【第60話】祝宴閉幕
ルーナとセルビアの歓迎会に加え、僕の羽根ペンが万年筆に覚醒した事を祝う宴が盛大に始まった。
「セルビアは食べたいのある?」
「あれと、あれが食べたい!」
セルビアが指を指した唐揚げと……何だろうこれ?
中に野菜が入った、キラキラの羊羹みたいな……
「セルビアちゃん、いいセンスだね。
それは僕が作った野菜のテリーヌだよ。
宝石箱みたいで綺麗だろう?」
セルビアは目を輝かせながら、こくこくと頷く。
それを見たアルバさんはとても誇らし気だった。
セルビアに料理が乗った皿を渡して、僕も自分の分を確保するか。
僕も唐揚げとテリーヌ、それとよく分からない炒め物を何種類かお皿に盛り合わせた。
「よぉし! いただきま〜す!」
手始めに唐揚げを1個まるまる頬張る。
カリッカリの衣の隙間から、噛む度にじゅわっと肉汁が溢れ出す。
口の中は大火事だが、この美味さの前には関係ない。
肉を飲み込んだ後は、火傷寸前の大惨事な口内を冷たい水で流す。
「うっまぁ……」
「美味しいね。ナツメお兄ちゃん!」
「だね! 無くなる前にいっぱい食べるぞ!」
「食べるぞー!」
そう言えば先輩は……おおぅ、1人で黙々と料理を堪能してらっしゃる。
そんなに食べられない癖に山盛りに乗せちゃって……
「ナッツメきゅ〜ん! 飲んでるぅ〜!?」
「うわっ、モネさん!? 何ですか急に?」
僕の元へべろべろのモネさんが肩を組んで絡んで来た。
いや、手に持ってるのりんごジュースじゃん。
「何でジュースで酔った感じになってるんですか!?
恥ずかしいから一旦離れてください〜!」
「だって、いざと言う時に隊長が酔っているなんて醜態は晒せないから、アタシはお酒飲まないんだよ」
「うわっ、急にマトモにならないでくださいよ……」
この人、隊長としての信念や人柄は完璧なのに何で少しポンコツ感があるんだろう……
天は二物を与えずってか。
まぁ、そもそもその天にいるべき人が二物を持ってない時点でお察しだ。
「ナツメ君は確か神器の覚醒? に成功したんだよね?
もし良ければ見せてよ!」
「良いですよ。って言っても見た目は普通の万年筆なんですけど……」
「凄いよね、それ1本で聖天騎士隊が管理する武器庫並の力があるんだから!
しかも状況に応じて描き分けられるんでしょ?
完全に上位互換じゃん……」
モネさんが口を尖らせて、しょんぼりとする。
僕から言わせてもらえば、多数の武器を満遍なく使える僕より、1つの武器を極め抜いた騎士隊員の方がよっぽど強いんだけどな……
「僕はモネさん程のスピードはありませんし、ルーナみたいな腕力も無いです。
周りの皆のサポートのおかげで、今の僕があるんだと思います」
「すこぶる良い子じゃ〜ん!! なでなでしちゃう!」
モネさんに頭を揉みくちゃにされる。
ホントに酔っ払いみたいだな!
「こーらモネ、ナツメさんが嫌がってるでしょう?
ごめんなさいね? すぐにこの隊長を下げるから」
「あっ、ミナさん。ありがとうございます!」
モネさんの首根っこを掴んで、ずるずると引きずって元の場所へと帰って行く。
ようやく落ち着いたと思った矢先、また騒騒しい人物が大量の荷物を抱えてやってきた。
「ちわちわ〜!! 遅れながら追加の食材と飲み物と共に、カティちゃんの参戦っす〜!」
「すまないね、ありがとうカティ。
荷物はこっちで預かるよ。
それとマルタさんが見えないようだけど?」
「ギルマスっすか? んなもん置いて来たっすよ?」
商業ギルドのトップを堂々と置いて来た宣言をする。
相も変わらず扱いが可哀想なんだよな……
カティさんに挨拶しようとしたけど、既にお料理争奪戦に参戦していて、それどころじゃ無さそうだ。
僕も料理を取りに行こうか考えていると、背後から声を掛けられた。
「ナツメ君、少しよろしいですかな?」
「リオ爺……?」
不意にリオ爺に呼ばれ、未だ盛り上がりを見せる部屋から少し離れた場所へ来た。
「宴は楽しめていますか?」
「はい、それはもう!」
「それは良かった。
楽しい気分に水を差してしまいそうですが、少し真面目な話をしてもいいですかな?」
リオ爺はほとんど氷しか入ってないようなグラスを傾け、話し始める。
「今度わたくしが入る物語なのですが、わたくし自身未だ入った事の無い物語でしてね。
一応、図書館長見習いであるナツメ君にも共有しておこうと思いまして」
「リオ爺でも入ったことが無い物語が?」
「ええ、今まで異形が出たことが無い物語でしてね。
近頃の異常な異形を見ていると、万が一があるかもせれません。
この意味は分かりますね?」
勿論分かる。こういう場合の万が一は、ほぼ間違い無く『死ぬかもしれない』という意味だ。
僕は無言で頷き、詳細を聞く。
「何の物語に行こうとしてるんですか?」
「以前、他世界の存在については少し教えましたね。
そして、明確に物語が紡がれた世界は3つあります。
その中でも今回は、『勇者の恋路』という物語に入る予定です」
「居るんですね、勇者……」
「はい。実を言うと、他世界の物語は3つとも勇者が登場します。しかし、それぞれに全く異なった歴史や逸話、冒険譚があります」
全部に勇者か……もしかするとこっちの世界の人が転生だったり、召喚だったりされた勇者もいるのかな?
許可が出れば、是非とも読んでみたい。
「3つの中で『勇者の恋路』の物語だけが、所謂ハッピーエンドなのです。
それも、誰ひとり傷付かない類の喜劇。
幸福の神が管理している世界なだけはあります」
他の世界が複数あるなら、神様も複数居るって事だよね。
オラシアさんは祈りの女神だったし、怒りや悲しみなんかの神様もいるのかな?
「神様って、いっぱい居るんですか?」
「ナツメ君の住んでいた日本という土地では神は八百万もいると信じられていましたね。
実際の所、神は全員で8柱存在します。
近々会合があるはずなので、運が良ければ……いえ、悪ければ会えるやもしれません」
何かを思い出したように言葉を言い換えた。
リオ爺にそこまで言わせるという事は、神様は総じて面倒事の塊って感じなんだな……
「私が長期間戻らなかった場合は、ナツメ君。
君とルーナさんが物語に入り、対処してください。
2人で不安なら助っ人を誰かに頼みなさいな」
「……分かりました。でも、絶対に無事に帰って来るって約束はしてください」
「ふふっ、これは手厳しいですな。
わたくしの全力を持って善処致しましょう」
はぐらかされた感じはするけど、約束をしてもらった。
バタン!
「ナツメ君居た〜! 探したんだから!」
「ルーナ? どしたの?」
「お酒飲んでた人達がべろんべろんになってるから手伝って欲しい!」
リオ爺に視線をやると1度だけ頷く。
「手伝っておやりなさい。わたくしも後で行きます」
「分かりました。ルーナ、今行く!」
この時、何故か胸がザワザワとした。
今別れたら二度と会えないような、そんな胸騒ぎ……




