【第72話】神との手合わせ
「ふわぁ……寝っむい……」
「ナツメ君おはよー。大丈夫?」
「しばらくお仕事が休みで良かったよ……
昨日は夜通しファーちゃんと先輩の遊びに付き合ってたんだ……」
「お疲れ様だね……今日はゆっくり寝てる?」
「そうしようかな……」
眠気で重い瞼を擦りながら、二度寝を計画していた時だった。
昨晩僕が寝られなかった元凶の2人組が現れた。
「おはようナツメ! あれ? 元気無い?」
「……んむぅ……眠い……」
なんでファーちゃんはこんなに元気なんだ?
隣の先輩は半分寝ながら歩いてるのに……
まぁ徹夜で遊んで、今さら眠気が来てるんだろうな。
「ナツメ! 遊びに行くよ!」
「マジか……ファーちゃん、僕眠いよ……」
「今日もナツメと遊びたかったのになぁ。
そうだ! ここの騎士さんの所に行こうよ!
今ならアンクが居るはずだから、目も覚めるよ!」
「アンクさん……憤怒の神様ですよね?」
「そうだよ!
アンクなら眠気くらい、何とかしてくれるよ!」
完全に聖天騎士隊の所に行く流れになってしまった。
行かなきゃダメなのかぁ……
眠いけどファーちゃんの頼みだし、準備するか。
重い体に喝を入れて、外出の用意を完了させた。
一応、以前の決闘の時に使ったインクと万年筆も持った。
「ルーナも来る?」
「行く! わたしも行きたい!
さっきの話に出てきたアンクさんって、怒りの神アンク様の事でしょ?
あらゆる武芸を修めた神様としても有名だから、手合わせとか出来るかも!」
すっごいやる気だな。
でも、教えを乞えるのなら確かに良いな。
強いて言えば、僕の体調が万全なら……
という訳で場所は変わり、聖天騎士隊の敷地内。
騎士隊長のモネさんの案内で、以前に決闘でお世話になった闘技場に案内された。
大きな正方形の舞台の周りに長椅子の観客席。
今回は屋台は無いけど、盛り上がりは凄まじい。
その中心にいるのは、複数人の騎士隊を1人で相手するアンクさんだった。
「何で届かないんだよ!?」
「クッソ! 全部躱される!」
「気持ちは分かるが、隊列は乱すな!
人数の利を活かせ!」
騎士隊は悔しそうに、しかし同時に楽しそうな表情で憤怒の神に向かって行く。
一方アンクさんは──。
「ヒャッハハハハハハ!!!
そうだ! お前らの全てを俺にぶつけて来い!!」
獰猛な笑みを浮かべて、全ての攻撃を受け続けている。
荒々しくも、正確無比な技の数々は圧巻だ。
1人、また1人と騎士が力尽きていく。
そして最後の1人が膝を折った所で、観客席からの歓声がドッと沸いた。
「凄かった……ルーナ、見えてた?」
「見えてはいたけど、理解は出来てない……」
ルーナでさえこの有様だ。
僕に至っては見えない動きさえあった。
それ程までに異次元の闘いだった。
「アンク〜! ナツメを連れて来たよ!」
「これはファクトマ様! 来てくださったんですか!
おっ! 坊主も居るじゃねぇか!
横の嬢ちゃんは……番いか?」
番いがどれを意味する物かは分からないが、相棒という意味合いならその通り。
「まぁいい、ここに来たって事ぁ手合わせだろ?
んぁ? 坊主、おめぇ寝不足か?
ほれ、こっちに来な!」
促されるままにアンクさんの元へ。
すると──。
「喝〜〜っ!!」
「痛っっった!!!」
背中にえげつない張り手を食らった。
おかげ様で目は覚めたよ。
ただ、絶対に一撃入れてやる……
「折角だし、ファクトマ様に良いとこ見せねぇとな!
坊主と嬢ちゃん、それに隊長ちゃんの3人をまとめて相手してやんよ!
ルールは殺害以外は何でも有りだ。ハンデで俺は素手でやってやる。
ほい、何処からでも掛かって来な!」
この人、めっちゃ煽るな……
ルーナは既に戦鎚を構えてワクワクしてる。
モネさんはまさか自分が参加するとは思っていなかったようで、急いで仲間から槍を借りて来ていた。
僕も刀を描き持って構える。
駆け出したのはほぼ同時、3人で一斉に神に切り掛る。
しかし、誰の攻撃も通らない。
「甘ぇぞ! そんなんじゃ日が暮れらぁ!!
最初から全力で来い!
これは仕置きじゃァ!!」
──ドッ……ゴァァァッ!!!
怒りの神が地面を踏み抜いた。
その衝撃で僕達3人は盛大に吹き飛ぶ。
凄まじい破壊力だ……
「今度はこっちから行くぜぇ!!!」
「っ!!?」
瞬きした隙に懐まで迫られていた。
「ぐっ……ゴハァッ!!」
鳩尾に重いのを一発貰った。
呼吸が出来ない……だが、タダでは終わらない!
倒れる勢いを利用して刀を振るった。
意識はあるが、しばらく動けなさそうだ……
「ハッハァ! 倒れても尚、武器を振るうか!
その意気や良しだ!!
後の2人は見てるだけかぁ!?
根性見せやがれぇぇ!!」
「言ってくれますね!」
「よくもナツメ君を!」
モネさんは槍の構えを変え、ルーナは戦鎚の柄の先を持って武器のリーチと威力伸ばした。
ルーナは縦横無尽に戦鎚を振り回し、アンクさんを牽制。
そしてモネさんは消えた。
閃光の2つ名は伊達じゃない。
以前見た時とはまるで比べ物にならない速さだ。
「見事な速さだ! だが!
正面からだけじゃなく、ありとあらゆる場所から攻撃するんだなぁ!
正面からだけのお行儀良い攻撃は効かねぇぜ!!」
「せいっ!!」
ギィィィィン……!
ルーナの戦鎚を拳で受け止めた。
「うぉっと! 番いの嬢ちゃん!
いい威力だ! 俺の腕が痺れてるぜぇ!!
ただ、嬢ちゃんも隊長ちゃんも、攻撃のお行儀が良すぎるなぁ!」
冗談抜きにあの神様ヤバいな!
僕もそろそろ戦線復帰しないと……
体の自由もそろそろ戻って来そうだ。
「はぁっ!」
「セイっ!!」
「ヒャッハハハハ!! いいぞ!
滾ってきた! もっとだ! もっと舞え!」
2人が気を引いてくれている間に呼吸を整えて、アンクさんの後ろからゆっくり忍び寄る。
最高に卑怯で行儀が悪い一撃をお見舞いしてやる。
「モネ隊長! 合わせてください!」
「いつでもいいよ!」
ルーナとモネさんの怒涛の連撃がアンクさんを襲う。
しかし、それも楽しそうに全て受け切る。
そろそろ僕も活躍しないとね。
アンクさんの背後、殺気を完全に消して渾身の一撃を叩き込む。
男であれば誰しもが急所である箇所。
体で最も無防備なあの箇所。
それを全力で蹴りあげる。
蹴りを入れた瞬間、確かな手応えを感じた。
一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚える。
闘技場の、主に男性の時が止まった。
「…………っ!!!!?
ぐぉぉ……そこは、反則だろ……!」
アンクさんは内股になって、ゴロゴロのたうち回る。
渾身の一撃、決めてやった!
これは僕達の勝ちでいいんじゃないか?
「あーはっはっはっは!
アンク、負けちゃったね〜!
3人ともお疲れ様! すごく楽しかったよ!」
ファーちゃんの宣言で勝敗が決した。
「坊主……お前ぇ、中々やるな……
ただ、男ならもう少し手心を加えて欲しかったぜ……」
内股でひょこひょこと歩くアンクさんにそう言われる。
手心と言われても、これくらいしないと、どうにもなりそうに無かったから仕方ない。
「やったねナツメ君!」
「やるねナツメ君! 良い一撃だったぞ!」
「2人のおかげです! 3人の勝利ですよ!」
ルーナとモネさん、僕は互いに拳を突き合わせる。
ここで、今日1番の歓声が闘技場に轟いた。
試合の後、アンクさんは僕達の弱点やアドバイスなど色々な事を教えてくれた。
言葉は荒いけど、とても面倒見がいい神様と言う印象を受けた。
それと、僕達には伸び代がまだまだあると言ってくれた。
まだしばらく神域に居るらしいから、今度は正々堂々闘いたいな。
◆◇◆◇◆◇◆
憤怒の神アンクさんとの試合から、あっという間に3日が経ってしまった。
今日は約束の日だ。
リオ爺はまだ帰って来ていない。
異世界の物語に乗り込まなければならなくなった……
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次回からはとうとう、異世界の物語へ!
乞うご期待なのです!




