアはパンをいっぱい皿に乗せて食べているし、ガイルはオークルと一緒に商人達と何か話し込んでいる。トルテは猫用のご飯を食べていた。
「ガイルとオークルは、何をあんなに話し込んでいるの?」
「さっき聞こえてきた感じだと、何か歌ってたよ?」
「歌?…あ、戻ってきた」
先にガイルが、二人の座るテーブルにやって来た。オークルは商人達の座るテーブルにまだ残っている。
「何を話してたの?」
「センターで何があったのかってことを、話せる範囲で話してた」
「へぇ。そういう気分だったのー?」
「いや、オークルの分の服が欲しかったんだ。俺の服をいくつか合わせてみたんだけど、サイズが合わなかったんだ。あいつ、俺より身長高いから」
ガイルの身長は平均的な男子のそれのはずなのだが、オークルのほうがそれより背が高いようだ。
しばらくすると、新しい服を身にまとったオークルが合流した。
「かっこいい服を貰えた!ひらひらしてるし、動きやすい!」
「良かったね!よく似合ってるよ!」
昨日までルティが着ていたような真っ白の服ではなく、いかにも旅する吟遊詩人、というような格好に変わっている。
「自分はこの先どうするか決まっていないけど、この服があれば少しはマシに見えるよね!」
「あれ?ガイル、話して無かったの?」
「あー、昨日はほとんどずっと寝ていたからな。話してない」
「そういえば昨日、夕食の時もいなかったね」
「?何の話?」
「オークル、あのね。もしよかったらだけど、私達の旅についてこない?」
「え?」
ガイルとハルテアが二人で相談し、オークルを旅の仲間にできたらいいね、と話し合っていたようだった。昨晩、ハルテアがそれをルティにも話し、ルティとしてもそれは嬉しい申し出だったのだ。
「オークル、知りたいことがたくさんあるんでしょう?私達の旅は、色々なことを知ることができる…、と思うよ」
旅の目的地は近いが、その前にまずは列車に乗って移動する過程もある。
センターの中に閉じ込められていたオークルにとっては、刺激の多い旅になるだろう。
「えっ!良いの?自分、できること少ないけど…」
「オークルにはオークルにしかできないことがきっとあるよ!あたしはそう思う!」
「戦い方が分からないなら俺が教えるよ」
「私は魔法の扱いには自身があるんだ。オークルは、魔素を使った音楽もできるでしょう?助けになれると思うの」
各々そう言うと、オークルの反応を伺った。
「じゃあ、一緒に行く!」
こうして、旅の仲間にオークルが加わったのだった。
「楽しい旅になりそうだね!」
「ふふ、旅というのは賑やかなものの方が良いものだってよく聞くよ」
ハルテアとトルテがそうやって会話していると、商人の団体がわらわらとやって来た。
「なんだか面白そうな話をしてるじゃねぇか」
「宴なら混ぜてくれ!」
「宴じゃなくて、ただの朝食なんだけどな…」
「こりゃ、良いニュースなんじゃないか?あっはっは!」
商人の男が、手にしていた新聞を片手に大笑いした。男はその新聞をハルテアのそばにどさっと置くと、商人仲間と一緒に酒瓶を受け取りに行ってしまった。
ハルテアは何となくその新聞を流し読みしていた。が、途中に気になる記事を見つけ、トルテに指し示す。
「ほら、これ。父さんの記事だよ。父さん、もしかしたら近くにいるのかも」
「流石に合流は難しいんじゃないかな。どちらかといえば、お母さんの方に先に会いそうなものだけど」
「ゔ…今回はどう言い訳しようかな…」
ハルテアは母親の厳しい顔と声を思い出して渋い顔をした。
「ハルテア?どうしたの?」
「母さんのことについて考えてたの。あたしの母さん、厳しい人なんだよねぇ」
「母親なんだから、心配しているんじゃない?」
「それなら良いんだけどー」
宿屋の賑やかな朝はこうして過ぎていく。
旅の終わりはたしかに刻一刻と近づいてはいるが、ルティはこの光景を決して忘れないようにしようと心に刻むのだった。




