1-3-43 黒騎士ロボ
逃げ惑う人々を掻き分け、玄関ホールへと急ぐ。
非常事態だからこうして堂々と出口に向かえるものの、事態の真相が──悪戯がバレたら、即座に止められる可能性があった。
早足で廊下を歩き、扉の開け放たれた部屋をいくつか通り過ぎる。
そうして、玄関ホールにたどり着いた時だった。
「そこの三人と一匹。止まりたまえ」
命令口調の男の声が背後からした。
ガイルがルティとオークルの腕を掴み、咄嗟に飛び退る。
三人が立っていたところに、大きな黒い槍の先が突き刺さっていた。
周囲から悲鳴が上がり、慌てる人々が外へと走り出る。
「おじさん…!」
ルティ達の前には、車椅子に載せられた男が一人と、その車椅子を押すルグテースがいた。
二人の背後には、物語に出てくるような黒騎士を真似た、大きなロボットが三体控えている。どれも同じ、大きな黒い槍を構えていた。
ガイルが刀を抜き、二人の前に出る。
「いきなり襲ってくるってことは、やり返される覚悟もあるってことだよな?」
「そちらが先にセンターに侵入などしなければ、新しい防御マシーンを起動することも無かったのだがね」
「ルティを攫ったのはそっちが先だろ?」
「攫う?ルティには、協力を要請した。あの子は、それを受理したのだ。誘拐とはまた違う」
ルティの横でオークルが、ルグテースの顔を見たりガイルの後頭部を見たり黒騎士ロボを見たり…と困惑していた。ここで止められることを、想定していなかったのだろう。
「だったら、俺らを殺しに来た理由は何だ?わざわざヒラテルヒアの奥地まで追いかけてきて、こっちは大変だったんだ」
「それは、わたしの上司である男の命令だ。わたしは何も知らなかったのだよ。わたしがしたこと、それはただの処分だ」
ルグテースが、車椅子に乗る男の肩を叩く。男がうめき声を上げた。
「そいつ…まさか、俺達を殺りに来た…?」
「話が早くて助かるよ。そう、彼は任務に失敗したばかりか、運命を手助けしたからね。相応の処罰を受けたのだよ」
「運命を手助けしたって、どういうこと…おじさん?」
「ルティ、運命というのはね、君の──」
ルグテースが何か言おうとしたが、車椅子の男が突然発狂した。その声はホール中に響き渡り、ルグテースの言葉は中断される。
「もういいだろ、俺に殺らせてくれよ」
「まだ話すべきことがあるのだがね。待てないなら良しとしよう。ただし──」
「被験者二人は生け捕り、だろ?分かってんだよ、こっちは。あんたはさっさとどっかいけ」
「ふむ。わたしの役割はこれで終わりか。では、望み通り、遠くへ逃げることにしよう」
「待って、おじさん!」
ルティがルグテースの背中に呼びかけるが、彼は振り返ることなく出口から外に出た。
「さぁて、ここからは俺の復讐劇だ。あんたらのせいで、俺はこのザマだ。見えるか、俺のこの足が!腕が!」
男の両腕と両足には包帯が何重にも巻かれている。
「そこまで怪我させた覚えは無いんだけど」
「任務に失敗したからだよ!!いいか、青の皇帝は非常で傲慢だ。駒が一体思うように仕事して来なかったら、こうして奈落にぽいだ。捨てられる駒の気持ちなんざ考えやしないっ!!」
「なんでそこで青の皇帝が出てくるんだ?あんたの上司はルグテースだろ?」
「ははは…!まだそう思い込んでいるのか?…あの男も!この建物も!灰色に染め上げたこの街も全部!!青の皇帝の持ち物なんだよ。もちろん、俺もだ」
男は再び狂ったように笑い続けた。
「全部、全部お前らが死んでくれなかったからだ!!だからここで死ね!」
男が手元のリモコンを操作すると、三体の黒騎士ロボが一斉にガイルに向かって槍を突きつけた。
ガイルは身軽に跳躍し、槍を全て躱す。
「ルティ、今のうちに戦える準備をしておいてほしい。オークル、トルテと一緒に下がっておけ」
「分かった。ガイルも、気をつけて!」
その場はガイルに任せ、ルティは物陰に移動しステッキの状態を確認した。
傷がついているわけでもないし、木がささくれているわけでもない。
これならすぐに援護に回れそうだ。
ルティの視界の端では、トルテを抱き上げたオークルが適当な部屋に飛び込むのが見えた。あそこなら、すぐに攻撃されることはないだろう。
ルティが隠れていた場所から顔を出すと、黒騎士ロボのうち一体がこちらにやって来るところだった。
牽制のために蔦を呼び出し、黒騎士ロボの足元に生やす。が、すぐに蔦が切られ、あまり足止めにはならなかった。
黒騎士ロボは全身が硬くて黒い鎧パーツに覆われているので、的確にコアを攻撃するのは簡単なことではなかった。
人間なら怯むような炎や、雷ですら、目のない黒騎士ロボには関係ない。
ただ唯一、水しぶきを浴びせかけた時には動きが鈍くなっていたため、ルティは水魔法を中心に術を練り上げた。
「ガイル!雨を降らせるよ!」
「分かった、頼んだ!」
視界が悪くならないように小雨に調整したが、それでも水であることには変わらない。三体の黒騎士ロボのパーツの隙間に水が入り込み、動きが悪くなる。
車椅子に乗っている男がリモコンのボタンをあちこち叩いているが、動作に変化は現れない。
「ガイル、あのリモコンだと思う!」
ルティは、男の持つリモコンを遠くから指さした。あれを壊せば、黒騎士ロボは停止するだろう。
ガイルが走り出す。動きの鈍い黒騎士ロボの横をすり抜け、男の持つリモコンをはたき落とした。
飛んでいったリモコンはルティが回収し、強めの電撃魔法をかけてショートさせる。
それと同時に黒騎士ロボががくりとうなだれ、動きが一時停止した。
「これで終わりだ」
ガイルの刀が、車椅子の男の首元に突きつけられる。
「ガイル、さすがに殺すのは…」
「あくまで無力化させるためだ。殺しはしないよ」
「くくく…」
「何が面白い?もうロボットは動かない、あんたは戦えないだろう?」
「ははは……!」
「ルティ!ガイル!後ろだ!」
部屋に隠れていたはずのトルテの声が響く。二人が慌てて振り返ると、三体の黒騎士ロボが槍を振り下ろしていた。
槍先をガイルが刀で受け止める。ルティはその間、車椅子の男に詰め寄った。
「どういうこと!?リモコンは使えなくしたはず!」
「逆なんだよ、リモコンは、制御装置だ。あれが壊れれば、誰にも止めることのできない殺戮兵器になる。それだけじゃない、あの黒騎士ロボットは、何度だって復活する!」
突然攻撃の矛先をガイルから外した一体が、ルティに詰め寄る。
咄嗟にルティは水球を魔法で作り出し、何発か当てて距離を取った。
車椅子の男はずっとゲラゲラ笑っている。酸欠にならないのかと心配していた時、
「ルティ、そいつをロボットから離れさせ──!」
ガイルが叫んだが遅かった。
黒騎士ロボの槍が男の胸を貫く。男はがっくりと首を垂れ動かなくなった。
使役者が亡くなってしまい、本格的に黒騎士ロボの暴走が始まった。
それまでとは比べ物にならないほど一撃が重くなり、動きも全体的に速くなる。ルティが降らせている雨などものともせず、スピードはそのままで突っ込んでくる。
まだ逃げ遅れた者も多く、ルティ達が先に逃げるわけにはいかなかった。
「ガイル、他の人を逃さないと!」
「分かってる。俺達で注意を惹きつけよう」




