【第86話】神殺しの大戦①
前回同様こちらにゆっくりと行進する敵の軍勢。
幸いな事に、相手の顔触れは変わっていない。
以前と異なる点は、僕達側が敵を迎える準備が万端という事くらいだ。
張り詰めた空気の中、聖天騎士隊長のモネさんが声を上げる。
「総員! 己に出来る事は全てやれ!
この戦争での敗北は世界の破滅だと思え!」
『はっ!!!』
激励とも取れるその言葉は、ここにいる全員の士気を高めた事だろう。
皆が武器を構え、それぞれが担当する異形を見据える。
最初に仕掛けたのは巨龍だった。
その胸が赤くなる程の何かを溜め込み、今にも吐き出さんとばかりに構えた。
胸から長い首を通って口まで到達すると、空間が歪む次元の熱量がある業火の玉が、図書館に向けて吐き出された。
カッカッカッ……
甲高いヒールの音を鳴らし、業火の前に立ちはだかるはアベリアさん。
紫色のショートボブをサラリと手で流し、袖から何かを取り出して口に咥えた。
この人が前に出たんだ。僕達は信じて見守るしかない。
業火は真っ直ぐ、図書館の前に立つアベリアさん目掛けて進行する。そして……真正面に直撃した。
自らに直撃し、轟々と燃え盛る炎をアベリアさんは埃でも払うかの様に、片手で鎮火してしまう。
しばらくすると、煙の中からアベリアさんが出て来る。
口に咥えた煙草の煙をくゆらせながら。
「随分と気が利くトカゲじゃないの。
マッチの持ち合わせが無くてね。火、助かったわ。
ただ、レディに向けて火を吐くおバカさんには、少々お仕置きが必要よねぇ?」
トンっと地面を蹴り、軽々と巨龍の頭付近まで飛び上がったと思えば、その顎目掛けて強烈な蹴りを見舞う。
龍の首は大きく仰け反り、何軒かの家を巻き添えながら盛大に後ろに倒れた。
そして、アベリアさんは悠々と巨龍の腹に着地する。
アベリアさんが挨拶をかましてくれたおかげで、我よ我よと続き、全員が動き出す。
「総員、戦闘開始!! 皆の健闘を祈る!
来い犬っころ! お前はこっちだ!!」
騎士隊長のモネさんがお香のような物を振り撒きながら、ケルベロスを別の場所へ難無く誘導した。
何かの神話にあるのかな?
「俺達も続けぇ!! 聖天騎士の力を見せつけろぉ!
騎士候補生は危なくなったら引けよ!」
『おおおおおおお!!!!』
大勢の騎士、騎士候補生が一斉に黒妖犬へと向かう。
その中でも図書館側をサポートしてくれる人々は、また違う行動をとっていた。
「今だ! 地面ごと図書館の中に放り込め!」
大きなスコップを持った複数人が黒いスライムを囲み、それが居た地面ごとえぐり取って図書館の中へと運んで行った。
中まで運び込まれると、図書館の大扉がゴゴゴゴ……と大きな音を立てて閉まる。
次に開く時まで、中に入る事は出来なさそうかな。
残ったのは人型の3人。
その内の1人、ディクティオやアステラさんじゃない方が、ルーナに真っ直ぐ目掛けて飛んで来る。
良くも悪くも僕達の予想が当たっていた。
その人物は何を隠そう、前にあった決闘の相手で、それから行方不明となっていたロイドだった。
「なぜ君なんかが……君さえ居なければ!
そこに立つに相応しいのは僕だろう!!?」
鈍い金属音を立てて、ロイドの持つ槍と横から駆け付けたレヴィアさんの槍が交わる。
「そこまで落ちましたのね、ロイド!」
「五月蝿いな……君はお呼びじゃないんだけど?」
「アタクシだって……! 元はと言え同期だった貴方と、こんな形で槍を交えたくは無かったですわ!
皆さん! 彼をここから引き離しますわよ!」
『おおお!』
レヴィアさん含め、数人の騎士候補生だと思われる人達が、槍でロイドを拘束しながら遠ざけようと動く。
「そっちはお願いね、レヴィアちゃん!」
「絶対に勝って、分からせてやりますわ!」
そのまま街の奥の方までロイドを連れて行った。
今のレヴィアさんなら、ロイドには負けないだろう。
「じゃあ、ナツメ君。わたしも行ってくるね。
では、3人はサポートをお願いします!」
「よろしくね〜、ルーナちゃん!」
「全力を尽くしましょう」
「ま、足引っ張らねぇように頑張るとするか!」
返答したのはそれぞれ、モネさんの同期である3人。
薄桃色髪のムードメーカーのマインさん、青髪でいつも冷静なミナさん、茶髪で大柄のザックさんだ。
とても心強い助っ人だが、内心は不安もある。
ルーナは『怒槌』の2つ名を持っているが、今回は相手も『紫電』の2つ名持ち。
「ルーナ、気を付けてね!」
「ナツメ君との特訓の成果、お姉ちゃんに全部見せてやるんだから!」
ルーナは歩いて異形と化した姉の元へ向かった。
前隊長であるアステラさんはルーナを敵と認識したのか、紫の雷を拳に纏い、構えた。
それに呼応するかのように、ルーナも全身に赤い稲妻を纏わせ、静かに歩いて行く。
最後はディクティオか……
僕達の出番だ。
「メイレールさん、いいですね?」
「ええ、ここで終わらせましょう。
リオテークの敵討ち、私達で果たしますよ……」
「推して行きます! 『黒天夜叉』!!」
特訓の末、以前よりも遥かに強化された僕の鎧。
見えさえすれば、全ての攻撃は避けられる自信はある。
切り札も幾つか完成している。
何としてでも勝たなければならない。
「僕の相手は君達かい?
良いじゃないか。楽しめそうだ!
せいぜい足掻くといいさ!」
ディクティオは高らかと笑って見せた。
こうして、それぞれの戦いの火蓋が切られる。
誰1人として負ける事が許されない戦争だ。
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次回からはそれぞれの戦闘にズームしていきます!
乞うご期待!!




