【第84話】百鬼夜行
今年最後の更新です!
皆様、今年1年ありがとうございました!
「待って! お姉ちゃん、どうしてそっちにいるの?」
「…………」
「ねぇ、応えてよ……」
ルーナの呼び掛けに一切振り向く事無く、アステラと呼ばれた女性は去って行く。
そのままその人の後を追おうとしたので、咄嗟に手を掴んで止めた。
完全に敵なら、ただただ危ないからだ。
気持ちは分かるが、今ではない。
「ナツメ君……ごめん……」
「ううん。
さっきの人がお姉さん、なの?」
「うん、わたしの自慢のお姉ちゃん。
優しくて頑張り屋で、誰よりも強かった……」
今にも泣きそうな顔で、姉の方は見ないように言った。
ルーナがこれだけ言うんだ、良い人だったのは間違い無いのだろう。
ただ、その当時は誰よりも強かったのか。
そうなると、異形化した可能性がある今は……
考えたくもないな。
あれだけいた軍勢も、20分程で姿が見えなくなった。
これから1ヶ月に神殺しの大戦が始まる。
聖天騎士の警戒も次第に解け始め、通常の勤務へと戻って行った。
「ルーナちゃん、さっきの人……アステラ前隊長。
君のお姉さん、だよね?
ダメ元で聞くけど、何か知ってる事とかある?」
モネさんの質問に、ルーナは首を横に振って答える。
僕はそもそも、ルーナにお姉さんがいた事も知らなかった。
「あの、もし良ければ僕に教えてくれませんか?
その……アステラさん? ルーナのお姉さんの事を」
「そっか、ナツメ君は知らなかったね。
アタシもルーナちゃんが前隊長の妹って知ったのは割と最近だけど、隊長としてのアステラさんについてはアタシや同期達の方が詳しいからね。
あの人は『脳筋』を絵で描いた様な人でね──」
モネさんはかつての聖天騎士隊長を語り始めた。
かつての聖天騎士隊長アステラさんの事と、彼女の身に起きた事件を。
◇◇◇◇◇◇◇
時を遡ること約200年。
当時、聖天騎士はとある問題解決の為に奔走していた。
整然と並んだ騎士達を統括するのは1人の女性。
薄紫の長髪に、朝焼けを思わせる淡い橙色の瞳の彼女こそが聖天騎士の隊長、アステラであった。
「これより我々は、下の世界に逃げ出した数多の異形の討伐、『異形討伐作戦』を決行する!
下の世界の魔素は神域より遥かに少ない!
微塵たりとも気を抜くな!」
『はっ!!!』
図書館長、リオテークの些細のミスにより、神域からおびただしい数の異形が物語から地上へと逃がしてしまった。
地上の秩序を守る為、聖天騎士は速やかに異形を討伐せねばならない。
騎士達が整列している場所に、2人の騎士が遅れてやって来る。
鶯色のポニーテールのモネと、それに引き摺られる薄桃色のショートカットのマイン。
「隊長〜! アステラ隊長〜!」
「遅刻だぞモネ。理由は……またマインの寝坊か……」
「そうです……」
「実力は認めているが、選抜隊がこれでは困るんだが……
他の騎士の見本になるように! いいかい?」
「はい!」「ふわぁ〜い……」
元気な返事を返すモネと、まだ眠そうな雰囲気で返事を返すマイン。
彼女達が所属する選抜隊とは、他の騎士より軍を抜いた強みを持つ者達だけを選りすぐった少数精鋭部隊だ。
「隊員も揃った事だ!
総員、装着しているリングを一瞬だけ宙に投げろ!」
『はっ!!!』
神域を認識するためのリングを各々が外し、宙へ投げる。
すると、先程まで騎士隊の広場に居た隊員達は、神域の門の前に場所が変わる。
これは一瞬だけ神域を認識から外し、再びリングを握る事で門を出現させ、門前まで簡易的な瞬間移動を可能にする裏技のような物だ。
アステラが地面を踵で強く小突くと、そこを中心に穴が空く。
穴の下では風が吹き荒れ、雲が流れている。
雲よりも高く、宇宙よりも低い場所。
そここそが神域が存在する場所だ。
「ここから先は連携など取れないだろう。
ただ、一体でも多く異形を狩り取れ!
力こそが最強のパワーだ!
お前たちは強い! 自信を持って挑め!
それでは各自、降下!!」
アステラの号令と共に翼を広げ、騎士が次々と下の世界へと飛び立つ。
各々がバラバラに散らばり、見つけ次第異形を狩る。
狩って、狩って、狩り続ける。
慈悲や加減などは一切無く、それは極めて一方的な蹂躙だ。
本の外に出た異形は物語から切り離された存在故、神器(筆)でなくても倒すことが出来る。
「周りを見ろ! 1匹足りとも逃がすな!」
アステラは紫の稲妻を全身に纏いながら、素手で異形を捻り潰して回る。彼女の2つ名は『紫電』。
歴代の聖天騎士の中でも、最強の一角だ。
「アタシ達も行くよ!
ザックとミナは向こうに、マインはアタシと!」
「りょうか〜い!」
「分かった! 何かあったら俺達を呼んでくれ!」
モネ達も他の隊員に負けじと異形を狩る。
この激闘を目の当たりにした下の世界の人々は、所により『百鬼夜行』や『ワイルドハント』等と呼ばれ、後世に語り継がれたと言う。
作戦は順調に進み、異形のほとんどが討伐された。
「隊長! お疲れ様です!
アタシ、いっぱい倒しましたよ!」
「良くやったなモネ。偉いぞ!
マインも今朝の寝坊の件を帳消しにしてやろう!」
「わーい! やった〜!」
次の瞬間、アステラがいち早く異変を察知し、モネ達を庇う様に前へ出た。
ジュァァァ……
急激に何かが焼け焦げる音。
モネ達が見たアステラの姿は悲惨な物だった。
左の翼が燃え朽ち、肌が焼けただれた隊長がそこにいた。
「あ、あぁ……隊長!
救護班! こちらに応援を!
隊長が負傷しました!」
「狼狽えるな!! この程度、唾を付ければ治る!
あの異形を討つ事が最優先だ!」
その異形はまるで太陽。しかし、太陽と呼ぶにはあまりにも醜い異形だった。
「私はここでこの異形を討つ!
お前達は急いで神域に戻れ!
この異形は他と違うから、絶対に手を出すな!」
「嫌です! アタシ達も隊長と戦います!」
「時間が無いんだ! お前達は帰れるだけの余力があるが、私は片翼を失っているから無理だ!
ここでこの異形を倒し切る!
何をしている、早く行けぇ!!!」
「っ!! は、はい!! 総員撤退!
これよりアステラ隊長に代わり、一時的にアタシが指揮を執る! 総員、退け!!」
モネは涙ながらに騎士達全員に号令を掛ける。
踵を返す直前、アステラはモネを引き止めた。
「モネ! 聖天騎士を頼む!
それと、私の自慢の妹も騎士になるはずだ!
その時に面倒を見てやってくれ!」
「勿論です! でも、お帰りを待ってますから!」
モネ含め、隊員達はアステラを残し空へ、宙へ……
時折、雲の狭間から紫の雷撃が光るのを確認しながら、神域へと戻る。
アステラは全員が退避したことを確認すると、紫の稲妻を最大限に解放し、異形の攻撃に焼け焦がされながらも立ち向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
「太陽の異形はその後確認されて無いから、アステラ隊長が倒してくれたんだと思う。
でも、隊長も行方不明になって……
アタシ達は何度も捜索隊を組んで隊長を探したんだけど、結局見つからなかったんだ……」
「そんな事が……」
「お姉ちゃん……」
前隊長、とんでもない人じゃないか。
仲間の安全の為に、自分を切り捨てる選択を迷わずに出来る、いわゆる英雄的思考の持ち主だ。
でも、今は敵に回っているのか……
そんな絶望の中、ルーナがモネさんに提案する。
「モネ隊長……
お姉ちゃんはわたしが相手をしても良いですか?
私の手でお姉ちゃんを楽にしてあげたいです!」
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