1-3-44 復活を止める方法
ルティとガイルが三体の黒騎士ロボの注意を惹きつけている間、隠れていたオークルとトルテが人々を避難させる。
「さぁ、立って!ここから離れるよ!」
「あ、足が、滑る…!」
「ルティ、雨を止められるかい?」
「うん!」
雨が止むが、床は水溜まりだらけだ。歩きやすくなったわけではない。
「たしか、向こうの方に非常用の出口があったはずだ…!」
記憶を頼りに廊下を走る。先頭をトルテが、殿をオークルが担い、数人の逃げ遅れた研究員を連れて行く。
「あった、きっとあれだ!」
廊下の先に、先日開けようと試みた扉があった。
扉に走り寄り、研究員に扉を開けるよう頼む。
が、扉は特殊な鍵がかかっている様子で、開く気配がない。
「このままじゃあのロボットにやられる!」
「今は緊急時なんだ、開いてくれ!」
研究員は無我夢中でドアノブをガチャガチャと回す。その度に、青紫色の丸い光が扉全体を淡く照らし、鍵が何度もかかるのだ。
「これは…魔素封印の一種かな…?」
魔素を感知して封印術が展開される魔法のことだ。
火災など炎の魔素が溢れる時などに起動する仕組みなのだろう。生憎今は、水の魔素の方が優勢なので、反応しないが。
「これは…ルティじゃないと解除できないけど、ルティは今…!」
玄関ホールの方角から、大きな爆発音のような音が聞こえた。全員一斉に振り返るが、炎や煙の類は見えない。扉も反応していないから、火事の心配は無いのだろう。
「は、速く開けないと…」
研究員はもう限界ギリギリだった。最悪のことになる前に、この扉を開かなくてはならない。
焦っていると、オークルが言った。
「みなさん、自分の後ろに下がって!やってみたいことがあるんだ!」
研究員とトルテがオークルの後ろに下がると、オークルは持っていたウクレレを構えた。
「こんなところで歌ったって何も変わりゃしないだろうが!」
「いえ…見ててください」
オークルがテンポの良い短い曲を弾く。
すると、扉にかかっていた術が──淡く照らされる青紫色の光が徐々に消え、曲が終わる頃には、全く痕跡が残っていなかった。
「すごい…!」
「感心してくれるのはうれしいけど、速く行こうよ。外の方が安全なんでしょ?」
研究員が全員外に出る。
彼らには自分たちで支え合って避難を完了するように伝え、トルテはオークルと共にその場に残った。
「オークル、君、何をしたんだい?」
「さぁ?細かいことは自分にも分からないんだ。ただなんとなく、邪魔になっているベールを剥がして前に進めるようにしただけ」
「ふむ…他に何かできたりする?」
「色々できるはずだけど、ぱっとは思いつかないな。例えば?」
「そうだね、例えば───」
…………………………………………………
ルティの魔法で爆発を起こし、少なくとも一体は完全に崩壊、うち一体は半壊で、せいぜい後に対処するべきは無傷の一体だけのはずだった。
なのに、ついさきほどまでただの機械パーツの山だった塊が勝手に組み上げられ、再び暴走する黒騎士ロボットに変形する。
ルティとガイルは二人でずっと戦っていた。
何度も、何度も何度も復活してくるので、まるで勝ち目が見えなかった。
三体同時撃破が必要なのかと思ってまとめて倒したり、魔法だけで倒さなければならないのかと思ってルティだけで対処したりと色々作戦を練りながら戦っているが、手応えは無い。
このままでは、二人の体力が尽きるのが先だろう。
(どうにかして、全部止められる方法を探さないと──!)
飛んできた槍を慌てて跳ぶことで回避する。
暴走した黒騎士ロボは味方も敵も関係なく攻撃する状態にある。ルティ達がどうにか撤退したとしても、この建物には二度と誰も入れなくなってしまうだろう。それは避けたい。
ルティは一体の黒騎士ロボを引き受けているが、ガイルは二体引き受けている。彼はほとんどずっと回避や防戦一方で、どちらかといえば押され気味だ。
お互い体力を消耗していることが分かっているので、できるならば援護しているが、それも難しかった。
ルティの立っているところから、トルテとオークルが走ってくるのが見える。他に人はいないので、避難させることに成功したのだろう。
と思っていると。
「ルティ!避けろ!」
ルティのすぐ近くにいた黒騎士ロボが、ルティの足元を槍で横薙ぎしたのだ。
横向きに転び、両手を地面につく。
ステッキが離れたところに転がり、咄嗟にルティは防衛魔法を展開するが、間に合わない。
黒騎士ロボとルティの間にガイルが割って入るが、彼を追いかけてきた黒騎士ロボ二体の追撃が重なり、ガイルの身体が吹き飛んで壁に激突した。
「ガイル!!」
慌てて彼の元に近づく。意識はあるが朦朧としているようだ。
額の傷が気になるが、今ルティが回復魔法を使えば、戦える者はいなくなる。
そして今、ルティとガイルは三体の暴走黒騎士ロボに囲まれている。
ルティの手元にステッキが無いため、展開できる魔法は狭い規模のものが精々だ。
一か八かにかけて炎の魔法を練り、せめて相打ちを狙う。
黒騎士ロボの三本の槍がルティ達に向かって振り下ろされ──
「とりゃぁーーー!!」
声と共にハルテアが飛び出す。
その拳でまとめて三体殴り、注意を惹きつけてくれた。
「状況はよく分かんないけど!ルティ!ガイルをお願いするね!」
「ハルテア…!そのロボットは…!」
「あ、そうそう!ルティ、これ受け取って!」
ハルテアが黒いファイルを取り出し、ルティに向かって投げる。
それを受け取ると、
「あとは中見て必要な情報あったら使って!多分このロボットの説明書だから!」
それだけを言い残して戦闘に戻った。
せっかくハルテアが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「ガイル、ちょっとだけじっとしててね…!」
彼の額の傷に軽く手を添え、傷口を塞ぐ魔法をかける。
徐々に傷が消えるのと同時に、ガイルの意識もはっきりしてきたようだった。
すっかり傷口が見えなくなると、ガイルが言った。
「ありがとう、ルティ。ひとまず、ハルテアに頼まれていたこと…そのファイルを確認する方を優先できそうか?」
「できるけど、ガイルも安静にしておいたほうが良いと思うよ?流れた血は戻らないし…」
「貧血ってレベルまではいってないよ。俺らは時間稼ぎをする。その間に…頼めるか?」
「…分かった。二人とも、気をつけて」
ガイルが走り出し、ハルテアと合流する。
ルティは、二人の無事を祈りながら、手元のファイルを開いた。
ルティの専門分野は古代文字の解析と魔法であって、機械工学の分解ではないのだが、ハルテアがわざわざルティに任せたということは何かしらのヒントがあるのだろう。
そう思ってページを捲っていると、途中に紙が一枚挟んであるページがあった。紙にはハルテアの文字で「よろしく!」とだけ書かれている。
見開きのページをよく読む。
「これなら…、あのロボットを止められる…!」
複雑な魔法術式が書かれているが、そこはルティの得意分野だ。
そこには、『魂を定着させ復活させる魔法』を繰り返し行う術が書かれていた。
それを逆に起動させれば、魂を分離させ復活を止められる状態にできるのだ。
「ルティ!無事かい!?」
廊下の奥から声がして、トルテが走り込んできた。すぐ後にはオークルもついて来ている。
「大丈夫だよ。…そうだ、手伝ってほしいことがあるの」
「手伝ってほしいこと?」
「そう。これ、見て」
ページの片隅に描かれていた小さなイラストを指さす。
「こんな形にしたいの。…できるかな?」
「やってみせよう!」
「ボクも頑張ってみるよ」




