【第71話】議題
いよいよ神々による会議が始まってしまった。
物々しい雰囲気……とは言えないけど、各神々がファーちゃんによる会議の進行を待っている。
「まずはいつも通り、みんなの世界の話を聞かせて!
みんなの世界、まだちゃんとある?」
「わたしの世界は見ての通りですね、気になる事は幾つかありますが、大きな変化は特にありません」
「我が世界も同様。人も魔も稀に争いはあるようですが、比較的平和なようです」
「じ、自分の世界は人の国が大きくなり過ぎてて、他種族との共生ができなくなりつつあります……」
「あーしの世界は相も変わらず平和で、愛に満ち溢れてますよ! そもそも争いがほとんど起こりませんし!」
「俺の世界はみんな強ぇですぜ!」
「う〜ん、ぼくちゃんの世界は随分前に滅びちゃってますからね〜。
面倒でそのまま手付かずですね、はい……」
「アタシはオラシアと同意見よ。
可もなく不可もなくと言った所かしら?」
おお、それぞれが世界を管理してるのか。
オラシアさんの世界ってのは、要するに僕の住んでた地球の事だろうか? もしくは宇宙単位の話なのかな?
「うんうん、順調なようで何より!
ヘドネーはもう少しちゃんとしなきゃダメ!」
「ぜ、善処しま〜す。ごめんなさい……」
バツが悪そうに目を逸らしながら平謝りする。
もしかすると、ヘドネーさん自身が世界を滅ぼしちゃったのかな?
この適当な感じを見ていると、有り得るかもしれない。
「次は図書館についてかな。
オーちゃん、何か変わった事はある?」
「ナツメ君が加わったことにより、異形への対処は滞りなく進められております。
それとつい最近、少し前の会議で紹介した子のように、物語から救出した子が1人増えたので、かなり賑やかになっています」
「ホントに!? また挨拶に行かないとね!
クーちゃんは元気にしてる?」
「はい。相変わらず元気ですよ。
図書館に足を運ばれる際は、軽く挨拶してあげてください。彼女も喜ぶでしょうから」
図書館の事は別で聞くんだな。
っていうか、ファーちゃんと先輩は知り合いなのか。
まぁ子供っぽい者同士、相性は良いのかもしれない。
「異形についてなのですが、ファクトマ様にお伝えしておきたい事があります」
「良くない事かな? どうしたの?」
「異形が出てくる間隔が狭まっている事もありますし、異形が出てくる物語もおかしい物が多いと報告が来ています。
現にリオテークが対処している物語は『勇者の恋路』、ベアティードの世界の物語なんです」
『!?』
さっきまでは軽く流しながら話を聞いていた神々も、驚いた顔でオラシアさんを見る。
特に驚いた様子を見せたのはベアティードさん。
身を乗り出してオラシアさんに物申す。
「あーしの世界に限って、そんな事あるはずが──」
「無ぇから異常、なんだろ?」
「ええ、アンクの言う通り。
ベアティードの世界の物語に、異形が生まれる余地など皆無に等しいです。
よって、第三者が意図的に異形を生み出している、とわたし達は推測しています」
異形を意図的に……そんな事できるのか?
敵対する組織や、邪神的なのがいるのか?
それとも、禁書庫に封じられている……
「依然調査中ですが、最悪の事態になってしまった時は皆の力を貸してください」
「ファーは直接手伝えないから、その時は皆で助けてあげてね?」
『全力を以て』
個性バラバラな神々の声が見事に揃う。
この神々が力を貸してくれるなら、読んで字のごとく百人力、いや万人力になるだろう。
「リオ君なら何とかなるだろうけど、心配だなぁ……」
「今はリオテークを信じて待つしかありません」
重い沈黙が流れる。
その雰囲気を嫌ってか、娯楽の神のヘドネーさんが会議を進めようとする。
「は〜い! 他の世界の報告に移りましょっか?
リオテークの坊ちゃんならどうにでもなるさ!
どう見たってぼくちゃんより強いしね……
それに、運命とはなるようにしかならないんだ」
胡散臭さに目を瞑れば、至極真っ当な意見だ。
他の神々達もそれもそうか、という雰囲気になって来た。
「ぼくちゃんの世界はさっき言った通り、文明も何も無いから報告は無いでーす」
「そうだね。切り替えよっか! ありがとうヘドネー。
皆の世界の気になる所とか異変はある?」
そこからは僕が聞き慣れない単語や地名が並んだり、些細な報告がしばらく続いた。
マナが数千年後には枯渇するとか、残存種族数が云々とか、何やら壮大な事を言っていたのは記憶している。
「はい! これで会議は終わり! お疲れ様!
皆はこの後どうするの?」
「それに付きましては、この後に図書館にて料理をご用意しますので、興味がある方は是非」
「ホント!? それじゃ、ファーはそっちに行くね!
行くよナツメ! は〜や〜く〜!」
「行くからちょっと待って! 揺れないで!」
待ちきれないのか、僕の肩の上で足をばたバタつかせながら大きく前後に揺れる。
ファーちゃんに言われるがままに、肩車の状態で図書館へ帰宅した。
夕飯まではまだ少し時間があったから、オラシアさんに許可を貰って僕の部屋にファーちゃんを連れてきた。
肩にファーちゃんを乗せたまま、ボフンっとベッドに倒れ込んだ。
それが相当楽しかったのか、「もう1回!」と何度もせがまれたので、お望み通り何度もベッドに放り投げる。
しばらくそうして遊んでいると、ドアがノックされる。
「ナツメ君、入っていい? 誰か居るの?」
「ルーナ? 入って入って!」
「お、お邪魔します……」
ルーナの人見知りが発動してる……
まぁ見た目は子供だし、セルビア同様すぐに慣れるでしょう。
「わぁ、可愛い! その子は!?」
「この子はファーちゃんって言うんだ。
今日、色々あって友達になった!」
「ファーはファーだよ! 君はルーナって名前?」
「そうだよ〜! よろしくね!」
ルーナはファーちゃんのほっぺたを両手でプニプニしながら挨拶した。
さて、そろそろネタばらしをしておくか。
「この子の事なんだけどね、そうだ!
ファーちゃん耳貸して?」
「む? ふむふむ……っ!
ファーが自己紹介する!」
「え? うん。じゃあお願い!」
「可愛いファーは仮の姿……本当の名前はファクトマ!
全部の世界の最高神なのであ〜る!」
この自己紹介を僕にもしようとしてたのか……
胸を張ってムフーっとドヤ顔を披露しているが、威厳は無いんだよな……
「ファクトマちゃんだね! ファクトマ……ファクトマ?
えっ待って、ファクトマ様!?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、この世界を支える8柱の神様の1番偉い人じゃん!
なんでここに居るの!?
最高神様のほっぺたプニプニしちゃったじゃん!」
僕が知らなかっただけで、神域では常識だったりするのかな?
ルーナのこの反応にファーちゃんはご満悦だ。
僕もイタズラが成功したような満足感がある。
「まぁ、そう言う訳だから!」
「ルーナも友達ね!」
「友達は嬉しいけど、理解が追い付かないよ……
今日はいったい何があったの?」
「もちろん! その前に夕食だね!
今日は人がいっぱい居るはずだよ!」
「……? 後で説明してよね」
その後、夕食の席に着く面々を見て、ルーナが大混乱したのは言うまでもない。
【夕食後のナツメの部屋にて】
「ファーはお泊まりする!」
「僕はいいけど、一応許可貰う?」
「ファーがルールだから大丈夫!」
「……ん……ファーちゃんだから……大丈夫」
「先輩、いつの間に忍び込んだんですか……」
「……後輩……まだまだだな……」
「クーちゃんも一緒にお泊まりだね!」
「……ん……今夜は…寝ない」
「え、僕は寝たいんですけど?」
『だめ!』
こうして僕は寝不足のまま翌日を迎える……




