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【第90話】神殺しの大戦④




 〜Side モネ〜



 ギリシア神話等に登場する犬の怪物『ケルベロス』。

 特筆すべき特徴はなんと言ってもその巨躯と、3つもある首だろう。

 冥界の番犬とも称される化け物は、モネに向けて猛烈な敵意を向けている。



「本当に運良く、何とか引きここまで(おび)き出せたけど、どうするかなぁ……」


『グルルルルルルル……』


『…………』


『バゥッ!! バゥッ!!』



 街から少し離れた所までケルベロスを連れて来られたのは、モネが手に持つお香のおかげだった。

 中に入っている物は何の変哲も無い、モネが飛び切り甘く作ったクッキーだけ。

 『ケルベロスは甘い物に目がない』と言う神話を試してみたら、思ったより効いた。その程度の物だ。


 3つの首はそれぞれが違う動作、表情、性格をしている。

 基本的に自由な3匹だが、目はしっかりとモネを見ていた。

 要するに視線が途切れず隙が無い為、モネは攻めあぐねていた。



「色んな神話を読んだけど、ケルベロス(こいつ)の弱点でアタシがどうにかできるの、このクッキーだけなんだけど……」


『ハッハッハッハッ!』


「格好付けなきゃ良かったかなぁ?

 かと言って神域(ここ)に音楽隊なんて居ないし。

 まぁ、何とかするか!」



 状況だけ見れば、モネが不利である事は確か。

 ただ、当の本人は選択肢が減って面倒、くらいにしか思っていない。

 名実共に騎士団長の名は伊達ではない。

 この程度の事態では怯みすらしない。

 モネの中では勝利以外の結末など無いのである。



「色々試して見ないとね!

 まずはクッキーを……そーれっ!」



 お香の中のクッキーを1枚手に取り、適当に放り投げる。

 すると、3つの首が反応した。

 その内の1つ、左側の首は我先にとクッキーへ食らい付こうと大口を開けた。


 そしてその僅かな隙を、モネは見逃さない。

 素早く槍を構え……


 ──瞬く間の一閃。


 神速の槍撃は、欲張った犬の首を正確に貫き落とした。

 落ちた首ですら、己の身に何が起こったのかを理解するまでに数秒を要した。

 しばらく頭だけで暴れた後、目から光が消えた。



「まずは1つ!」


『グルァァア!!』


『…………』



 残された首の警戒度が跳ね上がった。

 モネを噛み砕かんと、ケルベロスは距離を縮める。

 しかし、その顎は空振った。


 この世に可視化したステータスと言う概念があるとすれば、ケルベロスはパワーの一辺倒。

 対して、モネはスピードの一辺倒。

 今この場合ではモネが有利だろう。

 ただ、一撃でも攻撃を受けてしまえば、形勢は途端に逆転してしまう。



「いっちょ前に警戒なんてしちゃって……

 可愛い……ね!!!」


『ギャウン!?』



 先程噛み付こうとした首に、槍を横薙ぎに払う。

 残念ながら、致命傷には至らなかったが。



「……これは効くかな?」



 『ケルベロスは日光に弱い』と言う逸話を試そうと、下の世界から貰い受けた強い光を放つ懐中電灯を懐から取り出した。



「それっ!!」


『グルゥ!!?』


『…………!!』



 太陽光ほど強くは無いが、逸話通りにケルベロスは驚いてよだれを撒き散らしながら取り乱す。

 しかし、この涎がとても厄介だった。



「うぇっ!? 鎧が溶けてる!?」



 飛び散った涎が付着した鎧の一部が、ジュワァと音を立てながら溶けていく。

 神話でも太陽光は弱点の一種ではあるが、その涎が付着した場所から、猛毒の花として知られるトリカブトが生まれた、という話もある。

 であれば、その発生源である涎が無害な訳が無い。



懐中電灯(これ)はもう使えないか……

 音楽で眠らせたらなぁ」


『グルルルル……バゥッ!!』


『…………』


「片方はよく吠えるな……

 しっかりと躾けないとね!」



 モネは槍を構え、目にも止まらぬ速度でケルベロスの足元へ滑り込み、胴体への攻撃を試みる。


 ケルベロスの硬い体毛に槍が阻まれると即断で諦め、そのまま股下を通って後方へ飛び上がり、空から真ん中の首目掛けて神速の一撃を繰り出す。


 槍先が首に届く直前、真ん中の首は大きく左に仰け反り、意図せずケルベロス右首を貫く。

 モネが通れる程の穴が開いた後、その軌道に遅れて暴風が吹き荒れる事で、右の首も千切れ飛ぶ。



「残り1つ!

 君だけはどうも賢いみたいだね」


『…………』



 落ちた首と違い、残った真ん中の首は明らかに知性が高かった。

 明らかにモネの動きを見て捉え、邪魔だと言わんばかりに横の首を犠牲にしたのだ。



「…………」


『…………』



 しばらくの沈黙が続く。

 モネも最後に残った首に違和感を抱いていた。

 お互い沈黙のまま、動いたのはケルベロス。


 グチャ……ゴリ、バキバキ!


「っ!!?」



 残された首が床に転がる首を噛み砕き、食べ始めた。

 その姿には流石のモネもたじろぐ。

 頭を食べながら、容姿に変化が現れた。

 両脇の首の断面は徐々に塞がり普通の肩に、身体も幾分か大きくなっていく。

 原理は誰にも理解出来ないが、事実であるなら受け止める他無い。そういう異形なのだ、と。


 2つの頭を食べ終わると、ケルベロスはモネに向けて初めて吠える。



『ウォォォォォン!!』


「その鳴き声……狼?」



 その様相は正に神話を闊歩する怪物。

 神々に災いをもたらすとされる者。

 オーディンなる神を飲み込んだ巨狼。



「フェンリル……」



 名を口にした瞬間、目の前の巨体が消え失せ、モネは背後を取られる。



「アタシとスピードで勝負しようって事?


 腐っても『閃光』の2つ名を背負ってるんでね。

 速さだけは、負ける訳にはいかない!!」



 『神狼』と『閃光』の戦いが新たに始まる──。




読んでいただきありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、是非ともいいねやブックマーク、広告したの評価を気軽に押して貰えると嬉しいです!


次回は誰の戦いでしょう……

乞うご期待!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゾクゾクするほどカッコいい戦闘シーン。描写は丁寧だけどテンポやペースは遅くならず。興奮します!
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