【第83話】宣戦布告
いつもと変わらない平凡な朝だった。
皆と朝食を食べて、慣れない事務作業を教えて貰ったり、禁書庫の本棚を整理をしたり。
しかし、突如としてその平凡が塗り替えられる。
「敵襲!! 敵襲!!
聖天騎士は直ちに持ち場に就け!
選抜隊はアタシと共に図書館の前へ!
住民の方は直ちに家に帰り施錠を!
避難は間に合いません! 決して外に出ないように!
繰り返す! ──」
拡声されたモネさんの号令が神域中に響き渡った。
図書館にいた僕達も、各々が昼食を食べる手を止めて外に出る。
表に出ると、完全武装の聖天騎士がずらりと並んでいるではないか。
同じく外に出て来たアルバさんは、モネさんを見つけると状況を確認する。
「モネ、どういう状況だい?」
「既に門の手前まで来てるよ。
真っ黒な軍勢を連れた男。恐らくだけど、あれがディクティオだと思っていいのかな?」
「ああ、間違い無いだろうね。
ここの防衛に関しては完全に任せるよ?
僕が守れるのは主に館内だから……」
モネさん、いつになく真剣な表情だ。
正直、怖いまである。それは他の騎士も同様で、訓練の時とは比較にならない雰囲気を漂わせている。
しばらくすると、奴が現れた。
僕達みたいに神域を認識するリングを着用してないのに、平然と門を潜って歩いて来る。
「総員構え! 警戒を怠るな!」
『はっ!!!』
モネさんの号令と共に、騎士隊の人達が各々の武器を一斉に構えた。
しかし、こちらの状態などお構い無しに、ディクティオは悠々と歩を進めて来る。
それは以前とは異なり、黒い外套の様な物を身に纏っていた。
少し服装が変わっただけなのに、以前より数段は禍々しく見えてしまう。
そして、その後ろに続く軍勢もかなりの異彩を放っていた。
1番に目に飛び込んで来るのは、何よりあの巨大な龍。
いや、龍と言うよりはドラゴンと言った方がいいな。
龍と言えば、禁書庫の隠し部屋に『優しい龍のお話』って異世界の物語があるけど、まさかね……
次に目立つのは大きな……犬、かな?
犬と言っても、とてつもなく大きい上に頭が3つもある。
一般的にケルベロスと言われる猛獣だろう。
口から滴るヨダレを見る限り、こちら側を餌としか思ってなさそうだ。
ケルベロスの横を、ドロドロと這うように進んでくる黒くて丸い塊。
異世界物の物語によく出てくるスライムに似ているが、あれには底知れぬ何かがある……そんな気配がする。
ドラゴンやケルベロスの後ろに居て見え辛いが、天翼族も2人見える。
異形にされたのか、こちら側を裏切ったのかは定かで無いが、害を成すなら討たなければならない。
最後におびただしい数の黒い犬。
あれが前に会議で下の世界で集められると厄介だと言っていた、黒妖犬か。
強そうとは思えないが、如何せん数が多い。
「ナツメ君、状況は!?」
「ルーナも来たんだね。とうとう奴が来たんだよ、ほら」
「ディクティオ……他のもかなりヤバそうだね」
ルーナもディクティオの軍勢を目の当たりにして、かなり緊張しているように見える。
かく言う僕も、心穏やかな訳ではない。
正直、少しでも気を抜けば膝が震えそうだ。
ディクティオが図書館へと続く階段に差し掛かった時、オラシアさんとメイレールさんも合流した。
「みんな集まっていますね?
遅れてしまってごめんなさい……
メイレール、厳戒態勢」
「かしこまりました」
オラシアさん、いつものメルちゃん呼びじゃない。
優しい声なのに、隠しきれない怒気が垣間見える。
厳戒態勢、その号令が掛かるとメイレールさんは敵味方構わず、辺り一面に強烈な殺気を放つ。
前に僕を鍛えて貰った時より、リオ爺を目の前で貫かれた時より遥かに濃密な殺気だ。
この殺気を前にして、ディクティオを含めた軍勢の歩みが静かに止まった。
「これは痺れるような、手厚い歓迎だね。
騎士隊、館員、それに女神まで……
あの爺さんを手に掛けた時より鋭い眼光じゃないか。
ねぇ、メイレール?」
「御託は結構です。
何も無いのであれば、このまま殺します」
「おお、怖い怖い!
それじゃ、手っ取り早く用件だけ伝えるよ」
ディクティオは身なりを軽く整えると、腕を左右に大きく広げ、高らかに声を張り上げる。
「ここに宣言する! 今日より1ヶ月後。
我々は神殺しの大戦を決行する!
されるがままに殲滅されるも良し、抵抗をするも良し!
その時が来るまで、楽しみにしておいて欲しい!」
極めて一方的な宣言が終わると、そのまま踵を返して帰ろうとする。
メイレールさんはそれをタダでは帰さんと、モネさんから半ば強引に借りた槍をディクティオの背に目掛けて全力で投擲した。
しかし──。
ギィィィィンンン……
放たれた槍はいとも容易く弾かれた。
ディクティオはこちらを振り返ってすらいない。
槍を弾いたのはドラゴンの後ろに居た天翼族の1人だ。
ここまで近くに来て、ようやく女性だという事が確認できる。
目は全部が濁った様に黒く、腰辺りまで伸びた薄紫の髪には何処か既視感がある。
そして、翼が肩甲骨からの右翼だけしか無い。
他の誰より驚いていたのはモネさんとルーナだった。
どうやら2人は面識があったらしい。
「ア、アステラ前隊長……」
「そんな……嘘…………お姉ちゃん?」
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