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【第61話】勇者の恋路(閑話)




 今は昔、世界全体がまだ愛で満たされていなかった頃、とある田舎村の農家で強者の産声が上がる。

 産まれた男の子の名は『アモル』。

 生まれつき左胸、心臓がある位置に勇者である事を示す紋章を刻まれた子でした。

 巷では『女神に選ばれし子』とも呼ばれるそうな。




 アモルの両親は並々ならぬ愛をもって子を育て、時には厳しく、とにかく思いやりのある人間になるように精一杯の教育を施しました。

 と言ってもアモルの両親は飽くまで農家、平民故に読み書きができるほどでは無い。

 その甲斐もあり、アモルはすくすくと元気に育ち、村一番の優しい男の子として名を馳せていました。




 ある日、勇者の資格を持った者を探しに、王国から複数の兵士が訪れる。

 胸に勇者の紋章があるアモルに兵士達は驚き、すぐに王国軍へとスカウトされた。

 農家や酪農家しかいないような田舎から王国軍へ入るのは、両親にとっても村にとっても名誉な事でした。

 当の本人であるアモルも勿論、王国軍への入隊を望んだ。

 兵士達の提案をふたつ返事で了承し、彼は沢山の村人に見送られながら、馬車で王都へ向かう。




 馬車に揺られること数日、アモル達は王都に到着する。

 王都に着くやいなや、王城の謁見の間へと通された。

 王曰く、近年魔物による被害が拡大している為、仲間を率いてその原因だと考えられる魔王を退治して欲しいと。

 心優しい青年アモルは、民の為、国の為ならばとその任務を快く引き受けました。




 アモルは魔王を退治する仲間を探す為、王都をあちこち探索する。

 その結果、最初に仲間になったのは街中で大道芸を披露していた手品師の青年、カリタ。

 次に仲間に引き入れたのは、飼育用の獣を調教する調教師の女性、フィーリア。

 最後に仲間に引き入れたのは、王都の町外れで小さな服屋を営んでいた若い兄妹、ゲールとストリーだった。

 手品師、調教師、服屋。人々はどれも魔王の退治を目的とした冒険をするには、とうしょはかなり厳しいと思われていた。




 仲間を集めたアモルはいよいよ王都を背に旅に出る。

 西へ、東へ、困っている人見つけは助け、寄り道をしつつも着々と魔王の住処を目指して進みました。

 ただアモルは仲間達に、食べる為以外での一切の殺生を禁じたそうな。

 魔物が現れれば、手品師は持ち前の手品で困惑させ、調教師は自慢の知識で獣を宥め(なだめ)、服屋の兄妹が大人しくなった魔物に目印代わりのバンダナを結び付けたという。

 最後にアモルが襲って来た魔物へ自らの愛をもって許す。

 すると、魔物は嘘のように殺気が消え、たちまちアモルに懐いてしまう。

 馬鹿げた話に聞こえるが、これが勇者だった。




 長い旅の末、魔王の根城に辿り着いた勇者一行。

 道中で懐いた魔獣を何十匹も引き連れて、魔王城に乗り込んだ。

 道中の幹部と思わしき魔族や竜と友人になりながら、魔王の玉座がある扉の前へ。

 アモルが扉を押し開き、魔王と対面する。

 玉座に座る魔王を目にしたアモルに衝撃が走った。

 この時、衝動的にアモルは言いました。



「貴女に一目惚れしました! どうか僕と、結婚を前提にお付き合いしていただけないだろうか?!」



 静まり返った玉座の空気も関係無しに、アモルは魔王の容姿を褒めちぎった。

 等の魔王は両手で真っ赤に染まった顔を隠し、得意の魔術で勇者を城から追い払う。

 しかし、アモルはまったく諦めていなかった。

 仲間に助言を貰いながら、何度も何度も何日も想いを伝え続けた。

 来る日も来る日も、状況を変え、言葉を変え、服装や髪型を変え、ただその熱い想いだけをそのままに求婚し続けた。




 毎日のように求婚が続いたある日、1週間ほど求婚が途絶えた時があった。しかし、魔王の心は安寧どころか、アモルの事が気になって仕方がなかった。

 その時に魔王は自分の心境の変化を理解した。

 気が付けば次はどんな求婚をされるのか、楽しみにしている自分がいる。アモルの口から無限に紡がれる自分の褒め言葉を待ち遠しく思っていた。



「不束者ですが……どうか、よろしくお願いします……」



 求婚が続くこと数ヶ月、とうとう魔王が折れた。

 アモルは歓喜のあまり、魔王を力いっぱい抱き締める。

 アモルの仲間も、魔王の配下もこの瞬間を待ち侘びていたかの如く、大喝采が場内に響く。



「まだ名乗ってもなかった、よね?

 私はアニマ。これからその、よろしくねアモルさん」


「うん、よろしく頼む! アニマさん!」



 アモルはアニマの手を両手でがっしり握り、不安気に揺れる瞳を見据えた。




 旅を終え王都に戻った勇者一行。

 王に事の顛末を報告すると、それはそれは大層驚かれたそうな。

 しかし、魔王と勇者の初々しく、微笑ましい姿を目の当たりにすると優しく微笑み、婚姻を許可した。

 その後はトントン拍子にことは進み、国を挙げての婚姻の儀が執り行われた。

 勇者一行の手品師は場を盛り上げ、調教師は有翼の魔物を使って祝いの横断幕を張った。

 そして、勇者アモルと魔王アニマは、服屋の兄妹が仕立てた婚礼服で身を飾っていた。

 婚姻の宴は大きな話題になり、他国からも幸せな2人を1目見ようと大勢訪れた。

 その余韻は三日三晩続いたという。




 現在勇者様が何処にいるかって?

 魔王様と2人で長い長い、新婚旅行に出掛けたよ。

 今でも色んな国を巡り、無償の愛を振りまいていることでしょう。

 勇者様が王都に帰って来るのは、まだ先のお話。




読んでいただきありがとうございます!


今回は3つある他世界の物語の内の1つを紹介しました。

次話からは本編に戻ります。


お時間がありましたら、評価やいいねをしていただけると嬉しいです!

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いつも応援、ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかとっても素敵なお話ですね。この暑さのせいではなく、胸が熱くなりました。 [一言] 世界中がこうなってくれればいいのに、と思います。
[良い点] 箸休め。ではありませんが、こういうの好きです。 [気になる点] 容姿を変え は、?って思ってしまいました。 服装や髪型を変え、魔王の気を引こう 辺りかな?  なんて。 [一言] 愛と命?魂…
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