【第69話】迷子様のご案内
しっかりと反省をした翌日の朝、オラシアさんに今日対処する本を聞きに行った。
行ったのだが──。
「実はね、数日くらいお仕事無いかもなの……
ルーナちゃんも別件で騎士隊の方に行ってるし、連休にしちゃう?
普段頑張ってるし、少しくらい良いわ!
願わくばわたしも……」
「駄目に決まってるでしょう?
今日は特に大事な用があるんですから」
「ぐぬぬぅ……」
横のメイレールさんにピシャッと否定される。
この女神様、隙あらば休もうとするな……
そんな訳で数日休みを言い渡されてしまった。
連休か……何すればいいんだろう?
ルーナも居ないし、先輩はセルビアに連れられて仕事してるしな。
本を読んで過ごすのも魅力だけど、皆が仕事をしている場所で休むのは気が引ける。
と言う訳で、街を散歩でもしよう。
僕がここに来てから割と経つが、実の所まだ行ったことが無い場所の方が多い。
「相変わらず、いつでも天気いいな。
ここで雨降ってるの見たことないや」
さて、ゆっくりと神域を開拓していくか。
大通りから外れたお店や民家、公園などを見て回る。
なんと平和で素晴らしい時間だろう。
異形がいないという精神的な安心感がすごい。
「へぇ、こんな所にクレープのお店があるのか……
ルーナとか先輩が喜びそうだな」
「おっ! 君、ナツメ君じゃないかい!?
決闘見てたよ〜! もし良かったらさ、食べていっておくれよ!」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
店のお兄さんから半ば強引に手渡された小包を受け取り、きちんとお礼を言ってから1口頬張る。
柔く、ほんのり暖かい生地の中から、チョコレートや生クリームが溢れてくる。
噛む度に瑞々しい果実の爽やかな酸味も相まって、とても美味しい。
「おいひぃれふ!」
「いや〜、嬉しいね!
次は相棒のお嬢ちゃんとかも連れておいでよ!」
「はい! 次は皆で来ますね!」
「待ってるよ〜!」
お兄さんに別れを告げた後、クレープ片手に散歩を再開した。
しばらく散策を続けていると、水が張ってあるだけの噴水がある、静かな広場にたどり着いた。
歩きながらだと食べ辛いし、座って食べるか。
噴水の縁のホコリを少し払い、腰掛ける。
「改めて、いただきま〜「それ何!?」」
「うわぁっ! え、えーと誰?」
「ファーはね、ファーだよ!」
随分と顔が整ったちびっ子が話しかけてきた。
僕と一緒の真っ黒な髪に、男の子とも女の子とも言えない不思議な容姿と声。
好奇心に満ち溢れた綺麗な色の瞳。
生憎、この色を例える言葉を僕は持ち合わせていない。
って言うか、直前まで気配すら感じなかったよ……
ファーと名乗るこの子、もしかすると迷子かな?
「えっと、ファーちゃん……でいいのかな?
あ〜、えっと、食べかけで良ければ食べるかい?」
「いいの!? 食べたい!」
「ほら、ここに座ってゆっくり食べな」
隣をぽんぽんと叩いて場所を示すと、何の警戒も無く座り、受け取ったクレープを口にする。
「美味しい! これ美味しいよ!」
「ははっ、それは良かった! 遠慮せずに全部お食べ」
「ありがとう! 君、良い人だね!
ねぇお兄さん、ファーを案内してよ!」
「案内? やっぱり君はこの辺の子じゃないんだね?」
「ううん、違うよ?」
迷子確定か……よし、幸いな事に僕は暇である。
この子のお家まで連れて行ってあげようじゃないか。
取り敢えず、この子が食べ終わるまでは休憩だ。
穏やかで平和な風が吹く。
こういう休日の楽しみ方もいいな。
特別に何かをする訳でもなく、こうして歩いているだけで、素敵な出会いや発見があった。
「ご馳走様! ありがと、美味しかった!」
「うぉっ? 早いな! じゃあ行こうか?」
「うん! そういえばお兄さん、名前は?」
「言い忘れてたね。僕の名前はナツメって言うんだ。
よろしくね、ファーちゃん」
ファーちゃんに目線を合わせて自己紹介する。
それにしても賢そうな子だ。
少し警戒感が薄くて、放っておけないけど……
「さて、どうやって探そうか……
案内するとは言ったけど、僕も実は詳しくないんだ」
「そうなのか……じゃあ、冒険しながら探す!」
「冒険か……いいよ! ファーちゃんが隊長だ!」
「ファーが隊長!? わーい! ナツメは船ね!」
あ、僕は役割とかじゃなくて乗り物なのね。
まぁいい。全力で船をしてあげるとしよう!
ファーちゃんを抱き上げて、肩車をする。
「高ーい! あははははっ! 行けー!」
「よし来た! 行くぞー!」
ファーちゃんを肩に乗せ、あらゆる場所を巡った。
勿論、道など分かるはずもない。
何の当てもなく、ひたすら突き進む。
そして、とうとう目的地に辿り着いた。
街の入口に近い場所に位置した、比較的大きなお家。
ファーちゃんの反応的にここだろう。
「ファーちゃん、ここで合ってる?」
「うん! ここ! ありがとうナツメ!
そうだ! ナツメをみんなに自慢したい!」
「いやいやいや、パパやママが困っちゃうから」
「いーやー! ナツメも来るの!」
随分強引だな……まぁ挨拶くらいならいいか……
ファーちゃんを肩に乗せたまま、年季の入ったドアをノックする。
すると返事も無く、ギィッとドアが開かれる。
恐る恐る中に入ると、衝撃の光景に驚かされた。
「お待ちしておりました、ファクトマ様」
何人もの人が片膝を突いて頭を垂れている。
それに、ファクトマ様?
え、何? どういうこと?
困惑している中、ファーちゃんが先程までと同じ調子で話し始める。
「みんな! 顔を上げていいよ!
待たせてごめんね?」
「いえ、私達も有意義な時間を過ごす事ができました。
おや、そちらの男の子は?」
「うん、紹介するよ! この人はナツメだ!
ここまで案内してもらったの! 友達だよ!」
うん、嬉しい事を言ってくれる。
この状況じゃなければ素直に喜んでいた所なのだが、見つけてしまったんだ。
頭を垂れている人達の中にオラシアさんの姿を。
これ、例の神様が集まる会議じゃないか……
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次回、ファーの正体が明らかに? お楽しみください!




