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【第89話】優しい龍のお話(閑話)




 むかしむかし、王が即位するより前のお話。

 世界は数多の龍種によって支配されていました。

 龍は大きい、龍は強い、龍は残酷である。

 それがこの世界の常識だった。


 その中でも、特に恐れられていた龍がいる。

 その名を、暴虐の覇龍ヴィオランテス。

 彼の者は悪逆の限りを尽くし、幾つもの国を滅ぼし回った邪悪な龍だった。


 しかしある日、めっきり姿を表さなくなった。

 人々は束の間の安堵感と共に、いつまた暴れ出すか分からないと言う、底知れぬ不安感に苛まれていた。


 そんな時、1人の少女が立ち上がる。

 神聖樹の杖を、唯一扱う事が出来たエルフの少女『フーセル』。

 煌めくツインテールの金髪に、碧眼の可憐な少女。

 勝気でお転婆な問題児でしたが、誰よりも正義感溢れる女の子だった。

 杖に選らばれた勇者として、彼女は覇龍ヴィオランテスを退治する旅に出た。それも、たった1人で。




 数十年にも渡る旅の末、フーセルは見事、ヴィオランテスを討ち取って見せた。

 しかし、1番の脅威が無くなっただけで、世界にはまだまだ龍が蔓延っている。

 そこで彼女は引き続き、世界中に悪さをする龍達を退治する旅に出ました。




 長い一人旅の道中、フーセルは1匹の小龍と出会った。

 身体を覆う鱗の1枚1枚が、まるで葡萄酒のように深い赤色の子龍。

 彼女と同じく、1人で森を彷徨(さまよ)っている所に偶然出くわした形だった。

 勿論フーセルは、最初は杖を構えて牽制したが、その子龍の反応は他の龍とは違った。

 ひどく怯えていたのだ、杖を構えたフーセルに。

 その様子に彼女は困惑した後、杖を納めた。

 子龍の警戒が解けると、彼女は子龍に語りかける。



「君はどうして(ここ)にいるの?」


「ひぇっ! ぼ、僕は……その……」


「君をどうこうするつもりは無いよ?

 だって、他の龍と随分違うんだもん」


「僕は、弱っちぃから……

 狩りが出来なくて、森なら草が生えてて、それで……」



 子龍は1人で落ち込む。

 そう。この子龍は生き物を狩って食べる事に、抵抗があったのだ。

 それが何故なのかは分からないが、そんな子龍にフーセルはとても興味を引かれました。



「それなら、アタシと一緒に来なさい!」


「え、ええ!?」


「だって悪さしないんでしょ? ひとりなんでしょ?

 アタシもしゃべり相手欲しいし、丁度良い!

 君、名前は!?」


「僕は、ヴァイス……」


「ヴァイスね!! じゃあ行くわよヴァイス!」



 強引なフーセルに意見できず、旅に同行する事にな

ってしまう。

 2人の相性は、傍から見ても最悪だった。

 断れない子龍と、それを連れ回すフーセル。




 2人の出会いから、これまた数十年。

 彼女らは世界を巡った。

 悪い龍を退治しては次の村、次の街、次の国へと。

 『灰燼龍』『邪龍』『混沌龍』など、数々の悪名高い龍達を屠って来た。

 その頃には世界各地で『竜殺しの勇者』として名を馳せていた。それに加え、龍を従えていると言う噂も。


 2人は長い旅の間に親友のような関係になっていた。

 お互い無くてはならない、支え合う相棒に。




 そんなある日、突如異変が起こった。

 立派な龍へと成長したヴァイスが、暴走状態で手を付けられなくなってしまったのだ。

 長き日を共にしたフーセルの言葉さえも、暴走したヴァイスには届かなかった。


 民衆の目は冷たく、勇者として早急な討伐を望まれた。

 ヴァイスが人に危害を加えないように立ち回りつつ、三日三晩も涙を流しながら悩み抜いた。

 そしてついに、答えを出す。



「ヴァイス……ごめん……ごべんねぇ……

 ……ぅぅ、うわぁぁぁぁあん! ヴァイズぅぅ!!」



 彼女はヴァイスを討った。

 親友を討ったフーセルの慟哭を遮るように、ほんの少しだけ意識を取り戻したヴァイスが語りかける。



「泣かないで、フーセル……

 僕にはね、かつての()()()()が流れているんだ」


「そ、それって……!

 あなたもしかして、ヴィオランテスの息子……なの?」


「うん、フーセルがね、僕の父さんを倒したのも実は近くで見てたんだ……

 その後しばらくして、君に出会った」


「そんな……アタシ、あなたの……

 親の仇だったのに……どうして?」



 ヴァイスから見れば、フーセルは親の仇であった。

 しかし、それを分かっていても尚、フーセルと共に過ごした。



「最初は勿論、君が怖かったよ?

 でも、長い間独りだった僕にとって、フーセルの隣はとても暖かかった。

 願わくば寿命が続くまで、君の隣に居たかった。

 ただ、僕に流れる血がそれを許さないらしい……」


「そんな……そんなのって……

 ヴァイスがいないと、寂しいよぅ……」


「フーセル。僕を見つけてくれて、ありが……とう」



 それが、ヴァイスが残した最後の言葉となった。

 フーセルは冷たくなって行くヴァイスの頬を、優しく撫でながら夜を明かした。


 以降フーセルは、一切の龍殺しを止めた。

 その代わりに、悪しき龍には()()()()をするようにしたのだ。

 永遠の命を持つと言われる龍も、子を成す。

 親を殺せばその子供は少なからず、親友のようになるかもしれないと。




 百と数十年後、フーセルは1から国を作り上げていた。

 自らの理想を実現させる為の国を。

 女王となったフーセルは、多種多様な種族、民族を迎え入れ、平等に扱った。そこには、龍も含まれている。

 その甲斐もあり、この国の人間には龍を恐れる者いれども、嫌う者はいなかった。


 女王となった彼女は、心優しき龍も存在していた事を多くの者に語り継いだ。

 この世界には、小さく、気弱で、優しい龍もいるのだと。


 フーセルは年に1度、龍と人を繋ぐ切っ掛けとなった(とも)への献花を、国を挙げて執り行ったそうな。

 それは、女王が居なくなった今も尚、続けられているのでした。



 ───◇─────◇─────◇────



「これが、勇者フーセルと優しい龍のお話だよ」


「ねぇお婆ちゃん! 勇者様のお話もっと聞かせて!」


「俺も勇者みたいに強くなれるかなぁ!?」


「ばぁば……龍さんの事もっと知りた〜い……」


「いいよ、そうだね……

 その前に、ご飯を作らないとね。

 よっこらしょっ……と」



 老婆が何気なく杖を突いて台所へと向かう。

 子供達は、そまさかの杖が物語の『世界樹の杖』だとは、露程も思っていないであろう。


 フーセルは今もどこかで、物語を広めている。



お時間があれば評価やブックマーク、いいねを押していただけると嬉しいです!


いつかハイファンタジーのランキングにこの作品を載せてみたい! と夢見ております。


今回は閑話でしたが、次回からは物語の続きです!

乞うご期待ください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲劇を乗り越えた先に希望がある。途中、切ないけど読後感は温かい。無駄のない表現なのに心を揺さぶるものがありました。本物の勇者はかくあるべきですね。
[良い点] ほっこりしました。 [気になる点] まんが日本昔はなし ではないけれど、冒頭は言い切りよりも説明風の言葉尻のほうが良いな。なんて思いつつ、それは風味や味。という事かも?と。 (すみません、…
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