1-3-40 歌うたいの協力者
午後になって、夕暮れになるまで、一行はネズミ探し──のふりを続けた。
「中々見つからないなぁ。どこにいるんだろう?」
「意外と灯台下暗しだったりして」
「ハルテア、冗談はほどほどに、な」
やがて日も落ち、辺りが暗くなってくる。
さすがにそのまま探索するのは危険だったので、捜索はそこで中断することになった。
「この街に、宿屋ってあるのかな?」
「無いことは無いだろうけど、危険を犯さない方向で行くなら、適当なところで街を出て野宿するのが良いだろうね」
「野宿!初めてやるなぁ!」
一行はオークルを連れて街を出た。
森に入り、川辺の静かな空間を見つける。
炎を燃やし、各々毛布に包まる。
「あの、マシュマロとか燃やさないの?」
「生憎手持ちにマシュマロが無い」
「そっか……歌は!?歌なら歌えるよ!」
「聞いてみたい気もするけど、夜中だからね…獣を呼ぶことになる可能性もある。やめたほうがいいんじゃないかな」
「えー、あたしは聞きたいな!」
「明日の朝でもいいんじゃないか。今夜は寝るのに集中しよう。明日もネズミ探し、するんだろ」
「そっか…じゃあ、おやすみ」
…………………………………………………
ガイルはたしかに、翌朝に歌えばどうか、と言った。
が、それはあくまで、午前中に、という意味だった。
まさか、寝起きに歌を歌われるとは思っていなかったのだ。
オークルの歌声が目覚ましになり、ガイルもハルテアもトルテも目を覚ました。
焚き火は消えかかって燻っており、梢の隙間から昇ったばかりの太陽の光が照らしている。
「あ、おはよう!」
「おはよう…ふわぁ…朝から歌うなんて、元気だね!」
「いつも朝から元気なやつが言うと、余計元気なやつなんだって感じるな…」
「爽やかな朝だ!素晴らしい!」
オークルは外で寝起きするのは初めてらしく、まだ日の出から数分しか経っていないというのに、終始興奮しっぱなしだった。
「オークル、眠れたのか?」
「ええ、おそらくは!すっきりとした目覚めだった!」
「ふふ、太陽の光で目覚めると、たしかにスッキリするね」
「なら良かった!そうだガイル、昨日買ったのってこっちのバッグに入っているよね?」
「ああ。頼めるか?」
「任せて!」
「何を任されるの?」
「朝食だよ!」
ハルテアの食事作りに興味津々なオークルがそっちに意識を集中させる。
その間にガイルは、自分とハルテアの分の乱れた毛布を集めて畳み、カバンにしまい込んだ。
それから少し離れたところに移動し、素振りを始める。
しばらくすると、こちらに興味をもったオークルが近づいてきた。
「危ないから、ちょっと離れとけよ」
「うん。何しているの?」
「素振りだ。簡単に言えば、強くなるためにやってる」
「どうして強くなるの?」
「守りたい人を守るためだ」
「へぇ、それってルティ?」
剣先が乱れる。
「ルティもだけど…他にも、ハルテアとかトルテとかいるからな」
乱れた剣先を正してから、素振りを再開する。
「ガイルー!オークルー!朝ごはんできたよー!」
ハルテアが作ってくれた朝食を食べながら、トルテが言った。
「街の構造は昨日一日でおおよそ把握できたから、今日は裏道の気になった場所を探索しようか」
「裏道?どこ?」
「センターの裏道、といったほうが分かりやすいかな」
「どうしてセンター?あそこ、外壁も入口もしっかりしているから、ネズミが入らないと思うよ」
「だろうね。しかしネズミというものは、正面から入るものばかりじゃないのさ」
「ふーん…?」
オークルは理解できていないようだったが、つまりトルテが言いたいのは次のことだ。
センターに侵入する経路は正面以外にもある。それの下見に行こう、と。
朝食を食べ終わり、ガイルとハルテアが衣服の見直しをした後、一行は再び街に入り、今度はセンターの裏道探しを行った。
オークルの話してくれた内部構造が確かであれば、センターは地上部が四回建ての研究フロアで縦に長く、地下部が三階でうち地下一階と地下二階は資料文献の保管部であり、地下三階に被験者が集められているのだという。
「それを参考にするなら、万が一のことが起きたとき用に非常玄関や非常階段の類があるはずなんだ」
「つまり、そこにネズミが入り込むから、見張っておくと!?」
「いや、人目があるうちはネズミは入らないよ。罠が仕掛けられていないか、確認しないとね」
「そうか、罠…!ネズミ用の罠は…持ってないな」
街の住民や見張りにバレないように移動し、センターの裏手に回る。
「オークル、ハルテアと一緒に、あっちを調べてくれないか?」
ガイルは適当な道を指さした。
「わかった!」
オークルがハルテアに続いてその道を調べる。
結果的にこちらに背を向けることになったので、ガイルはトルテと共に扉を調べた。
「気をつけて。もしかしたら、警報が鳴るかもしれないから」
トルテがそう言ったものの、開くかどうか試さなければ侵入することもできない。
どうか警報が鳴りませんようにと祈りながらドアノブを回す。
特有のひっかかりを感じ、ガコッという音だけがした。
「鍵がかかっているみたいだ」
「非常時にしか開かないようになっているのかもしれないね」
「他の出入り口を探そう」
ハルテアとオークルとも合流し、他に出入り口になりそうな所が無いか探したが、それらしいところはありそうに無かった。
オークルが他のことに興味をそそられている隙に集まって小さな声で意見交換をする。
「頑張ればトルテくらいなら入れそうな穴とかならあったけど、あたし達は難しそうだよね」
「ああ。けど向こうは、ボクがいることは想定済みのはずだ。ボクが入れそうな小さな穴一つとっても、見張られているだろうね」
「そいつらは相当暇なんだな……とはいえ、入口が見つからないんじゃルティを助けに行けない。正面から突入するか?」
「いや、やっぱりそれは避けたほうがいいだろうね。例えばどうにか、潜入とかできれば強めに出られるんだけど」
「センターに出入りする人に頼むのは?」
二人と一匹で額を突き合わせても、良い案は思いつかなかった。
「守りが鉄壁すぎる…」
「あまり長くは考えていられないよ。オークルもあまり長くは捜索に出されないだろうし、本格的な捜索をされる前に、センターに潜入しないと──」
「どうしてみんながセンターに潜入するの?」
「えっ?あ…」
振り返ると、オークルが二人の背後に立ち、明らかに意見交換に耳を傾けていた。
「えっと、その…」
「…ここは、正直に全部話そう」
「でも、そしたら…!」
「かえって、オークルならボクらの思いつかない方法で出入りするやり方を思いつくかもしれない」
トルテに言い返せる言葉がなく、二人とも黙り込んだ。
「ボクから説明しよう。まず、君が探していたネズミについて、分かっていることがあるんだ」
「分かっていること!?なになに?」
「ネズミは三匹いる。そして、ネズミはセンターの中に入ろうとしている。なぜなら、中にあるものを必要としているから。ここまではいいね?」
「うんうん、それから?」
「ネズミのうち一匹は女の子で、とっても元気だ。残りのニ匹は男の子で、うち一匹は真っ直ぐで、もう一匹は耳がいい」
「ふむふむ」
「そして、人間二人と猫一匹だ」
「へ?」
オークルの表情が驚いたそれに変わり、視線がガイル達の顔を順番に流れていく。
「君の言うルグテースの求めているネズミっていうのは、ボクらのことなんだよ」
「えっ…君達、ネズミに変身できるの!?」
「いや、そういう意味じゃない。ネズミっていうのは一種の隠語…例えなんだ。侵入者のことを指しているんだよ」
「侵入者…君達、が…?」
「ボク達は、攫われたルティを助けに来たんだ」
トルテは、ヒラテルヒアに入ってからの冒険と、ルティがいなくなった経緯についてを全て話して聞かせた。
「ルティは受け入れているのかもしれない。けど、それが正しいとは言えないと、ボクらは皆思っている」
「それに、あんなお別れはあたしも嫌なんだ」
「だから俺達は助けに来た。ルティは優しいからきっと、困っていても手を伸ばすことを躊躇うはずだ。だからこっちから手を差し伸べに来た」
オークルはしばらく呆けていた。
あまりにも無反応だったので、ガイル達は、オークルが怒っているのだと思った。が、
「すごい!すごいよ!物語の中にいるみたいだ!」
唐突にオークルが叫び、二人と一匹に詰め寄る。
「自分にできることは何かな!?ぜひ協力させてほしい!」
オークルは全力で協力要請に乗っかってきた。




