1-11 邂逅
「次はどこに向かうの?」
昼食を食べきった頃、ハルテアが訊いた。
「まずはティレ村に向かう。マヒルに、君が見つかったってことを伝えなきゃいけないし、荷物も受け取らなきゃ先に進めないだろ?」
「ありゃりゃ、もしかして結構探されてた?」
「誰でも、困っている人を助けたと思ったらいなくなってた…ってなってたら、ものすごく心配すると思うな」
「ゔ…マヒルにお礼のお土産持って行こう…」
三人は食事を終えると、各々荷物をまとめて村の入口に集まった。
「それじゃ、ティレ村に行こう。多分、二日もあれば到着できるよね?」
「そうだな。まぁ、誰かさんたちが寝坊しなければ、明日の昼には到着できてただろうけど」
村を離れて西に続く街道へと入る。
北に見える鉱山がゆっくりと高山へと移り変わる中、道はときおり曲がりくねりながら続いていた。
魔物はほとんど見かけず、見かけたとしても巣穴で隠れているか、眠っているものばかりで、脅威らしいものは無かった。
夕暮れが訪れる頃、三人と一匹は、泉のある小さな草原にたどり着いていた。
「今夜はここで野宿しよう。ルティ、夕食の準備を手伝ってくれないか?ハルテアとトルテは、焚き火の準備をしてほしい」
「オッケー!任せてよ!」
カカ村の盗難事件を解決した礼として、そこそこの額のムアを貰っていたため、夕食の食材は既に購入してあった。
ルティは野菜の皮を剥いたり切ったりして、ガイルが用意していた肉入りの鍋に具材を入れた。それをガイルがかき混ぜている間、ルティは火力の調整を魔法で行う。
完成したシチューを食べ終わると、ガイルとハルテアは毛布に包まり眠ってしまった。
「依頼や事件がない時のご主人サマは、すぐぐっすり眠っちゃうんだ」
トルテがルティのそばにすりよりながら言った。
「本当は食休みしてから寝てほしいんだけど…ガイル少年もすぐ寝ちゃうタイプなのかい?」
「まだ数日くらいしか一緒に行動してないから、確かなことじゃないかもしれないけど、早寝早起きするタイプだよ」
「…二人とも相当安心しているみたいだね。お互いぐっすりだ」
トルテが言うとおり、ガイルもハルテアも、子供のような寝顔でぐっすりと眠っていた。
「…私もそろそろ寝ようと思うんだけど、トルテはどうする?」
「構わずに寝ていていいよ。知っているかな、猫は薄明薄暮性の動物だけど、真夜中に元気になる個体が結構いるんだ。ボクみたいなね。というわけで、少し狩りをしに…」
トルテの言葉が途中で不自然に途切れる。
猫の瞳が暗闇の中で爛々と輝き、一点をじっと見つめていた。
狩りの獲物でも見つけたのかと思ったが、そうではない様子だった。
「驚いたよ。気配もなく突然現れるなんてさ。やっぱり、神様代理ってのは間違いじゃないみたいだね」
トルテが言うと、視線の先の茂みから人影が現れた。
黒い髪の、ガイルより少し年上に見える青年だった。白いフードをふわりと被り、青い瞳でルティとトルテを見ている。
「すまない、驚かせるつもりは無かったんだ。…君が、ルティで良いかな」
「は、はい…?」
「僕は観測者だ」
「えっと…?」
「そこの白猫が言うような、神様代理でもある」
ルティはとりあえず、青年の言葉を飲み込むことにした。理解は後からでもできるだろう。
「単刀直入に言えば、ティレ村の次に行くべき場所を伝えに来た。次はノアラターンに向かってほしい」
「ノアラターン…大きな湖の周囲にある都市だね」
トルテが呟き、ルティは頭の中の地図を広げてノアラターンを探し出した。
ティレ村から見て南東の方角にあるはずのそこは、特徴的な丸い湖が、たしかに描かれていたはずだ。
「ノアラターンに到着すれば、自ずと何をするべきかが分かるだろう。頼んだ。それでは」
青年がそう言うと同時に、ルティの瞼が急に重くなり、深い眠りの世界へと誘われた。
………………………………
「……ィ、ルティ、起きろ」
「うん…」
鳥の鳴き声が耳に届き、朝の光が梢を通してルティの顔に差し込む。
目を開くと、ガイルがルティの近くに座っていた。
「何かあったのか?」
ガイルが心配そうに言う。
もしかして、ガイルもあの青年のことを知っているのだろうか?
「寝たっていうより、気絶したみたいな姿勢で横たわっていたから…トルテもそうだったし…心配した」
ルティが辺りを見回すと、トルテを起こそうとするハルテアも見えた。
「トルテ、大丈夫?」
「あぁ、身体に問題は無いよ」
朝食を食べながら、ルティは、昨日現れた人影についてガイルとハルテアに話した。
「観測者に会ったんだね!なんかすごい雰囲気の人だったでしょ?」
「ここに居るはずなのに、まるでそこに居ないみたいな…不思議な感覚だったよ」
「ボクは二回目になるけど、あの底知れない感覚は未だに慣れそうにないな」
蚊帳の外に置かれているガイルには申し訳なかったものの、二人と一匹は観測者と名乗った青年について、また彼の示したノアラターンについて話を盛り上げる。
いつもより少し長めの朝食を終えると、一行はティレ村に向かって歩き始めた。
街道は森の中を突っ切るように続いていたが、夕方を過ぎる頃になると、辺りに小さな畑が現れるようになった。
「ティレ村で一番有名なのは高山大根だけど、他にも色々な種類の農産物を育てているからな。このあたりに土地を持っている人が耕している畑なんだろう」
「今の季節だと、野菜だけじゃなく果物も育てている時期だろうね」
ガイルとトルテの解説を聞きながら歩いていると、行く手に民家が一軒、ぽつりと佇んでいた。
「今夜はあの家の人に泊めてもらう?」
「そうだね、聞いてみよう…って、もしかしてあれ…!」
ルティが指さす先には、黒い獣が数体民家のそばに集まっていた。
よく目を凝らして見れば、獣が狙う先に一人の農夫がいるようだ。
「ノクスオオカミか。噛まれないように気をつけろよ!」
ガイルが飛び出し、刀で数体のノクスオオカミを斬り伏せる。
ハルテアとトルテが農夫を保護している間、ルティはガイルのサポートとして魔法を使った。
獲物を横取りされたことに怒り狂っていたノクスオオカミだったが、ガイルとルティの攻撃に少しずつ後退し、やがて森の方へと逃げ去って行った。
「あ、ありがとうございます、皆様方…」
「怪我は無いですか?」
「はい、はい、大丈夫でございます、はい…」
「…動転しているな。少し休ませよう。座れるか?」
農夫がベンチに座り、ひと呼吸置く。
一行はひとまず、農夫が落ち着くまで待つことにした。




