↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第一章:灰色の導き
29/65

1-2-28 氷の迷獄

なだらかに下る道を進むと、前方から吹く風が強くなってきた。


「風が吹いて来たってことは、出口もきっと近いよね!」

「そこそこ歩いてきたからね。…それにしても、風が強いね?」


 トルテが指摘する通り、風は毎秒強くなるようだった。


「これが魔物の罠とかでないなら、外はすごい強風になっているかもね」

「えー、魔物は困るかも…。戻るのも大変だよ!」


 相変わらず魔物の気配はするが、魔物の姿や影は洞窟に落ちて以来まだ一度も見ていなかった。


「何が待っているにしろ、先に進もう」


 周囲の本棚の数が徐々に減り、やがて小雪が風に乗って舞ってきた。外ではすでに雪の季節は過ぎているから、氷の迷獄由来の雪だろう。


 向かい風に逆らいながらなんとか進むと、岩の壁が唐突に終わり、開けた空間に出た。


 外は猛吹雪だ。視界は雪の白で覆われ、先がまるで見えない。


「さ、さむぅーー!」

「屋内とは思えないくらいリアルだね」

「ああ。とりあえず先に…っ、危ない、避けろ!」


 ハルテアとトルテに向かって叫ぶ。


 いつの間にか一行のすぐ後ろに来ていた白い竜が、長い尾鰭で仲間を叩こうとしていたのだ。


 刀で受け身を取るのも考えたがかえって危険になるだけなので、ハルテアとトルテを庇い雪にダイブする形で緊急回避する。


 幸い怪我一つしなかったものの、竜は好戦的に尾鰭を揺らしており、次の攻撃がいつ来てもおかしくなかった。


 なんとか攻撃を躱せる場所を探して周囲を見渡すと、少し離れたところに大きく入口を開けた青い建物が見えた。


「あそこまで走ろう!」


 雪に足を取られながらもどうにか建物の中に入る。


 入口は竜には小さいようで、中には入ってこない。


 そのまま竜は、建物の上を飛び去っていった。


「すごーい!ここ、天井が透明だよ!!…へくちっ!」

「天井に驚くのもいいけど、まずは身体を温めないといけないね。二人はボクと違って毛皮に覆われているわけじゃないし」

「そう言ったって、トルテだって大きな犬みたいにふさふさじゃあないじゃん…」

「もう少し奥に行って、風の当たらないところで火をつけて温まろうか」


 しばらく進むと、大きなホールのような場所に出た。といっても、天井が高い丸屋根で廊下が複数伸びているからそう判断しただけで、家具や暖炉があったわけではない。


 中央の座れそうな場所に固まり、火をつける。


「うわぁ…服の中まで雪だらけ…」

「…それはごめん」


 身体がある程度温まって来た頃、話題は竜のことになっていた。


「あの竜、一体どこから現れたんだろ?というか、何であたしたちを狙うのかな?」

「それについては俺も俺なりに考えていたんだけど…」

「何か気づいたのかい?」

「ああ…あの竜、何者かに操られているんじゃないかって思うんだ」

「えぇー!?竜を操れるって、それってどんな人なの?」

「俺には分からないよ。魔法については、基礎レベルの知識しか無いんだ」

「仮に操られていることが事実だとして…ボクたちを狙う理由は、何か思いつくかい?」


 トルテに問われ、竜に襲撃された時のことを思い出す。一度目は鯨に乗っている時、二度目は洞窟を離れる時。共通している点は…。


「…あたしたちを、どこかに連れて行こうとしているのかな。もしくは、逆に離れさせようとしているとか?」

「二回とも背後から襲われた。来た道に行かせない、という点では共通している」

「竜を操る者の目的によって、ボクたちが次にどうするかが変わってくるよ。


 もし特定の場所から離れさせようとしているなら、そこに何かがある可能性があるし、調査の必要性も出てくるだろう。


 しかし、特定の場所に連れて行こうとするなら、最大限注意しながらになるけれど、その場所まで進まないと、命のリスクを伴う可能性がある。


 ボクは慎重に考えたい。二人はどうしたい?」


 二人揃って沈黙し、トルテの言葉にどう応えるかを思案する。


 前に進むか、あえて戻るか。


 しばらく考えた後、口を開いた。


「「前に進む」」

「おや。一致したね」

「竜を操っている人が何を考えているのかはあたしには分かんないよ。でも、ベリオーロに頼まれたんだもん。記録を回収するって。それってつまり、操っている人のところに行って、操らないで下さいってお願いすれば、記録を回収することも、帰ることもできるって思うの」

「ハルテアが考えるほど楽観的に進む可能性はどちらかといえば低いように感じるけど、俺も前に進むのが良いって思う。飛ばされていった鯨も心配だ。ついでに探しながら進めば一石二鳥だろ?」


 それに──口には出さなかったが、ガイルは、きっと今ここにはいないルティも、前に進むことを選ぶんじゃないかと考えていた。


「それじゃあ、ボクたちが目指すべきは首落ちの滝、あるいはその先ってことで良いね?」

「うん!」

「ひとまず、ここを出る方法を探さないとな」


 改めて周囲を見渡す。


 ガイル達のやって来た、入口から直結の大きな廊下が背後に一つ。前方には、円を囲うように五つの細い廊下が繋がっている。それぞれの道に特徴といえるほどの違いは無い。


「片っ端から調べるのも悪くないけど、それだと時間がかかりすぎる。まずは何かヒントが無いか、ここをしっかり調べよう」

「調べるのは得意だよ!任せて!」


 ハルテアが荷物をがさごそとすると、虫眼鏡やら白手袋やらが出てくる。


「これを使えば、どんな小さな手がかりも見逃すことは無いのさ!…って、父さんが言ってた」

「ハルテアのお父さんも探偵なのか?」

「うん。本名は別にあるんだけど、いちおうダディ・ポットって名前で活躍してるの」

「ダディ・ポット?それって、このヨールライ大陸で結構有名な探偵じゃないか?」

「えへへ、そうなんだ!自慢の父さんだよ!」

「身内のことについて自慢したいのはわかるけど、まずはここを調べようか?」

「あっ、ごめんトルテ!ありがとう!」


 右手の通路二本をハルテアが、正面をトルテが、左手の通路二本をガイルがそれぞれ担当し、調査する。


 ハルテアから借りた手袋と虫眼鏡を使い、壁の小さな傷も見逃さないようにした。


 しばらくすると、トルテがガイルのもとにやって来た。


「トルテ?何か見つけたのか?」

「いいや。ボクなりに調べては見たんだけどね。どうにもボクが調べられる範囲は君たちより狭いから、すぐに調査が終わってしまったんだよ。…ところでガイル、君は一番背が高いだろう?上の方を見てもらえないかな」

「ああ、分かった」


 正面の通路の前に立ち、トルテが示す上の方を調べる。見たところ傷も目印も何もない。


 念の為道具を使いながら調べたが、右手の通路とまるで違いが無かった。


「特に何も見つからないな」

「そうか。ハルテアの方は………」

「トルテ?」


 振り返ってから、トルテが沈黙した理由に気づく。

 ホールには、ガイルとトルテしかいなかった。


「ハルテアは、どこに行った?」

「わからない、とにかく探そう」


 幸い、ハルテアが向かった先は右手の通路二本のうちどちらかだ。


 どちらに進むべきか悩んでいると、遠くの方からハルテアの悲鳴が聞こえた。


「こっちだ!」


 一方の道に飛び込み、通路を走る。


 真っ直ぐ続いていた道は途中からあちこちに横道ができており、進むのは難しかったが、ハルテアが時々叫んでいたため、声を頼りに突き進んだ。


「見つけた、ハルテア!」


 トルテが駆け寄る。

 ハルテアは、氷でできた鉄格子の向こうにいた。


「よがっだぁー!ひどりじゃ出られなぐてー!」

「分かった分かった。すぐに出してやるからまず泣き止めよ」

「うん…」


 扉のロックを解除し、ハルテアを助け出す。


「それにしても、なんでこんなところにいたんだ?」

「えっとね…この通路だけ、壁に一定間隔で番号が刻まれていたの。で、この向こうに本棚があったから、きっと手がかりだって思って調べてて…気づいたときには閉じ込められてました」

「ハルテア。次からは、何か手がかりを見つけたら俺達に報告してから調査してくれ。先に一人で突っ走られると、最悪気づけない可能性がある」

「…反省してるよ」

「まぁまぁ。とにかく、見つかって良かった」


 しょんぼりと項垂れるハルテアをトルテが慰める間、ガイルはハルテアが指し示した本棚を遠くから眺めた。


 書架のフロアや他のエリアで見たようなものとは違い、ここの本棚は小さくて隙間だらけだった。ざっと見たところ、十冊も本があるようには見えないし、どれも薄い。


「つまり、手がかりは、通路の番号と、本棚ってところか?」

「たぶん。通路の番号については、はっきりしないから、確かとは言えないけどね。他の通路はどうだったの?」

「入口しか調べていないから何とも言えないけど、特に違いは無かった。番号とかも特に無かったな」

「本棚があるってことは、ここが正解のルートなんだろうね。ところで、本棚は調べたかい?」

「もちろん!ついでに謎解きもしといたよ」

「謎解き?」

「そう!あそこに並べてある本、全部二文字ずつしか書かれてなくてさ。最初は何のことだか分からなかったけど、全体を並べ替えてつなげて読んだら一つの文章になったの!」

「…アナグラムか。どんな内容だったんだ?」

「十七の角を右に曲がるな絶対!」

「……つまり左に曲がれってことか。ややこしいな」

「とりあえず先に進もうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。