1-3-42 会いたかった仲間
防火仕様のセンターでボヤ騒ぎを起こすのは、簡単なことでは無かった。
荷物を届けに来たという体で特に止められることもなくセンターに潜入することに成功したハルテアだったが、作戦を実行するポイントに到着しても、ちょうど良いアイテムが見つからなかったのだ。
危険物取扱注意、と書かれた倉庫に忍び込み、使えそうなものが無いか探してみる。
単に着火剤やランプの類はあったが、このセンターの中では騒動を起こすには向いていない。
誰かに見つかるわけにもいかないので、目の前の棚に置いてあった段ボール箱を漁る。
「あ、これ、良いかも」
見つけたのは、小型の発煙筒だった。火のないところに煙は立たぬというから、煙が出ていれば十分なボヤ騒ぎを起こせるだろう。
倉庫の外に出てから、観葉植物の植わっている鉢に発煙筒を差し込み、着火する。
あとは、様子を見るだけだった。
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部屋の外が騒がしくなったのは、午前九時頃のことだった。
解読作業に没頭していたルティは、部屋を監視する大人達が皆右往左往としているのを目にした。
しばらく手を止めて部屋の外の様子を伺っていると、世話役の女性がやって来る。
「あの、何があったんですか?」
「上階で煙が出ていると報告があったのです。幸い、地下はセンターのどの部屋よりも防火仕様なので火の手が回ってくることはありませんが」
「大丈夫なんですか?」
「ええ、まぁ。むしろ、上に避難するほうが危険なので」
そのまま作業を続けなさい、と言われ、ルティは再び書物に向き合った。
世話役の女性が部屋の外に出ようとしたときだった。
部屋の外の廊下から研究員の悲鳴が上がり、誰かが転ぶ。書類の山が空中を舞い、人々が走り回る。
「一体何事ですか。どうせ火事の心配はここには無いとあなたたちもわかって──」
「邪魔だ」
ルティは顔を上げた。
部屋の入口に、世話役の女性と、灰色の服を着た人物が立っている。
世話役の女性が部屋の外へと放り出され、こちらから姿が見えなくなる。
代わりに部屋に入ってきたのは、ルティが無事をたしかめたかった人だった。
「ガイル…!」
「悪い、助けに来るのが遅れた」
ガイルの温かい腕が、ルティを抱きしめる。
一週間近く会っていなかったので、懐かしさと無事であることの安心とで涙腺が緩み、声を上げて泣いた。
「…もう、大丈夫だよ」
わんわん泣いて落ち着いた後、ガイルから離れる。
「トルテ、ボロボロだったし、おじさんは捕まっているっていってたから、そうなのかなって思ってた」
「あー、それには色々と事情があるんだ。あとで説明する」
ガイルがルティの手を引き、立ち上がらせてくれる。
「それより、ここを出よう。荷物は全部持ってきてくれ。…トルテは近くにいるか?」
「あっちにいるよ。寝室で寝てると思う」
二人で寝室に入る。
トルテは床の上で毛づくろいをしていた。
「ふふ、ちゃんと助けられたみたいだね」
「トルテ、あとで一緒に怒られような」
「……?どういうこと?」
「オークルにも同じことを言われたよ」
「あのね、隣の部屋にも人がいるの」
「知ってる。そいつも一緒に連れて出る」
ガイルは寝室のもう一つの扉を開き、ウクレレを持ったオークルを引っ張り出した。
「さっさと出るぞ。ハルテアが時間稼ぎしてくれているとはいえ、限界があるからな」
「ハルテアも、無事なの?」
「全員無事だ」
「腕も脚もある?」
「五体満足だ。…オークル、トルテ。ルグテースってやつに何吹き込んだんだ?」
オークルとトルテはそろってガイルから視線を外し、鼻歌を歌い始めた。
突然の襲撃に人々は逃げ惑い、被験者が二人、堂々と出口に向かっても、誰も止めようとしなかった。
「あぁ、そうだ、ルティ。これを渡しておかないと」
ガイルがルティに差し出したのは、ルティのステッキと服だった。
「さっき回収しておいた。他に忘れ物はなさそうか?」
「多分、大丈夫」
「よし、じゃあ出るぞ」
三人と一匹は階段を駆け上がり、玄関に向かって走り出した。
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同じころ、地上階でボヤ騒ぎを起こした張本人であるハルテアは、逃げ惑う人々からそこそこ距離を取りながら、各部屋を見て回っていた。
作戦の都合上、ルティに関する資料を破棄しなければならなかったので、それを探していたのだ。
最上階のフロアにはそれらしいものは見当たらなかった。その下の階もそうだ。
今は地上二階にいるが、まだそれらしいものは見つかっていない。
今度は、角を曲がった先にある小さな実験室に潜り込んだ。
人の気配は無い。空っぽの実験室は、機械のパーツのようなものが乱雑に置かれていて、足の踏み場を探すのも大変だ。
部屋の奥に備え付けてある机には、いくつか書類のようなものが置かれている。
なんとか部品を蹴らないように前に進み、机にたどり着く。
青いファイルと黒いファイルだ。
先に青い方のファイルを開く。
"当該研究センターは、皇帝の名の下、ヨールライ大陸エルードの谷に開設された施設であり──"
「よく分かんないや。持っていって、後で皆で読もう。こっちは?」
今度は黒いファイルのほうを開く。
『無限活動型黒騎士ロボットの仕様と解説』と記されたそれには、中世の騎士をイメージとさせる外見のロボットについて、細かく記述されていた。
それによれば、部品に組み込んだとある魔術式によって、壊れても元通りに復活するという効果があるらしい。
緊急時の解除呪文なども記述されていたが、ハルテアには魔法のことなんてほとんど分からないし、勉強する気にもならない。
ならばこれはルティに読んでもらおう、と考え、結局二冊とも持っていくことにする。
「もう、どこにあるんだろう、ルティのこと書いてあるファイル!」
一人呟くが、誰の答えも帰ってこない。
仕方なくハルテアは再び歩きにくい床を進み、出口に向かうことにした。
(あたしが玄関に向かう前に、何も起きてないと良いんだけど)




