【第68話】舞い踊る呪い②
赤い靴の異形との睨み合いが続く。
先に静寂を破ったのは僕とルーナ。
ルーナは戦鎚を、僕は描いた槍で突っ込む。
異形の本体がどちらか分からない状態である為、ルーナは靴を、僕はカーレンを狙って攻撃する。
『リャァッ!!』
攻撃時の叫び声が重なった。
僕の槍はカーレンの喉を貫通し、ルーナの鉄槌は靴を叩き潰した。
僕の手には確かな手応えは無い。
「ルーナ、どう!?」
「ダメ、動いてる……」
持ち上げられた戦鎚の下、地面に埋まってはいるものの、赤い靴は健在だった。
カーレンの足は明後日の方向にひしゃげ、見るも無惨な状態になってしまった。
これで分かった事が1つある。
異形の本体は赤い靴であって、カーレンではない。
それならば、カーレンの遺体はこれ以上に傷付ける必要は無い。
「靴を脱がせられれば良いんだけど……」
「あの靴を押え付けるのは、かなり骨が折れるよ?」
だよね……じゃあ最後に1回だけ、ご遺体に傷を付けさせてもらおう。
「僕が足首から上を切り離すから、ちょっとだけ引き付けて貰える?」
「分かった、気を付けてね!」
地面にめり込んだ靴が動き出す前に、槍を長剣に描き換えて足首から先を靴から切り離す。
カーレンが靴から切り離された瞬間、靴が飛び掛かって来た。
しかし、それは僕に届く前にルーナが叩き飛ばす。
ルーナが靴を相手している間に、僕はカーレンの亡骸を安全な場所へ運び、手を胸の前で組ませる。
せめて安らかに眠って欲しい。
「ルーナお待たせ! 加勢する!」
「さっきより速いから気を付けて!」
赤い靴はカーレン(足枷)が無くなったことで、より一層動きが俊敏で軽快なものになっていた。
幸いな事に、赤い靴同士は一定の距離以上は離れられないようで、人間の歩幅程度の可動域しか持たない。
だが、動きは人間のそれとは程遠い。
「ぐっ……! クッソ、速いなもう!」
「わたしの武器じゃ相性悪いかも!」
「危ないと思ったら遠慮なく引いて!」
「分かった!」
靴の速度は徐々に上がっているように感じる。
逆に、戦闘が長引けば長引く程に、僕達は消耗して不利になるだろう。
やるなら短期決戦だ。早急に仕留める。
まずは何としてでも、靴の動きを止めたい。
片方の靴だけでも抑える事ができれば、ある程度は抑制できるはずだ。
それなら描くべきは網かな?
長い柄の先に細かい網目のネットを付けた武器……とは言えない虫取り網の様な物を描いてみた。
「ルーナ! 避けて!」
合図と共にルーナは空中へ避ける。
そこへ間発入れずに虫取り網を横へと振り、靴の異形を網の中へ閉じ込める。
捕まった片方の靴は外へ出ようと暴れ回ったが、全力を持って阻止した。
「ルーナ!」
「そぉれっ!!」
上空からの渾身の一撃が、捕らえていた靴に直撃した。
靴は見事に床に深くめり込み、動けなくなる。
虫取り網を素早くインクに戻し、めり込んだ靴にトドメを刺さねば。
「ルーナ、もう片方の靴を!」
「了解! うりゃ!」
ルーナが自由な方の靴を相手している間に、僕はツルハシを描き持って構える。
頭の上からめり込んだ靴目掛けて精一杯ふりおろす。
バギィッ!!
よし! 何とか壊れた。これでもう片方も。
「キャッ! ナツメ君、危ない!」
「…え? グッハァ!!? ゲホッ、ゴホッ……」
飛んできたもう片方の靴が、僕の鳩尾に激突した。
片方潰しても動けるのかよ……
早い所、呼吸を整えないとまずい。
「ハァッ…ハァッ……してやられたよ」
「大丈夫そう?」
「うん、ありがとうルーナ。もう行けるよ」
片方だけになった靴は完全に自由となった。
厄介ここに極まれりだ。
虫取り網も、頼りになりそうではないし。
靴の異形はこちらの出方を伺っているみたいだ。
そうだ、アレを試してみるか。
「ルーナ、少しの間僕を抱えて浮いて貰えるかな?」
「いいよ、任せて!」
ルーナは僕の腰辺りを後ろから抱え、地面から少し浮かしてくれる。
万年筆の先を地面に向け、ゆっくりとインクで渦を描く。
徐々に渦を広げるイメージをして、靴を巻き込んでやる。
「リオ爺の技を借りるよ。『黒潮』!」
教会の敷地内に真っ黒な渦を出現させた。
教会の裏庭、そこにある全てを呑み込みながら渦は更に大きく広がる。
靴の異形も勿論例外ではない。
他の有象無象と共に靴も渦に呑まれていた。
折角だし、少し実験をしてみよう。
「ルーナ、渦の端に降ろしてくれる?」
「いいよ。何か思いついたの?」
「え、何で?」
「フフッ、だって悪い顔してるもん」
そんな事ないでしょう……いや、してたのかな?
まぁいいや、今は異形に集中しよう。
渦の端に降ろされた僕は万年筆の先を渦に触れさせ、強く念じる。
『固まれ!』
すると、見る見る渦の動きが止まり始める。
数秒も経たない内に、黒い渦がその形のまま固まった。
これは間違いなく、実験成功だ!
靴の異形は渦に呑まれたまま固まった為、動けないでいた。
これならゆっくりと、落ち着いて処理ができる。
最初の靴同様に、ツルハシを描き持って対処した。
固まった渦は……このままでいいか。
しばらくしたら、カーレンの遺体の傍に一足の赤い靴が現れた。
これにて異形退治完了だ。
「よし、帰ろうか?」
「うん! 今日は帰ったらどうする?」
「まずは反省会だね。主に僕の……」
『そして物語は幕を閉じる』
帰りの合言葉を唱えて、禁書庫へと帰還した。
さぁ、自室で反省するか……
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