↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/104

【第88話】神殺しの大戦③




 〜Side アベリア〜



 そこには力と力、権威と権威、巨龍(おとこ)乙女(おとこ)の激闘が繰り広げられていた。


 巨龍が吐く、大気が揺らぐ熱量の火炎をアベリアは拳で相殺。

 アベリアの拳による猛攻も、巨龍の全身を覆う堅牢な鱗が防ぎ切る。

 この2人が衝突する度に家屋は崩れ、地面がえぐれる。



「ここまでやって壊れない子は、正直始めてね……」


「……我も、そなた程の者は勇者以来じゃ……」


「あら? 貴方、お話しが出来たの?」


「悠久に近い時を生きた故な……」



 巨龍は何処か遠い場所を見ながら、過去を想う。

 アベリアは考える様な仕草を見せ、しばらくすると答えに辿り着く。



「貴方、『優しい龍の物語』の()()ね?

 貴方の世界の神の名前、エスペルじゃないかしら?」


「如何にも、我が知る神はエスペル神である。

 物語……と言うのは分からぬがな」


「無理も無いわ……

 貴方が勇者に討たれた後に紡がれた物語だもの。

 ねぇ? 暴虐の覇龍ヴィオランテス」



 その名を明かされた巨龍は、愉快そうに笑う。



「懐かしい名だ……

 (せがれ)ができてからは、捨てた名だよ」


「ええ、それも知ってるわ。

 子煩悩な貴方が、どうしてこんな事を?」



 理性もある、会話も出来る、何ならそれ相応の力もある巨龍が何故、ディクティオに与しているのかを問うた。



「あの黒く小さき者の仕業じゃよ。 理性はあるが、身体の制御が上手く出来ぬ。

 戦う意思は無いが、戦いを止められぬのだ」


「そういう事ね……

 貴方の攻撃に殺意が無い事の合点がいったわ」


「そなたなら、我を止められるか?」


「ええ、約束するわ。必ず楽にしてあげる」



 巨龍ヴィオランテスは満足そうに頷く。



「どうか我が死ぬ前に、死んでくれるなよ強き者よ!」


「グゥの音も上げられない程、けちょんけちょんにしてあげるわ!」



 そしてまたしても、激闘が始まる。

 しかし、アベリアは躱す事は一切せず、全てを受けるか体術で捌いた。

 常人ではとても耐えられない猛攻の中、1歩、また1歩と近付いて行く。

 身なりがズタズタになろうとも、炎にその身を焼かれようとも、1歩たりとも下がらなかった。



「全部出し切りなさい!

 アタシが全部、受け止めてあげるわ!」


「言われるまでも無く!」



 鳴り止まぬ轟音。

 両者1歩も引かぬ漢の闘い。

 体格差あれど、実力に差異無し。



「強き者よ! そなたの名を聞かせて欲しい!」


「アタシはアベリアよ!」


「そうか、アベリアと言うのか!

 そなたの名、しかとこの胸に刻み込んだ!」


「あら、光栄ね!

 名前を覚えてくれる人は、レディ的に好印象よ!」



 アベリアも巨龍も、それは楽しそうにしていた。

 そこの空間だけは敵味方は無く、お互いを認め合って殴り合いを続けている。



「ガハハハハハハ!!

 これも防ぐか!? ではこれはどうだ!!」


「ふっ! はぁっ!!

 もう終わりかしらァ!?」


「そんな訳が無かろう! もっと共に踊ろうぞ!」


「ダンスのお誘いなんて、ときめいちゃうわ!」



 永遠に続くかと思われた暴力の嵐も、とうとう終わりを迎える時が来た。

 鱗は割れ、牙も折れ、もはや立ち上がる事すら困難になった巨龍を前に、満身創痍ながらも両の足で地面を踏み締めて立っているアベリア。



「年甲斐もなく、はしゃぎ過ぎたわい……グフッ……」


「喋らない方が良いわよ?

 貴方とのダンス、心から楽しませて貰ったわ」


「左様か……強き者、アベリアよ。

 次が我の最後の足掻きとなるだろう。

 受け止めてくれぬか?」


「そうね、分かったわ。

 最後だけは、アタシも神としての権能を使って、貴方を解放してあげましょう……

 ()()()()を司る男神(めがみ)アベリアが再度約束するわ!」



 風前の灯の巨龍は、大きく息を吸い込んで最大級の攻撃の準備に入る。

 吸い込む空気で身体が膨張する程に。

 対するアベリアも、神としての権能を行使する用意を始める。



『破壊の男神アベリアが滅ぼそう。

 彼の者を天命の(くびき)から解放されたし。

 ()()()()よ、我が寿命を喰らい発現せよ!』



 それは破壊の権化。それは意思を持った災害。

 その拳は概念ですら、跡形も無く消し去るだろう。

 あまりにも強力な権能の代償として、彼女の容姿は何年分か急激に歳を取ってしまう。



「ふぅ……お待ちどうさま。

 その様子だと、準備は出来てるわよね?」


「こちらこそ、待たせてしまったな……」



 お互いに目を合わせ、頷き合う。

 巨龍は真っ直ぐにアベリアを見据え、吸い込んだ息を()として放出した。



「我が生涯、最後の一撃をここに捧ぐ!


 ──『龍咆哮(ドラグロア)』!!!」



 龍の命と引き換えに放つ『龍咆哮』。

 本来それは、個人に放つような代物では無い。

 その断末魔とも思える最後の咆哮は、地を割り空を裂き、佇むアベリアへと向かって行く。

 


「これは……!

 流石にアタシも、無事じゃ済まなそうね……

 でも、覚悟を決めた漢の最後を受け止められるなんて、なんて贅沢なのかしら!!」



 迫り来る攻撃にアベリアは腰を落とし、両手を体の前に前に突き出して衝撃に備える。

 そして──。


 『世界が終わる音』とも例えられる龍の咆哮を、その身1つで受け止めた。

 龍の(いき)が続く限り、絶え間の無い破壊が押し寄せ続ける。



「ぐっ……ぅぉぉぉぉおおおお!!!」



 アベリアは辛うじて耐えている。

 しかし、石材の地面や半端な建物など、この破壊の前にはなんの役割も果たさない。

 このまま押し切られれば、図書館は間違い無く破壊されてしまう。

 逆境になればなるほど、アベリアの男神の血が騒ぐ。



「良い! とても良いわ!!

 こんなのもう、抑えきれそうにないわ!!!」



 アベリアは攻撃を防ぎながらも、神の権能を纏ったその拳で龍咆哮を()()()

 すると、拳が当たった箇所が読んで字の如く霧散する。



「ぜやぁぁああああ!!!!」



 普段の口調からは、誰も想像が出来ない程に野太い雄叫びと共に、怒涛の連撃を繰り出す。






 破壊と破壊のぶつかり合いから数分。

 最後まで戦場に立っていたのはアベリアだった。

 神であるはずの彼女が、肩で息をしている。

 対して巨龍、暴虐の覇龍ヴィオランテスの命は、もはや風前の灯だ。



「……貴方の最後、見届けさせて貰ったわ。

 今から、終わらせるわね……」


「……あぁ、ありがとう」


「さようなら、偉大な龍よ。

 肉体は滅びようとも、魂は永遠なれ……」



 アベリアは巨龍の頬にそっと手をかざし、神の権能に触れさせる。

 手が触れた箇所から、粒子のようにサラサラと風に乗って消えていく。

 巨龍は穏やかな顔で最後を迎えた。

 アベリアは懐から煙草を1本取り出し、火を付ける。



「すぅぅ……はぁ、やるせないわ……」



 粒子となった巨龍と煙草の煙が、共に天高くへ昇って行った。




読んでいただき、ありがとうございます!


少しでも、「面白い!」「続きが読みたい!」と思ってくれた方は、広告の下の方にある評価☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると励みになります!

ブックマークやいいねで応援してくれるのも、とても嬉しいです!


次回は閑話かも……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] …美しい。本作の美学のすべてが結集されたような戦いでした。とても尊いものを感じます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。