↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての魔法の読み取り方  作者: 星の入り江
第一章:灰色の導き
15/65

1-1-15 ノアラターン(3)

夕日が城壁の向こうに沈んだ頃、一行は黒白の館の前に到着した。


 壁が黒と白のモノトーンで装飾された館は周囲の建物より一回りほど大きく、存在感が強い。


 入口の呼び鈴を鳴らせば、間もなくフードの人物が現れた。


「お待ちしておりました。夕餉の支度はすでにできております。大広間までご案内いたします」


 館の中には、黒と白のフードを被った若者が数十人歩き回っていた。ほとんどの人が、特定の部屋から行き来しているようだ。


「あれは…?」

「あちらは、審判の間でございます。我々が働く上で特に大事な部屋になっています」


 少し歩くと、やがて大広間に案内された。


 大きなシャンデリアが頭上にいくつかぶら下がり、部屋が明るく照らされている。ほどよい室温に調整されている部屋内は居心地が良く、初めて来た場所だというのに落ち着ける空間になっていた。


 広い机の上には、魚料理、彩りよいサラダ、湯気のたつスープなど、様々な料理が並べられていた。


「まずはお食事をお楽しみ下さいませ。およそ十分後、代表者が合流する予定でございます」

「ありがとうございます、いただきます」


 一行を案内したフードの人物が一礼し、部屋を出る。


 ルティ達が食事をしていると、再び扉が開いて、今度はフードの人物が二人やって来た。よく見れば、昼に見かけた二人のようだ。


「ご飯楽しんでるー?美味しいかなー?」

「はい!美味しいです!」

「口に合うならばなによりだ。それと、これを忘れていたな。すまなかった」


 黒いフードの女性がそう言うと、猫用の深皿を一枚取り出した。

 トルテの座る場所の近くにおかれたそれは、まもなく猫用の食事が山盛りに盛られる。


「レヴィーナは小動物に目がないんだよねー」


 白いフードの男性が、黒いフードの女性を指さして言う。レヴィーナと呼ばれた彼女は、その言葉通り、キラキラとした瞳で、トルテを眺めている。


「あ、そうそう。自己紹介するのを忘れるところだったよー。アルビっていうんだー」


 彼は大広間の扉を閉じると、ガイルの隣の椅子に座った。ニコニコと朗らかな彼は、自身のサラダの野菜をぽいぽいとガイルの皿に移していく。


「おい、他人の皿に苦手なものを入れるな。というか、食べる努力くらいしたらどうだ」

「ちぇー。」


 結局、アルビの皿に残ったのはスプーン一杯分の野菜だけだった。


 ルティ達の食事が終わる頃、ようやくレヴィーナも席に座り、食事を始めた。


「さっき、裁判を見たけど。随分と、奇妙な形式だったように思うんだが」

「ガイル、それは…」

「いや、構わないさ。確かに、外から来た者からすれば、黒白の裁定は奇妙に見えるだろう。

 あれは、我々が持つアイテムに、真実を読み取ってもらうものなのだ」

「真実を、ノコギリとかランプが読み取れるの?」


 ルティの問に二人は答えない。企業秘密なのだろう。


「さて、貴殿らをここに招待したのは、ある取引のためだ」

「取引?」

「ああ。無論、この街の法を司る我々による取引だ、公正かつ公平かつ、今回のことで貴殿らを咎めることは絶対に無いと約束しよう」

「危険なことのように聞こえるんだけどな?」

「少なくとも安全とは言えないだろうな。なにせ、我々が頼むのは、我々の監視下で法を犯せと言うのだから」


 広間に沈黙が降り、ルティ達の視線がレヴィーナに向かう。聞こえるのはただ、アルビの持つ銀食器が皿に当たる音だけだった。


「簡単に引き受けられるような内容でないことは承知の上だ。よってこちらからは、貴殿らの求めるあらゆる情報のうち、我々の手で調べられることの全てを開示すると約束しよう」

「随分大きく出るんだね?」

「取引内容として相応の対価を示したつもりだ。生憎これ以上の譲歩は難しいが、貴殿らがこの街に来た目的のいくらかには関係するだろう」


 ルティは、この二人が──否、この館の者が、ルティ達の旅の目的について知ってしまっているのではないか、と考えた。それはまずい。


「引き受けるにしろやっぱりやめるにしろ、もう少し取引内容について訊きたい。私達に、何をして欲しいの?私達の、何を知っているの?」

「一つずつ答えよう。まず、貴殿らにしてほしいこと、それは罪人の街ノアラターンへの潜入及び、水柱の調査だ」

「罪人の街ノアラターン?この街の別名ってこと?それならもう入っているけど…」

「いやー、それが違うんだよねー。ノアラターンの名前の由来こそが、水中の街、罪人の街ノアラターンのすぐ近くにある無名の街だったっていう、そういう理由だからさ。どちらかといえば、あっちのほうが先で、こっちのほうが後なんだ」

「水柱の調査のほうは?」

「こちらの方でも粗方調査は済ませているが、原因は神獣シロウミギツネの咆哮だ。

 シロウミギツネはここノアラターンにおいて神聖視された獣で、湖の中で生息しているとされる。

 ところが最近になり、例年の三十倍も多くの水柱が確認された。それも毎週のように現れている。

 住民からも不安の声が上がっており、漁業においても危険が発生するリスクが高いことから、シロウミギツネに何かが起こっていることまでは確認できたところだ。

 が、肝心の咆哮多発の原因のほうが分かっていない」

「つまり私達は、そのシロウミギツネが何で暴れているのか調べるために、湖の下にある街に行けってことであってる?」

「ああ、その解釈で間違い無い」

「それのどこが法律違反なの?」

「ここノアラターンでは、罪を犯した者以外が湖の中に入ること、それから湖の下の街に入ることを法律で禁止しているんだよ」


 ハルテアの問いにトルテが返す。


「もちろん、漁業の最中に船から落ちた、とかで情状酌量の余地はあるけどね。とはいえ、意図的に潜り込むのは法律に引っかかることになる」

「…なるほど、だから法を犯すことになる、と」

「次に、貴殿らについて何を知っているか、だったな。貴殿らが何者かの集団に追われているということと、その猫、トルテがこの街で生まれ育ったという事実を把握している。それ以外については、まだ情報収集できていない範囲だ」

「それなら、エルテのことも知っているんだね?」


 トルテが尋ねると、レヴィーナとアルビが静かに頷く。


「その者は、我々が刑を執行した者だからな。過去の記録にも類を見ないことをしたため、特に記憶に残っている」

「エルテさんは、どんなことをしてしまったの?」

「一言で言い表すなら、神聖な裁判に乱入した、ってところかなー」

「とはいえ、その程度の騒ぎが今まで数世紀の間無かったわけではない。彼女が罪を犯したと認められたのは、その直後にとった行動に由来する」

「…被告人エルテの罪状は、裁判の乱入及び、神獣シロウミギツネの誘拐だよ」


 驚きと困惑が部屋を包み込む。特にトルテは、動転を隠しきれずにいた。


「そんな…いや、言いがかりか何かじゃ…?神獣の誘拐…?」

「我々も、最初はそう思ったさ。しかし直後、たしかに彼女は神獣シロウミギツネを誘拐してみせた。…というより、使役してみせた、というほうが正しいのかもしれないが」

「使役?」

「我々には優秀な書記官と法定画家がいる。彼らの書いた資料を持ってこよう。少し待っていてくれ」


 レヴィーナがそう言い残して部屋を去っていった。

………………………………

しばらくすると、彼女が数冊のノートやスケッチブックを持って戻ってきた。


 机の上にバラバラと置かれたそれは、猛烈なスピードでページがめくられてゆく。


「あった。この記述だ。当時の法定画もここにある」


 レヴィーナが示したノートには、こう書かれていた。


『被告人ジョルヴィの裁判は順調に進んでいた。彼は漁業関係者でもなく、ただ幻聴により湖の中に意図的に潜り込んだとされていた。

 有罪が確定すると同時に、声があがる。

 短い茶髪の少女で、水色のワンピースを着ていた。年齢は十四、五歳くらいだろうか。

 以下は、実際に行われた応酬である。


"お待ち下さい、裁判官様"

"何を待つ必要がある?これは神聖な裁判だ、今しがた有罪が確定した以上、何もないと思うが"

"いえ、あるのです。なぜならば、私が共犯者だからでございます"

"共犯者?"

"どうしたの、頭おかしくなっちゃった?"

"私の思考は正常です。信じられないならばお見せしましょう。私がなぜ共犯者であり、なぜ名乗り出たのかを"


 少女はそう言って何か呟いた。残念ながらわたしの耳には聞こえなかったため記述することはできないが、たしかに何か呟いていた。


 直後、湖から水柱が立ち上がる。ようやく収まった頃、そこには神獣シロウミギツネと思われる小さな生き物がいた。


 少女は神獣シロウミギツネと思われる生き物を呼び寄せ抱えこみ、自ら湖のほうへと歩み出る。


"私は今からシロウミギツネを誘拐します。さようなら"


 少女は裁判の舞台を飛び込み台にして、神獣シロウミギツネを抱いたまま湖の中に飛び込んだ』


「…とまぁ、こんな顛末だ。当時その場にいた我々にも、よく分からない事件だったんだよ」

「その後ー、彼女…被告人エルテについて色々調査を重ねてもー、なんで彼女が神獣を使役できたのか、なんであの場で神獣を誘拐したのかが分からなかったんだよねー」


 机の上に開かれたスケッチブックには、白い狐のような獣を従えた少女のイラストが描かれていた。


 その絵を見つめるトルテの顔は、いつまでも寂しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。