1-3-45 自由の光
「ガイル、ハルテア!」
名前を呼ぶと、二人が振り返ってルティの顔を見た。
「もう大丈夫なの?」
「うん、今から終わらせるよ──この、歪んだ永遠の命を」
二人に下がるよう合図をする。
入れ替わりにルティが前に出た。ステッキを使って術式を編み上げ、展開する。
「オークル、お願い!」
オークルがウクレレの弦を弾き、魔素を付加した音楽を奏で始める。
ゆったりとした音色が眠気を誘い、肉体の無い生命体の黒騎士ロボの動きを緩慢にする。
三体のロボットの足元に位置するように術式を移動させ、呪文を完成させる。
「歪められた命のあり方を、私は否定する。ここに、永遠の終わりを宣告する!」
術に魔力を込め、発動させた。
三体の黒騎士ロボから、歪な魂が浄化されてゆく。
「あとは、もう動かないようにするだけ。ガイル、ハルテア、あとちょっとだけ、いける?」
魂が浄化されたからといって、完全に魂が抜けきるわけではない。そうするためには、トドメをささなくてはならないのだ。
「もちろん!」
三人で力を合わせ、三体の黒騎士ロボを停止させる。
あれだけ長く苦戦した戦いは、非常に呆気なく終わりを迎えた。
「…もう起動しないだろうね。動く気配が微塵も無い」
トルテが証言した。この言葉にようやく、ルティ達も各々の武器をしまう。
「皆お疲れさま!あたしは途中から来たけど、すっごい音がしてたから、ヒヤヒヤしてたよ」
「ごめんね、色々と試していたから」
「無事なら大丈夫だよー!…って言いたいけど。二人とも、びしょ濡れだしボロボロじゃん。ちゃんと後で休憩しなよ?」
「主にびしょ濡れなのは私のせいなんだけどね…」
ちらりとガイルの方を確認する。
治癒魔法で額の傷口は塞いだものの、ハルテアにあまり負担をかけたくなかったのもあって、ガイルが負った他の傷は治癒できていなかったのだ。
「ん…あぁ、ちゃんと休憩…うん」
「ガイル、本当に大丈夫ー?」
「大丈夫だ。ただちょっと…目眩がしただけで……」
「全然大丈夫じゃないじゃん!早く外に出よ!一刻も早く休憩しよう!」
ハルテアがそう言い、ガイルに肩を貸して早足で外に出た。ガイルはずっと「必要ないから離せ」と言っていたが、ハルテアは無視している。
ルティとオークル、トルテも続いて外に出る。
午後の日差しが道に降り注ぎ、灰色の建物が照らされている。
久しぶりに見た太陽の光と青空に、ルティは立ちすくんでしまった。
「ルティ?へーき?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、外に出るのが久しぶりだったから、眩しくて」
「あ、たしかにそうかも。慣れるまでが大変だけど、慣れたら楽だから」
オークルのアドバイスを受け、ルティは頷く。
まだほんのしばらく、太陽が眩しく感じるだろうけれど。
ルティはこれから、自由に光を見ることができるのだ。
……………………………………………………
ハルテアがガイルを連れて行ったのは、エルードの谷の外にあった、商人用の宿だった。
なぜか谷の中では宿のようなものが一軒も見当たらなかったせいで、そこそこ遠い距離をガイルは歩かされていた。
「ふぅー、到着っ!さ、中に入ろー!」
「はぁ…。そろそろ支えなくても大丈夫なんだけど?」
「部屋に行くまではこうしておくよ。倒れられたら困るもん!…あ、それとも…」
「それとも、何だよ?」
「ルティのほうが良かった?あたしでごめんね?」
突然ルティの名前が出てきて、余計に緊張する。
ただでさえハルテアの肩を借りているだけで申し訳ないのに、これがルティだったらと思うと、申し訳ないと思う以上に緊張するのだ。
「早く部屋に行こう。手続きをお願いしても良いか?」
「オッケー!ちょっとそこで座っててねー」
反抗する理由もないので、お言葉に甘えてベンチに座る。
遠くのほうでは、ルティとオークルがこちらにやって来るのが見えていた。トルテが先頭に立って案内してくれているようだ。
身体中の筋肉が悲鳴を上げているし、節々が怪我のせいで痛む。あまりよくない状態ではあるものの、ガイルの心は晴れ渡っていた。
ルティを助け出せた。多くの人を、守ることができた。
それだけでも、ガイルが前に進む理由になるのだ。
「お部屋の準備はもうオッケーだって!行こう!」
「ああ」
ルティとオークルは、トルテの後ろを歩いていた。
トルテは、ハルテアがガイルを連れて向かった先に心当たりがあると言ったが、肝心のその場所はトルテしか知らなかったため、案内をお願いすることになった。
「ルティ、そのファイル、どうして持ってきたの?」
オークルが指さして言ったのは、ルティが持っていた黒いファイルだ。これには、黒騎士ロボの説明書が入っている。
「さっき、あのロボット達を止めたときに使った術式があったでしょ。あれをもう少し研究したいなって思ったの」
「へぇ、ルティって研究者なの?」
「うーん…研究者に近いけど、別物かも。私はまだ、色々と勉強する段階だから」
「勉強かぁ。やっぱり大変なの?自分には分からないんだ」
オークルは今日この日までずっと、センターの中で生活していたのだ。ルティよりもずっと、知らないことや分からないことが多い。
「大変なところもあるよ。けど、楽しいって思うところもある。きっと、オークルにも分かる日が来るんじゃないかな」
「へぇ…ふふ、楽しみだなぁ!」
ルティの横でオークルがスキップをする。少々不格好だが、楽しげな様子だったので、止めないでおいた。
「いよいよ次に向かうのは、アーバルト港湾都市だね」
「うん。ついに、着くんだね」
旅の目的地であり、おそらくルティが書物の解読を完了させる地。
まだ見ぬその街に到着するのは、どこか楽しみでありながら、寂しいような気もした。
「ハルテアがきっと、ルティの書類をどうにか処分してくれたはずだ。追われることも、無いんじゃないかな?」
「分からないけど…そうなら、良いな」
おじさんが──ルグテースがセンターを去り、どこに向かったのかは分からない。
が、きっとトルテの言うとおり、追われることはもう無くなるだろう。
「でも、一回だけおじさん殴っておいても良かったかも」
「おや、何か鬱憤でも溜まっていたようだね?」
「うん。私は自分からセンターに行くことを決めたけど、皆を傷つけたことは許せないから」
「あ、それは…、その……」
「?どうしたの?」
トルテとオークルが顔を見合わせる。それはまるで、話したくないことを話すように言われた幼子のようだった。
「実はね……ボクのあれ、演技の延長線なんだ」
「……え?」
トルテが、なぜ泥だらけだったかの理由を話す。演技をすることになり、オークルと泥遊びをしたこと。追いかけっこをして汗をかいたこと。それから、遊びすぎてあちこちぶつけてしまったことなど。
「…というわけなのでした」
「…トルテ?…オークル?」
「ひぃっ!ごめんなさい!」
「主にボクがやりすぎたせいだ、悪いのはボクだよ」
話していると、ちょうど宿屋に到着していた。ハルテアがちょうど出てくるところだった。
「皆やっと来たー!って、え!?ルティ、泣いてるの?」
「だって…みんな、あのとき、つかまっちゃったんだって、おもって…!」
「あー、あのことね。トルテ、オークル、ちゃんとごめんなさいした?」
「一応…」
「もう一回しておこうか…」
トルテとオークルが揃って謝る。
「このことは、ゆるさないからっ!」
ルティはそれだけ言って、宿屋の中に入っていった。
「二人ともちゃんと反省しておきなよ?あたしもさっきガイルからちょっと聞いたけど、めちゃくちゃ話が飛躍してたらしいじゃん」
「ゔ…それは、うん…」
「まぁ、あとでルティの大好きな料理振る舞えば許してくれると思うよ。あたし教えてあげるから、一緒に作ろ!ね!」




