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最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第一章:灰色の導き
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1-2-31 白竜の試練

「白竜の試練?」

「そうだ。簡潔に言えば、図書館の記録を与えられるためにこいつと戦ってもらう」


 観測者が、背後にいる白竜を指さした。


「こいつ呼ばわりとは心外であるがな。名もなき我を呼ぶのであれば、せめて守護の竜と呼んでほしいものだ」

「うわっ、喋った!」


 観測者といいハルテアといい、白竜に対して少々失礼な態度をとっていないか…、とガイルは思ったが、その前に聞きたいことがあった。


「全員って言ったか?」

「ああ。より正確に言うなら、僕以外の全員、だけどな」


 観測者が腕組みをして周囲を見渡す。その動きはまるで、隠れている誰かを探そうとしている様子だった。


「ボクも戦うのかい?」


 トルテがそばにやってきて、二人に尋ねた。


「どうだろうね…トルテ、爪とかで戦う?」

「大分無理があるように見えるけどな…」


 ガイル達が相対する白竜は、後ろにいる青鯨と同じくらいか、それより少し大きいサイズ感だ。人であるガイルやハルテアでさえちっぽけに見えるのに、トルテはもっと小さい。


「でも、どうにか突破しないと。ルティのもとに速く行きたい」

「ぷぷ、やっぱり二人ってそういう関係ー?」

「はぁ…どういう関係なんだよ、それ。仲間がピンチなら、駆けつけるのが普通だろ」


 内心思っていることは口に出さない。が、大切な仲間は誰一人として取りこぼすつもりが無いことは確かだ。


「ところで、あいつは何を探しているんだ?」


 観測者を指し示す。彼は今、白竜の後ろにある洞窟にまで入り、何かを探し続けていた。白竜も彼の動きを観察しているせいで、ガイル達の試練が始まらず待機していたのだ。


「あっ、何か見つけたのかも」


 ハルテアが反応し、ようやく観測者が洞窟から出てくる。背後に誰かがついてきていた。


「…ベリオーロ?」

「お久しぶりね。全員無事でよかったわ」


 小柄な司書が一行の前に現れた。相変わらずお洒落な服を着ているが、別れた時と異なる物が増えていた。


「それ、槍か?」

「ええ、これは司書の槍。特別な時にだけ使用することができるのです」

「あんまり戦えないって言ってなかったっけ?」

「普段はその通りです。魔物一匹退けるのにも苦労します。ですが、この槍に触れている間は別。わたくしも戦うことができるのです」

「…はぁ。ようやく全員揃ったな」


 ため息を吐きながら観測者が言った。


「ベリオーロも数に含まれているのか?」

「ああ。運命はそう決まっている。他に質問はあるか?」


 三人と一匹で顔を見合わせる。ハルテア達は特に質問らしいものは無いのだろう。


「一応確認させてくれ。勝利条件は何だ?」

「我の鱗を一枚剥がせ。それだけで良い」

「そうか。じゃあ、さっさと始めようか」


 竜の雄叫びが首落ちの滝周辺に響き渡る。


 それが合図だった。


 一斉に白竜に飛びかかる。が、尾鰭が素早く振り払われ、ハルテアとトルテが後ろに跳んだ。


 戦い慣れしていないベリオーロは白竜と距離を取りながらタイミングを見ているようだったが、槍が勝手に動いて彼女に戦い方を教えている。


 逆にガイルは一気に距離を詰め、白竜の背中に飛び乗った。


 白竜には大きな翼があり、振り落とされないように掴まっているのも大変だった。


「ハルテア!どうにかして尾鰭を掴んでおいてくれ!」

「ええっ何で!?」


 言いながらもハルテアが走り寄り、尾鰭に抱きつく。


 ふわりと宙に浮く感覚がして、ガイルとハルテアをくっつけたまま、白竜がわずかに浮き上がる。ぎりぎりトルテを視認できる距離を飛んでいた。


「ふわわわっ、落ちるっ!」


 咄嗟に手を伸ばすが、距離が足らない。自らも落ちないように注意しながら移動し、尾鰭の付け根に抱きつくハルテアの手を掴む。


 そのまま背中に引っ張り上げ、状況を頭の中で整理した。


 現在ガイルとハルテアは空中にいて、トルテとベリオーロは地上にいる。全員飛ぶ能力など当然持っていないため、どうにかして白竜を地上に降ろさせなければならない。


「ハルテア、長いロープとか持ってないか?」

「ちょっと待ってね…………はい!」


 ハルテアから受けとったロープで輪をつくり、刀の柄に結びつける。あまりこういう使い方はしたくないが、思いついた作戦を実行できる持ち物は他に無い。


「今からこれを地面に突き刺す。それで俺が地上に降りたら、ハルテア、これを使って鱗を一枚剥がしてくれるか?」


 ハルテアにナイフを渡した。先端にくぼみがついていて、それで物を引っ掛けることができるタイプのものだ。


「あたし、やってみるね!」

「よし、それじゃ降りるぞ」


 一番近い地面に、刀の刃が下になるように投げつける。鋭く尖った岩の隙間にちょうどぴったり刀が刺さり、白竜がそれ以上空中に浮かぶのを阻止する。


 ガイルのみが地上に降り、ベリオーロのところに走っていった。


「ベリオーロ!それを、竜の頭のあたりに投げることはできるか?」

「今、制御しているところですっ…!」


 小柄な彼女にとっては、ガイルの身長と同じくらいの長さの槍は扱いにくいのだろう。


 補助に入り、狙いを定める。白竜の注意が完全にこちらに向き、背中のハルテアのことなど忘れているようだ。


 槍を後ろに大きく構え、投げつける。


 二人で投げたにしてはかなり遠くまで槍が飛び──


ガシャリと音を立てて地面に落ちる。


 白竜がその翼ではたき落としたのだ。


 白竜がケタケタと笑い、炎を吐く体勢になる。

…ここまでは作戦通りだ。


「ストップ、ストーーップ!」


 ハルテアの声がした。


 その手には、白く丸いものが握り込まれている。間に合ったのだ。


「あたしたちの勝ちだよ!」


…………………………………………………

「すみません、加勢に来たつもりがかえって足手まといになってしまって…」

「直接鱗を取る以外の役割だって必要だ。あんたはそれをやったんだよ」

「たしかに今回の功労者はご主人サマだろうけど、ガイルだってベリオーロさんだって全く動いていないってわけじゃないし、すごいよ。ボクなんてずっと逃げてばかりさ。天敵に雰囲気似ているんだもの」

「……そういえば、竜って蛇とか蜥蜴にも似ているよね…」


 一行がそう話していると、白竜がやってきてひとこと物申した。


「我は翼を持つ者だ。蛇や蜥蜴と一緒にするでないわ」

「そういえば、背中は大丈夫か?ハルテアがかなり乱暴に毟ったみたいだけど」

「うっ、ごめんなさい…」

「この程度、痛くも痒くもないわ。それと、童」

「…まさか俺のことじゃないよな?」

「お前だ」


 ガイルは未成年ではあるが、童というほど幼くはない。少々イラッとしたが、口には出さず傾聴の姿勢をとった。


「そこのやつに頼まれていてな。我の加護を授けよう」

「加護?頼まれた?」

「すぐ答えてやるから今は大人しくしていろ、童」


 竜が細く息を吐き出す。熱い炎が爆ぜるときの匂いがした。


「これで良いだろう」

「ねぇねぇ、ガイルにどんな加護を授けたの!?」

「効果か?実は、我だけの加護では特に効果らしいものは存在せん。ある特定の術が絡み合った時にのみ作用する加護でな、複雑な条件が重ならなければ発動すらしないのだよ」


 おそらくそれこそが、観測者がガイルに語った「未来」に関係するのだろう。


「何でそれを頼まれたの?」

「それについては僕から…といっても、あまり話せないんだけどね。彼の未来に必要なことなんだよ」

「わざわざそれのために竜を操る必要あったのか?」

「君達を確実に未来に繋げるためには、脅してでもここに連れてくる必要があった。それに、こうしてここに来なければ、君達はここでさっきのやつらに殺されていた可能性がある」


 白竜がジト目で観測者を睨みつける。おそらく、彼にとっても不本意な操作だったのだろう。


「ところで、図書館の記録を閲覧しても良いでしょうか?」

「ああ、構わない」


 ベリオーロの問いに白竜が応え、身体が一瞬白く光る。


 光が収まった直後、ベリオーロの前に一つの水晶玉のようなものが浮かんでいた。


「それが、ヒラテルヒアの歴史を刻んだものだ」

「てっきり、本の形をしているかと思っていました」

「本の形だと、なくされた場合探すのが大変だろうが」

「水晶玉でも、なくすと大変だと思うよ…?」


 ベリオーロが水晶玉に触れる。柔らかな青い光が水晶玉から発せられた。


 触れた直後からぼうっとしていたベリオーロだったが、身体が傾き倒れかける。


 慌ててガイルが支えると、腕の中でベリオーロがすやすやと眠っていた。


「どの司書も同じ反応を示すが…ヒラテルヒアの膨大な歴史に触れると脳が処理に困り身体が眠ってしまうのだよ。説明する前に触りおって」


 白竜が小柄な司書の身体を器用に背中に乗せた。


「さて、貴殿らも帰るだろう?我の背に乗れ。そこの鯨よりずっと速いからな」

「もう。わたくしの役目は、ゆったり客人を導くことですわ。そりゃあ、あなたと比べたら遅いでしょうね」


 二人と一匹が竜の背にどうにか乗ると、観測者が言った。


「しばらく合うことは無いだろうが、確実にまた会う時が来る。その時にはよろしくたのむ」


 それだけ言って、観測者の姿が霞に溶けるように消えた。


「では、ゆくぞ。しっかり掴まっておけ」

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