【第73話】愛を奪われた英雄①
リオ爺が異世界の物語、『勇者の恋路』に入ってから5日が経過した。
そして約束通り、5日の間に戻らなければ最悪の事態を想定し、僕達が対処しなければならない。
現在、禁書庫内で僕とルーナ、オラシアさん、メイレールさんの4人で事前の打ち合わせ中だ。
「僕とルーナはこれから『勇者の恋路』に乗り込みます」
「リオテークから聞いてるわ。
メルちゃん、この子達をお願いできるかしら?」
「ええ、私も尽力するつもりです。
ナツメさんにルーナさん、良いですか?」
「こちらこそよろしくお願いします。
それと、1つ聞きたいんですが、リオ爺が勝てなかった相手に3人でどうにかなるんでしょうか?」
当然の疑問だろう。
僕達も以前よりは強くなっているとは言え、体感的にはまだまだ半人前だ。
「どうにかなる、ならないではありませんよ。
どうにかするんです。
ただ、思い詰めるのもいけませんので、気軽に私達の手に世界の命運が掛かっているとでも思ってください」
「むぅ、冗談言ってる場合じゃないのよ!
ナツメ君にルーナちゃん、勿論メルちゃんも充分に気を付けてね?
わたしはここで祈る事しかでないけど。
どうか……どうか、無事に帰って来てね……」
オラシアさんがここまで言うんだ。
僕達も覚悟を決めないとね。
リオ爺を、更に言えば世界をどうにかする為に。
「異形を倒して、リオ爺と4人で帰って来ます」
「わ、わたしも頑張ります!」
「それでは行きましょうか。
では、隠し部屋へ入るのに、本を傾けて貰えますか?
私が棚をズラしますので」
閂となっている重たい本を手前に傾け、これまた重たい本棚をメイレールさんが開けた。
隠し部屋への狭い通路を抜け、目的の本と対峙する。
「2人とも準備は良いですね?
緊張はしなくて大丈夫です。
私もこの本には初めて入るので、何なら少しワクワクしているまであります」
「オラシアさんにもワクワクとかあったんですね?」
「それはありますよ……
無ければ駄女神の側仕えなんてできませんよ?
毎日何をしでかすのか楽しみにしてるんですから」
おぉ、これは意外な事実だ。
もしかすると、メイレールさんなりに僕達を和まそうとしてくれてるんだろうな。
かく言う僕も、異世界の景色が少し楽しみではある。
「じゃあ、行きましょう!」
「とっととリオテークを連れ帰りましょう」
「わたしも頑張る!」
3人で『勇者の恋路』の本に触れ、合言葉を唱える。
『悪しき者に正義の鉄槌を、助けの声に愛の手を』
『我は守護する者、扉よ開けこの命朽ち果てるまで』
『開けゴマ』
合言葉を唱え終わると、部屋全体が淡く光り始めた。
いつも見ている魔法陣の壁と同じ感じだ。
刻まれている文字? みたいなのはこちらの方が少し複雑な気がする。
その光は徐々に強くなり、目も開けられないほど強く輝いた。
目が慣れて来た頃には、見知らぬ草原に立っていた。
爽やかな風が吹く、地平線の果てまで続く大地。
「これが、異世界なのか……」
「良い眺めだね」
「聞き込みをしたい所ですが、まずは手頃な文明を探しましょうか?」
文明って……まぁ、でも合ってるか。
人が居そうな場所か。
取り敢えず、進まないと始まらないよね。
「メイレールさん、上空からここら辺一帯に何があるのか、見える範囲で見て貰えませんか?」
「構いません。行ってきます」
瞬く間に見えなくなる程高くまで飛び上がる。
しばらくするとふわっと降りて来た。
「どうでした?」
「かなり遠いですが、あちらの方向に森があり、その奥に街道らしき物が見えたので行ってみましょう」
方向は決まったな。
後は地道に歩くしかないか。
飛んで運んでくれないかなぁ……
まぁ、飛ぶのは結構疲れるらしいから大人しく歩こう。
「街道まではどれくらい掛かりそうですか?」
「そうですね、このペースで行けば5日は掛かります」
『5日!?』
これは想像していたより、かなり遠いな……
そんな規模の物語なのか。
考えてみれば勇者だもんな。
それこそ色んな国に行ったりしたはずだ。
その動向全てが物語になっているなら当たり前か。
◆◇◆◇◆◇◆
あれから歩き続けて4日が経過した。
草原を抜けて、今は深い森の中を進んでいる。
最初の2日までは喋りながら気を紛らわせていたが、それを過ぎるとだんだん口数が減ってくる。
物語の中での生理現象は外の時間軸が適応されるから、空腹を感じないのは幸いだった。
そうは言っても同じ景色の中を歩き続けるのは、精神的に辛いものを感じる。
森に入った時は3人で少し盛り上がった物だ。
道中、見た事も無い獣を撃退しながらも、着々と歩を進めていた。
「もう少しで森を抜けますかね?」
「わたし、早く歩くの止めたい……」
「あと少しの辛抱ですよルーナさん。
ほら、向こうに光が差しているでしょう?
森の出口は近いはずですよ。はずですよね?」
いや聞かないでよ……
でも、正直そうであって欲しい。
ここまで変化が無いというのは、こうまで辛いとは思わなかった。
森の出口が少しずつ近付いて来る。
そしてようやく──。
「抜けたぁ!!!」
「やったねナツメ君! メイレールさんも!」
「ええ、ぶっちゃけ泣きそうです」
この数日で知ったけど、メイレールさんって結構な頻度で冗談とか言ったりするんだよな。
なんて言うか、茶目っ気がある。
森から出て少し進むと、人によって整備されたであろう道が目立ってくる。
更に6時間程歩くと、いよいよ立派な砦を構えた国に辿り着いた。
ここからはこの国に入り込んで聞き込みだ。
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次回はいよいよ異世界の国にて聞き込み!
異世界の物語で何が起きているのか……




